Geologic and Tectonic Framework of East Asia Preface
S.Arai and Y.I. Lee
フィリピンでは衝突および沈み込み帯複合岩体中に過去から現在までの様々なテクトニックな環境の重複が読み取れる.漸新世の古・東ルソントラフの沈み込み停止後に,中新世のルソンの反時計周りの回転によりマニラ海溝での沈み込みがバギオ地方で始まった.この回転はパラワン小大陸のフィリピン変動帯への衝突をももたらした.パラワン-中部フィリピン地域にはいくつかの衝突に関連した付加帯がある.マチ-プハダ地域は,ムルッカ海プレートの断片である沈み込み帯起源の上部白亜系プハダ・オフィオライトを基盤とする.これらの発達史の解明はフィリピン諸島のテクトニクスにとって重要であり,新たな解釈を試みる.
東北日本,南部北上帯南半部において,変形構造の詳細なマッピングと歪の半定量的な測定とから,前期白亜紀構造発達史を議論した.本地域の前期白亜紀構造発達史は以下のとおりである.1)高歪度の‘スレート’からなる南北〜北東トレンドの左横すべり剪断帯形成と,それに伴う波長 5〜10 km の褶曲の形成,2)上記褶曲を切る約 120 Ma 花崗岩類の貫入と,それらの花崗岩体の縁に沿い上記地質構造を改変する左横すべり高温マイロナイト帯の形成,3)上記構成要素の上昇後,後期アプチアン〜アルビアン宮古層群の堆積.また小論では南部北上帯南半部の前期白亜紀左横すべり剪断運動の変位・変形の復元モデルを示した.
韓国の白亜系ギョンサン堆積盆地の珪質湖沼成堆積物を5つの層(下位からジンジュ,ジンドン,ギョンチョンリ,フワンサン,ダデーポ)について岩相および土壌化の観点から調べ,湿地成カルクレート形成における地質学的影響を論じた.土壌性炭酸塩の発達の程度は,ダデーポ,ジンドン,ジンジュ,ギョンチョンリ,フワンサンの順に低くなる.ダデーポ層に最も発達するのは湖沼のサイズが最小であったからである.カルクレート生成は湖沼のサイズおよび気候の乾燥度に依存する.ギョンサン累層群中で上部から下部白亜系で湿地成カルクレートの発達度が高くなるのは乾燥度の上昇による.また様々な発達度は湖沼環境の時空的変化を示している.
最近,鳥類,翼竜,恐竜などの歩行跡の化石が発見されている韓国の南西端の白亜系ウハングリ層の絶対年代を測定した.これらの複数種の跡の同一場所からの発見はアジア初であり,化石の産出頻度や量では他に類を見ない.周囲の凝灰岩の年代は,全岩Rb-Sr法では96.0Ma(安山岩質ラピリ凝灰岩), 81.0Ma(珪長質凝灰岩)および77.9Ma(フアンサン溶結凝灰岩)である.K-Ar年代は若めで,83.2〜68.8Maであった.歩行跡化石は,鳥類,翼竜では96〜81Maであり,恐竜では96〜78Maと推定される.これらの生物はセノマニアンからカンパニアンにかけて同一環境下で共存していたものと結論できる.
韓国の白亜系非海成堆積物からは多くの恐竜化石が産出する.中でも恐竜の歩行跡の化石は世界的に有名である.これまで27の恐竜歩行跡化石がギョンサン堆積盆地などの白亜系から発見されている.鳥脚類のものがもっとも多い.それらの多くは大形の足跡と広い蹄の印象を有するカリリクニウムと同定される.多くの獣脚類の歩行跡はニュウンジュ堆積盆地で発見されており,多種の小〜中形の鳥に似た足跡および他の大形の足跡よりなる.竜脚類の歩行跡はサイズ,形状,歩行パターンが変化し,多種類の竜脚類の存在を示す.これら韓国での多様な歩行跡化石は,白亜紀に朝鮮半島の南部に分布した湖沼周辺で多種の恐竜が繁栄していたことを示唆する.
中国雲南省西部の昌寧−孟連帯に分布する古テチス海山型石灰岩からのフズリナ群集変遷を報告する。調査した魚塘寨セクションは最下部の玄武岩類とそれに重なる純粋な塊状炭酸塩岩からなり、層厚は約1100mに達する。その岩相的特徴は、例えば秋吉石灰岩のような日本の中・古生代付加体中に見られる海山起源炭酸塩岩のそれと酷似する。本研究では、前期石炭紀後期のSerpukhovianから中期ペルム紀後期のMidian(Capitanian)にいたる連続した17のフズリナ群集を識別した。魚塘寨セクションに見られる群集変遷は典型的な熱帯テチス型のそれと類似するが、属の多様性は南部中国やインドチャイナなどの古テチス海陸棚域のものよりも低い。また、前期石炭紀中頃においては、パンサラッサ海だけでなく古テチス海においてもホットスポットに関連した海底火成活動が活発であったようである。
テーベックサンとピョンナム堆積盆の下部および上部古生界を解析した.下部古生界は主としてユースタティックな変動に支配された海成堆積物よりなる.その時期朝鮮半島は低緯度にありストームの影響をしばしば受けた.上部古生界は非海成の堆積物よりなる.堆積物の上方への組成変化は衝突帯の上昇と削剥があった事を示唆する.上下の古生界の間には不整合がある.この不整合に対応する朝鮮半島での出来事は不明である.朝鮮半島と中国大陸とのテクトニックな対比は議論がある.中国の衝突帯の東方延長はイムジンガン帯であるとされるが,最近の古生物学,堆積学,層位学的情報がうまく盛り込まれておらず,更なる吟味が必要である.
韓国の嶺南地塊北東部のHaenggongni角閃岩とOkbang 角閃岩は、原生代の変堆積岩類のWonnam 層群の中に岩脈状あるいは包有岩として産している。両角閃岩はソレアイトの特徴を示し、フラットな希土類元素パタ−ンと低いインコンパティブル元素含有量、および低いZr/Y, Ti/Y, La/Nb, Ta/Yb比を持っている。これらはE-MORBの特徴を示している。このことは、角閃岩の原岩が引張場のリフト帯で形成されたことを示唆している。嶺南地塊における以前の研究を考慮すると、角閃岩の原岩には3つのタイプ(E-MORB, WPB, VAB)が存在する。これらの特徴はプレ−ト内玄武岩(WPB)の特徴を示す角閃岩が卓越する京畿地塊や沃川帯とは明らかに異なっている。
日本海を挟む日本とロシア沿海州には古生代前期・後期両方のオフィオライトが存在する.随伴する青色片岩のK-Ar年代は,西南日本では300Ma(蓮華)と200Ma(周防)だが沿海州では250Maであり,中国蘇魯大別衝突帯の超高圧変成岩や東アジアの主な中圧変成帯の岩石と同年代である.我々は蘇魯衝突帯の東方延長について「八重山突出部説」を提唱する.この衝突帯は朝鮮を迂回して黄海を南下し,八重山諸島石垣島の200Ma青色片岩として表れ,沈み込み帯に転化して西南日本とロシア沿海州に至る.この地域でのオフィオライト・青色片岩ペアと大規模な付加体との繰り返し形成は,マリアナ型(非付加型)・南海型(付加型)沈み込みの交互交代を示す.
隠岐島後の捕獲岩としてレールゾライトは他の岩石よりまれである.レールゾライトは比較的枯渇度は低く(スピネルのCr#は0.26以下),完全に無水であり交代作用の形跡は見当たらない.基本的に溶け残り岩であるが,かんらん石が通常のものより鉄に富む(Fo86)場合がある.単斜輝石のコンドライト規格化希土類元素パターンはU字形である.溶け残りかんらん岩は,後の鉄に富む集積岩の形成により汚染され,鉄や軽希土類元素に富むようになった.同様の希土類元素パターンは集積岩が余り発達しない黒瀬のかんらん岩にも認められる.従って,交代作用時にかんらん岩は,鉄などよりもっと顕著に広範囲に軽希土類元素に富化した.
カムチャツカ弧南部のアバチャ火山に大量に産するかんらん岩捕獲岩について検討した.これらは島弧マグマに捕獲されているウェッジ・マントル物質である.初生的な岩相は枯渇したハルツバーガイトであり,かんらん石のFo値とスピネルのCr#はそれぞれ91〜92,0.5〜0.7である.かんらん石はスラブ起源のSiに富む流体によりしばしば二次的斜方輝石(Ca,Crに乏しい)に交代されている.交代されたハルツバーガイトでは斜方輝石の総量が40体積%にまで増加する.しばしばクラトン下に認められるハルツバーガイトはこの交代ハルツバーガイトに類似しており,マントル・ウェッジでのSiの付加により形成された可能性がある.
中部ルソン島のシリシック火山岩には化学組成と時空分布にある関係がある.5Maの火山ではシリシックであり,5〜1Maでは玄武岩〜安山岩質,1Maより若い火山では玄武岩〜デイサイト質まで組成変化が大きい.マニラ海溝からの南シナ海の沈み込み角度の変化により,年代とともに噴出中心も前弧から背弧まで変化する.Ce/Yb比は前弧(20〜140)と背弧(20〜60)のシリシック岩で高く,中心弧(20)と背弧(20〜30)の玄武岩〜安山岩で低い.この島弧横断的な組成変化はスラブ,マントル,地殻物質の影響であるとともに,部分溶融,分化,マグマ混合およびマントル/メルト相互反応などの化学的過程がもたらした.