2018年度各賞受賞者 受賞理由

■国際賞(1件) ■小澤儀明賞(1件) ■柵山雅則賞(2件) ■Island Arc賞(1件)  
■論文賞(1件) ■小藤文次郎賞(1件) ■研究奨励賞(2件)    

日本地質学会国際賞


受賞者:Millard F. Coffin 氏(Institute for Marine and Antarctic Studies, University of Tasmania)
対象研究テーマ:巨大火成岩岩石区の形成とその地球環境への影響に関する研究(Research on Large Igneous Provinces, implication for their formation process and impact on global environments)


 Millard F. Coffin 氏は,巨大なマントル・プルームなどによって発生する大量のマグマが広大な玄武岩台地を形成する「巨大火成岩岩石区(Large Igneous Provinces, LIPs)」を提唱し,その地球科学的意義を実証的に明らかにした第一人者である.同氏はLIPs を地球物理学的,地質学的データを駆使して系統的に解析し,その詳細な形成メカニズムについて検討を行った.特にオントンジャワ海台,ケルゲレン海台などの形成メカニズムについて同氏が中心となってReviews of Geophysics 誌にまとめた論文(Coffin and Eldholm, 1994)は,LIPs に関する研究の金字塔となっている.この論文は多くの研究で引用され,同氏の研究が地球科学界に与えた影響の大きさを物語っている.これを筆頭に同氏は100 編を超える影響力の強い論文を発表している.
 また,同氏はLIPs の形成に伴う火山噴火が気候や海洋環境に与えた影響についても多くの実績を残してきた.特に東京大学海洋研究所の教授であった2001〜2007 年にかけて,東京大学や海洋研究開発機構の若手研究者らと共同で研究を進め,白亜紀のオントンジャワ海台やカリブ海台の噴火活動が海洋無酸素事変の時期に一致することを明らかにし,この研究に新たな一面を切り開いた.この時期に日本の研究コミュニティーが同氏と議論を重ねながら研究領域を開拓するができたことは,大きな財産になっている.2004 年以降の同氏の業績一覧に多くの日本人研究者が名前を連ねていることからも,同氏の日本における教育・研究の影響の大きさがうかがえる.
同氏は2002〜2003 年には海洋研究開発機構の招聘研究員として統合国際深海掘削計画(IODP)に関する多くの重要な研究プロジェクトを進めることに貢献した.また,IODP の科学計画パネル(SPC)の議長として敏腕を振るうなど,国際科学計画の運営にも多くの実績をあげている.
 以上のように,学術面,教育面,国際的なプロジェクトリーディングの面において,同氏が日本の地質学界に与えた功績は極めて大きい.これらの業績と日本地質学界への多大な貢献に鑑み,Millard F. Coffin 氏を日本地質学会国際賞候補者として推薦する.

   Professor Millard F. Coffin is one of the leading experts who advocated the basic concept of Large Igneous Provinces (LIPs), and empirically clarified its geological significance. He has examined formational processes and mechanisms of LIPs, by analyzing geophysical and geological data in great detail. In particular, one of the papers about mechanisms of Ontong Java and Kerguelen LIPs that he and his colleagues published from Reviews of Geophysics (Coffin and Eldholm, 1994*) is the seminal work of this field. This paper has been heavily cited (>860), telling us how influential of his work is. In addition, he has published more than 100 influential papers.
   He has also made a lot of work on the study of the consequences of LIPs, i.e., impact of massive volcanic eruption on the climate, ocean and life. When he was the professor of Ocean Research Institute (ORI), the University of Tokyo (2001-2007), he collaborated with young researchers at ORI and JAMSTEC, and revealed that massive eruptive episodes associated with the formation of LIPs (e.g., Ontong Java and the Caribbean Plateaus) coincided with oceanic anoxic events. His group has activated debates on this research issue. It is a great asset for Japanese young geoscientists that they experienced active discussion, and pioneered these research fields with Professor Millard F. Coffin during this tenure at ORI. The fact that many Japanese researchers are on the list of his achievements demonstrates how his influence on education and research was significant in Japan.
   As an invited research scientist of JAMSTEC (2002-2003), he contributed to promoting important research projects on the Integrated Ocean Drilling Program (IODP). He has a lot of achievements in handling and planning of various international science projects, such as a chairman of the Science Planning Committee (SPC) of IODP.
   In terms of academic and educational aspects, as well as his international leadership, his achievement on the Japanese geoscience community is significant. Here we recommend Professor Millard F. Coffin as a candidate for the International Award of the Geological Society of Japan in view of his achievement and a tremendous contribution on the Japanese scientific community.

*Coffin, M.F. and Eldholm, O. (1994) Large Igneous Provinces- crustal structure, dimensions, and external consequences. Reviews of Geophysics, vol. 32, p. 1-36.

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日本地質学小澤儀明賞


受賞者:澤木佑介 会員(東京大学大学院総合文化研究科)
対象研究テーマ:多元素同位体比分析を駆使した原生代後期の古環境解読研究


  澤木佑介会員は地球史を中心とする分野で大きな成果をあげてきた.主に重金属元素の同位体比分析とジルコンの年代分析を土台に,常に最新の研究手法を取り入れ,精力的な研究を展開している.
 同会員の特筆すべき成果は原生代後期の古環境解読研究である.原生代後期は大型多細胞動物出現の時代で,全球凍結や地球規模での大気海洋の酸化等の大変動が起こった時代とされ,地球史の中で最も重要な時代の一つである.同会員は,東京工業大学・東京大学を中心とした研究グループが行った原生代後期の堆積物の陸上掘削調査に参加して得られた保存のよい岩石試料のSr,Ca,Fe,Os同位体比を高時間解像度で連続的に測定した.その結果,原生代後期は地球史を通じて最も大陸風化が活発であったこと,それが海洋にCa等の栄養塩濃度を供給し海洋中の栄養塩濃度を増加させたこと,大気・海洋は酸化的-還元的環境を繰り返しながら徐々に酸化的環境に変化していったこと等を明らかにした.また,これまでの研究では鉄の化学種分析から硫化物イオン濃度の高い海洋(Euxinic ocean)が広がっていたとされてきたが,同会員は鉄の化学種分析の問題点を指摘し,Euxinic oceanの時期をより正確に特定した.これらの研究成果は,原生代後期の古環境に関する重要なデータセットとして高く評価されている.
 同会員は,共同研究者とともに,太古代初期や原生代初期の地質体の研究も行っている.太古代初期の地質体の研究では,約39億年前のカナダ・ラブラドルのサグレック岩体で高精度の地質図を作成し,地質学的産状から本地域が最古の付加体であることを示した.さらに,グリーンランド・イスア地域の38億年前の生命の証拠とされる炭質物や共存する硫化物の炭素や鉄同位体から,最古の鉄還元バクテリアの存在を示唆する化学的証拠を発見した.最近は,原生代前期の大酸化イベント時の環境解読を進めるために,精力的に中央アフリカ・ガボンの地質調査,年代測定,堆積岩の化学分析等を行っている.
以上の優れた業績を高く評価するとともに,将来性を期待し,澤木祐介会員を日本地質学会小澤儀明賞に推挙する.
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日本地質学会柵山雅則賞_01


受賞者:野崎達生 会員(海洋研究開発機構 海底資源研究開発センター)
対象研究テーマ:火山性塊状硫化物(VMS)鉱床の成因研究


  野崎達生会員は,卒業研究から現在まで一貫して地質学的・地球化学的手法に基づく鉱床学研究を行っている.特に,海底熱水鉱床を起源とする陸上の火山性塊状硫化物(VMS)鉱床の成因解明に精力的に取り組み,顕著な業績を挙げてきた.
 博士課程から取り組んだ研究では,変成作用により初生的な年代決定が困難な三波川帯の別子型鉱床に対してRe–Osアイソクロン法を適用するという独創的なアプローチで挑み,その生成年代決定に世界で初めて成功した.そして,別子型鉱床の生成年代が約150 Maに集中することと,鉱床の生成場が遠洋域の中央海嶺であることを明らかにし,当時の特異な地球表層環境がもたらしたジュラ紀後期海洋無酸素事変を提唱するとともに,鉱床の生成・保存とグローバル環境変動が密接に関連するという資源地質学における第一級の命題を明らかにした.さらに,四万十帯北帯に分布する別子型鉱床にもRe–Os法を適用し,これらの鉱床が白亜紀後期の海嶺沈み込み現象に伴う鉱床であることを明らかにしたのみならず,現地性玄武岩を伴う別子型鉱床のRe–Os年代から,重要な地質イベントである海嶺沈み込み現象の時空間変遷を追跡できることを提示した.
 同会員は海底熱水鉱床の研究航海にも数多く参加してきた.共同首席研究員を務めた二度の「ちきゅう」による科学掘削航海を通じて生成された人工熱水孔に着目し,人工熱水孔上に品位の高いチムニーが急激に成長することやその詳細な鉱物学的特徴を明らかにしている.これらのデータに基づき,黒鉱養殖という独創的なアイデアを着想し,現在その実用化に向けた研究を展開している.また,分析化学研究手法においても,気化法を用いたRe–Os同位体の迅速測定方法の開発や,その手法をマンガンクラストやレアアース泥,堆積岩などに適用し,新しい成果を挙げている.
 以上の高い実績と将来性により,野崎達生会員を日本地質学会柵山雅則賞に推挙する.
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日本地質学会柵山雅則賞_02


受賞者:遠藤俊祐 会員(島根大学大学院総合理工学研究科)
対象研究テーマ:野外調査に根差した,沈み込み帯変成作用とテクトニクスの研究


 遠藤俊祐会員は,綿密な地質調査・岩石記載に基づいた沈み込み帯の変成作用とテクトニクスに関する研究を展開し,注目すべき成果をあげてきた.それは以下の3つにまとめられる.(1)三波川変成帯の高変成部に位置する五良津岩体に広く分布するエクロジャイトは,粗粒であることなどにより異地性のテクトニックブロックと考えられていた.同会員は五良津岩体の変成年代をLu–Hf法により約117 Maと決定し,今まで唱えられていた三波川変成作用の2つの年代(約90 Maおよび約120 Ma)に対応した地質学的なイベントを示すことに初めて成功した.また,五良津岩体の岩石の粒径が大きいことは変成作用が高温で継続時間が他の地域より長いことによるとした.この過程で,研究例が少ない炭酸塩鉱物に富むエクロジャイトの岩石学解析や,鉄の酸化状態を変数として取り入れたシュードセクション作成など,解析法についても新たな展開を示した.(2)グアテマラ・北部モタグア断層帯は,現在活動中の沈み込み帯深部に分布すると考えられるローソン石エクロジャイトの露出で有名である.しかし,その形成条件の見積りは,低温で形成するために反応速度が遅く化学平衡が保証されず難物であった.同会員は通常の地質温度圧力計に加えて,シュードセクション法,ラマン炭質物温度計などの手法を融合し,今までより格段に誤差の少ない解析を行った.(3)秩父帯北帯での高圧変成作用の範囲が従来の理解より大幅に広いことを明らかにした.また,ローモンタイト(濁沸石)の分解が沈み込み帯における重要な脱水反応であり,地震発生領域の下限を支配する重要な反応である可能性があると指摘した.
 上記の通り,同会員は多岐にわたり沈み込み型変成作用研究に大きく貢献しており,今後,日本の変成岩研究をリードする有望な若手研究者として期待される.よって,遠藤俊祐会員を日本地質学会柵山雅則賞に推挙する.
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日本地質学会 Island Arc賞


受賞論文:Ayumu Miyakawa, Saneatsu Saito, Yasuhiro Yamada, Hitoshi Tomaru, Masataka Kinoshita and Takeshi Tsuji, 2014, Gas hydrate saturation at Site C0002, IODP Expeditions 314 and 315, in the Kumano Basin, Nankai trough. Island Arc, 23, 142–156.

  Miyakawa et al. (2014) estimated the degree of gas hydrate saturation at IODP Site C0002 in the Kumano Basin, Nankai Trough from logging-while-drilling logs and core samples obtained during IODP Expeditions 314 and 315 using Deep Sea Drilling Vessel Chikyu. Based on the excellent geophysical and geochemical data, the free gas migration in sediment is well illustrated. They found coexistence of gas hydrate and free gas, suggesting a large gas flux flowing to the southern and seaward edge of the basin from a deeper part of the Kumano Basin. This knowledge is applicable to various kinds of pore fluids and thus important to consider digenetic process of sedimentary rocks. This paper presents one of important results of gas hydrate formation obtained by the NanTroSEIZE drilling program using Chikyu. Their work has been broadly cited as the standard of the gas hydrate saturation in the seaward edge of the Kumano Basin, Japan. In addition, their findings motivate further studies on the coexistence of gas hydrate and free gas and the fluid migration in the area.
    Ayumu Miyakawa graduated from Kyoto University with a BSc in 2006; he subsequently completed a Ph.D. course at the same university with the degree in 2011. He became a Postdoctoral Researcher at Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC) in 2011; he served there for one year. In April 2012, he started his engagement in research at the Geological Survey of Japan (GSJ) in the National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST); he is a Senior Researcher since October 2017. His main interest is in the dynamics of subduction zones. He joined Nankai Trough Seismogenic Zone Experiment as an onboard logging scientist in IODP Expedition 314. The logging data obtained during the cruse revealed the fluid migration and the hydrate deposition within the forearc basin, as mentioned in the awarded article. He is also curious about the integration of the geological/geophysical observation such as the logging data and the geodynamics modeling. He is conducting the numerical modeling to simulate the dynamics of the subduction zones. Currently, he is expanding his research to crustal stress controlling the reactivation of the fault and the openness of the fault-fracture conduit in the crust.

>論文サイトへ(Wiley)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/iar.12064

日本地質学会論文賞


受賞論文:Osamu Takano and Takashi Tsuji, 2017, Fluvial to bay sequence stratigraphy and seismic facies of the Cretaceous to Paleogene successions in the MITI Sanriku-oki well and the vicinities, the Sanriku-oki forearc basin, northeast Japan. Island Arc, 26, e12184, doi:10.1111/iar.12184.

三陸沖堆積盆はテクトニクス的にも石油・石炭地質的にも堆積学的にも重要な前弧堆積盆である.しかし,堆積盆の主要部分が海底にあるため,全容の解明が難しかった.本論文は,石油・天然ガスの探鉱のために取得された三次元地震探査断面と,基礎試錐「三陸沖」によって得られた坑井データを駆使し,この地域の上部白亜系から始新統の堆積相と地震探査断面における震探相とを詳しく解析したものである.また,解析結果をもとに,堆積環境を詳細に復元し,前弧海盆の埋積モデルを構築している.本研究成果は,三次元地震探査技術と堆積学とをリンク・統合させたいわゆる三次元サイスミック地形学の特筆すべき優れた研究結果である.本研究の結果,沈み込みに伴う三陸沖堆積盆の埋積過程がまるで航空写真で地形変化を見るかのように復元された.また本論文は,応用分野である石油・天然ガス探鉱のための技術が堆積盆解析に寄与する様子をつぶさに知らしめており,これから地質学を学ぼうとする若手に総合的な地質学の面白さを示す好例となっている.以上の理由より,本論文を日本地質学会論文賞に推薦する.

>論文サイトへ(Wiley)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/iar.12184

日本地質学会小藤文次郎賞


受賞者:小宮 剛 会員(東京大学大学院総合文化研究科)
対象論文:Takayuki Tashiro, Akizumi Ishida, Masako Hori, Motoko Igisu, Mizuho Koike, Pauline Méjean, Naoto Takahata, Yuji Sano and Tsuyoshi Komiya, 2017, Early trace of life from 3.95 Ga sedimentary rocks in Labrador, Canada. Nature, 549, 516–518.
 
これまで最古の生命の痕跡は38億年前のグリーンランド・イスアの堆積岩中のグラファイトとされてきた.しかし,それ以前にも地球上には海が存在し,より古い時代に生命が存在していたと考える研究者も多い.小宮 剛会員を中心としたグループは39.5億年前のカナダ・ラブラドル地域のヌリアック表成岩類の調査を継続的に行い,泥質変成岩と変成炭酸塩岩から抽出したグラファイトが生物由来の有機物であることを示した.最新鋭の分析方法を用いて測定した炭素同位体比は,グラファイトの値が十分に低く,無機炭素との値の差も大きいことから,これが自家栄養の微生物を起源としていたことを表す.また,コンタミネーションやFischer-Tropschタイプの可能性についても,慎重な分析から否定的な証拠を提示している.昨年9月に発表された上記論文の内容は,最古の生命の痕跡を1.5億年も更新し,その重要性ゆえに多くのメディアに取り上げられた.これは地球史を塗り替える重要な地質学的成果であり,本研究を主導した小宮 剛会員を日本地質学会小藤文次郎賞候補者として推薦する.

>論文サイトへ(Nature)
https://www.nature.com/articles/nature24019

日本地質学会研究奨励賞_01


受賞者:綿貫峻介 会員(国際石油開発帝石株式会社)
対象論文:綿貫峻介・金井拓人・坂 秀憲・高木秀雄,2017,青森県白神山地西部に発達する入良川マイロナイト帯の変形微細構造.地質学雑誌,123,533–549.


 白神山地西部の日本海沿岸地帯には,白亜紀花崗岩体内部に南北に伸びるマイロナイト帯が知られている.綿貫峻介会員らは本マイロナイト帯を入良川マイロナイト帯と呼称し,マイロナイト帯を横切る複数の側線で詳細な構造地質学的調査を行った.その結果,本マイロナイト帯は350 m程度の幅を持ち,外側から中心部へプロトマイロナイト,マイロナイトおよび一部カクレーサイト化したウルトラマイロナイトから構成されていることが明らかとなった.また,マイロナイトの変形構造についてSEM-EBSDを用いて再結晶石英の粒径,結晶方位および粒子形態ファブリックを解析し,変形機構,変形物理条件および変形履歴について詳細に議論した.特にランダムファブリックを示すウルトラマイロナイトの薄い石英集合体については,他の鉱物との接触の影響の有無を検討するなどの慎重な解析が加えられている.また,従来の研究を補完する結果ではあるが,剪断センスや岩石帯磁率についても詳細に検討し,本マイロナイト帯が畑川構造線のマイロナイト帯の北方延長ではなく,阿武隈帯内部に発達する剪断帯であることを明確にした.本論文は構造地質学の分野で最近,世界的な関心が集まっている断層帯のアーキテクチャーや変形機構について重要な成果を得た論文と判断されるほか,同会員の剪断帯に関する総合的な構造解析能力が発揮されている.以上の理由より,綿貫峻介会員を日本地質学会研究奨励賞候補者として推薦する.


>論文サイトへ(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/123/7/123_2017.0006/_article/-char/ja

 

日本地質学会研究奨励賞_02


受賞者:高橋 聡 会員(東京大学大学院理学系研究科)
対象論文:高橋 聡・永広昌之・鈴木紀毅・山北 聡,2016,北部北上帯の亜帯区分と渡島帯・南部秩父帯との対比:安家西方地域のジュラ紀付加体の検討.地質学雑誌,122,1–22.


高橋 聡会員は,東北日本北部北上帯のジュラ紀付加体について,従来提唱されていた亜帯(葛巻–釜石亜帯と安家–田野畑亜帯)区分の妥当性を検証するとともに,北海道や西南日本外帯のジュラ紀付加体との対比を行った.同会員は両亜帯の境界域における詳細な地質図を作成し,岩相区分,微化石同定,砂岩組成解析といったさまざまな手法を駆使し,この亜帯区分が概ね妥当であることを示した.また,類似点・相違点を提示し,両亜帯に分布するユニットが北海道の渡島帯,西南日本外帯の秩父帯においてどのユニットと対比できるかを示した.本研究は,中生代日本列島形成史を解明する上で鍵となる重要なデータを提示し,新たな広域対比を行ったものであり,高く評価できる.また,本成果は同会員の長期にわたる地道な野外調査から得られたものであり,野外地質学をベースとした地域地質研究の重要性を示す好例でもある.以上の理由により,本論文の筆頭著者である高橋 聡会員を日本地質学会研究奨励賞に推薦する.


>論文サイトへ(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/122/1/122_2015.0034/_article/-char/ja