鈴木博之 会員(1939年11月18日生まれ,77歳)
鈴木博之会員は,1966年に京都大学大学院理学研究科地質学鉱物学専攻修士課程を修了し,その後に博士課程に進学され1969年に同志社大学工学部へ赴任された.その後,助教授を経て1998年に同大学理工学研究所・工学研究科教授に昇任され,2005年に同大学を退職なされた.
この間50年以上にわたり「四万十帯の地質構造発達史」の解明に,フィールドワークを基礎に調査・研究に従事し,これらの成果は地域地質報告書(5万分の1地質図幅)「栗栖川」(鈴木ほか 1979,共著),「江住」(立石ほか 1979,共著)および「龍神」(徳岡ほか 1981,共著),20万分の1地質図「田辺」(徳岡ほか 1982,共著)として発行されている.さらに2012年には「紀伊半島における四万十付加体研究の新展開」(地学団体研究会専報59号)をまとめられ,陸上付加体の新たな研究を展望している.紀伊半島四万十付加体において,ほぼ全域にわたる精細な地質図を作成し,白亜紀〜古第三紀の放散虫化石層序を確立した.
また,インド,ブラジル,アパラチア,マダガスカルに産出するプレカンブリア紀のイタコルマイト(撓曲性コーツアイト)の研究にも貴重な成果をあげている.
2014年に国内ジオパークに認定された南紀熊野ジオパークでは,学術専門委員会委員長として尽力された.また,四万十帯の研究に取り組む多くの若い学生,大学院生には有益な助言を与え,多数の四万十帯研究者や教育者を育て貢献された.
このような長年にわたる地質学の研究,教育,普及への顕著な貢献に鑑み,鈴木博之会員を日本地質学会名誉会員に推薦する.
波田重煕 会員(1940年8月26日生まれ,76歳)
波田重煕会員は,1966年に大阪市立大学大学院理学研究科修士課程を修了し,同年に大阪市立自然科学(現自然史)博物館の学芸員を勤務された.1969年に高知大学文理学部助手として赴任され,講師,助教授を経て1980年に高知大学理学部教授に昇任され,1994年に高知大学名誉教授を授与された.1994年には神戸大学に赴任され,2004年まで同大学教授を務められ神戸大学名誉教授を授与された.その後,2007年に神戸女子大学長・神戸女子短期大学長を勤められ, 2016年に 瑞宝中綬章を叙勲された.
この間,詳細な地質調査と多面的な手法(構造地質学・古生物学・堆積学)に基づいて,西南日本“古生代造山帯” とりわけ“黒瀬川テレーン”の起源に関する研究に取り組まれた.その成果は,ニュージーランドやタイなど海外の造山帯研究にもつながり,付加体研究を大きく進展させた.これらの基礎的研究に加えて1995年1月に発生した阪神・淡路大震災直後から,共同研究者と共に地震により地表に発生した変位・変状を調査し,内陸地震に伴う地震現象の実態の解明とそれに基づく防災意識の向上や防災教育に貢献された.
ユネスコ(UNESCO)と国際地質科学連合(IUGS)による国際協力研究プロジェクトである「地質科学国際研究計画」のリーダーとして,さらに日本学術会議の「地質科学国際研究計画」国内委員会の幹事や委員長,およびそれに関連した日本学術会議地球惑星科学委員会委員や日本学術会議連携会員として同計画を牽引され,東南アジアにおけるIGCP活動の発展とIGCPを通じた国際貢献ならびに日本におけるジオパークの設立に邁進された.
このような長年にわたる地質学に関する研究,教育,普及への顕著な貢献に鑑み,波田重煕会員を日本地質学会名誉会員に推薦する.
大場忠道 会員(1941年1月14日生まれ,76歳)
大場忠道会員は,1964年に埼玉大学文理学部を卒業し,同年に東北大学大学院理学研究科修士課程,1966年に同研究科博士課程に進学し,1969年に東北大学にて理学博士の学位を取得された.九州石油開発株式会社勤務を経て,1970年に東京大学海洋研究所に技官として採用され,2年間米国カリフォルニア大学に留学した後,1974年に同研究所の助手として採用された.1981年に金沢大学教養部に助教授として赴任され,1984年に教授に昇任された.1993年に北海道大学大学院地球環境科学研究科に異動し,2004年同大学を定年退職し,北海道大学名誉教授を授与された.
東京大学海洋研究所では,方解石とアラレ石の酸素同位体温度スケールの開発と応用を行い,黎明期における重要な知見を提示した.金沢大学では当時数少なかった安定同位体比質量分析計を広く開放し,国内の同位体分析の拠点として貢献するとともに,日本における古海洋研究の裾野を広げ,発展させることに尽力した.安定同位体を用いた古海洋学の分野では世界的にみても先駆的な研究を遂行し,氷期・間氷期サイクルにともなう日本海の環境変化の復元や,黒潮・親潮の変遷史に関する学際的かつ先進的な研究は,日本の古海洋学の発展に大きな影響を与えた.
国内外での学術活動では,国際委員として,気候変動と海洋に関する合同委員会(CCCO),海洋調査に関する科学委員会(SCOR),地球圏-生物圏国際共同研究(IGBP)の古環境変動研究(PAGES),国際全球海洋変動研究(IMAGES)の研究プロジェクの推進に尽力した.2001年には,古海洋学の国際学会である「第7回古海洋学会議(ICP-7)」を主催者として札幌において開催した.さらに,日本学術会議の第四紀学研究連絡委員を平成2年以降3期12年にわたって務め,日本の学術発展にも深く関わってきた.「第四紀学」(朝倉書店),第四紀試料分析法(東京大学出版会)などの編纂にも尽力し,第四紀地質学の普及に大きな貢献をされた.
このような長年にわたる地質学に関する研究,教育,普及への顕著な貢献に鑑み,大場忠道会員を日本地質学会名誉会員に推薦する.