Uplift of the Himalaya-Tibet region and the Asian Monsoon: Geologic, Geomorphic & Environmental Consequences
Guest Editor:Pitambar Gautam,渡辺悌二,西 弘嗣,安成哲三
エベレスト(チョモランマ)山頂の石灰岩の地質とチョモランマ・デタッチメント下のイエローバンドの冷却史
酒井治孝,澤田 実,瀧上 豊,折橋裕二,檀原 徹,岩野英樹,桑原義博,Qi Dong, Huawei Cai and Jianguo Li
エベレスト山頂のオルドビス紀のミクライト質層状石灰岩は,三葉虫,介形虫,ウミユリを含むペロイド質石灰岩礫を含む陸棚縁辺の堆積物である.一方,デタッチメント断層直下のイエローバンド石灰岩は変成しており,その87Rb/86Sr年代は40Ma頃にテチス堆積物が構造的に厚くなり,変成作用を被ったことを示す.白雲母の40Ar/39Ar年代は33.3Maと24.5Maの熱イベントを記録しており,前者はバロビアン型の,後者は変成帯の上昇に伴う減圧による高温型の変成作用に対応している.砕屑性ジルコンとアパタイトのFT年代は各々14.4±0.9Ma, 14.4±1.4Maであり,デタッチメントによりテチス堆積物の最下部が〜14.4Maに350℃から100℃まで急冷し,変成帯が地表に露出し始めたことを示唆する.
Key words : Mt.Everest, Qnomolangma detachment, Yellow Band, 40Ar/39Ar age,87Rb/86Sr isochron age, fission track age. (40・39・87・86は上付)
西ネパール・カルナリ川流域のシワリク層群に記録されたテクトニクスおよび気候変動
Karnali川流域に露出する5000m以上に及ぶシワリク層群において,堆積相,粘土鉱物,Nd同位体比に関する研究を行い,テクトニクスおよび気候変動に関する考察を行った.
本研究の堆積物中には,2つ時期に大きな変化がみられる.一つは 9.5Maで,ここでは蛇行河川から網状河川への変化がみられる.もう一つは6.5Maで,網状河川の水深が浅くなる変化である.前者の9.5Maの変化は,Nd同位体比が最低値から急速に増加する時期と一致している.この同位対比の変化は,Ramgarh スラストの活動により,13〜10MaにKarnali堆積盆の中にレッサーヒマラヤの岩石が露出され,それが浸食されたためにこの同位体比の変化が生じたと考えられる.このとき,隆起にともなうMain Boundary Thrustの前進が網状河川の発達も促した.一方 後者の6.5 Maには,粘土鉱物の変化が網状河川の堆積相の変化と同時に生じ,スメクタイト/カオリナイト比が高い方へシフトする.後背地の岩石に変化はみられないので,この粘土鉱物の変化は環境の変化によると考えてよい.一方,堆積相の解析からは,6.5Maにはモンスーン気候の強化による降水量の増加が推定され,河川系の変化と一致する.この河川システムの変化は,時代に違いがあるものの,Karnaliセクションでは,中央から西ネパールまで広く認識される. Karnali セクションに認められる2つのイベント,スメクタイト/カオリナイト比の増加とNd同位体比の減少は,同時期のベンガル扇状地の堆積物にも認められている.
Key words: Himalaya, Siwaliks of Nepal, Karnali section, Neogene, facies analysis, clay mineralogy, neodymium isotope, climate, tectonics.
ネパール・カトマンドウ盆地における後期更新世の花粉群集組成
カトマンドウ盆地を埋積する連続堆積物の上部を構成するテイミ層は,後期更新世における河川末端に堆積した細〜中粒砂,シルト,シルト質粘土,粘土の互層によって特徴づけられる.40試料に基づいた花粉化石層序から,裸子植物群が被子植物群や草本類より優勢であったことが明らかにされた. Pinus属とQuercus属に含まれる複数の種は,現在のネパールではそれぞれ分布高度が異なるため,本研究ではこれらのtaxaの識別を試みた. Pinus wallichiana, Pinus roxburghii, Abies spectabilis, Tsuga dumosa,Picea smithianaなどの裸子植物は,Quercus lanata, Q. lamellosa and Q. leucotrichophora and Q. semecarpifolia, Betula, Juglans, Myrica, Castanopsis, Symplocos などの木本性被子植物より優勢であった.テイミ層の花粉群の深度による組成変化は少なかった.僅かな木本性被子植物と優勢なイネ科をはじめとする草本類からなるテイミ層の花粉群は,後期更新世におけるカトマンドウ盆地が冷涼から温暖な気候であったことを示す.
Keywords: Kathmandu Basin, Thimi Formation, pollen record, paleoclimate, Late Pleistocene.
南チベットヤールンツァンポー縫合帯のシャルー・チャートから産出したジュラ紀末−白亜紀初期放散虫化石:西太平洋地域の同年代放散虫群集との比較と古海洋学的意義
松岡 篤・楊 群・武井雅彦
シャルー・チャートからのジュラ紀末ないし白亜紀初期(Pseudodictyomitra carpatica帯)の放散虫群集は,西南日本の鳥巣層群から得られた同年代の北半球中緯度(温帯)群集と多くの共通要素をもつ.一方,シャルー・チャートからの群集は,マリアナ海溝から得られた同年代の熱帯群集との共通性に乏しい.シャルー・チャートが南半球で堆積したことは明らかなので,シャルー・チャートからの放散虫群集は南半球の中緯度(温帯)群集を代表しているとみなされる.ジュラ紀末から白亜紀初期にかけて,テチス海と太平洋には,赤道を挟んで鏡像関係にある中緯度放散虫群集の分布が復元される.
Key words : Xialu chert, latest Jurassic, earliest Cretaceous, radiolaria, paleoceanography
チベットと周辺山岳における氷河地形学と氷河時代
1973 年から,アジアの高地での氷河作用の最大範囲を示す新しいデータを得た.最終氷期にチベットを覆った氷床に関するデータは北半球の氷河作用を根本から考え直させる.氷床が中緯度に,巨大なサイズで(240万 平方キロメートル),そして,標高の高いところ(海抜6000m)に存在していたということは,アルベドの変化に伴う,地球大気の大きな(substantial)寒冷化を引き起こし,また,夏のアジアモンスーン循環をとめるとされている.ヒマラヤの南側面では,モレーンが海抜460mまで達し,祁連山地域のある,チベット高原の北斜面では海抜2300mまで達していることが発見された.カラコルム, Aghil,クンルン山脈の北斜面では,モレーンは海抜1900m下にまでみられる.チベットの南での,erratics(迷子石)のX線撮影解析によると,かつての氷の厚さは少なくとも1200mであることが分かった.また,ヒマラヤやカラコルムの氷河による研磨や羊背岩は,かつての氷河の厚さが 1200−2700mあったことを示唆している.この証拠を基にすると,1100−1600m低い平衡線(ELA)が再現され,チベット全体のほとんどを覆う,240万平方キロメートルの氷床が存在していたことになる.さらに,様々な方法によって得られた放射性年代は,この氷河作用を同位体ステージ3−2 の時代(W_rmian=最終氷河期,約c.6000-c.18000年前)に区分している.
Key words: glacial geomorphology, Ice Ages, Tibetan ice sheet, former glaciation of central Asia, Quaternary climate
パキスタン北部,バツーラ氷河の堆石堤に見られる完新世カルクリートクラストの形成過程
藁谷 哲也
パキスタン北部,バツーラ氷河の堆石堤に見られるカルクリートクラストについて鉱物・化学組成,氷河氷や氷河周辺の地表水の化学組成,AMSによる14C 年代をもとに形成過程が分析された.その結果,クラストは約0.2mm以下の鉱物片からなる層と,主にCaOを約60%含む微細なカルサイト層が級化し,ラミナをつくっていた.氷河氷や融氷水は,周辺の炭酸塩岩の溶解に起因して多量のCa2+とHCO3-を含むため,カルクリートは氷河と堆石堤の間につくられた一時的な水流又は池の水分が蒸発する過程で発達したと推察される.クラストの14C年代から,カルクリートはバツーラ氷期後期の約8,200cal BPに形成を完了した.
Key words : calcrete, calcite, glacial stage, AMS14C age, Karakoram Mountains (注14はCに上付)
気象研究所大気海洋結合気候モデルにおけるチベット高原の上昇に対する中央アジアの気候の感度
阿部 学,安成 哲三,鬼頭 昭雄
中央アジアの乾燥化はチベット高原の上昇が要因とされているが,まだ不明な点も多い.本研究では,チベット高原の高さと中央アジアの乾燥化の関係を,気象研究所大気海洋結合気候モデル(MRI−CGCM1)を用いて調べた.中央アジアの春季から夏季の降水量の減少と蒸発量の増加,また,潜熱及び顕熱フラックスの高原の高さによる違いが,高原の高さが現在の40%と60%の間で顕著に現れた.今回の数値実験によって,中央アジアの顕著な乾燥化は高原が現在のだいたい半分を超えたときに現れることが示唆された.
Key Words : general circulation model(GCM), Central Asia, arid climate, Tibetan Plateau uplift.
ヒンドゥークシュ山脈,カランバール谷における氷河湖決壊連鎖の発生トリガーとしての過去の氷河せき止め
カランバール谷では,19世紀中頃から,破壊的な氷河湖決壊が生じてきた.しかしこれまでのところ,これらの決壊の正確な発生源は不明であった.地形学的な野外調査と住民インタビューを行った結果,水平距離40kmの区間に9つの氷河でせき止めがあった可能性を復元できた.その中でも特に,最大の可能性を持っているチャテボイ氷河とサクレイ・シュイジ氷河の2つに焦点をあてて検討した.湖底堆積物,湖岸段丘,氷性堆積物の観察から,これら2つの氷河が連結した湖を形成したと考えられ,一連の決壊を生じさせた.カランバール谷では,現在でもチャテボイ氷河が谷をせき止めることがあり,下流域の村に恒久的な災害をもたらす原因となっている.
Key words: ice-dammed lakes, outburst floods, outburst cascades, backwater ponding, Hindukush-Karakoram.
ネパール最東部のカンチェンジュンガ・ヒマールにおいて,ソリフラクション・ローブの動きを観測した.5,412-14m(傾斜31度)の斜面において,グラスファイバーチューブによって測定した地表面付近の平均移動速度は11mm/年で,5,322-25 m (22度)の赦免状での値の3倍近くに達した.両斜面でマスムーブメントが生じる深さには大きな差はなかった.ストレイン・プローブによる観測の結果,モンスーン初期に物質移動が始まったことがわかったが,降水量・土壌水分が共に少ないことから,マスムーベメント量が小さいと推察された.
Key words: ground temperature, Nepal Himalaya, soil displacement, soil moisture solifluction, strain probe.
ヒマラヤでは特に夏のモンスーン時期に,地滑りや土石流に関係する破損,破壊,負傷者等が頻繁に認められる.この論文では,中央ネパールのボテコシ渓谷上部を走るアルニコハイウエーから109kmに位置するラーチャ地域で,1996年7月に起きた悲惨な状況を報告する.ラーチャ地域の22戸のうち16戸が流され,2戸が一部破損で,54人が瞬く間に亡くなった.この現象につきメディアは,原因を氷河湖からの流出水による土石流によるものと注目した.しかし,地質学,地形学および土木地質学からの検討により,氷河湖の流出水によるのではなく,モンスーンによって渓谷の狭い谷に堰き止められた水が限界を越え,地滑りを誘発した土石流が原因と結論した.
Key words : Debris flow, Larcha, upper Bhotekoshi Valley, Arniko Highway, monsoon, glacial lake outburst flood, colluvium, Lesser Himalaya, Higher Himalaya.
土壌の磁気性質と重金属濃度の統合によるネパール,カトマンドゥー市における環境汚染度の定量化
カトマンドゥー市街の土壌の磁気帯磁率(c)と飽和等温残留磁化(SIRM)には有意な変化が認められ,これらの変化に基づく環境汚染の評価が可能である. cの強度によって土壌の深度区分を通常(normal, < 10-7 m3 kg-1),中間的強化(moderately enhanced, 10-7 to <10-6 m3 kg-1)および強化(highly enhanced, ウ10-6 m3 kg-1)に分けることができる.道路および工業区域から離れた地点の土壌は一般に通常である.道路に近いところの土壌では,cは深度数cmで最大を示し,20cmの深さまでは高い値である.それより深くでは深さとともにcは減少し,moderateをへて,深さ~30−40 cmでは通常normalになる.公園では,上層部の土壌のcは中間moderately enhancedである.土壌のSIRMはmedian acquisition fields (B1/2) によって三つの成分に分けられる.それらはソフト (B1/2 = 30−50 mT: 磁鉄鉱様化合物),ミデイアム(B1/2 = 120−180 mT: おそらくマグヘマイあるいはsoft coercivityの赤鉄鉱)およびハード (B1/2 = 550−600 mT: 赤鉄鉱)である. 地表近くでのSIRMはソフトが卓越しており,都市環境汚染は磁鉄鉱様化合物の富化によることを示している.
いくつかの土壌断面での重金属AAS分析によると,Cu, PbおよびZnでは濃度変化が大きく,濃度変化比(最大含量/最小含量の比)はそれぞれ 16.3, 14.8および9.3である.ラニポカリでは,いくつかの金属の含量はcとよく相関し,両者の対数値は直線関係にある.しかし,ラトナパークでは,cと SIRMはともにCu, Pb およびZnと明瞭な正の相関関係を示すが,Fe (Mn), Cr, Ni および Co との相関関係は弱いかあるいは負の関係さえ示す.このような違いは地質起源・土壌起源・生物起源および人為起源の要因の変化に由来し,それらの変化は時間的にも空間的にも変わる.しかし,環境汚染(基本的には交通による)を受けた土壌断面では,cはいくつかの市街元素(Cu, Pb, Zn)の濃度に基づく汚染指数と明確な直線関係を示す.したがって,cは市街地汚染度の定量化に有効なパラメータとして使える.
Keywords: heavy metals, environmental pollution, Kathmandu, magnetic susceptibility, soil magnetism, isothermal remanence.
Evolution of Ophiolites in Convergent and Divergent Plate Boundaries: Introduction
Yildirim Dilek,小川 勇二郎,Valerio Bortolotti,Piera Spadea
パンゲア大陸の分裂は,ペルム紀-三畳紀の大陸リフト群の発生に引き続いて,三畳紀にのちのアフリカとヨーロッパ,アフリカと北アメリカ,南北アメリカの間の大陸縁に沿って始まった.
中-後期三畳紀にパンゲアの東部赤道部を切って,古テチス海の分岐ないし新しい海洋(東テチス海)として一つの海洋盆が開き,大陸リフト盆地が西方へと発達していった.西テチス海と中央大西洋が開き始めたのは中期ジュラ紀になってからであった.
周地中海と周カリブ海地域の海洋性残存物(中生代オフィオライト)と大西洋の地殻から得られたデータから,パンゲア大陸の分裂の時期についてのモデルを作ることができた.
東テチス海では,中-後期三畳紀MORBオフィオライト,中-上部ジュラ系MORB・IATからなるsupra沈み込みオフィオライト,および中-上部ジュラ系の下部変成岩が分布しており,三畳紀から中期ジュラ紀にかけて海洋拡大が活発だったことを示唆する.まだ拡大が活動的だった中期ジュラ紀には早くも圧縮の時期になり,ジュラ紀ミ白亜紀境界頃に海洋が閉じ,引き続いて造山帯が生成した.現在見られる散在するオフィオライト群は造山運動の結果であり,後からの構造運動による乱れを取り除くと東テチス海のオフィオライト群は一つの直線をなす.
西テチス海では,中-上部ジュラ系MORBオフィオライト群のみが存在するが,その当時はまだ海洋拡大の時期であった.海洋の消滅は後期白亜紀に始まり始新世に完了した.西テチス海と中央大西洋を結ぶ地域に沿っては,パンゲア大陸の分裂は左横ずれねじり構造運動により生じた.
西テチス海とカリブテチス海を結ぶ中央大西洋では,海洋拡大は同時に生じ,現在もなお続いている.カリブテチス海はおそらく後期ジュラ紀ミ前期白亜紀に開いた.データから浮かぶ全体像は,パンゲア大陸の分裂が東から西へ向け,中-後期三畳紀から後期ジュラ紀-前期白亜紀へと若くなっていることを示唆する.
Key words: Paleozoic Pangea breakup, ophiolites, Eastern Tethys, Western Tethys, Caribbean Tethys, Triassic, Jurassic
本論文では,地質学的・構造地質学的データに基づき北アルバニアのミルディタ オフィオライトナップの構造発達史を提唱する.ミルディタオフィオライトナップは,東西2つのオフィオライトユニットに構造的に覆われるオフィオライト下のメランジであるルビクコンプレックスを含む.ミルディタオフィオライトナップの歴史は前期三畳紀にリフティング期に始まり,中期-後期三畳紀にアドリア海とユーラシアの大陸縁の間で海洋拡大が続いた.その後,前期ジュラ紀に海洋盆は沈み込み帯の発達を伴う収束運動の影響を受けた.ミルディタオフィオライトナップの東西両ユニットにSSZに関係するマグマ層序が見られることから,この沈み込み帯が存在したことがいえる.中期ジュラ紀の連続的な収束は,海洋間期と縁辺期の2つの時期の海洋リソスフェアのオブダクションをもたらした.海洋間期は,下部変成岩の発達をもたらす若くまだ熱い海洋リソスフェアの西への衝上運動により特徴づけられる.後期ジュラ紀にオフィオライトナップの大陸縁の上への定置により縁辺期が生じた.この第2期の間にオフィオライトの定置がルビクコンプレックスの発達をもたらした.前期白亜紀にオフィオライトの最後の定置があり,続いてバレミアン期-サントニアン期のプラットフォーム炭酸塩が不整合に覆って堆積した.後期白亜紀から中期中新世に,変形フロントのアドリアプレートの方向への漸進的な移動の間にミルディタオフィオライトナップは西方へ移動した.中期-後期中新世には,展張テクトニクスによりナップ全体が薄化した一方,アドリアプレートの西端地域では依然として圧縮が活発であった.概して,中新世の変形が今日観察されるミルディタ オフィオライトの上昇と露出をもたらした.
Key words: ophiolites, obduction, tectonic, Mesozoic, Tertiary, Mirdita, Northern Albania
ミルディタ-サブペラゴニア帯(アルバニデ-ヘレニデ造山帯)には,オフィオライト層序に伴われるオフィオライトメランジが広く分布しており,それらは構造-堆積性の「ブロック インマトリックス型」のメランジからなる.この論文では,主メランジユニットに貫入している火山岩及び火山深部岩である玄武岩質岩について,化学組成と岩石成因論とともに生成の本来の構造場を解明する目的で研究した.
これらのメランジに取り込まれた玄武岩質岩は,(1)三畳紀の中間-アルカリ型プレート内玄武岩(WPBs),(2)三畳紀の通常型(N-MORB)及び富化型(E-MORB)海嶺玄武岩,(3)ジュラ紀N-MORB,(4)MORBと島弧ソレアイトの中間的な地球化学的特徴をもつジュラ紀玄武岩(MORB/IAT),(5)ジュラ紀ボニン岩類,を含む.これらの岩石は相異なる火成活動を記録しており,それらはテチス海のミルディタ-サブペラゴニア地域における構造運動の原動力と時代によるマントル進化に関係している.
主に堆積過程により生じたメランジユニットはSSZ環境に由来する物質が卓越することで特徴づけられ,他方で構造性の過程が優勢だったメランジユニットでは海洋性物質が卓越する.対照的に,構造的に似たメランジユニット間では組成上の差異は見られない.この事実は,それらのメランジユニットがヘレニデからアルバニデに至る単一のメランジ帯とみなされ,その生成は相異なる物質を取込むメカニズムにより支配されていたことを示唆する.
MOR・SSZ型アルバニデ-ヘレニデオフィオライトの表層の玄武岩類の大部分はメランジに取り込まれている.しかし島弧ソレアイト類の玄武岩は,それらが量的には最も多いオフィオライト岩型であるにもかかわらず,これまでのところメランジ中には見つかっていない.このことから,海洋内弧の主部を構成する岩石はメランジの生成に関与しなかったと思われる.他方,おそらく前弧域で生成したであろう岩石は堆積性メランジ中に多く見られる.しかも,多くのメランジに含まれる三畳紀のE-MORB・N -MORB・WPBsは現在のオフィオライト層序には見られない.だがそれでも,玄武岩類は中期三畳紀以後にアルバニデ-ヘレニデ帯全体が一つの海洋盆であった証拠となっている.
Key words: petrogenesis, basalts, ophiolitic melange, Albanides, Hellenides
ノルウェー西部のソルンド−スタブフィヨルド・オフィオライト複合岩体(SSOC)はオルドビス紀後期の海洋リソスフェアの残骸であり,カレドニアの背弧海盆における中速〜高速拡大によって形成された.その地殻部分の内部構造や火成岩の特徴は,SSOCが沈み込み帯上における複雑な多段階の海洋底拡大の歴史をもつことを示唆する.リフト系の延伸テクトニクスに伴う最も若い地殻部分は,よく揃ったオフィオライト層序を持ち,玄武岩質火山岩類,層状岩脈群から噴出岩層への漸移帯,層状岩脈群,及び上部塊状斑れい岩を含む.主要元素および微量元素の分布における幅広い変化は,火成作用から予想される範囲をはるかに超えた地殻岩石の熱水変質による元素の大規模な再移動を示す.噴出岩層中の火山岩類ではK2Oが著しく富化しているが,岩脈群と噴出岩層の漸移帯の近くまたは漸移帯中では銅と亜鉛が最も濃集している.全岩δ18O値はオフィオライト層序の下位に向かって減少傾向を示し,その変化は火山岩中で最大で岩脈群中で最小である.緑れん石・石英組合せのδ18O値は火山岩中で260-290℃,漸移帯中で420℃,岩脈群中で280-345℃,そして斑れい岩中で 290-475℃の温度を示す.87Sr/86Sr同位体比は火山岩中で最も変化幅が広くて値も高く(0.70316-0.70495),一般に岩脈群中で最も変化幅が小さく値も小さい(0.70338-0.70377).計算された水/岩石比の最小値は火山岩類と斑れい岩中で最も変化が大きく(0- 14),岩脈群中で最も変化幅と値が小さい(1-3).緑れん石のδD値(-1〜-12‰)は計算されるオルドビス紀の海水のδ18Oとともに現在の海水の値と同様である.火山岩類は低温および高温の水循環を両方経験しており,その結果K2Oの富化とδ18O値の大きなばらつきを生じた.マグマ溜り上の高温反応帯における金属元素の溶脱の結果として,斑れい岩の亜鉛が著しく枯渇しているが,そこから放出された熱水の湧昇と沈殿によって,岩脈群中では亜鉛が富化している.この研究によって,SSOC地殻の上部には,広域的な緑色片岩相低温部の変成作用の影響にもかかわらず,海洋底の熱水活動がほぼそのままの状態で保存されていることが示された.
Key words : Norwegian Caledonides, ophiolite, volcanism, tectonic activity, hydrothermal alteration, O- and Sr-isotopes.
この論文ではオマーン・オフィオライトのマントル部分のクロム鉄鉱類についてその組成データ(主要元素,白金族元素(PGE)濃度,オスミウム(Os)および酸素同位体)を総括する.オマーン・オフィオライトのクロミタイト中のクロム鉄鉱類はCr#の高い無人岩的なものからCr#の低い海嶺玄武岩 (MORB)的なものまで一連の組成変化傾向を示す.Cr#の高いものはTiに乏しく,分化したPGEパターンを示し,イリジウム類(IPGE)に富む. Cr#の低いものはTiに富み,未分化なPGEパターンを示す.このようなクロミタイトの組成変化は,かなり組成の異なるメルトからの結晶作用を反映している.このメルト組成の幅広い変化が生じた原因として,メルト−岩石反応,即ち玄武岩質メルトがハルツバージャイト・マントルと反応し次第にCrに富むメルトを形成していったためであるという考えを提案する.こう考えれば,従来のモデルと対照的に,異なるクロム鉄鉱のタイプを説明するために構造環境の変化を想定する必要がなくなる.
Key words : chromitite, PGE, melt-mantle interaction, tectonic setting
ミルディータ・サブペラゴニア帯のオフィオライトはアルバニア・ギリシャ造山帯にほぼ連続して配列し,ミルディータ区域の西部では海嶺玄武岩(MORB) 組合せ,東部(即ちミルディータ東部およびピンドスとヴリノス)では多量の島弧ソレアイト(IAT)と若干の無人岩を伴う沈み込み帯域(SSZ)組合せを含む.加えて,MORBとIATの中間的な地球化学的特徴を示す玄武岩がミルディータ区域の中部とアストロポタモス地域(ピンドス)で発見された.これらの玄武岩は典型的なMORBと互層し,無人岩質岩脈に貫かれる.
これら様々なオフィオライト岩体の苦鉄質親マグマの相異なる組成的特徴は,それらの給源マントルが部分溶融とメルト抽出により次第に枯渇化したことによって説明できる.レールゾライト質給源マントルの部分溶融(10〜20%)は典型的なMORBマグマと単斜輝石に乏しいレールゾライト質の溶け残りかんらん岩を生産した.この溶け残りかんらん岩が沈み込み帯域において,水の存在する条件で10%部分溶融することによってMORB/IATの中間組成の玄武岩が形成されたが,IAT玄武岩と無人岩は,様々な程度に沈み込み帯起源の流体による富化を受けた同じ給源マントルから,それぞれ10〜20%と30%の部分溶融によって形成された.さらに,無人岩はより枯渇した給源ハルツバージャイトから水が関与した低い程度の部分溶融によって形成されたのであろう.
全岩と鉱物の化学組成の間のマスバランス計算に基づく一般化された岩石学的モデルは,大部分の貫入岩類(超苦鉄質沈積岩から斑れいノーライトと斜長石花崗岩まで)も層状岩脈群および火山岩類(玄武岩から流紋デイサイトまで)も,SSZオフィオライトの地殻部分全体の成因は,現在の太平洋の海洋性島弧に見られるIATピクライトとよく似た組成のTiに乏しいピクライト質の親マグマが浅い場所で結晶分化したことによって説明できる.
テーチス海域のSSZオフィオライトの形成について,最も妥当な構造論的・火成論的モデルを概述すると,海洋プレート間の沈み込み帯の低速収束運動によるIAT組成の初期島弧の形成.その後のスラブの後退,マントル・ダイアピル上昇,そして島弧軸から前弧域までの伸張運動によるMORB/IAT中間組成玄武岩や無人岩マグマの形成,となる.
Key words: magma generation, supra-subduction zone, Tethyan ophiolites, Albanides, Hellenides.
.オマーンオフィオライトの層状斑糲岩の層構造の起源:ワジサダム地域の帯磁率測定からの洞察
川村喜一郎・細野高啓・Huda Mohamed Allawati・小川勇二郎・谷口英嗣
オマーンオフィオライト,サダム地域の層状斑糲岩の800 cmの連続セクションで帯磁率と帯磁率異方性を測定した.そのセクションでは,3ユニットが認められ,帯磁率は,優黒色層から優白色層へ上位に減少する傾向であった.帯磁率の減少は,主としてオリビンの変質による磁鉄鉱の減少を表している.この傾向は,層状斑糲岩のオリビンのサイクリックな沈積を示唆している.また,層状斑糲岩の磁化ファブリックと粒子ファブリックから,単純剪断が類推される.以上から,斑糲岩の層構造は,初期的に沈積,後生的に単純剪断を被ったと考えられる.
Key words: Cumulate gabbro, Magnetic susceptibility, AMS, Grain fabric, Simple shear
嶺岡オフィオライトのエンプレイス時における変成・変形条件に関連する搬入プロセスを理解するため,嶺岡帯に産出する変成岩・深成岩塊(ノッカー)の構造解析を行った.その結果,二つの変形ステージが見られ,より深部(延性〜脆性下)での岩塊内に発達する後退変成作用を伴う褶曲や断層による変形と,より浅部(脆性下,沸石相)での周辺の岩石(蛇紋岩)との境界で発達する断層に分けられることが確認された.これら二つのステージともトランスプレッショナルな条件で起こり,また後期のものは現在の嶺岡帯のテクトニクスと一致する.それは嶺岡帯のテクトニクスが新第三紀付加体形成以降のフォアアークスリヴァー断層帯として位置づけられることを意味する.
Key words: knocker, Mineoka Ophiolite, transpression, mylonitization, brecciation, forearc sliver.
植田勇人,宮下純夫
北海道イドンナップ帯の白亜紀付加体から,九州−パラオ海嶺のような海洋性残存島弧起源の付加コンプレックスが見出された.当コンプレックス中には,島弧起源の緑色岩を火山岩礫岩,次いでチャートが覆う原層序が残されており,背弧拡大により遠洋域で活動を停止した残存島弧の履歴を示すと解釈される.残存島弧の沈み込みを契機に沈みこむ海洋地殻の年齢が不連続に変化するため,白亜紀北海道に見られるように,付加様式や沈み込み変成作用の急激な変化がおこる.また,残存島弧起源付加体の存在は,白亜紀北海道に沈み込んだ海洋プレートが,現世フィリピン海のように海洋性島弧や背弧海盆を擁していたことを示唆する.
Key words: accretionary complex, subduction zone tectonics, intraoceanic remnant arc, circum-Pacific ophiolite, Idonnappu Zone, Hokkaido.
チリ沖三重点近傍のタイタオ・オフィオライト(<6 Ma)の定置過程を古地磁気学的手法を用いて解明した.直線的な消磁曲線を持つ火山岩類とシート状岩脈の安定残留磁化方位は,比較的小さな反時計回りの回転を生じたことを示す.下位の複雑に褶曲された斑糲岩・超塩基性岩類は,時計回り回転を示唆する高保磁力成分と,大きな反時計回り回転を示唆する低保磁力成分が得られた.前者は海嶺衝突時の,後者はオブダクション中の変形を記録しているのだろう.復元された斑糲岩とシート状岩脈の構造は,オフィオライトがセグメント境界に近いチリ海嶺で生成したことを示す.定置中の深成岩類の回転によって生じた隙間に向かって火山岩類は噴出した.
Key words: Taitao ophiolite, obduction, paleomagnetism, block rotation, Chile Ridge.
伊豆・小笠原海溝とマリアナ海溝の会合点にある母島海山は長方形をした特徴的な海山である.この海山からは蛇紋岩や簿にないと等の岩石からなる.白鳳丸による地形調査やドレッジ,「しんかい2000」による潜航観察を行った.その結果この海山がもとは現在の母島の南にあったブロックでこれがパラセベラ海盆を拡大させたトランスフォーム断層によって東に移動し,その後太平洋プレートの上にあったトランスフォーム断層がその下へ沈み込むことによってできたテクトニックブロックであると考えた.
Key words: Hahajima Seamount, Izu-Bonin Arc, serpentine seamount, Parece Vela Basin, transform fault
Hirnantian 期に揚子台地は南シナ地塊の西部に位置しており,これはゴンドワナ大陸北東岸の南半球の中〜低緯度地域に相当する.この地域はHirnantia動物群で代表されるようなKosov動物群区の一部をなし,堆積学的データによると,沿岸斜面や陸棚からの冷水性海流による影響が卓越していた.また, Ashgill期の筆石類を含む黒色頁岩(Wufeng層)の堆積後,海退によってHirnantian期に浅海性炭酸塩(Kuanyinchiao層)がその上に堆積した.本研究では,揚子台地において潮間〜沿岸の堆積相でHirnantia動物群の典型的な化石を欠く地層が局所的に数カ所産出することを見出した.いくつかの暖水性の特徴(放射状海緑石,ペロイド,異なる単体サンゴや様々な底生貝類の存在)が浅海地域に断片的にみられ,これら地域ではグレーンストーンやパックストーンが形成された.上記のような暖水的特徴をもった地層は,Hirnantian氷期の間氷期において形成された可能性もあるが,これら浅海層の産出が揚子台地内部に限られていることから,南東の高緯度地域からもたらされた冷水性海流が揚子台地の沿岸で局部的に遮られたと考えられる.Hirnantian期に南シナ地塊東部に相当する大陸がゴンドワナの高緯度地域からの冷水性海流の流入を妨げ,揚子台地のいくつかの地域では暖水性の浅海堆積物が堆積したと考えられる.
Key words : Latest Ordovician, carbonate litho/biotic facies, palaeogeography, shallow marine belt of the Yangtze Platform, South China Block
500-550 Maの汎アフリカ造山運動期に活動した深成岩類によって構成されるMefjell深成複合岩体は,東南極セールロンダーネ山地の先カンブリア代の基盤岩に貫入しており,セールロンダーネ縫合帯の一部を形成している.この岩体の岩相は閃長岩質岩や花崗岩質岩(主にモンゾ花崗岩質岩)であり,鉄に富む含水苦鉄質鉱物や初生的なチタン鉄鉱の存在から高温および酸素分圧の低い環境での結晶化が考えられる.閃長岩質岩はメタアルミナスで,アルカリ元素, K2O/Na2O比,Al2O3, FeOt/(FeOt+MgO) 比 (0.88-0.98),K/Rb比 (800-1000),Ga (18-28 ppm),Zr (~2100 ppm),Baに富む.またこれらはMg# [Mg/(Mg+Fe2+)],Rb,Sr,Nb,Y,Fに乏しく,LREE/HREE比は低〜中度でREEパターンはEuの正の異常を示す.一方,花崗岩質岩はメタアルミナスからパーアルミナスでRbに富み,高いSr/Ba比,LREE/HREE比,低いK/Rb比,そしてEuの負の異常によって特徴づけられる.閃長岩質岩と花崗岩質岩のほとんどはY/Nb>1.2であり,初生マントルで規格化したスパイダー図でNb,Ti,Srに枯渇していることから,沈み込みが関与した地殻物質が起源と考えられる.したがってこれら閃長岩質岩と花崗岩質岩は,マントル起源の玄武岩の貫入による熱によって鉄に富む下部地殻物質が脱水溶融を起こし,得られたマグマの分別結晶作用によって形成されたと考えられる.Mefjell深成複合岩体の高いZr含有量と地球化学的判別図によるテクトニクスの推定から,閃長岩質岩と花崗岩質岩はともに通常のAタイプ花崗岩であり,造山運動後に同一のテクトニクスによって形成されたと考えられる.Mefjellの閃長岩質岩は地球化学的に東南極のGjelsvikjellaおよびM殄lig-Hofmannfjella西部地域のチャーノッカイトと類似しており,花崗岩質岩は南インドのアルミナスなAタイプ花崗岩に対比できる.これら岩体の形成は,ゴンドワナ超大陸形成時の造山運動に関連している.
Key words:syenitic rocks, granitic rocks, geochemistry, petrogenesis, East Antarctica, Gondwanaland
西フィリピン海盆北部の奄美海台からドレッジにより得られた玄武岩とトーナル岩の地球化学データ(低い87Sr/86Sr比 [0.70297-0.70310],中度の143Nd/144Nd比 [0.51288-0.51292],ややLREEに富み[La/Yb=4.1-6.6], La/Nb比は高い [1.4-4.3])によると,これらは海洋性島弧内部で形成された岩石の特徴を示す.トーナル岩中の普通角閃石の加熱により,115.8+0.5 Maのプラトー年代と117.0+1.1 Maの40Ar/39Arアイソクロン年代が得られた.一方斜長石はArが逸脱したパターンを示し,年代値は70-112 Maと幅広い.この結果は過去に報告されたK/Ar年代よりも古く,奄美海台が白亜紀前期の沈み込みに由来する火成作用によって形成されたことを意味する.これはジュラ紀〜暁新世の複合的島弧地塊(これらは現在西フィリピン海盆北部に分散され,フィリピン諸島やハルマヘラを構成している)の拡大によって西フィリピン海盆が形成されたというテクトニックモデルを支持する.
奄美海台のトーナル岩と玄武岩は,より若い年代を示す北部の九州パラオ海嶺や丹沢複合岩体のトーナル岩のような,フィリピン海プレート下への太平洋プレートの沈み込みによって形成された岩石に比べて高いSr/Y比と低いY含有量および87Sr/86Sr比を示す.玄武岩の地球化学的データによると,奄美海台を形成した白亜紀前期の沈み込み帯はスラブ溶融が卓越しており,当時は若くて熱いプレートが沈み込んでいたと考えられる.一方,奄美海台のトーナル岩の成因はスラブ溶融ではなく,玄武岩質マグマの結晶分化作用または玄武岩質島弧地殻の部分溶融による可能性が高い.
Key Words : geochemistry, basalt, tonalite, Amami Plateau, Northern West Philippine Basin)
東北日本,本州弧北端の八甲田カルデラから噴出し,本州の大半を覆った中期更新世初頭の広域テフラ,八甲田国本テフラ(Hkd-Ku)を認定し,広域にわたり対比した.給源近傍の模式地ではプリニアン降下軽石とそれを覆う火砕流堆積物からなる.遠隔地のHkd-Kuは,coignimbrite ash-fall depositとして堆積した.斑晶鉱物組合せ,火山ガラスの屈折率・化学組成,斜方輝石の最大屈折率,古地磁気特性により,男鹿,房総,大阪において認定された.房総と大阪における層位から噴出年代は約760 ka(MIS 19.1-18.4)と推定され,ブリュンヌ-松山古地磁気境界直上の鍵層となる.Hkd-Kuは偏西風の風上方向となる給源から830 km南西の大阪でも見出され,他の日本列島のcoignimbrite ash-fall depositと同様な分布を示す.
Key words : Hakkoda-Kokumoto Tephra, widespread tephra, ignimbrite, co-ignimbrite ash-fall deposits, Hakkoda caldera, Northeast Japan, Middle Pleistocene
スマトラとジャワにおける第三紀から第四紀の火山活動の変遷は,次の3つの段階に区分できる.(1) 第三紀前期(43-33 Ma)における溶岩流をともなう島弧型ソレアイトの活動,(2) 第三紀後期(11 Ma)におけるソレアイト質枕状玄武岩の噴出,(3) 鮮新世〜第四紀における中度のカリウムを含むカルクアルカリ火成作用.本研究による古第三紀火山岩類の野外データや,南スマトラおよび西ジャワ北部における深部データから,この時代の火山岩類はより広範囲に分布していることが明らかになった.これは西ジャワ北部の火山岩類の東方延長が不明だったため,過去の研究では南カリマンタンへ延長していたためである.ところが,ジャワ島南海岸に産出する第三紀前期の火山岩類は,はるか東方のFloresまで追跡が可能であることが判明した.上記のような南スマトラと西ジャワ北部の古第三紀火山岩類の産出は,古第三紀に存在していた火山弧によって説明可能である.この火山弧の形成は,白亜紀後期〜古第三紀に存在した南スマトラと西ジャワに平行な海溝に沿ったインドプレートの北東方向へ沈み込みに関連している.
Key words:Paleogene volcanic rocks, South Sumatra and West Java
火山活動が活発な地域における河川・浜・陸棚の現世砂質堆積物が,(1)どのような空間分布をもち,(2)どのようなメカニズムによって形成されたのかを明らかにするために,北海道道東の網走湾とその周辺地域を対象とし,堆積物の粒度組成とモード組成の分析を行った.試料間の関係を探るためには,粒度組成とモード組成に中心対数比変換を適用したのち,クラスター解析と主成分分析を用いた.その結果,粒度組成から4つの堆積域(I; 再生堆積域,II; 残存堆積域,III; 現世堆積域,IV; 浜域),モード組成から4つの組成域 (A-D)を分類した.各組成域 (A-D) の分布は,基本的に後背地に分布する源岩の種類に規制されていると考えられる.また,モード組成の成熟度 (Q/FR%) は河川(1.2),Zone IV (1.7),Zone II (2.2),Zone I (3.6),Zone III (7.0) の順に増加し,リサイクルによる堆積物ほど高い成熟度を示す.
Key words:modern sand; beach; shelf; grain size; modal composition; multivariate analysis; provenance analysis