標記の地質調査研修が、11月18日(月)〜11月22日(金)の4泊5日、房総半島の山中を中心に行われた。どこの会社でも参加できるような若手技術者を主な対象とした地質調査研修を毎年やってほしいという地質関連会社からの要請を受けて2007年に始まった本研修は、毎年実施して今年で7年目になるが、春・秋と年2回実施するのは今年が初めてである。今回は当初申込み状況が芳しくなかったが、締切日近くになって定員の6名に達し、実施の運びとなった。参加申し込みは、都内の石油天然ガス開発会社2社から4名、千葉県の水溶性天然ガス会社から1名、都内の鉱床・地熱等資源会社から1名であった。分野別には、地質出身が4名、物理探査出身が1名、地球化学出身が1名であった。また、第四紀学や堆積学分野で活躍する千葉県立中央博物館学芸員の岡崎浩子氏には、これらの分野の方への広報を兼ねて、オブザーバーとして都合で前半の2泊3日間のみ参加していただいた。講師は、産総研地圏資源環境研究部門客員研究員の徳橋秀一と産総研地質情報研究部門主任研究員の納谷友規である。
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今回は11月後半というこれまでで一番遅い時期での実施となり、寒さや昼時間の短さが懸念されたが、冷たい風が強かった中日水曜日の曇りを除くと、他の日は小春日和の比較的暖かい晴天に恵まれ、併せて、紅葉も楽しむことができた。また、朝晩が冷えるせいか、山ヒルには一度も出会わないなど、好条件がそろった研修となった。ただ、これまでよりも日が暮れるのが早いのだけは避けられなかったので、宿での朝食の時間をいつもより30分早めて6時半からとし、毎朝宿を出る時間を早めるように努めた。このように天候に恵まれた結果、ほぼ予定通りのスケジュールで実施することができた。
初日は、予定通り午前11時に内房線のJR君津駅に集合、昼食を早めに済ませた後、駅近くのホームセンターで必要な人はスパイク付長靴を購入、その後、初日の研修地に向かって移動、途中宿で着替えをしながら目的地には午後1時半に到着した。初日の研修地域は、小糸川上流の清和県民の森のなかの渕が沢林道沿いである。この林道は、ほぼ東西に伸びる清澄向斜の南翼に位置し、清澄層下部のタービダイト砂岩優勢互層の中を蛇行しながらも走向方向にほぼ平行しながら伸びていることから、いくつかの凝灰岩鍵層を何度も観察することが可能である。研修参加者は、林道沿いに露出するこれらの凝灰岩鍵層の特徴を確認するとともに、クリノメーターを使った地層の走向・傾斜の測定法と、やはりクリノメーターを使ったルート図の描き方を練習、その後、早速ある区間のルートマップの作成に挑戦してもらった(第1図)。ルートマップの作成にあたっては、クリノメーターと歩測(複歩)でルート図を描きながら、同時にそこに露頭の分布状況、岩相、走向・傾斜、凝灰岩鍵層の位置などの情報を描くことになるので、最初大変であるが、毎年この方法で実施している。現地では4時45分ころまで作業を行った。墨入れや着色といった清書作業は、夜宿でひとつのテーブルを囲みながら行い(第2図)、作業が一通り終わったところで、各自作成のルートマップを比較し検討を行った(第3図)。
2日目〜4日目までの3日間は、主に清澄背斜北翼に位置し、地層がほぼ100%連続して露出する小櫃川支流猪の川(黒滝沢)上流(東京大学千葉演習林内)において研修を行った。2日目は、初日の研修対象との関係から、まず上流側の清澄層および天津層上部分布域の沢沿いを上流(南方)に向かって歩きながら、岩相、主な凝灰岩鍵層の特徴を観察、確認した(第4図)。特に、初日に清澄層下部のタービダイト砂岩優勢互層中に上下に離れながら挟まれていたKy9からKy5の凝灰岩鍵層が、ここでは上下に密集して産出し、その間にあったタービダイト砂岩などは全く挟まれていないことが確認され(第5図、第6図)、清澄層初期のタービダイト砂岩は向斜部にしか存在しないこと、その結果、向斜部から背斜軸部へ向けての地層の顕著な収れん現象が起きていることを説明した。その後さらに南下して天津層上部の中を歩いたのち、今度は反転し下流(北方)に向かってルートマップを作成しながらその日の出発点まで歩いた(第7図)。この日作成したルートマップも夜清書し、互いに比較しながら検討した。
3日目は、黒滝不整合直上の地層(上総層群黒滝層)の上下方向での変化を観察するとともに、その直下に広がる安野層の分布域の沢沿いを歩きながら、安野層の岩相や凝灰岩鍵層の特徴を観察した。安野層の場合、多数の凝灰岩鍵層が設定されていることから、そのなかでも特に目立つものには河床に落ちている大きめの泥岩礫に鍵層の名前をチョークでつけて鍵層の横において識別できるようにした(第8図)。安野層分布域の猪の川は、走向方向(ほぼ東西方向)に大きく蛇行しながら流れる上に、その流域に多くの南北性の断層が存在することから(第9図)、多くの鍵層が断層でずれながらも、走向方向によく連続することを歩きながら確認した。また、幅数mの破砕ゾーンを伴うような断層の場合には、その両側でのずれが大きいことも鍵層との関係でおおまかに確認することができた。4日目は、3日目に安野層分布域を歩きながら確認したことをルートマップに表現するのが目的で、黒滝不整合発祥の地である黒滝から始めたが(第10図)、夜にはそれを清書し、互いに比較した(第11図)。また、猪の川での作業が終わったのち、3日目には清澄背斜西側延長部での南翼、北翼における清澄層と天津層の境界部の特徴を林道沿いで観察し(第12図)、4日目には、清澄背斜北翼の三石山林道において、清澄層の代表的な凝灰岩鍵層であるKy21タフ(Hkタフ)やKy26タフを三石山林道沿いで観察するとともに、ご神体が黒滝不整合直上の礫層(黒滝層)である三石山頂上近くの三石寺にも参拝した。
最終日の5日目は、まず、清澄山系に分布する安房層群天津層、清澄層、安野層を堆積した清澄海盆の外縁隆起帯を形成していたと思われる嶺岡構造帯の代表的な岩石(蛇紋岩、層状石灰質チャート、枕状溶岩)を嶺岡山地周辺で観察した(第13図、第14図、第15図)。その後、海岸沿いを北上して勝浦海中公園に行き、まずそこの海蝕崖で、猪の川沿いや三石山林道沿いで観察した清澄層中部のKy21タフ(Hkタフ)を再度観察し、20km前後離れていてもよく連続することや、房総半島中央部では、その下位の地層がタービダイト砂岩優勢互層であったのがこの辺りでは泥岩優勢互層に変化していること(同時異相現象)を確認するとともに、大小の共役断層群を観察した(第16図)。その後、東隣の吉尾漁港の東方に突き出した海蝕崖に沿って、清澄層上部のKy26タフを横目にみながら歩き、先端のボラの鼻を目指した(第17図)。しかし、潮の最も引く時間帯に合わせてはいたが、この時期は夜に比べて昼の潮の引きが十分でなかったため、途中の深みを越せずもう少しのところで引き返した。先端部まで行けるとボラの鼻の黒滝不整合として有名な不整合が観察できたが、やむをえず、防波堤から遠望するにとどめた(第18図)。いずれにせよ、ここでは前日三石山林道沿いで観察した清澄層上部のKy26タフの直上まで黒滝不整合が下位層を侵食しており、房総半島中央部の猪の川沿いでルートマップをつくりながら観察した安野層全体が侵食していることを確認し、不整合の下では侵食が起きるという不整合の基本的現象、定義を黒滝不整合を通して体験した。このあと、清澄層上部のタービダイト砂岩の堆積構造や泥岩中にみられるタービダイト泥岩と半遠洋性泥岩の2種類の泥岩の特徴の違いやKy26タフにみられる水抜け構造などを観察した(第19図)。
これで予定していた研修はすべて終わったので、恒例の研修修了証書の授与式を勝浦海中公園で行い、終了後記念写真を撮った(第20図)。この後、車は北上し、途中上総層群分布域の河床でみられる天然ガスの自然湧出現象を見学した後に近くのコンビニで着替え、4時頃に外房線JR茂原駅で解散した。なお研修期間中は、参加者はルートマップの作成などの作業に追われることから、研修中の主な観察対象や研修作業の様子を写真にとり、それを基に簡単な説明も加えたパワーポイントファイルを作成し、研修後できるだけ早い時期に参加者に渡して記録と復習そしてまとめや報告等に活用してもらっていたが、今年も次の週の後半に届けることができた。
最後に、本研修実施にあたり東京大学千葉演習林のご協力を得ました。また、日本地質学会の担当理事の中澤 努氏と学会事務局にいろいろとお世話になりました。最後にお礼を申し上げます。
(徳橋秀一・納谷友規)
写真でみる2013年度秋の地質調査研修(2013.11.18〜11.22)の実施状況