2023年度 名誉会員

 

嶋本 利彦(しまもと としひこ)会員
1946年6月26日生(77歳)京都大学名誉教授

 嶋本利彦会員は1971年に広島大学大学院理学研究科修士課程を修了後,1973年に同大学大学院博士課程を休学してテキサス州立テキサスA&M大学大学院博士課程に入学し1977年に修了した.1977年に広島大学理学部に助手として着任,1986年より助教授,1989年より東京大学地震研究所助教授,1995年より教授,1998年より京都大学大学院理学研究科教授,2007年より広島大学大学院理学研究科教授を務めた.2010年に広島大学を退職後,同年から2017年まで中国地震局地質研究所客員教授,2017年以降は栄誉教授を務めている.この間,1977年にテキサスA&M大学よりPh.D.の学位を取得,2010年に京都大学名誉教授の称号を授与された.  嶋本会員は断層のレオロジーと地震発生機構の解明を目的とした研究を長年行ってきた.特に,断層のレオロジーと地震時断層の高速すべり摩擦特性に関する研究において世界をリードし,数多くの成果を挙げた.これらの研究成果は,地震発生機構の研究分野に対する地質学からの重要な貢献と認められる.  断層のレオロジーに関する研究では,岩塩を模擬物質として用い断層を脆性・中間・完全塑性に三分するモデルを提唱し,中間領域の深さでマイロナイト様の変形構造が発達すること,また地震性の滑り挙動が中間領域にまで及ぶことなどを示した.さらに,これらの成果に基づいて摩擦–流動則を提案し,脆性から完全塑性に至る断層挙動を統一的に記述することを初めて可能にした.断層の高速摩擦に関する研究では,断層のすべり速度が高速になると摩擦発熱などに起因した様々な要因により断層強度が著しく低下することを示し,低速から高速に及ぶ幅広いすべり速度条件について断層の力学的性質の全容を明らかにした.嶋本会員はこれらの研究によって2005年に日本地質学会賞,2015年にEGU Louis Néelメダル,2016年にJpGUフェロー,2019年にAGUフェローを受賞している.またJournal of Structural GeologyやIsland Arcの編集諮問委員を長年務めるなど,学術界の発展に大きく寄与した. 嶋本会員は熱意に溢れた学生指導や共同研 究を通じて多くの研究者を育成し,その多くは国内外で活躍している.さらに,試験機設計のノウハウを後進に伝えるためのセミナーを国内外で数多く開催するなど,嶋本会員が後進育成に果たした功績は大きい.嶋本会員は1995年から1999年まで,および2004年から2006年まで本学会評議員を務めた.この間に国際交流委員会委員長,各賞問題検討委員会委員長,財政問題検討委員会委員などを歴任した.2002年から2004年までは構造地質研究会会長を務め,現在の本学会構造地質部会の活動への流れの構築に貢献した.以上のように,嶋本利彦会員の地質学における学術研究,教育,普及,そして本学会の運営への多大な貢献は,本学会の名誉会員として相応しいものと判断し,ここに推薦する.


 

宮下 純夫(みやした すみお)会員
1946年10月20日生(76歳)新潟大学名誉教授,特定非営利活動法人北海道総合地質学研究センター理事

 宮下純夫会員は1970年に北海道大学理学部地質学鉱物学科を卒業後,1973年に同大学大学院理学研究科修士課程を修了,1979年に同大学 大学院博士課程を修了した.日本学術振興会奨励研究員,オルレアン大学招聘研究員を経て,1987年に新潟大学理学部に助手として着任,その後1991年より助教授,1998年より教授を務め,2012年に退職し新潟大学名誉教授称号を授与された.現在,特定非営利活動法人北海道総合地質学研究センター理事長を務めている.宮下会員は日高変成帯におけるオフィオライト層序の復元を通じて日高変成帯が大陸地殻と海洋地殻の接合によって形成されたことを明らかにし,この地域における島弧-島弧衝突テクトニクスに重要な根拠をもたらした.また,国内のオフィオライト層序と付加体に含まれる緑色岩を研究し,日本列島のジュラ紀以降の地質体と海洋プレート運動との関係に重要な視点をもたらした.研究は国内にとどまらず,世界各地のオフィオライトや付加体中の緑色岩を精力的に調査し,それらの地質学的・岩石学的研究を推進した.特に,オマーンオフィオライトの地殻セクションの地質調査に基づき,中央海嶺のマグマプロセスとダイナミクスの解明に多大な成果をもたらした.これらの研究は国内外の学会で発表されるとともに学術雑誌に精力的に投稿され,地質学への顕著な貢献と認められる. これらの研究貢献により宮下会員は1994年および2007年に日本地質学会論文賞を受賞している.  宮下会員は新潟大学において長年にわたり地質学の教育研究に携わり,多くの学生を指導して地質学関連の企業,研究所,大学そして教育機関に送り出した.卒業生は様々な分野で活躍しており,教育と後進育成にも寄与した.また,専門である岩石学的研究にとどまらず,2004年10月に発生した新潟県中越地震では新潟大学中越地震調査団の事務局長として奔走するなど多方面で尽力し,社会における地質学の重要性を高めることに貢献した.新潟大学退職後は北海道札幌市において市民講演会で地球環境について講演するなど,地質学の普及と振興に努めている. 宮下会員は長年にわたり本学会の運営と発展に貢献した.2003年から2008年まで本学会理事を務め,この間には地質学雑誌企画部会長および地質学雑誌編集員会副委員長を歴任し地質学雑誌の充実に努めた.2008年からは2期4年間にわたり本学会会長を務めた.会長在任中の2008年12月に本学会は一般社団法人に移行し,その前後において本学会の一般社団法人化に重要な役割を果たした.その後2012年からの2年間も本学会理事を務めた. 以上のように,宮下純夫会員の地質学における学術研究,教育,普及,そして本学会の運営への多大な貢献は,本学会の名誉会員として相応しいものと判断し,ここに推薦する.