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受賞者:脇田浩二(山口大学大学院理工学研究科)
対象研究テーマ:付加体地質学を基にした日本〜アジアのシームレス地質研究
脇田浩二会員は,野外調査による付加体の実態解明のため世界最高レベルの付加体地質図を作成し,日本および世界の付加体地質図表現の国際標準を確立した.以前は地向斜論に基づいて“地層”として表現されていた地質体が,海洋プレート層序の破断変形プロセスを通じて形成された構造ユニットの集合体であることを明らかにし,地質調査所(現産総研)の地質図幅で初めて付加体の概念を取り入れた「八幡地域の地質」を著し,その後も付加体の地質図を多数公表してきた.特に,変形の激しい地質体“メランジュ”については,泥ダイアピルや構造変形を含む多重変形プロ
セスでその形成を説明し,付加体の基本構造の地質図表現を世界に先駆けて提示した.また,日本で確立した技術を基にアジアの付加体の解明も推進し,海洋プレート層序に基づく付加体の理解をアジア地域にも広く浸透させた.これらの研究成果は,論文及び地質図・地質構造図として多く出版され,国内外の学会・産業界・教育界で広く活用されている.
これらと並行して,日本およびアジアの地質情報の整備と流通促進のため,日本およびアジアの小縮尺地質図・地質構造図編集やデジタル化を推進するとともに,国際標準に基づく地質情報のウェブ流通を,日本およびアジアの代表として推進してきた.近年出版された2つのアジアの広域地質図では,日本からの唯一の主編者となった.更に日本およびアジアの地質図の普及を進めるため,地理空間情報システムによるデジタル化を主導し,ウェブで流通させるための,国際標準に基づく情報流通システムの確立を,日本およびアジアの代表として推進してきた.国際地質科学連合の地質情報標準管理委員会の評議委員を設立当時から10年間務め,世界中の100万分の1 地質図のウェブ流通を進めるOneGeologyプロジェクトを,アジアの代表として推進してきた.また後年,地質図Naviとして結実することになる,日本シームレス地質図の作成では,脇田氏はプロジェクトリーダーとして,ばらばらだった20万分の1地質図の凡例を統一し,地質図間で食い違う地質境界を連続させ,2005年にインターネット上で初公開して,ウェブを通じた地質図利用という新しい道筋をつけた.現在,同サイトは教育・研究・営利事業と様々な面に活用され,年間アクセス数は1200万に達している.
以上のような付加体地質学への業績と地質学の発展への貢献に鑑み,脇田浩二会員を日本地質学会賞に推薦する.
受賞者:辻 健(九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所)
対象研究テーマ:地震探査データ解析の高精度化によるプレート境界断層の形態と応力分布に関する研究
辻 健会員は,地震探査データの解析と解釈を基軸にし,掘削や野外調査で得られた情報とあわせ,プレート境界断層やその分岐断層の地質構造を総合的に理解すべく努力してきた.南海トラフ付加体の断層は古くから議論されているが,トラフ軸に続くデコルマと,地震を発生させると考えられている分岐断層の関係は明らかになっていなかった.これは,地震探査データの解像度の限界のためである.辻会員は,波形インバージョンという手法を改良することで,深部に発達する分岐断層の弾性波速度を高い解像度で推定した.さらに,独自に開発した岩石物理理論を使い,分岐断層の間隙水圧や応力状態を推定することに成功した.その結果,これまで不明瞭であった分岐断層とデコルマの関係が明らかとなり,付加体の断層構造が見直されることとなった.さらに,分岐断層が横ずれ運動に卓越していることなども明らかしている.これらの成果は断層のモデル化に重要な情報となっている.日本海溝では,2011年東北地方太平洋沖地震の前から、地震探査の結果をもとに潜水艇を用いた調査を継続的に実施し,熱流量や海底面の変化から2011年の地震で活動した正断層を特定することに成功している.この断層運動は,津波地震に特徴的な上盤プレートの引張過程に関係するとされ,津波の発生機構の解明の点で重要な結果となっている.さらに津波励起域では,島弧地殻が海溝付近まで迫り出しているといった地質構造も明らかにした.このように辻会員は,積極的に野外調査や研究航海に参加し,プレート境界断層の形態や応力状態の解明に貢献してきた.辻会員は,60編以上の論文を公表し,多くの招待講演を行っている.彼の地震探査データの解析能力は第1級であるが,それ以外にも衛星データを用いた地盤沈下の研究,熱水循環経路の研究,氷河の研究,間隙流体シミュレーションによる浸透特性の研究など,多岐にわたる課題を研究している.統合国際深海掘削計画IODPの第327次航海では,共同主席研究者として,国内外の研究者を取りまとめた実績がある.またJ-DESCの執行委員を務めるなど,研究以外の活動も積極的に行っている.現在,彼は九州大学の国際研究所で,研究部門長として部門全体のとりまとめを行っている.このように,候補者は国際的な次世代リーダーとしての資質もある.以上の実績から,辻 健会員を小澤儀明賞に推薦する.
受賞論文: Arai, S.,Okamura, H., Kadoshima,K., Tanaka, C., Suzuki, K. and Ishimaru, S., 2011,Chemical characteristics of chromianspinelin pl utonic rocks:Implications for deep magma processes and discrimination of tectonic setting. Island Arc,20,125-137.
This paper compiles major element data of spinel based on thefirst author’slong-standingresearches and other relevant literatures and haspresented an explicit relationship of geochemistry of spinel and tectonic settings. The results havealso deepenedour understanding of deep magmaticprocesses. Although the usefulness of spinelhas been shownby the first author’s number of works, the paper provides adistinctive criterion of discriminating not well understood tectonic settings of igneous bodies such as thoseof ophiolites, whichis so convenient for earth scientists who are interested in tectonics but are not experts of igneous petrology.
This paper received the highest number of citations–based on the Thomson Science Index for the year 2014–amongst the entire candidate Island Arc papers published in 2011–2012, which will contribute to increasing the impact factor of Island Arc. The first author, Dr.Shoji Arai,has been one of the most active Japanese petrologists working on mantle peridotites and deep crustal rocks from ophiolites, xenoliths and present ocean floors. Specifically he is renown for his prominent researches on spinel in mantle peridotites and volcanic rocks, whichmade him known as “Arai of spinel”. This paper adds to his many contributions andis a worthy receipt of the 2015 Island Arc Award.
受賞論文:Kouketsu, Y., Mizukami, T., Mori, H., Endo, S., Aoya, M., Hara, H., Nakamura, D and Wallis, S., 2014, A new approach to develop the Raman carbonaceous material geothermometer for low-grade metamorphism using peak width. Island Arc, 23, 33–50.
地殻内部の温度構造は,地殻変動や大陸形成のプロセスを考える上で重要な基礎情報であり,それらを記録している岩石の変成温度推定とその手法確立は重要な課題である.ラマン炭質物温度計は,そのような温度推定方法の一つとして注目を集めてきた.本論文は,堆積岩起源変成岩に含まれる炭質物を対象とし,ラマン分光による比較的簡便,かつ,従来より正確な中低温での地質温度計を提案したものである.分光により得られるラマンスペクトルについて,適切なピークの分離手順・解析法を提案し,その方法を,岩質,時代,セッティングの異なる堆積岩起源変成岩に応用した.その結果,150〜400℃の範囲内では,ピーク半値幅が,既知の変成温度と直線的関係にあることを見出し,従来よりも精度の高い地質温度計となりうることを示した.この手法は,今後,変成作用や地殻内部構造の解析に広く応用されることが期待される.よって,本論文を日本地質学会論文賞に値するものとして推薦する.
受賞論文:岩野英樹・折橋裕二・檀原徹・平田岳史・小笠原正継,2012,同一ジルコン結晶を用いたフィッション・トラックとU-Pbダブル年代測定法の評価―島根県川本花崗閃緑岩中の均質ジルコンを用いて―.地質学雑誌,118,365–375.
同一試料から閉鎖温度の異なる複数の年代測定を行う,いわゆるマルチクロノロジー手法は,熱履歴に基づく定量的テクトニクスモデルの構築に大きく貢献しているが,それにともない,年代データのより厳しい信頼性評価も必要になっている.本論文は,同一ジルコン粒子を用いたFT法とU-Pb法のダブル年代測定において,FT分析工程で実施するエッチングなどの化学処理がその後に測定するU-Pb年代データに与える影響を評価した.検討試料を厳選し検証を行った結果,化学処理の有無によってもU-Pb年代に有意な差はなく, 同一ジルコン粒子のFTおよびU-Pbマルチクロノロジーが十分な信頼性をもつことが示された.一連の検証は,緻密で論理的に進められており,今後のマルチクロノロジーの適用における貢献は大きいと考えられる.以上のことから,本論文を日本地質学会論文賞に推薦する.
受賞者:堤 浩之(京都大学大学院理学研究科)
対象論文: Tsutsumi, H., Sato, K.and Yamaji, A., 2012,Stability of the regional stress field in central Japan during the late Quaternary inferred from the stress inversion of the active fault data. GeophyscalResearch Letter, 39, L23303, doi:10.1029/2012GL054094.
堤 浩之会員らによる本論文は,近畿三角帯に分布する37の活断層群から得た169におよぶ断層データに応力インバージョン法を適用し,この地域の活断層群の動きがWNWESE方向の一軸水平圧縮に近い応力で説明できること,さらにはこの応力が最近十万年以上にわたって安定であったことを,データにもとづいて実証的に示した.比較的最近になって蓄積が始まった地球物理学的データだけでは理解しきれない,数万年間の過去にわたる地殻応力を解き明かしたことは,活断層研究に大きな方向性を示したものといえる.また,長期的な地殻応力データを供することによる社会的な貢献も大きいと考えられる.これらの理由から,研究を中心となって推進した堤 浩之会員を小藤文次郎賞に推薦する.
受賞者:氏家恒太郎(筑波大学生命環境系)
対象論文: U j i i e , K.,Tanaka, H., Saito, T., Tsutsumi, A., Mori, J.J., Kameda, J., Brodsky, E.E., Chester, F.M., Eguchi, N., Toczko, S.and Expedition 343 and 343T Scientists, 2013, Low coseismic shear stress on the Tohoku-Oki megathrust determined from laboratory experiments. Science, 342, 1211-1214.
氏家恒太郎会員らによる本論文は,2011年東北地方太平洋沖地震の地震断層を地球深部探査船「ちきゅう」によって掘り抜いた,統合深海掘削計画の第343次航海を代表する成果である.氏家会員らは,プレート境界断層の破砕帯から採取されたコアの構造地質学的観察と,同じ試料を用いた高速剪断試験にもとづいて,海溝付近までプレート境界断層が変位した今回の地震断層のスリップメカニズムの解明を試みた.その結果,スメクタイトを多く含む破砕物質の存在と,高速すべり時の間隙水の熱膨張によってプレート境界断層が弱化するという,これまで提示されていた描像がこの大地震で実際におきたことを明らかにした.そして,巨大災害の発生メカニズムの探求における地質学の役割を明らかにする,時宜にかなった論文としてまとめた.これらの理由から,研究を中心となって推進した氏家恒太郎会員を小藤文次郎賞に推薦する.
受賞者:越智真人(東建ジオテック株式会社)
対象論文:越智真人・間宮隆裕・楠橋 直,2014,四国の中新統久万層群層序の再検討:“下坂場峠層”と“富重層”.地質学雑誌,120,165-179.
中新統久万層群は中央構造線の両側に分布する最古の地層であり,中央構造線の運動史,ひいては西南日本の広域テクトニクスを制約する重要な地層である.対象論文は,地質踏査をもとに同層群の層序を再検討したもので,古典的な岩相記載をベースに幾つかの新知見を得ている.なかでも,外帯側にだけ分布する下部始新統ひわだ峠層が,久万層群とナップではなく不整合関係にあることを示したことは,中期中新世に中央構造線で大規模な衝上運動があったとする近年の仮説に対しての否定的証拠として,特筆すべき成果といえる.本論文は地域地質層序を扱いながらも,実は広範なインパクトを持つと判断される.これらの成果は地道な地質踏査が実を結んだ結果であり,その研究スタイルは大いに奨励されるべきものである.以上の理由から,越智真人会員を日本地質学会研究奨励賞に推薦する.
受賞者:大山次男(東北大学理学部技術部)
功労業績:岩石研磨薄片技術の高度化
大山次男氏は,1967年4月に東北大学理学部岩石鉱物鉱床学教室(現東北大学理学部地球惑星物質科学科)の薄片室に採用されて以来,2010年3月に定年退職するまでの43年間,岩石薄片の作製とその技術の高度化に尽力した.退職後も,その薄片作製の技術力を後進に伝承するべく,再雇用職員および非常勤職員として,現役で活躍中である.この間,2001年には文部科学大臣表彰創意工夫功労者賞を受賞した.また2006年には,日本岩石鉱物特殊技術研究会(現日本薄片研磨片技術研究会)の会長職に就任し,日本全国の薄片研磨技術職員を統括し,各地で薄片技術に関するセミナーや研究会を立ち上げた.このような取り組みによって,日本の地質学や地球科学系学科の全国的な薄片技術の基礎力アップに貢献した.大山氏は強い科学的探究心も有し,薄片作製の傍ら地球科学に関する専門知識の習得にも努め,1998年には仙台市太白山の輝石安山岩中の晶洞に産するクリストバライトに関する学術論文を発表した.同論文では,晶洞に産する石英について,薄片観察・電子顕微鏡観察・X線回折を通してクリストバライトであることを見出し,安山岩固結後に揮発成分か高温流体が貫入し,そこからクリストバライトが結晶成長したことを証明した.大山氏は岩石薄片作製を通して,日本における地質学研究を支えてきただけでなく,教育にも大きな貢献を果たした.東北大学が輩出した多くの研究者・技術者・教育者が,大山氏の熱意ある献身的作業により,研究を大きく進展させることができた.以上のように,大山次男氏の地質学の研究・教育に対する貢献は極めて大きく,まさに縁の下の力持ちという存在と評価される.この貢献は日本地質学会の功労賞に値するものと考え,同賞に推薦する.
受賞者:白尾元理(写真家)
表彰業績:ジオフォト文化の先駆と発展,その科学的メッセージの発信
白尾元理会員は,地質をモチーフとして活躍する写真家であり,ジオフォトという新しい写真文化を開拓してきた第一人者である.これまでに国内はもとより世界各国の美しい地質をテーマとした作品を数多く発表している.卓越した写真センスと地質学的視点とを組み合わせた作品は,芸術性ばかりでなく学術的な評価も高く,教科書などにも広く採用されている.また,「新版日本列島の20億年景観50選」,「写真でみる火山の自然史」,「火山とクレーターを旅する―地球ウォッチング紀行」など,美しい写真作品とわかりやすい地質解説とを組み合わせた優れた著書を数多く出版し,地質学の教育と普及に大きく貢献している.とりわけ2012年に出版された「地球全史写真が語る46億年の奇跡」は,世界数十ヶ国の地質風景とその背景となる科学的解説とをマッチさせて地球全史を紹介する画期的な出版物であり,児童・生徒から地質の専門家まで幅広い読者層を魅了させる歴史的な業績と言えよう.また白尾会員は,日本地質学会の広報誌ジオルジュの表紙とカバーストーリーに素晴らしい作品を創刊以来提供し続けている.白尾会員の美しい作品は,ジオルジュの「顔」として同誌のクオリティを引き上げたばかりでなく,地質の美しさをもって地質学のイメージを一新するものである.また白尾会員は,日本地質学会が主催する惑星地球フォトコンテストの審査委員長をコンテスト初回から現在まで務め,コンテストの発展にも貢献してきた.そのおかげで,会員のみならずプロ・アマチュアを含む数百名のネイチャーフォトグラファーが腕を競うジオフォト最高峰のコンテストに成長しつつある.コンテストの表彰式では,入賞作品を講評し,撮影者を激励することで,この分野の発展に尽している.入賞作品は全国の自然博物館などに展示され,新しい写真文化の創造に役立っている.以上のように,写真作品を通じてジオの美しさと,その背景にある科学的メッセージを伝え,地質学のイメージを一新する白尾元理会員の業績は日本地質学会表彰に相応しく,ここに推薦する.