要旨:1999年台湾・集集地震では地表地震断層が既存の車籠埔断層沿いに出現した。
車籠埔断層北部で得られた近地の強震記録は高周波地震動をほとんど欠いており、大変位(10-15 m)と速いすべり速度(2-4 m/s)を伴っていることから、地震時に断層は低摩擦下ですべったと考えられている。車籠埔断層北部での浅部掘削によって採取された1999年の地震ですべった可能性のある2つの断層帯を解析したところ、断層浅部におけるすべりメカニズムが、未固結断層角礫における粒子流動あるいは水圧破砕を伴った粘土質ガウジの流動であることが明らかとなった。これらはいずれも断層浅部において低摩擦すべりをもたらすことから、断層深部での速いすべりが浅部へ円滑に伝わることが可能であったと考えられる。強震記録と断層岩解析結果は、地震時に低摩擦すべりがそれぞれ断層深部と浅部で起こったことを示しており、その結果、車籠埔断層北部では断層深部から地表に至るまで大変位が生じたと考えられる。
Key words: fault breccia, granular flow, clayey gouge, slip localization, low dynamic friction, Chelungpu fault, Chi-Chi earthquake
台湾車龍埔地震断層の北部を貫くボーリングコアについて、断層破砕帯の厚さTに関するフラクタル解析を行った。特徴的な厚さTc (約40 cm)以下の集団のサイズ分布のフラクタル次元は通常の脆性断層の値の範囲内にあるが、T>Tcの断層集団のそれは異常に大きい。サイズ分布と空間分布(情報次元)のフラクタル次元は、Tの平均分布密度の増加とともに増加するが、これらは通常の脆性断層集団の進化傾向とは逆である。これらの解析結果を説明するためには、Tcより大きなTの増加速度が断層変位の減少関数でなければならない。この特殊な関係は、T>Tcで効果的に作動したすべり不安定性のメカニズムであるelastohydrodynamic lubricationと関係している。
Key words: Chelungpu fault, Chi-Chi earthquake, fault zones, fractal, size frequency, spatial distribution, elastohydrodynamic lubrication.
1999年台湾集集地震後に、車龍埔断層の北部と南部で得られた断層岩ボーリングコアを解析した。北部の断層岩は軟質粘土より成り、粘土の貫入脈が伴われることから、地震の際に異常な高圧が発生し、elastohydrodynamic lubricationが効果的に作動したらしい。南部の断層帯には、破砕された古いシュードタキライトが伴われている。その溶融度は低く、すべりは高い粘性の溶融層のバリアーによって抑制された。これらの断層岩は過去に繰り返した地震イベントによって形成されたものだが、対応する2つの摩擦すべりのメカニズムは集集地震の際にも作動し、北部での滑らかで大きなすべり、南部での不規則で小さなすべりという対照的な挙動の原因となったと思われる。
Key word : Chelungpu fault, Chi-Chi earthquake, clayey injection veins, elastohydrodynamic lubrication, pseudotachylyte, frictional melting.
我々は、チェルンプ断層の近くのチョウシュイ河扇状地において、台湾での1999年集々地震(Mw=7.5)の最中とその後での地下水位と同位体組成の変動を報告した。水理学的な変動における三つの点を指摘した。(1)集々地震に伴い、チョウシュイ河扇状地の下位の地下水は、同位体組成においてチョウシュイ河の表層水の値に向かっての明瞭なシフトがみられる。これは、地下水と河川水との水の交換が助長されたことを示唆する。(2)幾つかの観測井において、それまで異なっていた地下水での水位や同位体組成が、集々地震時に相対的に同じような値へと変換された。これは異なる地下水間で起こった地震時の水の交換を示唆しており、多分に地下水間での半透水層の破壊や枝分かれによる透水率の増強を意味する。(3)地震時の水位レベルの応答パターンは同位体組成における値のシフトとは明瞭に異なっており、これらが異なるメカニズムのよって作られたことを示している。
Key words : Chi-Chi earthquake, groundwater level, groundwater flow, oxygen isotope
中国北西部,新疆北部の古生代後期のアダカイト及び高ニオブ玄武岩:古アジア海洋プレートの南方への沈み込みの証拠.
中国西北部,新疆北部のカザフスタン・ジュンガル地塊北縁のデボン紀前期,土竜格庫都克(Toranggekuduk)層群からアダカイトと高ニオブ玄武岩よりなる火山岩類が発見された.
この地域の安山岩〜デイサイトはアダカイトの地球化学的特徴を持つ.Al2O3, Na2O, MgOそしてMg#が比較的高いことはアダカイトが玄武岩質下部地殻の溶融ではなく,沈み込む海洋
地殻の溶融によって形成されたことを示す.SrIとεNd(t)がMORBよりもやや高いことは,スラブ溶融の過程における海洋堆積物の関与を暗示する.アダカイト溶岩の間に挟まれる高ニオブ玄武岩溶岩はシリカに飽和しており,典型的な島弧玄武岩に比べてNbとTiが高い(HFSEに富む)特徴がある.それらはスラブ由来の流体によって交代作用を受けたウェッジマントルかんらん岩の部分溶融によって形成された.本地域のアダカイトが新生代のものに比べて明瞭なSrの正異常とやや高いHREE濃度を示すことは,古生代の古アジア海沈み込み帯の温度勾配と古アジア海海洋スラブの溶融深度が,始生代と新生代の場合の中間だったことを示す.新疆北部,カザフスタン・ジュンガル地塊北縁におけるアダカイトと高ニオブ玄武岩の分布は,デボン紀前期に古アジア海の海洋プレートがカザフスタン・ジュンガルプレートの下へ南向きに沈み込んでいたことを示す.
Key words : adakite, Nb-enriched basalt, Central Asian Orogenic Belt, Kazakhstan-Junggar Plate, the Paleo-Asian Ocean, subduction