拡大地層名委員会

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第四紀の下限が変わる!

2009年10月1日
日本地質学会拡大地層名委員会

 

この度,国際地質科学連合(IUGS)の理事会は,2009年6月29日に,第四紀・系の下限を2.588 Maとする国際層序委員会(ICS)の提案を批准いたしました.今回,この変更に関する日本地質学会の対応方針の検討が、理事会より地層名委員会に諮問されております.従来の地層名委員会の委員に,専門部会長,研究委員会委員長,理事等を加えた拡大地層名委員会を立ち上げて検討を開始しました.今後,学術会議や関連学協会と連携をとりながら日本としての対応を検討していきます.

問題の背景を理解していただくために,今回このような変更がなされた経緯に関して簡単に紹介します.

1948年のロンドンでの万国地質学会(IGC)において,第四系の基底は,海生動物群の変化に基づいて決定するとされました.その後の検討により,第四系の基底の模式地(GSSP;Global Strato-type Section and Point)として,イタリア地中海沿岸ヴリカのカラブリア層が選ばれ、同系の基底としてオルドバイ正磁極期上限付近のsapropel層であるe層の上面が指定され,1985年に国際地質科学連合(IUGS)で批准されました.しかしその後,古気候や古海洋環境の変遷に関する研究が進展するにつれ,第四紀更新世の始まりは,深海底コアの底生有孔虫化石の酸素同位体比が現在の値より大きくなる時期,北半球高緯度においてIce Rafted Debirsが産出し始める時期(いずれも北半球氷床の形成を示す),中国レスの堆積開始時期等と一致させるべきとの見解が出され,長らく議論が続けられてきました.

今回批准された提案は,この見解に従ったもので,カラブリア期(Calabrian)の前のジェラ期(Gelasian)が第四紀更新世に含められることになりました.新たな第四系の基底(鮮新統・更新統境界),すなわちジェラ階の基底は,シシリー島のモン・サン・ニコラの南斜面にあり,古地磁気層序における松山/ガウス境界の約1m上位に位置します.その年代は2.588Maであり,これは酸素同位体ステージ(Marine Isotope Stage)のMIS103の基底に相当します.この時期は,地球史のうえでは,パナマ地峡が2.7Ma頃に閉塞したために,現在の湾流(Gulf Stream)に相当する海流が成立し,北半球高緯度域に多量の水分がもたらされ氷床が形成されはじめた時期にあたります.これは,深海底コアの底生有孔虫化石の酸素同位体比の変化からも支持されます(第1図).
 

 
第1図.過去500万年間の深海底底生有孔虫化石の酸素同位体比変動曲線(Lisiecki, and Raymo, M.E. [2005, Paleoceanography, 20, PA1003, doi:10.1029/2004PA001071]をもとに井龍が作成).2.60M頃を境に,現在の値よりも大きな値を示すようになり,4.1万年周 期のミランコビッチサイクルが顕著になっています.

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