Satoru Honda, Takeyoshi Yoshida, Kan Aoike
東北日本弧および伊豆—小笠原弧の島弧火山活動の空間・時間的変化:島弧下の小規模対流の証拠?
本多 了, 吉田武義, 青池 寛
東北日本弧と伊豆—小笠原弧の最近10 Myrの島弧火山活動は,幾つかの顕著な特徴を示している.東北日本弧では,火山活動域が島弧に対して垂直な方向に伸びた数個の群れからなる空間分布を示している.また,火山活動域は,少なくとも最近5 Myrの間では,背弧側から火山フロント側に向かって移動したように見える.また,これらの群れの位置は5 Maに入れ替わったように見える.一方,伊豆—小笠原弧にも,東北日本弧の群れと似た島弧を横切る海山列がある.そこでは約17 Maから3 Ma頃までの間に火山活動があったが,現在は島弧に平行な軸を中心に拡大が起こっている.我々は,数値モデルの結果により,これらの特徴が,少なくとも定性的には,島弧下で起こっている小規模対流によって説明できる事を示す.また,モデル計算の結果から,伊豆—小笠原弧のテクトニクスに関する幾つかの推測ができる.伊豆—小笠原弧では,沈み込むスラブの角度が,次第に増加した可能性がある.この事により,島弧を横切る海山列に沿った火山活動が消滅し,最近の島弧に沿った狭い地域で起こっている拡大が説明できる.海山列の走向は,島弧に対して斜交しているが,それは,本来的な特徴ではなく,海山列形成後の島弧の走向に沿った背弧側の横ずれ運動によるものと解釈される.これらの推測は,伊豆—小笠原弧の今後の詳細な地形学的,年代学的研究により検証出来るであろう.
Key words: arc volcanism, Izu-Bonin, northeast Honshu, small-scale convection, volcanic fingers.
Alexander Kuzmichev, Evgeny Sklyarov, Anatory Postnikov and Elena Bibikova
南シベリア〜北モンゴルのオカ帯は日本の四万十帯の原生代後期アナログか?
オカ帯は砕屑岩と緑色片岩よりなり,南シベリアのサヤン地域から北モンゴルにかけて約600 kmの延長をもつ.オカ帯の年代と構造セッティングは,長年にわたってこの地域で最も矛盾に満ちた問題だった.我々は小論でオカ帯が原生代後期末に付加体として形成されたことを提唱する.オカ帯は覆瓦状の衝上構造を示し,これはもともと原生代後期の海側へ衝上した付加プロセスを反映する.古生代前期の造山運動はその構造にわずかな影響を与えたにすぎない.オカ帯は海嶺玄武岩,若干の海洋島玄武岩,そして恐らく遠洋性の堆積物からなる衝上体を含み,いくつかの地点ではそれらが斑れい岩や蛇紋岩を伴う.これらの岩石は,この付加プリズムに沈み込み,それにトラップされた海洋性リソスフェアを代表する.オカ帯の内帯には付加プリズムの更に深いレベルから上昇した青色片岩も存在する.また,オカ帯の北部には,N型海嶺玄武岩と地球
化学的に類似する苦鉄質深成岩体及び酸性火山岩を産する.この部分は日本の四万十帯の第三系の部分によく類似し,それと同様に付加プリズム下への直角な海嶺沈み込みを経験した.このイベントは753±16 Ma(ジルコンU-Pbディスコーディア年代)に起こった.オカ帯では,原生代後期の中頃に日本とよく似た南シベリアの大陸地殻下への沈みこみが始まり,付加体の形成が開始された.付加プリズムは原生代後期の後半を通じて存在し,膨大な量のシアル質の物質を集積して隣接する大陸を成長させた.現在のところ,オカ帯の調査はまだ進んでおらず,今後の研究と発見が期待される.
Key words: accretionary prism, blueschists, Central-Asian Fold Belt, Mongolia, Neoproterozoic tectonics, Sayan, Siberia
Tetsuzo Fukunari and Simon Wallis
西南日本における中央構造線に沿った大規模正断層運動の構造的証拠
福成徹三, Simon R. Wallis
中央構造線は三波川変成帯と領家変成帯を分断する大規模なテクトニック境界である.中央構造線の横ずれ運動は多くの研究者により明らかにされてきた.一方,中央構造線近隣の三波川帯において新たに野外調査を実施することにより,中央構造線近隣には北落ちの正断層運動を示す二次的な断層及び延性的なシアバンドが多く存在していることが明らかとなった.これらの剪断構造の走行及び空間的な分布は,剪断構造の発達が中央構造線の運動に関係していたことを示す. これらの結果は中央構造線が広範囲にわたる正断層として動いていたことを示唆する中央構造線の正断層運動は三波川帯の上昇を説明する要因の一つとなり得る.また,この正断層運動は三波川帯内の褶曲の幾何学的な分布を説明することが可能である.
Key words: estimate of deisplacement, Median Tectonic Line, normal displacement, south-
west Japan
Hyesu Yun, Songsuk Yi, Jinyong Oh, Hyunsook Byun ,Kooksun Shin
日本海,対馬海盆南西部の微古生物学的・地震学的データと海盆の初期進化過程
日本海の南西端に位置する対馬海盆は,厚い新第三系堆積物からなる.Pohang盆地の陸上試料と対馬海盆南西部の掘削試料を用いて渦鞭毛虫の詳細な研究を行い,海盆の初期進化を検討した.海盆はリフト形成時に堆積した厚い堆積物によって充填されており,それらは主に陸成層からなるが,これは対馬海盆が伸張場において形成されたことを支持する.海盆の形成は17-16.4 Maにさかのぼる.また中新世の掘削試料から始新世〜漸新世の保存の良い渦鞭毛虫群が発見されたことから,リフトの形成は漸新世かそれ以前と考えられる.この結果は日本海拡大のプロセスを議論するための束縛条件となる.
Key words: biostratigraphy, paleoenvironment, Pohang Basin, syn-rift, Ulleung Basin.
Betchaida Payot, Sebastien Jego, Rene C. Maury, Mireille Polve, Michel Gregoire, Georges Ceuleneer, Rodolfo A. Tmayo Jr., Graciano P. Yumul Jr., Herve Bellon and Joseph Cottoen
ルソン島北部の海洋性基盤:モングロ・アダカイト中の捕獲岩からの証拠(フィリピン)
ルソン島北部バギオ地域のモングロ村付近に露出する8.65 Maのアダカイト質貫入岩床は,一連の超苦鉄質・苦鉄質捕獲岩を含んでいる.それらは多い順に,典型的なマントルかんらん岩の組織・鉱物組成・全岩組成を示すスピネル・ダナイト,それらに由来する蛇紋岩,平滑ないしややエンリッチした微量元素パターンを示す縁海玄武岩マグマに類似した角閃石に富む斑れい岩,そしてそれと同じ化学組成の玄武岩ないし斑れい岩に由来する角閃岩である.同様に沈み込み帯マグマの特徴を示す石英閃緑岩の捕獲岩も1個だけ得られた.1つの角閃岩捕獲岩の全岩K-Ar年代は115.6 Ma(バレミアン)である.我々はこれら一連の捕獲岩の起源について,上昇中のアダカイト・マグマが,厚さ30〜35 kmのルソン島の地殻のある深さに位置していた白亜紀前期のオフィオライト複合岩体から捕獲してきたものと考える.それらはルソン島北部に露出するイサベラ・オーロラ及びプーゴ・レパントのオフィオライト岩体に対応するものだろう.
Key words: adakite, dunite, gabbro, Luzon crust, ophiolite, the Philippines, xenolith
Potel, Sebastien
ニューカレドニア先白亜紀後期テレーンの極低度変成作用
ニューカレドニア中央部の白亜紀前期以前のテレーンは,2回の高圧低温イベントによって極低度の変成作用を被っている.本研究ではフィロケイ酸塩鉱物の結晶化度,EPMA分析,記載岩石学データをもとに変成条件を解析した.ジュラ紀後期の最初の変成のイベントは極低度(anchizone)から低度(epizone)の条件で,北東から南西に向かってイライトのKüblerインデックス値(KI)と緑泥石のÁrkaiインデックス値(ÁI)が減少する.この傾向は緑泥石温度計によっても確認されている.調査地域南部に分布するSenonianの‘formation à charbons’中には,変成作用後に形成された非変成堆積物が存在するが,これらは続成作用のKI値をもつ.2回目の変成作用は始新世の高圧イベントであり,調査地域北部において1回目のジュラ紀後期の変成作用をオーバープリントしている.この地域の変成条件は南西から北東に向かって増加するが,KIとÁIのパターンは異なる傾向を示す.緑泥石温度計によって計算された温度もまた,南西から北東に向かって298±8℃から327±16℃と増加する.両地域における高圧低温変成条件は,Kに富む白雲母のb セルの大きさ(b0>9.04Å)からも支持される.緑泥石温度計と雲母のb セルの大きさから圧力の下限を見積もると,始新世の変成地域は1.3 GPa(ニューカレドニア北部から得られた1.5 GPaと一致),ジュラ紀後期の変成地域は1.1 GPaであった.
Key words: hig-pressure/low-temperature, illite crystallinity, New Caledonia, phyllosilicates, very low-grade metamorphism
Graciano P. Yumul Jr.,
フィリピンのオフィオライトの西へ向かって若くなる配列と島弧発達史におけるその意義
フィリピン島弧系の様々なオフィオライト岩体には,西へ向かって次第に若くなる配列傾向が見られる.これは,始新世にフィリピン島弧系が北西に移動する過程で時計回りに回転し,その西縁がスンダ地塊・ユーラシア大陸縁と衝突したことによって形成された.この相互作用の結果,オフィオライトとメランジュはフィリピン島弧系の西側に付加して行った.露出する海洋リソスフェア断片の空間的・時間的関係に基づいて,ここでは新たに4つのオフィオライト帯を提唱する.東から西へ次第に若くなる順に,第1帯はフィリピン東部の白亜紀後期の完全な層序をもつオフィオライトとそれに伴う下底変成域よりなり,第2帯はそのすぐ西側の白亜紀前期〜後期の不完全な苦鉄質−超苦鉄質岩体とメランジュよりなる.第3帯は(中央)フィリピン変動帯とスンダ地塊・ユーラシア大陸縁に跨る衝突帯に定置した,白亜紀から始新世を経て漸新世に至るオフィオライト岩体群である.第4帯は(その西の)パラワン及びサンボアンガ・スールー地域に露出する大陸縁上に定置したオフィオライト岩体に対応する.このオフィオライト帯の区分案は,横ずれ断層に境される始新世のサンバレス・オフィオライトを除いて,(中央)フィリピン変動帯全体が白亜紀の原フィリピン海プレートの破片を基盤としていることを示唆する.これは,フィリピンの東縁部のみに原フィリピン海プレートの物質が含まれるとする従来のモデルに対立する.
Key words: ophiolites, Philippine Sea Plate, Philippines, space-time relationship, Sundaland-Eurasian margin
追記:本論文の著者のG. P. Yumul Jr. 氏は,2003年に本誌に発表した論文により,本年第1回Island Arc賞を受賞することが決定しました.本誌の今号213ページに受賞論文,推薦文,著者略歴,写真が掲載されていますので,ご覧下さい.