Geology and geophysics of the Philippine Sea and adjacent areas in the Pacific Ocean
小原泰彦, 徳山英一, Robert J. Stern
3次元重力モデルから得られたフィリピン海の地殻の厚さの変化
石原丈実, 神田慶太
フィリピン海中北部の地殻の厚さを重力データから求めた。広域的な重力変化の補正としては九州—パラオ海嶺の両側でリソスフェアの厚さに15kmの差があることのみ考慮した。地殻の厚さが6kmで一定という仮定の下にマントルブーゲー異常を計算し、地殻の厚さを3次元重力インバージョン法により求めた。四国海盆の南部と西端部では地殻が5 km程度と薄く、パレスベラ海盆の北西部と北東部では地殻が厚いという結果が得られた。この地殻の厚さの変化は四国・パレスベラ両海盆の海底拡大時のマグマ供給の変化によっており、一方後者は拡大速度の変化や過去の火山フロント近くでの活発な火成活動との関係がありそうだ。この結果では、九州—パラオ海嶺北部や大東海嶺域の海嶺部分で15kmを越す厚い地殻、西フィリピン海盆東北部や北大東海盆で5kmより薄い地殻の存在も示唆している。
Key words: crustal thickness, gravity, Kyushu-Palau Ridge, mantle Bouguer anomaly, Parece Vela Basin, Philippine Sea, Shikoku Basin, three-dimensional
modeling, West Philippine Basin.
反射法地震探査データから得られたパレスベラ海盆の初期リフティングに伴う断層分布
山下幹也, 鶴 哲郎, 高橋成実, 瀧澤 薫, 金田義行, 藤岡換太郎, 神田慶太
パレスベラ海盆は伊豆小笠原島弧と九州パラオ海嶺によって挟まれたフィリピン海プレートにおける背弧海盆の一つである.過去の背弧海盆の拡大やリフティングの痕跡を明らかにするためには詳細な地殻構造を明らかにすることが重要であるため,海洋研究開発機構および石油天然ガス・金属鉱物資源機構によって取得されたマルチチャンネル反射法地震探査データに対して重合前深度マイグレーション適用による高精度地殻構造イメージングを行った.得られた結果から500m以上の変位を持つ断層が見られ,伊豆小笠原側では火山活動に伴う堆積物によって一部を覆っているのが確認された.断層分布からパレスベラ海盆拡大時の初期リフティングは非対称であることが明らかになった.
Key words: back-arc basin, Izu-Ogasawara Arc, Kyushu-Palau Ridge, Parece Vela Basin, pre-stack depth migration.
パレスベラ海盆の海洋コアコンプレックスの地震学的研究
小原泰彦, 沖野郷子, 笠原順三
本研究ではフィリピン海・パレスベラ海盆の海洋コアコンプレックスの地震学的構造を決定した。大西洋中央海嶺のアトランティスマシッフ海洋コアコンプレックスの統合国際深海掘削計画による掘削調査等の結果とも合わせ、本研究は海洋コアコンプレックスの内部構造の理解を大きく前進させるものである。パレスベラ海盆のカオス地形区を構成する海洋コアコンプレックスの一つで、マルチチャンネル反射法地震探査の時間マイグレーション記録上において、往復走時0.15秒に存在する連続性の良い、明瞭でスムーズな反射面が認められ、「D反射面」と名付けた。「D反射面」はアトランティスマシッフ海洋コアコンプレックスで報告されているものと類似している。一方、海底地震計を用いた広角地震波屈折法探査からカオス地形区の速度構造モデルを決定した。それによれば、カオス地形区の下では6 km/s以上という速いP波速度の領域が存在しており、カオス地形区の海洋コアコンプレックスの核は主にハンレイ岩質であると考えられる。本研究とアトランティスマシッフの最近の研究とを合わせ考察すると、「D反射面」は海洋コアコンプレックス一般に見られるものであり、それはハンレイ岩体中に生じたローカルな断裂帯に沿った変質フロントを現していると考えられる。カオス地形区では海洋コアコンプレックスを形成させるに至ったデタッチメント断層の活動が3回生じたと考えられる。最初と2回目のデタッチメント断層の活動では、表層の玄武岩層と深部のハンレイ岩質の核が露出したが、最後のデタッチメント断層の活動では、表層の玄武岩層のみが露出した。
Key words: Atlantis Massif, detachment, D-reflector, gabbroic core, multichannel seismic profiling, oceanic core complex, Parece Vela Basin, P-wave velocity structure.
東部小笠原海台周辺の海洋地殻とモホ面
辻 健,中村恭之,徳山英一,Millard F Coffin,神田慶太
小笠原海台周辺の海洋地殻とモホ面の構造を解明するために、反射法地震探査データに対して瞬間位相を用いた速度解析を行い、海洋地殻内の音波速度構造を推定した。そして推定された速度構造を用いて深度断面図を作成した。海台の南側では、海洋地殻内の構造とモホ面を明瞭な反射面として同定でき、モホ面が海台に近づくにつれて深くなることが明らかとなった。一方、海台の北側では、海洋地殻とモホ面が音響的に不明瞭であり、海底は起伏に富んでいる。この海台北側の不連続的なモホ面は、火成活動に伴う起伏の激しい地質境界を表しているか、厚いモホ遷移帯を表していると考えられる。小笠原海台の北側に位置する鹿島断裂帯においても海洋地殻とモホ面の音響特性が変化しており、海台と断裂帯に囲まれた海域で火成活動が活発であることが示唆された。
Key words: magmatic activities, Moho, oceanic crust, Ogasawara Plateau, seismic attributes, seismic velocity.
反射法地震探査記録に基づく北部フィリピン海盆の層序と堆積史
樋口 雄、柳本 裕、星 一良、宇納貞男、秋葉文雄、外池邦臣、神田慶太
平成10年度から実施された「大水深域における石油地質等の探査技術等基礎調査」の一環として、北部フィリピン海において収録された累計26,825.2kmに達するMCS反射法地震探査記録の解釈結果および既往の海洋掘削孔データの対比に基づき、これらの海域の層序区分および岩相区分を行った。この海域には始新統から鮮新・更新統に至る各層準相当層が分布することが明らかになった。その層厚は大半の海域で500m±であるが、奄美三角、小笠原舟状両海盆では2,000m以上に達している。
海嶺を構成する基盤岩と堆積層との間には、1.堆積層が基盤にオンラップする 2.両者が断層により接する 3.海嶺火山岩の一部と堆積層が指交関係を呈する、という三種の層位関係が認められ、これらの確認は基盤岩、堆積層それぞれの年代の検証、およびテクトニクスを知る上で大きな手がかりとなる。
各海盆ごとに堆積層の分布形態、層厚、基盤との層位関係は、それぞれ固有の特性を呈する。南および北大東海盆の間には始新統の岩相、層位関係に大きな差異が見られ、それぞれの起源を異にすると考えられる。また南大東海盆の一部では、当海域で最も古い下部始新統が大東海嶺などの一部と指交関係を呈し、同時期における局地的火山活動の存在を示唆している。
九州パラオ海嶺の西側各海盆の東縁部には主に漸新統からなる厚い堆積エプロンが発達し、同海嶺の活動を記録している。また古伊豆小笠原弧のリフティングにより拡大したとされる四国・パレセベラ海盆には主に中新統以新の半遠洋性堆積物を主体とする堆積物が北に向かって層厚を増す形で分布している。
小笠原弧周辺は小笠原舟状海盆に発達する古伊豆小笠原弧の活動の痕跡と考えられる厚い漸新統を除いては大量の鮮新世以降の火砕性堆積層が分布し、これらは現在に至る同弧の活発な火山活動から由来したものである。
各海域の層準別層厚分布を概観すると、大局的に堆積の中心は時代とともに西から東に向かって移動し、島弧活動、海盆拡大を繰り返したフィリピン海の島弧海溝系の形成プロセスを反映していると考えられる。
Key words: acoustic basement, Cenozoic, Daito Ridge and basin region, Philippine Sea, pre-stack depth migration, sediment distribution, sedimentation history, seismic stratigraphy, Shikoku Basin.
北西太平洋の沈水海山上の炭酸塩堆積物
高柳栄子,井龍康文, 山田 努, 尾田太良, 山本和幸, 佐藤時幸,千代延 俊,西村 昭,中澤 努, 塩川 智
北西太平洋に分布する海山(6海域16海山19地点)で掘削されたコア試料の浅海性炭酸塩岩の岩相ならびに堆積年代を検討した.その結果,本海域の海山上の浅海性炭酸塩岩は,必ずしも温暖期のみではなく,寒冷期にも多く堆積していることが明らかとなった.また,浅海性炭酸塩岩とそれらの基盤岩の年代には,大きな差異がないことが明確になった.以上の結果は,本海域の海山上の浅海性炭酸塩岩の形成・発達は,汎世界的な気候変動よりも,地域的な造構運動・火成活動に強く規制されていることを示している.また,浅海性炭酸塩岩を構成する生物の組成には時代変遷が認められ,その変遷は,従来の研究で指摘されてきたように,海水成分の変化を反映しているものと類推される.
Key words: Cenozoic, Late Cretaceous, limestone, northwestern Pacific Ocean, seamount, shallow-water carbonate.
北西太平洋フィリピン海プレート域の産する鉄・マンガン酸化物の形成史と形成環境
臼井朗, Ian J. Graham, Robert, G. Ditchburn, Albert Zondervan, 柴崎洋志, 菱田元
北西太平洋はプレート収束域に位置する活発な変動帯である。ここには堆積起源の鉄・マンガン酸化物が予想外に広く且つ広い水深帯に分布するらしい。地質環境の異なる6地域のマンガンクラストについてベリリウム同位体分析を行ってmmスケールの成長年代を測定した結果、古いものは1500万年(中期中新世)にさかのぼりそれらの平均成長速度は4〜7mm/百万年である。成長過程で基盤の崩壊・変形などによる局地的な速度変化・中断があるものの、全海域で現在もマンガンクラストの連続成長が続いている。これらは海洋環境を記録する堆積岩と見なせると同時に、資源評価の上からはクラスト・団塊の広範な分布が期待できる。
Key words: 10Be/ 9Be dating, ferromanganese crusts, growth rates, hydrogenetic, mineral resources, Philippine Sea Plate.