Thematic Section: Evolution of ophiolites in convergent and divergent plate boundaries (Part 2)
Yildirim Dilek, 小川勇二郎, Valerio Bortolotti, Piera Spadea
ウラル造山帯における海洋内沈み込みの開始と進化:ロシア・ウラル山脈南部の海洋起源岩石の地球化学的・同位体的特徴
ウラル造山帯の南部はデボン紀後期〜石炭紀初期の衝突型造山帯であり,デボン紀初期〜中期の海洋内収束域であるMagnitogorsk島弧(MA)と西ヨーロッパ・クラトン縁辺部との衝突によって形成された.MAと大陸縁辺部の境界はウラル主断層帯(MUF)として定義され,これはオフィオライトや大陸性高圧低温型変成岩の存在によって特徴づけられる縫合帯である.
ウラル山脈南部における造山運動以前のイベントや動力学を解明するため,非移動性のインコンパチブル微量元素(REEやHFSE)分析やSr-Nd- Pb同位体地球化学的手法をMA産岩石に適用した.特に島弧形成初期のボニナイトやアンカラマイト,島弧成熟期の島弧ソレアイト系列,島弧ソレアイト〜カルクアルカリ系列の中間型,およびカルクアルカリ系列の岩石について研究を行った.MAの火成作用の特徴として起源物質の特異性が挙げられる.例えば枯渇したN-MORBタイプのマントル起源物質に由来する岩石や,スラブ起源の水に富む流体によってエンリッチした岩石がみられる.その他Nd,Pb同位体組成からもエンリッチしている証拠が確認されたが,その程度は少ない.
造山運動以前のイベントに関する更なる情報がMindyak地塊の変ハンレイ岩類から得られた.この岩石は海洋底におけるロジンジャイト化とその後の高温変成作用を被った多様なハンレイ岩を原岩とする.この高温変成作用の年代は島弧形成初期の火成年代と一致し,初期島弧における沈み込みが約410 Maに起こったことを意味する.したがって,海洋内における収束開始から最終的な大陸衝突までの間隔を31 Maと見積もることができた.この値は西太平洋で現在起こっている衝突現象から得られた値と調和的である.
初期の火成作用の特徴と高温変成岩の解析から, MUFオフィオライトの多くが,複雑な造山運動以前の進化史をもつテチス型に属することが分かった.
Key words: arc-continent collision, Southern Uralides, intra-oceanic island arc, metamorphic sole, geochemistry, Pb-, Nd-, Sr-isotopes, forearc ophiolites
(イタリア南部)カラブリア弧のオフィオライトの地球動力学的重要性
アペニン山脈南部のカラブリア弧北部には,ネオテーチスに属する海洋リソスフェアの断片が断続的に露出している.それらは低温高圧型変成作用を受けたオフィオライト岩類を含み,変成超苦鉄質岩及び変塩基性岩と,変泥質岩,変砂質岩,大理石,石灰質片岩の互層よりなる.これらのオフィオライト岩類は,カラブリア弧北部のナップの重なりの中で中間的な位置を占め,上盤側のヘルシニア期大陸地殻と下盤側のアペニン石灰質ユニットの間にある.文献によれば,これらのオフィオライト岩類はいくつかの構造的・変成岩岩石学的ユニットに区分される.地球化学的特徴は変塩基性岩がソレアイト的な(T-MORB型の)非アルカリ岩に由来することを示し,蛇紋岩の原岩としてはハルツバージャイトとレールゾライトが示唆される.
異なる露頭から得られた変塩基性岩の圧力・温度・変形履歴はある程度共通した特徴を示す.(1) 累進変成作用期は,典型的なアルプス型の地温勾配に沿い,最高350℃,0.9 GPaに達した.この時期の高圧変成鉱物は,圧縮テクトニクスによって形成された普遍的な葉状構造に沿って再結晶している.(2) 後退変成作用期は2つに区分される.前期は400℃,0.3 GPaに至る等温減圧的な経路で特徴づけられ,後期は温度低下の経路をたどる.低圧条件で第2回目の変形が起き,1 mmから10 mスケールの非対称褶曲が形成され,それらによって西方へ張り出す大構造が描き出される.第3回目の変形は脆性的な引張構造によって特徴づけられる.
異なる露頭から得られた構造的・変成岩岩石学的発達史は共通しており,温度圧力計と変形史による解析から,これらの岩石は,アルプス造山期の沈み込みと上昇運動の過程で,(上盤側が)西へ張り出す付加プリズム中の構造的板状岩体として振舞ったことを示す.当時の海洋リソスフェアの沈み込みは現在の東方に向かっていた.ネオテーチスの閉塞後,本地域のヘルシニア期大陸地殻が,アフリカ側大陸縁の一部またはアフリカとヨーロッパの間の大陸性小プレートとして,オフィオライト質付加プリズムに対して衝上した.
Key words: Calabrian Arc, ophiolites, high pressure/low temperature metamorphism, Neo-Tethys, accretionary wedge
トルコ中央部,アンカラメランジュの斜長石花崗岩貫入岩体の年代と岩石成因
トルコ中北部,イズミール・アンカラ・エルジンカン縫合帯(IAESZ)中のアンカラメランジュは,中生代前期にサカリヤ及びキルゼヒール両大陸塊の間に発達した海洋性基盤岩の残骸を代表するオフィオライト断片を含む.このオフィオライト中の蛇紋岩化した上部マントルかんらん岩と下部地殻岩石は,輝緑岩及び斜長石花崗岩の岩脈によって切られており,それらの岩脈は既存の海洋リソスフェア中に同時に定置したことを示す相互貫入関係を示す.斜長石花崗岩脈のジルコンU-Pb年代値は179±15Ma程度のコンコーディアを示し,これはこの分化した岩石の結晶化年代と解釈される.しかし,この岩石のジルコンの4番目の分離試料は,1.7 Gaより古い残存成分の存在を示し,これはバルカン半島のロドプ・ストランジャ変成岩体中央部の先カンブリア系に由来する可能性がある.斜長石花崗岩の岩石学的形成モデルを検討した結果,玄武岩質初生メルトが,無水あるいは水に飽和した条件で,早期に角閃石が関与しない結晶分別作用を高程度(< 70%)まで行うことによって,アンカラメランジュの斜長石花崗岩の希土類濃度を容易に実現することができる.同時期の輝緑岩の微量元素組成およびその他の地球化学的特徴は,斜長石花崗岩に類似し,共通の初生メルトを示唆する.斜長石花崗岩脈・輝緑岩脈双方のTa-Nbパターンは,島弧に関連した岩石成因の典型的特徴を示し,涸渇したくさび型マントルへの沈み込みスラブ由来成分の付加によって説明できる.これらジュラ紀前期のオフィオライト質基盤岩類と岩脈は地中海東部地域でパレオテーチスとネオテーチスの間の背弧域で形成された.イズミール・アンカラ・エルジンカン海はこの背弧環境で発達し,関連する縫合帯は何段階もの発達史を示す.
Key words: Ankara m四ange, plagiogranite intrusions, Early Jurassic ophiolites, Tethys, fractional crystallization, Izmir-Ankara-Erzincan suture zone, Turkey, eastern Mediterranean.
西南日本のジュラ紀付加体,丹波帯の後期古生代緑色岩から推定される海台付加過程
小泉一人・石渡 明
ジュラ紀付加体,丹波帯中の緑色岩の産状は主に,チャートや石灰岩の大規模岩体に密接に伴って産する大規模緑色岩と,泥岩を基質とする混在岩中にチャートや石灰岩,砂岩などと共にブロックまたはレンズとして産する緑色岩(混在岩中緑色岩)の2つに分けられ,前者は構造的上位のいわゆる丹波帯
|| 型地層群に含まれる化石や放射年代から,どちらも形成年代は古生代後期と考えられている.大規模緑色岩は一様にE-MORB的な海台玄武岩に類似した組成を示すのに対して,混在岩中緑色岩は海洋島玄武岩とN-MORBから構成される.これらの違いは,付加した海洋底リソスフェアの構造の違いに起因し,厚い海台を形成していた岩石はそれほど破断されずに大規模緑色岩体として付加体中に取り込まれたのに対し,比較的薄い海洋地殻や小規模な海山・海洋島は,破断・変形されて混在岩中緑色岩として取り込まれたのだろう.このことは厚い緑色岩体を含む付加体の形成において,大規模海台の付加が重要であることを示す.
Key words : Mino-Tamba Belt, greenstone geochemistry, La-ICP-MS Cpx trace elements, oceanic Plateau,
マントル部分がレルゾライトに富むイザベラ・オフィオライト(フィリピン)中のポディフォーム型クロミタイト
森下知晃,Eric S. Andal,荒井章司,石田義人
一般にマントル部分がレルゾライトに富むオフィオライトからはクロミタイトの産出が少ない.フィリピン,イザベラ・オフィオライトのマントル部分はレルゾライトに富み,低速拡大海洋底起源であると考えられているが,ポディフォーム型クロミタイトが産出する.本論文ではクロミタイトとその近傍のカンラン岩の記載岩石学的特徴と鉱物化学組成を報告し,このクロミタイトが海洋底から島弧的なテクトニックセッティングへの変更に伴い海洋底起源のマントル物質中に,島弧起源の性質を持つマグマが通過する際に,メルト供給量が多い部分でカンラン岩の融解とそれに引き続くメルト―マントル反応によって形成されたとするモデルを提案する.
Key words : podiform chromitite, ophiolite, melt-rock. interaction, rare earth element, supra-subduction
小笠原(ボニン)前弧,無人岩とアダカイトを産する母島海山のドレッジ岩石学:オフィオライトか蛇紋岩海山か?
石渡 明・柳田祐樹・李 毅兵・石井輝秋・原口 悟・小泉一人・市山祐司・梅香 賢
白鳳丸KH03-3航海及び淡青丸KT04-28航海において,母島海山の数地点から1,000個以上の岩石標本がドレッジされた.この海山は北西−南東に延びた60×30 km大の長方形を呈し,頂部は平坦で水深約1,100 mである.標本は主にオフィオライト岩類よりなり,火山岩類はMORB類似のソレアイト玄武岩・輝緑岩,カルクアルカリ玄武岩・安山岩,無人岩,高Mgアダカイト質安山岩,デイサイト,流紋岩を含む.斑れい岩類はトロクトライト,かんらん石斑れい岩,かんらん石斑れいノーライト(転移ピジョン輝石含有),斑れい岩,ノーライト及び角閃石斑れい岩で,海嶺玄武岩型と島弧玄武岩型の鉱物化学組成を示す.超苦鉄質岩類は主に涸渇したマントルハルツバージャイト(スピネルCr#50-80)及びそれが蛇紋岩化した岩石で,ダナイト,ウェルライト,輝石岩などの火成集積岩を伴う.この岩石組合せは沈み込み帯域 (SSZ)起源を示す.従来のドレッジ結果も考慮すると,超苦鉄質岩はこの海山の北東−南西方向に延びる2つの地帯に沿って産し,そこには蛇紋岩や斑れい岩の角礫岩も多いが,それ以外の地域は超苦鉄質岩を産しない.伊豆小笠原マリアナ前弧沿いに,10 km大の円錐形の蛇紋岩海山が多数配列するが,母島海山はこれらと異なり,オマーンオフィオライトのイズキ岩体と形や大きさが類似するオフィオライト衝上岩体と解釈した方がよい.ドレッジ標本の多くが円礫でマンガン殻が薄い(<2 mm)ことは,母島海山が海面上に隆起し波食を受たことを示唆する.この状況は,海洋地域の数少ないオフィオライトの地表露出域,マコーリー島に似る.太平洋プレート上の小笠原海台が母島海山の東に隣接し,この海台の衝突と沈み込みが前弧オフィオライトの上昇を引き起こした可能性がある.
Key words: Izu-Bonin-Mariana forearc, boninite, adakite, MORB-like tholeiite, gabbro, depleted harzburgite
フィリピン海背弧拡大軸下のマントルプロセス:カンラン岩岩石学とテクトニクスに基づく考察
小原泰彦
背弧海盆拡大軸下で起こっているマントルプロセスの一般則を得るため、フィリピン海背弧海盆拡大軸のうち、パレスベラリフトとマリアナトラフについて、カンラン岩の岩石学的特徴とテクトニックセッティングの関係について検証を行った。パレスベラ海盆拡大軸(パレスベラリフト)は、高速−中速型の拡大速度を有していたにも関わらず、テクトニクスとカンラン岩の組成が、超低速−低速拡大軸のそれに類似していることが特徴的である。また、海洋コアコンプレックスが拡大セグメントの全長に渡って発達していること、及びカンラン岩が拡大セグメントの中央に露出していること、という2つの観察事実は、パレスベラリフトの特異性を更に際立たせている。パレスベラリフトは、部分融解程度の低い肥沃な融け残りカンラン岩(レールゾライト・ハルツバーガイト)、含斜長石ハルツバーガイト及びダナイトを産するが、これらの岩相は、赤道大西洋中央海嶺のロマンシュ断裂帯や、インド洋・北極海の超低速拡大軸から報告されているものに類似している。パレスベラリフトにおけるテクトニクスとカンラン岩の組成のこれらの特徴は、浸透的なメルトの移動と浸透的なメルト−マントル相互反応が、パレスベラリフト下の重要なマントルプロセスであったことを示している。グローバルな観点では、この「浸透的メルト移動タイプマントルプロセス」は、超低速拡大軸のような厚いリソスフェアを有する拡大軸のセグメント中央で生じることが期待される。一方、マリアナトラフは、典型的な低速拡大軸であり、カンラン岩をセグメント端に産する。その岩相は、一般的な深海カンラン岩に典型的に見られる、融け残りのハルツバーガイトと、貫入脈を有するハルツバーガイトである。マリアナトラフにおけるテクトニクスとカンラン岩の組成のこれらの特徴は、チャネルによるメルト(あるいは流体)の移動と限定的なメルト−マントル相互反応がマリアナトラフ下の重要なマントルプロセスであったことを示している。グローバルな観点では、この「チャネル形式メルト移動タイプマントルプロセス」は、セグメント端における低温の壁岩カンラン岩の存在のために、あらゆる拡大軸のセグメント端におけるリソスフェア浅部で生じることが期待される。
Key words : Philipping Sea, backarc basin, peridotite, mantle process, porous melt flow, channeled melt flow, melt-mantle interaction
チリ南部タイタオ・オフィオライトの斑糲岩およびシート状脈岩から分離したジルコンのSHRIMP U-Pb年代とフィッショントラック年代とテクトニックな意義
安間 了・Richard Armstrong・檀原 徹・折橋 裕二・岩野 英樹
タイタオ・オフィオライトはチリ三重点のごく近傍に露出する。斑糲岩と超塩基性岩は複雑に褶曲されるが、シート状岩脈はブロック回転のみを受けている。斑糲岩とシート状脈岩から分離したジルコンのSHRIMP U-Pb年代測定およびFT年代測定を行った。斑糲岩は、5.9±0.4 Maから5.6±0.1 Maの放射年代幅を持つが誤差の範囲で一致する。デイサイトのU-Pb年代は5.2±0.2 Maであった。これらの年代は、マグマが6 Maの海嶺衝突事件の間に生じ、ごく短い期間に定置したことを示す。チリ海嶺の短いセグメントが6 Ma衝突事件の時に定置したのだろう。
Key words : Taitao ophiolite, ridge subduction, ridge collision, SHRIMP, fission track dating, emplacement
炭素同位体により証拠づけられる現世と過去の海洋地殻における生物変質へのテクトニックな支配
現在の低速・中速拡大海洋地殻である中央大西洋(CAO)とコスタリカリフト(CRR)の玄武岩質枕状溶岩の生物変質したガラス質縁部に広く存在する炭酸塩について炭素同位体の値を検討した.CAOの生物変質したガラス質試料のδ13C値は-17から+3 パーミル(VPDB)の間の広い範囲を示し,他方CRRの試料の値は-17から-7パーミルとずっと狭い範囲にある.この変動はガラスの微生物変質の間の異なった微生物代謝の生産物と考えられる.一般的に低いδ13C値(-7パーミル以下)は,有機物の酸化の間に微生物が生成したCO2から沈澱した炭酸塩によるものである.0 パーミル以上の正のδ13C値は,H2とCO2からCH4を製造するメタン棲のArchaeaによるCO2の利用の結果であろう.低拡大速度のCAO地殻でのH2の高い生産は,CRR地殻がずっと少ない断層とおそらくは少ないH2生産を有し層状の偽層序を示すのとは対照的に,海洋底近くないし海洋底上の断層で区切られ強く蛇紋岩化したかんらん岩の結果であろう.異なる拡大速度で生じたと考えられる2つのオフィオライトの枕状溶岩のガラス質縁部からのδ13C値の比較はこの解釈を支持する.アルバニアのジュラ紀のミルディタオフィオライト複合岩体(MOC)は,生物起源炭酸塩が類似のδ13C値範囲を持ち,低速拡大のCAO地殻のそれと似た地質構成を示す.西ノルウェーの後期オルドビス紀のSolund-Stavfjordオフィオライト複合岩体(SSOC)は,中程度の拡大速度の中央海嶺での発達の地質構造的・地球化学的証拠を有し,CRRのそれと似た生物起源炭酸塩のδ13C値を示す.この比較研究の結果に基づけば,拡大速度に依存する海洋リソスフェアのテクトニックな発達が微生物の進化に重要な支配をしており,そしてδ13C値がガラス質の生物変質した溶岩の生物起源炭酸塩に保存された,と結論できる.
Keywords: Bioalteration of oceanic crust, ophiolites, spreading rates and mid-ocean ridges, carbon isotopes of lavas, microbial life in upper oceanic crust, Costa Rica Rift, Mirdita ophiolite
関東山地北西部,黒瀬川帯沿いのテクトニックに固体貫入した蛇紋岩の変形史
平内健一
関東山地北西部の黒瀬川帯には,蛇紋岩体が山中白亜系(前弧海盆堆積物)と南部秩父帯の地層群(ジュラ紀〜前期白亜紀の付加体)の地質境界に沿って点在する.本研究では,蛇紋岩を微細組織と蛇紋石の組成に基づいて3タイプ(塊状蛇紋岩,アンチゴライト蛇紋岩,クリソタイル蛇紋岩)に区分した.塊状蛇紋岩はかんらん石・輝石の仮像組織を保持しており,蛇紋岩化作用の後に変形を被っていないことを示す.アンチゴライト蛇紋岩は仮像を構成するリザーダイトとクリソタイルを置換して形成され,アンチゴライトは形態定向配列をなす.それらは場所によりクロムスピネルのポーフィロクラストやアンチゴライトの細粒化を伴い,比較的高温高圧条件での延性変形によって特徴づけられる.クリソタイル蛇紋岩は繊維状クリソタイルの一定方向の発達を伴い,地下浅部の低温条件で,上記の蛇紋岩を置換または重複して形成される.アンチゴライト蛇紋岩とクリソタイル蛇紋岩の面構造は共に蛇紋岩体の延長方向に平行であり,下部地殻や上部マントルでのほぼ完全な蛇紋岩化作用を受けた蛇紋岩が,断層帯に沿って固体貫入した時の連続的な変形をあらわしている.
Key words : serpentinite, chrysotile, antigorite, deformation texture, solid-state intrusion, Kurosegawa Belt, Kanto Mountains.
堆積盆内変形モードの総合的記載:西南日本東部,瑞浪地域の浅掘坑井周辺でのケーススタディ
伊藤康人, 天野健治, 熊崎直樹
堆積盆のテクトニクスを反射法地震探査・坑井掘削・古地磁気学を統合して解析する.西南日本東部の瑞浪地域で,浅掘斜坑井が反射法地震探査と地質調査によって示された断層を貫通している.坑壁画像の地質構造を用いて方位付けしたコア試料について,古地磁気測定を行った.熱消磁・交流消磁実験によって6層準で安定な特徴的残留磁化が確認され,等温残留磁化の段階獲得実験から主な強磁性鉱物はマグネタイトと考えられた.坑井での構造解析から推定された多段階の変形を補正した後に,特徴的磁化方位は従来の研究結果と同様に中期中新世以前の島弧の時計回り回転を反映する東偏した方位を示す.信頼できる古地磁気データをコンパイルして,中期中新世以降に伊豆−小笠原弧の衝突によって引き起こされた西南日本東部の差動的回転を記述した.本研究で示されるのは次の2点である:(i)瑞浪地域は,赤石構造線で境される高変形帯の近傍にある.(ii)西南日本前弧側の変形は赤石構造線周辺に集中しており,衝突イベントによって顕著な破断を伴わず緩やかに屈曲した背弧側と大きく異なっている.
Key words : borehole, seismic interpretation, logging, paleomagnetism, differential rotation, collision, southwest Japan
日本海(East Sea)鬱陵海盆(Ulleung Basin)の堆積物コアにおける後期第四紀のテフラ層序学的・地球化学的・古環境学的変化
日本海(East Sea)の鬱陵海盆(Ulleung Basin)で採取された2本の堆積物ボーリングコアにおける後期第四紀のテフラに関するテフラ層序学的,地球化学的,古環境学的なデータを記載した.堆積物は海洋酸素同位体ステージ1-3に対比され,主としてシルト砂・ラピリテフラ・火山灰層を挟む泥からなる.その中で,鬱陵島由来のラピリテフラ層(9.3 kaの鬱陵=隠岐テフラ)は主として塊状ガラス粒子からなる.一方,九州南部由来の火山灰層(22-24.7 kaの姶良丹沢火山灰)は平板状あるいは気泡壁ガラス粒子からなる.またラピリテフラ層よりSiO2含有量が高く,Na2O+K2O含有量が低い.地球化学的なデータ(C/N比・水素インデックス・S2ピーク)及びTmaxの推定によると,テフラ層以外のコアの細粒堆積物は多くが海洋起源であることを示す.Termination1の間,コアの有機炭素含有量は増加した.これは対馬海峡(KoreaStrait)における氷河衰退時の対馬暖流の流入に起因すると考えられる.
Key words : tephra layers, total organic carbon, Ulleung Basin, East Sea (Sea of Japan), late Quaternary
中国西部,祁連山脈北部の清水溝に産する青色片岩相泥質片岩の40Ar/39Ar年代
劉 永江, Franz Neubauer, Johann Genser, 高須 晃, 葛 肖虹, Robert Handler
中国祁連山脈北部の清水溝に産する泥質片岩は主に藍閃石,ざくろ石,白色雲母,クリノゾイサイト,緑泥石,紅簾石を含む.これらの片岩の同位体年代値は,清水溝の高変成度青色片岩の形成に新しい束縛条件を与える.白色雲母の40Ar/39Ar 年代は442.1-447.5 Ma(1つの鉱物粒についての全溶融年代)及び445.7-453.9 Ma(白色雲母分離試料の積分年代)を示す.これらの年代(442.1-453.9 Ma)は青色片岩相の変成ピーク年代またはその直後の上昇定置過程における冷却年代を示す.我々の40Ar/39Ar 年代値は,本地域のエクロジャイト及び青色片岩の既公表年代値と同様であり,このことはエクロジャイトと泥質片岩が1つの沈み込みイベントで同一の高圧変成作用を受けたことを示す.この年代学的証拠と,残存海盆で堆積したシルル紀フリッシュ層及びデボン紀モラッセ層の発達から,我々は祁連山脈北部のもとになった海洋がオルドビス紀の末には閉塞し,デボン紀には急速な造山帯の隆起があったと結論する.
Key words: blueschist, eclogite, 40Ar/39Ar dating, metamorphism, Northern Qilian
新潟堆積盆における岩圧下の熱水の地球化学
新潟堆積盆の地熱水は化学組成により4つのグループ(Na-SO4型,Na-SO4-Cl型,Na-Cl型,Na-Cl-HCO3型)に区分される.Na-SO4型の地熱水は,通常堆積盆の外側部分で水-岩石反応の結果生じる.Na-Cl型の地熱水はさらに化学組成と同位体組成により,初生的Na-Cl型の岩圧下の地熱水と混合Na-Cl型の地熱水に細分される.初生的Na-Cl型の岩圧下の地熱水は,地下深くに封じられた変質化石水を含む岩圧下の熱水系に起源をもつ.この地熱水は堆積層の上部ないし地表へと上昇し,一般に天水起源の地下水とは混合しない.この型の水は熱伝導により冷やされ,熱水におけるCl-の濃度は海水のそれと非常に似ている.δDとδ18O値は温度によらずおよそ一定である.初生的Na-Cl型の岩圧下の地熱水は,主に褶曲した新第三紀層の背斜軸に沿って分布する.混合Na-Cl型の地熱水は,岩圧下の熱水系の放出活動に関係しており大部分は活断層に沿って生じる.この型の地熱水は,岩圧下の熱水系が突発的なテクトニックイベントにより活断層に沿って放出され,天水起源の浅い地下水が岩圧下の地熱水と混合することにより生じる.
Keywords: geothermal water, geopressured hydrothermal system, expulsion activity, isotope chemistry, Niigata sedimentary basin
中国北西部より新たに発見された苦鉄質グラニュライトの鉱物学的・地球化学的研究:アルタイ造山帯の構造発達史
Hanlin Chen, Zilong Li, Shufeng Yang, Chuanwan Dong, Wenjiao Xiao, 田結庄良昭
中国北西部アルタイ造山帯から苦鉄質グラニュライトを発見した.この岩石は斜方輝石(XMgが高くAl2O3含有量は少ない),単斜輝石(TiO2, Al2O3含有量が少ない),角閃石と黒雲母(XMgが高く,F, Clに乏しい)を含む. 岩石は750-780℃,6-7 kbarのピーク変成作用の後,時計回りの温度圧力経路をたどり590-620℃,2.3-3.7 kbarの後退変成作用を被った.全岩組成は高いMg/(Mg+Fe2+)比とAl2O3含有量が特徴的であり,U, Th, K, Rbに乏しい.希土類元素パターンは軽希土に富み,Euの正の異常が若干みられる.MORBにて規格化したスパイダー図ではNb, P, Tiに枯渇している.したがって,この岩石は島弧の形成および沈み込みの両方あるいはどちらか一方と密接に関係したカルクアルカリ玄武岩であると考えられる.この岩石の143Nd/144Nd比は高く,εNd(0)>0であることから,その起源は枯渇したマントルであろう.この苦鉄質グラニュライトの成因は,島弧で形成されたカルクアルカリ玄武岩が地殻深部に沈み込み,グラニュライト相の変成作用を被った後に衝上断層の活動により上昇したと考えられる.
Key words: mafic granulite, mineralogy, geochemistry, tectonic evolution, Altay orogenic belt