2019年8月20日
日本地質学会学術研究部会
ここでは地質年代(地質時代ともいいます)やその時代を区分する基準となるGSSP (Global Boundary Stratotype Section and Point:国際境界模式層断面とポイント)について,地層の命名や定義などの国際的な取り決めである国際層序ガイド*1に従って解説します.
まず,GSSPを説明するためには,2つの用語「地質年代」と「年代層序」の解説が必要です.「地質年代」とは地球の歴史(以下,地球史)における「時間」を表し,「年代層序」とはある年代に形成された「地層」を表しています.これらは,互いに対応関係をもつ「単元(unit)」に区分されています.この「単元」は,地球上の過去の出来事を国際的に理解するためにつくられた,国際的に共通な時代の区分を意味します.「単元」は,基本となる最も細かい区分をもとに,それらを組み合わせてより大きな区分が設定されるなど,階層構造をもっています.
「地質年代」と「年代層序」は,時間と地層を表す,互いに対応する単元に区分されていると先に説明しましたが,過去の地球の時代区分は,地層から得られた過去の地球史をもとに決められるため,基本的には地層を示す「年代層序単元」が決められ,その地層に対応する時間を「地質年代単元」として表されます.これらを「チバニアン」が提案されている第四紀を例として示すと図1のようになります.
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GSSPは,最も細かい年代層序単元の区分である階 (Stage)の下限を定める境界模式層を意味しています.そして階 (Stage)の下限を規定するために必要なGSSPが世界で一つずつ定められます.GSSPが定められた場合には,そのGSSPが位置する地名にちなんだ階の名称が設定されます*2.「中部更新統/中期更新世」についてはGSSPが決まっていないため,「千葉セクション」がGSSPとして承認されれば,「チバニアン階/期」と命名されます.さらに,現在は77.3万年前とされている中部更新統の下限の年代も「千葉セクション」における研究成果を元に改訂されることになるでしょう.GSSPとして承認されるためにはIUGS (International Union of Geological Sciences:国際地質科学連合) のICS (International Commission on Stratigraphy:国際層序委員会) によって示された8つの条件*3を満たす必要があります.
さて,GSSPは「国際境界模式層断面とポイント」と訳されていることからわかるように境界模式層の一つです.この「境界模式層」が意味する「模式層」とは,模式的に示される地層との意味があります.「模式層」については,国際層序ガイドの第4章で以下の様に定義されており,図2のように示すことができます.
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つまり,国際層序ガイドが定義する模式層は大きく分けて「単元模式層」と「境界模式層」の2つの概念からなることと,複数の層序断面(構成要素模式層)からなる単元模式層を特に「複合模式層」と呼ぶことを示しています.層序単元として岩相層序単元を考えると図2のように説明されます。下位からX層、Y層、Z層(いずれも岩相層序単元)が積み重なった層序があるとき、Y層を例に取ると、Y層の模式層(単元模式層)ではY層という岩相層序単元全体が確認できる必要があります.そしてY層の上限境界および下限境界が確認できる地層断面が,それぞれの境界模式層として設定されます.境界模式層は一つの層序断面(通常は地層断面が露出する単一の崖)で構成され,断面上で単元境界を示す点(ポイント)によりその境界が規定されます.
GSSPの場合は,最も細かい年代層序単元である階 (Stage)の下限境界が対象となりますので,その境界が最もよくわかる層序断面および断面上のポイントがGSSPとなります.これを「千葉セクション」を例に説明します(図3参照).
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千葉セクションのGSSP提案は,中部更新統の下限,すなわち中部更新統とその下位にあたる下部更新統との境界である下部―中部更新統境界 (L-M境界)を対象としています.IUGS-ICSの下にある第四紀層序小委員会(SQS)のL-M境界作業部会はL-M境界GSSPの認定条件を以下のように定めました(Head and Gibbard, 2005).
一方,千葉セクションのGSSP提案(千葉セクションGSSP提案チーム, 2019)では,市原市田淵における養老川河岸の崖(千葉セクション)がGSSPとなる層序断面として,さらに断面上で確認できる白尾火山灰層 (Byk-E bed)の基底面上の点が「チバニアン階」の下限境界を規定する点として提案されています.したがって,GSSPとして提案されているのは「千葉セクション」という単一の層序断面となります.しかし先に示されたL-M境界GSSP認定条件にあるMIS区間は,時間にすると少なくとも5万年間以上の区間となります.「千葉セクション」が含まれる上総層群における平均堆積速度が2m/千年 (Kazaoka et al., 2015) であることを考えると,この時間(5万年間)は少なくとも100m程度の層準区間に相当します.GSSP候補となる単一層序断面「千葉セクション」がカバーする層準区間は17m程度 (Nishida et al., 2016など) であるので,養老川を中心に近隣の沢に分布する層序断面を組合せ「千葉複合セクション」としてMIS20後半〜MIS18前半の年代区間をカバーすることで提案されました(千葉セクションGSSP提案チーム, 2019).
注:
*1: 日本地質学会訳編(Translated by the Geological Society of Japan), 2001, 国際層序ガイド(International Stratigraphic Guide). 共立出版(Kyoritsu Shuppan), 238p.
:IUGS (国際地質科学連合)の元にあるICS (国際層序委員会) のISSC (層序区分小委員会) が発行した 「International Stratigraphic Guide, Second Edition; 1994」の全訳である.当ガイドは,世界の地質学の発展と共に年を追うごとに増加してきた層序区分などに関する概念を製理し,国際的な層序学者の合意のもと,国際的に共通の枠組みで使用できる層序区分・用語法・手順の指針を示したものである.
*2: ほとんどの年代層序単元の名称は,年代層序単元の模式層としてGSSPが導入される1976年以前に定められていた.GSSPが未定であるために名称未定の年代層序単元が残っている地質時代は,時代が新しすぎて隆起した海成層が少ない第四紀と,時代が古く地層分布が限られたカンブリア紀のみである.
*3: 国際層序ガイド第9章 9H.3: 年代層序単元の境界模式層の選定にたいする要請
参考文献