The Island Arc Vol.13 Issue1 日本語要旨

1.  Evolution of accretionary complex along the north arm of the Island of Sulawesi,Indonesia
Y. S. Djajadihardja , Asahiko Taira , Hidekazu Tokuyama , Kan Aoike, Christian' Reichert, Martin Block , Hans U. Schluter, Sonke Neben

    北スラウェジ海溝付加プリズムの構造が反射地震記録によって明らかにされた.その記録によれば,付加プリズムは,1) 海溝域,2) ZoneA, 3) ZoneB, 4) ZoneCの4つの構造区に別けられる.ZoneAは活動的なインブリケーション構造を有し,デコルマ面が明瞭に発達している.ZoneBはアウト・オブ・シークエンス・スラストを有することで特徴づけられ,小規模なスロープ・ベーズンを伴う. ZoneCは前弧の構造的高まりであり,厚い堆積物に覆われている.また,海洋地殻上面の形状は,沈み込む前と,沈み込んだ後の両者ともに起伏が激しい特徴を有する.北スラウェジ海溝に沿った付加プリズムの発達は,中期中新世に活動したソロング断層に沿った,東スラウェジとバンガイ-スラ小大陸の衝突による影響が認められる.その理由は,この衝突により,スラウェジ島北アームの右回転を伴う大規模な北上が発生し,その結果,セレベス海盆プレートの南方へ沈み込みが起こり,北スラウェジ海溝付加プリズムが発達したためである.このため,北スラウェジ海溝付加プリズムは東に比べ,西で大規模に認められる.北スラウェジ海溝の収束速度は,西部で5km/ma,東部で1.5km/maと見積もられており,海溝東西での付加プリズムの発達程度の差異と調和的である.また,収束速度,付加プリズムの発達規模,さらに,周辺地域の地質学的情報を統合した結果,北スラウェジ海溝付加プリズムの形成は,約5Ma前から開始したと考えられる.この北スラウェジ海溝付加プリズム内部構造は南海トラフと極めて類似していることから,付加プリズム形成の構造発達史に両者の共通性が認められると考えられる.

 

2. Long-term changes in distribution and chemistry of middle Miocene to Quaternary volcanism in the Chokai-Kurikoma area across the Northeast Japan arc
Hirofumi Kondo, Kazuhiro Tanaka, Yukihiro Mizuochi and Atushi Ninomiya
東北日本弧を横断する鳥海−栗駒地域における中新世中期から第四紀に至る火山活動の分布と化学組成の長時間変化

  背弧海盆(日本海)の拡大終了以降,概ね一定の沈み込みの条件が継続している東北日本を対象に,火山活動の時空分布特性とマントル内の高温領域の進化に係わる相互関係を明らかにすることを目的として,火山の集中域の1つである鳥海−栗駒地域において,既存文献による火山単元の分布と層序のコンパイル,放射年代測定,全岩化学分析を含めた詳細検討を実施した.日本海の拡大が停止した14Ma以降,火山活動は東西の枝状の領域に集中しており,マントルウェッジ内の高温領域は,島弧の伸長方向に火山活動を偏在化させる要因として継続的に存在していた.一方,14Ma以降の火山活動の時空間的変遷において,時間とともに活動が限られた領域(火山フロント側と背弧側のクラスター)に集中していく傾向が認められる.このような変化は,日本海の拡大停止以降のマントル内の冷却に伴う温度構造の進化プロセスに起因し,マントルダイアピルの上昇可能領域が縮小する傾向にあったことを示している.

 

3. Geochemistry of the oldest MORB and OIB in the Isua supracrustal belt (3.8Ga),southern West Greenland: implications for the composition and temperature of early Archean upper mantle
Tsuyoshi Komiya, Shigenori Mruyama, Takafumi Hirata, Hisayoshi Yurimot and Susumu Nohda

    近年,地球の表層環境と固体地球変動の相互作用について研究が進んできた.固体地球変動を定量化するには地球の体積の80%を占めるマントルの経年変化が重要である.本研究では,太古代初期(38億年前)のイスア表成岩帯の中央海嶺と海洋島玄武岩起源の緑色岩の組成から当時のマントルの温度と組成を推定した.マグマ組成は造構場に強く依存する.本研究ではイスア表成岩帯が付加体起源であることを示したさきの研究に基づき,付加体地質学から玄武岩の造構場を初めて決定し,その親マントルの温度・組成を推定した.その結果,当時のマントルは,従来の推定より大幅に低温で,約1480℃であり,鉄含有量にも富むことがわかった.

 

4.  The petrogenesis of orthopyroxene-and amphibole- bearing andesites, Mustique, Grenadine Islands, Lesser Antilles Arc: Isotope, trace element and physical constraints.
Terence Edward Smith, Matthew Thirlwall, Paul Eric Holm and Michael Jphn Harris
小アンチル弧マスティーク島に産する斜方輝石安山岩と角閃石安山岩の成因:同位体・微量元素組成および物理条件からの制約

    小アンチル弧のマスティーク島には,漸新世のカンラン石単斜輝石玄武岩,複輝石安山岩,単斜輝石角閃石安山岩が,溶岩流および小規模な貫入岩として産する.これらの岩石は,Sr-Nd-O同位体比に関してほぼ均質であり,全てのマグマが,単一の起源物質(沈み込み成分に汚染されたマントルウェッジ)に由来すると考えて良い.しかしながらこれらの岩石について,液相濃集元素含有量,希土類元素パターンを比較すると,2つのグループに分けることができる.これらの微量元素組成の違いは,本質的には部分融解程度の差によって支配されている.また,斑晶鉱物の組成とその組み合わせを考慮すると,玄武岩質マグマの結晶作用は8kbより低圧で起こったことが予想され,最大で65%の結晶が初生マグマから分離したと考えられる. 

 

5. Strain geometries in the Sanbagawa metamorphic belt inferred from deformation structures in metabasite
Ichiko Shimizu and Shizuo Yoshida
塩基性岩の変形から推定される三波川変成帯の歪形態

  三波川変成帯では変成チャート中の放散虫化石の歪解析に基づいて,東西性の一軸伸長変形が支配的であると考えられてきた.しかし,中〜高変成度地域では放散虫化石の保存状態が悪いため,歪について限られた情報しか得られていない.本研究では塩基性岩の変形構造から推定される歪形態について報告する.四国中央部汗見川流域の枕状溶岩の形態は,一軸扁平型に近い変形を示す.一方,関東山地三波川帯の塩基性片岩に含まれる黄鉄鉱のプレッシャーシャドウは伸長型の歪を示した.北部秩父帯に属する低変成度地域では枕状溶岩の気泡の歪解析から扁平型の歪が得られた.これらの観察事実は,三波川変成帯の歪場が一様ではなかったことを示唆する.
キーワード:歪,変形,変成作用,三波川帯,秩父帯,枕状溶岩,プレッシャーシャドウ

 

6. Paleomagnetism of a pyroclastic flow deposit and its correlative widespread tephra in central Japan : possible tectonic rotation since the late Pleistocene
Yasuto Itoh and Haruo Kimura
中部日本の火砕流堆積物と広域テフラの古地磁気からみた後期更新世の回転運動

  中部地方に分布する後期更新世の上宝火砕流堆積物とそれに対比されるKs22テフラは,安定な初生残留磁化を保持している.上宝火砕流堆積物の熱残留磁化が傾動補正後に大きく東偏した方位を示すのに対して,Ks22の堆積残留磁化の偏角は有意に小さい.このテフラを挟む浅海成堆積物からも同様に北向きの古地磁気方位が得られているので,両者の方位の違いは残留磁化獲得時期のずれに起因するものではなく,構造回転を表すものと考えられる.上宝火砕流堆積物の偏角値のばらつきは,後期更新世の右横ずれ断層活動により,中部地方で差動的回転が生じていることを示唆する.

 

7. Missing ophiolitic rocks along the Mae Yuam Fault as the Gondwana/Tethys divide in northwest Thailand
Ken-ichiro Hisada, Masaaki Sugiyama , Katsumi Ueno, Punya Charusiri and Shoji Arai

タイ王国は2つの大陸地塊,シブマスとインドシナから構成される.三畳系メー・サリアン層群は,北西タイにあるメー・ホンソン−メー・サリアン地域に分布し,主に砂岩・頁岩.礫岩,その他に層状石灰岩やチャートからなる.本層群の砂岩は砕屑性クロムスピネルを産出し,これら砕屑性クロムスピネルの供給源は,海洋底かんらん岩,クロミタイト,プレート内玄武岩である.現在本地域あるいは周辺地域には,上記の岩石の露出は知られていない.このような3種の岩石を主体としたオフィオリティックな岩石の露出は,縫合帯あるいは地帯境界を意味するものと思われるが,今回の砕屑性クロムスピネルの発見は,ゴンドワナ−テーチス境界が,メー・ユアン断層帯に沿っていたことを暗示する.

 

8. Similarities between strike-slip faults at different scales and simple age determining method for active faults
Young-Seog Kim and David J.Sanderson
水平ずれ活断層のスケールと時代間の相関について

いくつかのスケールの異なる水平ずれ活断層に関して,その幾何学的特徴,たとえば二次的破断や関連する構造(破壊ゾーンなど),断層のスタイルなどについて検討した結果,断層のスタイルはスケールに関係ないが,異なるテクトニックセッティングごとに異なるスタイルが生じていることが分かった.それらは,たとえば膨張や収縮ゾーンの連結や断層壁,つながり,先端などに関してや,主断層の発達場所や断層の発達史におけるステージに関してである.それぞれに自己相似性のあるGozo faultとSan Andreas faultの2つの活断層についてフラクタル次元を求めたところ,断層の破壊ゾーンの地表への表れは1.35,であるのに対して,主断層の地表への表れは 1.005と低く,これは二次的な破壊の複雑性によるものと考えられる.断層の発達史の統計的解析にもとづくと,代表的な地震断層の1回の変位に関する最大変位と破壊延長長さの比は約10-4と求められたが,この比は大規模な地震断層についてのデータにもとづくものでしかない(Gozo faultやSan Andreas faultなど).多くの地質時代の断層に関しては,累積変位と断層延長長さの比は約10-2〜10-1(Gozo約10-2,San Andreas fault約10-1)である.最も最近の累積変位量は破断の変位の累積であるから,地震断層の地震時の変位量,最大累積変位量,断層延長長さなどから,その断層の時代を求めることが可能である.推定される活断層の時代は,T = (dmax/u)・I(M)(ここでdmax: 最大累積変位量,u :地震時の変位量,I(M):再来周期)で求められる.

 

9.  High-resolution shallow seismic and GPR investigations revealing the evoution of the Uemachi fault system,Osaka,Japan
Mohamed Rashed and Koichi Nakagawa

 大阪の市街地を南北に縦断する上町断層は逆断層型活断層とされている.断層軸部の位置は以前の調査により概略が知られていた.ここでは上町断層にほぼ直交する大和川の河川敷を利用して,反射法地震探査と地中レーダによる地下構造探査を行った.断層軸部付近全体にわたって,逆断層に伴う撓曲の存在を確認できたが,浅層部では高角の正断層らしきものが認められたため,軸部付近を対象に,長さ百数十mの測線12本について地中レーダ探査を実施した.その結果,軸部の地表付近で,地塁を構成するような連続する正断層群の存在を確認した.この正断層の成因は,深部層の逆断層変位による被覆層の水平伸張変形に伴って形成されたと解釈された.

 

10. Petrochemical evidence for off-ridge magmatism in a back-arc setting from the Yakuno ophiolite,Japan
Yuji Ichiyama and Akira Ishiwatari

  京都府夜久野地域のペルム紀夜久野オフィオライトは変火山岩,変斑れい岩,トロクトライトから構成される.変火山岩はT-MORBやE-MORBの特徴を示し,その産状や化学組成は夜久野オフィオライトが海台ではなく背弧海盆に由来することを示す.トロクトライトは変斑れい岩に貫入し,オフリッジのN- MORB火成作用で形成された後期貫入岩であると考えられる.トロクトライト中の粒間単斜輝石はTiO2量が変化に富み,不均質な粒間メルトから結晶化したと考えられる.E-MORBからN-MORBへの地球化学変化は,背弧海盆の進化に伴うマントルソース組成とマグマの生成深度の変化を反映している.