Dynamic sedimentation in forearc basins: Results from the Choshi and Sagara drilling projects
北里 洋、和田秀樹、Kevin Pickering、平 朝彦
相良油田における炭化水素ガスの起源
土岐知弘、蒲生俊敬、角皆 潤
2002年1〜3月に実施された相良油田掘削計画(最大深度200.6 m)において静岡県相良油田(34°44’N, 138°15’E)から孔内ガス及び地下水を採取した。相良油田から産出する相良原油は成因として微生物の関与が指摘されていた。本研究では、相良油田の掘削孔内ガスおよび地下水試料中の炭化水素ガスの濃度および炭素同位体比を測定し、相良油田内に分布する炭化水素ガスの成因について検討した。メタンの炭素同位体比及びメタン/エタン比から、相良油田における炭化水素ガスはすべての深度において有機物の熱分解起源の特徴を示した。各炭化水素ガス相互の炭素同位体比の傾向から、軽炭化水素ガスの重合反応が起きている可能性は小さい。
Key words : Sagara oil field, SDP, hydrocarbons, free gas, in situ fluid, carbon isotope, thermogenic origin, microbial origin
活動的な前弧堆積盆に産する静岡県第三紀相良石油の地球化学的特徴
Svetlana Yessalina, 鈴木徳行,斉藤裕之
相良油田は掛川堆積盆中にあり,太平洋側の前弧堆積盆にある油田として数少ないものの一つである.掛川堆積盆には石油生成能力の低い堆積岩類が多く,相良石油の起源はいまだ明らかにされていない.石油炭化水素組成は,相良石油がわずかに微生物分解作用を受けていること,移動にともなう汚染や化合物の分別作用を受けていることを示している.芳香族炭化水素組成から見積もられる有機熟成度はビトリナイト反射率にして0.9-1.2%程度あり,高い熟成度にある.顕著な高等植物起源バイオマーカー,高いPr/Ph比,乏しい有機硫黄化合物によって特徴づけられており,相良石油は沿岸成,デルタ成,河川成の砕屑性堆積岩に由来していることが示唆される.掛川堆積盆の大深度において陸源有機物に富む石油根源岩から生成した石油が,活動的な前弧堆積盆で形成された多くの断裂や断層を通じて地表付近に達し相良油田を形成したものと考えられる.
Key words: biomarker, forearc basin, higher plants, Sagara oil
静岡県相良原油の地球化学的特徴
加藤 進・早稲田 周・西田英毅
相良油田から採取した原油6試料について地球化学的分析を行い,新潟原油と比較することによってその特徴を明らかにし,根源岩や原油の移動プロセスについて考察した。
相良原油の特徴として,1)低硫黄の軽質原油,2)環境指数が小さい,3)Ph/nC18比が小さく,Pr/nC17比やオレアナン/ホパン比が大きい,4)ステラン組成では相対的にC29が多く,C28が少ない,5)炭素同位体組成が軽い,が挙げられる。
相良原油の根源岩は主に海成有機物からなるが,新潟原油の根源岩よりも陸源有機物に富み,より酸化的な環境で堆積したと推定される。炭素同位体組成やC28ステランの相対量は根源岩の年代が古第三紀であることを示唆している。堆積盆の深部で生成された原油が断層に沿って上方に移動し,集積したと推測される。
Key words : Sagara oil field, Niigata oils, light hydrocarbons, Pr/nC17 ratio, Pr/nC18 ratio, oleanane/hopane ratio, carbon isotope compositions
相良油田より掘削されたコア試料の岩相および物性と石油の産状
平野 聡、荒木 吉章、亀尾 浩司、北里 洋、和田 秀樹
静岡県榛原郡相良町にて地表から200.60 m深の学術掘削を行ない、岩石試料の記載、物性測定の後、試料中の石油の産状と比較した。本掘削地域においては、空気浸透率が10-11 m2以上の場合、流体の通路または貯留岩層としてのポテンシャルがあることが明らかになった。得られたコア試料は、中新世後期の相良層群に属する泥岩、砂岩、礫岩である。空気浸透率は、岩相を問わず主に炭酸塩セメントの有無に直接的に反映されている。炭酸塩セメントが発達する岩相では空気浸透率が低く、石油とは共存しない。したがって、このような炭酸塩セメントの発達過程は、石油の移動や貯留岩層の形成に大きな影響を与えるということが言える.
Key words : carbonate cement, porosity, permeability, stable isotope, forearc sediments, Sagara Drilling Program(SDP)
相良油田地下生命圏の微生物生態解析
布浦拓郎・笈田花子・益井宣明・稲垣史生・高井 研・平野 聡・Kenneth H. Nealson・掘越弘毅
相良油田掘削により採取した(最大深度200m)コア試料を用い、石油含有層及び非含有層の微生物群集を培養法及び非培養法により解析し、比較検討した。細菌数は石油を含む層で特異的に増大し、また、16S rRNA遺伝子クローン解析からは、石油含有層序ではPseudomanas stutzeriが圧倒的に優占することが示唆された。一方、培養可能な微生物群集を評価でも、16S rRNA遺伝子クローン解析の結果と同様、石油含有層では石油分解を行うPseudomanas stutzeriの優占が示された。今回の研究により、相良油田では石油含有層序には特定の石油分解菌が濃集していることが明らかになった。
Key words : subsurface microbial community, Sagara oil reservoir, Pseudomonas, petroleum
房総半島250 m 銚子コア等に基づく更新世中期の花粉層序とその古気候学的意義
奥田昌明・中里裕臣・三好教夫・中川 毅・岡崎浩子・斎藤実篤・平 朝彦
房総半島北東域の浅海成層(犬吠層群)から得られた250 m 銚子コアのMIS11-19部分に対して花粉分析および関連考察を行うことにより,更新世中期における花粉ベースの氷期間氷期指標を認定ならびに花粉層序の構築を行った.銚子コアに対する花粉と酸素同位体のマルチ分析の結果は,スギ属等の温帯性針葉樹とトウヒ属等の北方性針葉樹の交代がδ18O 曲線と万年オーダーで相関し,また指標テフラを介して外洋のSPECMAP 等スタックとも合致することを示した.またこれら花粉群と気温の関係を現生の表層花粉データを用いて確認した結果,上記の温帯性/北方性針葉樹比が更新世中期における氷期間氷期サイクルの指標になり得ることが示された.さらに同様の花粉比計算を琵琶湖のMIS1-11 花粉層序(Miyoshi et al. 1999)に適用した結果,この変化は日本列島中軸部におおむね共通することが認められ,過去80万年間を通じての広域花粉層序が得られている.
Key words : Boso Peninsula, Inubo Group, Middle Pleistocene, palynology, temperate/boreal
有機物組成とその起源に及ぼす堆積作用の影響:房総半島の更新統銚子コアの例
大村亜希子,保柳康一,石川仁子
千葉県銚子地域に掘削された更新統のコア試料(銚子コア)を対象として堆積環境変化と有機物の堆積作用との関連を検討した.銚子コアは,岩相・生痕化石相と堆積環境指標である有機物組成の三角ダイヤグラム上での分布領域・形態のはっきりした陸源有機物の増加にもとづき,上方浅海化する陸棚堆積物で構成されていると解釈された.C/N比・堆積有機物の安定炭素同位体比測定と堆積有機物の顕微鏡観察の結果,これらの堆積物に保存されている有機物には海洋プランクトン起源と陸上植物起源の両者が含まれ,海洋起源有機物の大部分が形態的特徴のないアモルファス有機物であることがわかった.約50万年前以前は,陸源有機物の増加に伴って有機炭素濃度は増加するが,これ以降は浅海化に伴う陸源砕屑物の流入による希釈と酸化効果が働いたと考えられ,有機炭素濃度は減少傾向を示す.
Key words : kerogen composition, δ13C value, sedimentary environments, Pleistocene, Choshi core, basin margin, Boso peninsula
銚子地域で掘削された中部更新統コアの年代モデルと物性データおよびその古海洋学的重要性
亀尾浩司,岡田誠,Moamen El-Masry,久光敏夫,斎藤実篤,中里弘臣,大河内直彦,池原実,安田尚人,北里洋,平朝彦
北西太平洋における中期更新世の海洋環境の変遷を明らかにするために,1998年に千葉県銚子市北西部において陸上ボーリングが行われ,全長250mの連続した更新統コアが得られた.本研究では,そのコアの岩相層序を明らかにした上で,石灰質ナンノ化石と古地磁気の検討を行い,コア中に88万年前から46万年前までの4つの基準面を見いだした.このことに基づくと,このコアの酸素同位体比曲線は同位体比ステージ24から11までに相当することが明らかになり,同層準の年代モデルを確立できる.さらに,MSCLによる堆積物物性の検討結果は,帯磁率と堆積物密度の変動が氷期・間氷期サイクルと連動しており,その変化が黒潮フロントの動きと同調していることを示している.
Key words : Choshi area, Northwestern Pacific, late Pleistocene, age model, physical property, oxygen isotope record, calcareous nannofossils, magnetostratigraphy
岐阜県荘川地域に分布する手取層群(中生界上部)の凝灰岩層のジルコン・ウラン鉛年代
楠橋 直・松本 藍・村上雅紀・田上高広・平田岳史・飯塚 毅・半田岳士・松岡廣繁
中部日本に分布する中生界上部手取層群は,植物化石や海生・非海生動物化石を多産し,とくに哺乳類や恐竜を含む多様な脊椎動物化石の産出層としてよく知られている.手取層群は中期ジュラ紀から前期白亜紀における東アジアの生物相を理解するうえで重要な地層である.しかしながら,手取層群の堆積年代についてはいまだによくわかっておらず,そのため他地域との正確な対比は非常に難しい.手取層群の累層の信頼できる年代決定の第一歩として,岐阜県高山市荘川地域(旧大野郡荘川村)に分布する手取層群より凝灰岩試料を採取し,それらに含まれるジルコン粒子を用いてレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析計 (laser ablation inductively coupled plasma massspectrometry: LA-ICPMS) によるウラン鉛年代測定をおこなった.牛丸層,御手洗層,大黒谷層から得られた最も若く信頼性の高いウラン鉛年代はそれぞれ,130.2 ± 1.7 Ma, 129.8 ± 1.0 Ma,117.5 ± 0.7 Ma (誤差はすべて2SE) であった.荘川地域に分布する手取層群は,上部ジュラ系から下部白亜系であると考えられていた.しかし,本研究の結果により,同地域の手取層群は九頭竜亜層群から赤岩亜層群まですべてが下部白亜系であることが明らかになった.牛丸層,御手洗層,大黒谷層は, Hauterivian 階の上部からBarremian 階,Hauterivian 階の上部から Barremian 階,Barremian 階からAptian 階にそれぞれ対比される.
Key words : U-Pb geochronology, LA-ICPMS, zircon, Tetori Group, Gretaceous, Gifu Prefecture, Shokawa, central Japan