中国蘇魯帯莱陽盆地の白亜紀前期高カリウム・カルクアルカリ系列火山岩の岩石成因と構造的意義
中国東部の蘇魯高圧・超高圧変成帯の北側に位置する莱陽盆地に産する白亜紀前期の高カリウム・カルクアルカリ火山岩類は,粗面玄武岩から粗面安山岩にいたる様々な岩石よりなる.この玄武岩・安山岩類は107〜105 Maに噴出し,SiO2は50.1〜59.6%, MgOは2.6〜7.2%の範囲にわたり,Ba, KなどのLILEや軽希土類(LREE)の富化及びHFSEの枯渇で特徴づけられ,高いSr同位体比 (87Sr/86Sr(i)=0.70750〜0.70931)と低いNd同位体比 (εNd(t)= -17.9〜-15.6)を持っている.それらはより早期の蘇魯帯のランプロファイアーと地球化学的に類似し,両者が共通のLILEとLREEに富む給源マントルに由来することを示唆する.したがって,両地域を境する地表部分の五蓮−青島−烟台(Wulian-Qingdao-Yentai)断層が華北地塊と揚子地塊の岩石圏境界であると考えるべきではない.珪長質の溶岩は93〜91 Maに噴出し,SiO2は61.6〜67.0%,MgOは1.1〜2.6%の範囲で変化し,玄武岩類と同様の微量元素パターンを示すが,より高いSr同位体比(87Sr/86Sr(i)=0.70957〜0.71109)とより低いNd同位体比(εNd(t)=-19.1〜-17.5)を示し,これらの性質は蘇魯帯のIタイプ花崗岩と共通し,スラブ溶融実験で得られたメルトとも共通する.これらと早期の玄武岩・安山岩類との間には10 Ma 以上の活動時期の違いがあり,いくつかの元素(例えばP, Ti, Sr)について組成ギャップがある.これらを説明するために,珪長質岩については地殻物質起源を提案した.これらのメルトの原岩は,火成岩源の変成岩が優勢だったが,玄武岩・安山岩及び/またはランプロファイアーマグマからの苦鉄質集積岩もかなり関与していた.莱陽盆地に前期白亜紀の高カリウム・カルクアルカリ岩が多量に噴出したことは,この盆地が,厚くなった岩石圏が次第に引き伸ばされて薄くなる,造山帯の崩壊過程に対応した引張場にあったことを支持し,ジュラ紀末期の造山帯前縁盆地から白亜紀前期以後の断層盆地へと変化したことを反映している.
Keywords: Geochemistry, post-orogenic extension, high-K calc-alkaline volcanism, early Cretaceous, the Sulu belt, eastern China
ODP Leg 145 Site 887(北東太平洋Patton-Murray海山)の試料を用い、珪藻化石層序と古地磁気層序を直接対応させることにより、前期ー中期中新世(18- 11Ma)の中高緯度北太平洋珪藻化石層序の数値年代を改訂した。2万年から4万年の間隔で試料を採取することにより従来の研究より精度を高め、従来古地磁気層序と対応のついていなかった第二次生層準についても初めて対応関係を明らかにした。また、北西太平洋で確立された第二次生層準が北東太平洋でも有用であることも明らかとなった。今回改訂された珪藻化石層序とその年代は、石灰質微化石の産出が少ない中高緯度太平洋の海底堆積物の研究に大きな役割を果たすと期待される。本論文においてDenticulopsis praedimorpha var. prima n. var. を記載した。
Key words : diatom, biostratigraphy, biochronology, Miocene, north Pacific, ODP, Site 887
韓国の中生代金銀鉱床は中生代花崗岩と密接に伴っている.ジュラ紀の金銀鉱床は白亜紀のものと産状,変質のスタイル,金の品位,鉱物組み合わせ,流体包有物,そして安定同位体比において区別できる.ジュラ紀の鉱床は,深部に貫入した花崗岩に関係するメソゾーン環境で形成されたが,白亜紀のものは,浅部に貫入した花崗岩に関係するエピゾーン環境で形成された.ジュラ紀の含金鉱床(約165〜145 Ma)は造山帯型金鉱床特有の鉱液組成を示し,恐らくアジア大陸縁へのイザナギ海洋プレートの直角沈み込みによる圧縮場で形成された.一方,横ずれ断層及びカルデラに関係する断裂とそれに伴う火山・深成活動は,陸弧セッティングにおける白亜紀の金銀鉱脈鉱床(約110〜45 Ma)の形成に重要な役割を演じたであろう.
Keywords: gold, Mesozoic magmatism, Korea, fluid inclusions, stable isotope
西南日本大山−蒜山火山群烏ヶ山溶岩ドームの地質と地球化学について詳細な検討を行った.烏ヶ山は約26kaに噴火した溶岩ドームで,ブルカノ式降下火山灰噴火に始まり,溶岩ドームの成長にともない8以上のブロックアンドアッシュフローと1回の軽石流を発生した噴火主相に発展し,その後ブルカノ式降下火山灰噴火とサブプリニー式軽石噴火で終了した.この噴火シークエンスは58,26,17kaに起こった大山火山最新の3噴火に共通している.烏ヶ山噴火のマグマは典型的なアダカイトであり,島弧の典型的デイサイトに比べて高いSr/Y,低いHREE/LREEを示す.烏ヶ山のマグマは大山−蒜山火山群のそれと良く類似しており,大山−蒜山火山群はおよそ100万年に渡りアダカイトを噴出し続けていたことになる.その間に起こった100km3を超えるアダカイトマグマの供給は,大量で均質なマグマソースが存在し続けた事を示しており,例えば沈み込むフィリピン海プレートスラブの融解によって発生したと考えることができる.スラブ融解は烏ヶ山,さらに大山−蒜山火山群のマグマソースを説明するのに有力なメカニズムである.
Key words: Adakite, Daisen-Hiruzen Volcano Group, Eruption sequence, Geochemistry, Geology, Karasugasen, Lava dome, Slab melting, SW Japan
韓国,平安累層群の方解石双晶からみた古応力場
朝鮮半島南部の沃川(Ogcheon)帯北東部に沿って分布する古生代後期から中生代前期の平安累層群の古応力場について,方解石変形ゲージ(CSG)法を用いて研究した.双晶の歪み量と双晶の密度や幅との関係は,天然の低温における石灰岩の変形条件の指標として用いられており,それらについての従来の研究結果と本研究の結果を合わせると,研究地域の方解石脈は恐らく170℃以下の温度で形成されたのだろう.2つの標本中で,方解石脈から2つの異なる古応力場の主方向が推定されたが,他の2つの標本からは1つの方向のみが推定された.この結果は,平安累層群においては,中生代の変形作用が2回以上のテクトニック・イベントによって起こったことを示唆する.最大圧縮軸の2つの方向は北東−南西と北西−南東を向いており,それらは多くの断層系から推定された古応力方向とよく一致する.本研究及び他の研究の古応力解析結果を綜合すると,平安累層群の最大圧縮軸の方向は大宝(Daebo)造山期以前(三畳紀後期)の北東−南西方向から大宝造山期中(ジュラ紀前期〜白亜紀前期)の北西−南東方向へと,中生代の間に変化したことが示唆される.
Keywords: paleostress, Pyeongan Supergroup, calcite strain gauge technique, twin, Mesozoic
八溝山地に分布する前期白亜紀アダカイト質石英閃緑岩の化学組成−西南日本内帯,前期白亜紀アダカイト質火成活動の考察−
八溝山地には,前期白亜紀の石英閃緑岩及び角閃石斑れい岩からなる小規模岩体が複数分布している.石英閃緑岩はSrに富みYに乏しく,Sr/Y-Y図上でアダカイトの領域に入るものが多く,Sr同位体比初生値は0.7038〜0.7046であり,海洋地殻の部分溶融によって形成されたように見える.しかし,エクロジャイトやざくろ石角閃岩の部分溶融によってアダカイト質石英閃緑岩の化学組成を導くのは困難である.一方,上部マントルにおいて生成された玄武岩質初生マグマの角閃石・斜長石を主とした分別結晶作用によってアダカイト質石英閃緑岩の化学組成は説明可能であり,角閃石斑れい岩は結晶集積岩とみなすことが出来る.
Key words : geochemistry, adakite, TTG, slab melting, fractional crystallization, cumulate, quartz diorite, hornblende gabbro, Yamizo Mountains.
佐賀両子山地域に分布する北西九州玄武岩類について,主成分元素および固相濃集元素組成に基づき成因を考察した。佐賀両子山の玄武岩類は鉄に乏しいもの (IPG)と鉄にとむもの(IRG)に分けられる。主成分元素および固相濃集元素の挙動は,IPGの組成変化は起源物質の部分溶融過程に支配され,IRG はIPGから単斜輝石の結晶分化によって生じたことを示す。IRGは北西九州玄武岩類では稀であり,IPGと他産地の北西九州玄武岩類の組成近似性は,起源物質の部分溶融過程が北西九州玄武岩類の化学組成変化を支配することを示す。また,IPGのAlに乏しい特徴は,その起源物質が通常のマントルとは異なることを示す。
Key Words : Northwest Kyushu, basalt, partial melting, major element, compatible
element.
伊豆-小笠原弧の衝突帯近傍である房総半島南部の西岬層および鏡ヶ浦層において,付加年代・後期中新統以降の回転年代・テクトニクスの解明を目指し,構造・古地磁気・放散虫生層序の解析を行った.房総半島南部は,ほぼ東西に延びる褶曲・衝上断層帯で特徴づけられるが,これらは南端の西岬層北西部で北西-南東方向へ変化する.古地磁気および構造解析によって,回転は2回のステージがあったことが判明した.最初の回転は,西岬層の付加後かつ鏡ヶ浦層の堆積以前に起こり,2回目の回転は,1Maの伊豆ブロックの衝突に対応する.西岬層北西部が時計回り方向に約65-80度回転したのに対し,東部での回転量は25- 30度程度であった.被覆層である鏡ヶ浦層の回転量は,時計回り方向に11-13度であった.放散虫生層序検討によって,西岬層の堆積年代は9.9- 6.8Maの期間を少なくとも含むことが示された.一方鏡ヶ浦層下部の堆積は,4.19-3.75Maの間に始まったことが示された.これらの結果から,西岬層の付加年代および最初の回転運動は,6.80-3.75Maの間に制約される.西岬層の屈曲構造は,丹沢ブロックの衝突によって形成された見込みが強い.西岬層の付加,丹沢ブロックの衝突,そして新しい堆積盆(鏡ヶ浦層)の形成が,2.61-3.05m.y.の短い期間に起こったことが示された.
Key words: arc collision, accretionary prism, Boso Peninsula, Izu-Bonin island arc, Tanzawa block
数万年から数十万年に及ぶような地質環境の長期将来予測は,高レベル放射性廃棄物の地層処分において不可欠の技術である.本研究では,指標地形面の編年から河川下刻率の定量的な見積もりを行った.このような計測は,段丘面が発達する海岸部では容易であるものの,阿武隈山地のような内陸山間部では段丘面の発達が貧弱なためほとんど試みられたことがない.本研究では山地内の断片的に分布する段丘堆積物をテフラ層序から低位,中位,高位に区分し,これらが低海面期のステージ2〜3,5.2〜5.4,6の時期に対応することを明らかにした.この編年をもとに比高量を下刻率に直すと各段丘とも1m/万年となりほぼ一定の値が得られる.
Key words : Abukuma Mountains, river incision, Quaternary, tephrochronology, geologic disposal, Japan.