四国中央部三波川変成帯中の東平緑れん石角閃岩体は主にざくろ石緑れん石角閃岩からなり,その他に少量のエクロジャイトおよび蛇紋岩−透輝石角閃岩をともなう.東平岩体の原岩は層状はんれい岩であり,最初に角閃岩相〜グラニュライト相の高温変成作用を受けた.その後,沈み込み帯において,緑れん石青色片岩相を経てエクロジャイト相(700-730℃,≧1.5 GPa)に達する昇温変成作用を記録した.エクロジャイト化した東平岩体は三波川変成作用が進行する付加体下部まで上昇し,緑れん石角閃岩相の後退変成作用を受けた.さらに周囲の灰曹長石黒雲母帯の三波川結晶片岩類とともに三波川昇温変成作用を被った.東平岩体をはじめとするエクロジャイトを含む岩体(東赤石岩体,五良津岩体など)と三波川結晶片岩類は,同じ一つの沈み込み帯のもとで高圧型変成作用を受け,各々の変成圧力条件(=深度)まで達したものであると考えられる.そして,これらのエクロジャイト岩体は,その上昇の過程で,上盤側の付加体下部の三波川結晶片岩類の現位置に迸入し,最終的に緑れん石角閃岩相の三波川変成作用を被った.
Keywaords : eclogite, epidote-blueschist, garnet, amphibole, P-T trajectory, Tonaru mass, Sambagawa belt, subduction, prograde metamorphism.
韓国ペンニョン島のスピネルかんらん岩捕獲岩の鉱物化学および上部マントルの古地温勾配への示唆.
韓国(北西端)ペンニョン島(白●島)の鮮新世ベーサナイト中に含まれるマントル起源捕獲岩にはスピネルレールゾライトとスピネルハルツバージャイトがある.ペンニョン島の捕獲岩の全体的な組成範囲は中国東部の原生代以後のリソスフェアマントル起源捕獲岩のものと一致し,枯渇した始生代大陸下マントルの存在を示す組成的証拠を欠く.捕獲岩の鉱物化学組成によって平衡温度圧力を見積もり,起源となったマントル領域の古地温勾配を組み立てた.捕獲岩から求めた古地温勾配は820℃,7.3 kbarと1,000℃, 20.6 kbarの2点を通る.中国の原生代以後のリソスフェアマントル起源捕獲岩から得られたものと同様に,ペンニョン島の地温勾配は,地殻・マントル境界の深さにおいて熱伝導モデルで計算されるものよりもかなり高温であり,恐らくリソスフェアの薄化による熱的擾乱を反映している.ハルツバージャイトとレールゾライトの間には有意な温度・圧力の差はなく,ペンニョン島下のこの範囲の深さではハルツバージャイトとレールゾライトが交互に存在することを示唆する.
Key words: Baengnyeong Island, paleogeotherm, post-Archean lithospheric mantle, South Korea, spinel peridotite xenolith
ニューカレドニアの漸新世後期のオブダクション後の花崗岩類:沈み込みの再開とスラブの破断が起きた場合
ニューカレドニア南部では,漸新世後期の花崗閃緑岩とアダメロ岩が,始新世後期に定置した超苦鉄質の異地性岩体中に貫入している.従来の解釈では,これらの起源は下方の大陸地殻の溶融によるとされていたが,我々の新しいデータは,これらの高カリウム〜中カリウムのカルクアルカリ花崗岩類は大陸地殻起源のメルトと混合していない火山弧マグマの化学的・同位体的特徴を示す.これらのマグマは恐らくニューカレドニアの西海岸沿いに地球物理学的な痕跡が残る漸新世の沈み込み帯で形成されたものだろう.これらのSr, Nd,Pb同位体比は,同位体的にほとんど均質なマントルウェッジ由来を示すが,一方で結晶分化作用によって説明できないいくつかの微量元素比のばらつきは,給源マントル物質の(微量元素組成の)不均質性を示す.一部のやや若い時代の花崗岩類が著しく重希土類に枯渇することは,それらの捕獲岩として産するざくろ石に富む地殻下部物質(グラニュライト)との平衡によるのだろう.しかし,結晶分化作用に関係なくNb, Ta, Hfが比較的濃集していることは,既にアンダープレートしていた苦鉄質物質との適度な混合,マントルウェッジの不均質な加水作用,そしてNbに富む上昇するマントル物質との混合,のいずれかを表す.(超苦鉄質岩体の)オブダクション後のスラブの破断は,リソスフェアマントルより下での物質混合とそれに引き続く不均質化に重要な役割を演じたものと考える.ここで記述した漸新世後期の沈み込みは,南方へニュージーランド北部の異地性岩体まで延長していた可能性がある.
Keywords: granitoid, Oligocene, obduction, volcanic-arc magmatism, slab break-off, geochemistry, isotopes, New Caledonia, Southwest Pacific
低速拡大海嶺起源のオフィオライトの完全なマントル断面:フィリピン,イサベラ・オフィオライトの例
イサベラオフィオライトは,フィリピンのルソン島北部の東海岸に沿って完全なオフィオライト層序を示し,北東ルソン地塊の白亜紀基盤岩コンプレックスをなす.このオフィオライトはフィリピン変動帯の東縁に沿って配列する一連のオフィオライトおよびオフィオラト質岩体の最北端に位置する.この論文ではイサベラオフィオライトの性質と特徴について新知見を報告する.
イサベラオフィオライトのかんらん岩は比較的新鮮で,スピネルレールゾライト,単斜輝石を含むハルツバージャイト,枯渇したハルツバージャイト,ダナイトよりなる.モード組成,特に輝石の量は,南から北へ向かって肥沃なレールゾライト,単斜輝石を含むハルツバージャイト,枯渇したハルツバージャイトの順に枯渇傾向を示す.モード組成の変化は記載岩石学的な組織の変化を伴う.
スピネルのクロムナンバーは部分溶融程度の指標となるが,その変化は記載岩石学的観察と調和的である.更に,イサベラオフィオライトかんらん岩は現在の中央海嶺から得られる深海底かんらん岩と,スピネルやかんらん石の主要元素組成,単斜輝石の希土類元素組成において類似性を示す.これらの岩石・鉱物組成はイサベラオフィオライトが肥沃なレールゾライトを伴う(L型とH型の)中間型のオフィオライトであり,多くのオフィオライトでは欠如しているマントル断面の深部を代表することを示唆する.
肥沃なかんらん岩の産出は,オフィオライトのマントル断面の最下部を調査できる稀な機会を提供する.ある連続したマントル断面におけるかんらん岩の組成変化幅の大きさは,現在拡大中の中央海嶺下の溶融したマントル断面のよいアナログとなるかもしれない.
Keywords: mantle column, mantle peridotite, ophiolite, partial melting