緊急パネルディスカッション「わが国の防災立地に対する地球科学からの提言」開催報告

日本地質学会理事会
日本地質学会構造地質専門部会

題目:わが国の防災立地に対する地球科学からの提言—平成19年新潟県中越沖地震にあたってー
開催日:2007年9月10日
開催場所:日本地質学会第114年学術大会N2会場(北海道大学札幌キャンパス・高等教育機能開発総合センター内)
開催時間:18:00〜21:30
主催:日本地質学会理事会・構造地質専門部会



本年7月の新潟県中越沖地震により,地質学が活断層・震源断層問題に対する本格的かつ明示的な取組みを緊急にはじめなければいけないことが浮き彫りにされました.
具体的には,なによりも第1に,地震動の評価やシミュレーションの基礎データとなる活断層・震源断層の構造全体を把握する研究に拍車をかけることが必要です.第2に,事業者からも規制当局からも独立な立場で原発防災立地の問題点について指摘し,必要な提言を行うことが喫緊の課題です.


そのため,2007年9月9日(日)〜11日(火)に北海道大学札幌キャンパスで開催した第114年学術大会において,表記の緊急パネルディスカッションを開催しました.これは,日本地質学会 構造地質専門部会の夜間小集会として理事会と共催したもので,新潟県中越沖地震に関わる地球科学的事実をパネラーから提示して頂きながら,地質学会としての新たな一歩を踏み出しました.本報告は,この緊急集会の詳細を,会員をはじめとする皆様にお送りするものです.


今回のパネルディスカッションでの発表,ならびに会場を含めた質疑をとりまとめると,以下のとおりとなります.


1. 地震防災に向けた地球科学への期待

・地質学・活断層の研究で地震発生モデルを構築すること
・潜在断層の評価をすること
・断層の深部と浅部の運動を統一的に解釈すること


2. 具体的な地球科学の課題
・限られたデータを活かす再現モデル構築への支援
・他分野との協調・連携
・地質の不均一性の中での断層発生モデルの提案
・断層深部の詳細情報の把握
・地殻のレオロジーを知ること
・被害の集中している新しい地層・第四紀層をもっと調べること
・巨視的断層パラメーター(断層の走向・傾斜・面積など)の取得と提供


3. 課題の実施案例示
・今のデータのしっかりした評価,特に海の調査
・地質構造形成に関与した主要断層の抽出
・地下地質構造の把握および表層地盤の軟弱さの分布の把握
・地球物理学と連携した,過去の弱線および地質境界の把握
・地質断層の活動性評価の事例研究


4. 国の防災立地への反映方法
・学会からの積極的・タイムリーな情報の発信
・アメリカのようなコミュニティーの作成


5. 総合的な日本地質学会の見解
・分野の壁をはずさなければ,課題の完全な解決はならない
・特に,地質学と地球物理学の互いの特性を持って協力していくべき
・地質学会の法人化の際には,学会でプロジェクトを企画すべき


今回の緊急パネルディスカッションでいただいたこれらのご指摘を踏まえて,日本地質学会はさらに検討を進めていきますが,その際には,目的を定めた学術的な研究に加えて,我が国の防災・立地に如何にそれを反映させていけるかも重要な課題だと認識しているところです.

なお,最後になりましたが,当日の会場運営ならびに報告作成にご協力いただきました各パネラーの皆様に御礼申し上げます.


 

集会報告   

(事務局:日本地質学会構造地質専門部会 重松紀生)

1. 本集会の背景
先日の新潟県中越沖地震と柏崎原発事故に関しては,活断層の調査に関して連日マスコミで様々な見解が表明されています.今後も電力会社ならびに国を初めとする様々な機関で検討がすすむ事になるでしょうが,第3者的立場でかつ科学に依拠した指針が作られるべく努めることは,学会の重要な社会的任務だと思います.
この認識の下で,日本地質学会では,今回の一連の地震と被害について,活断層・震源断層の構造全体を把握する必要性が極めて大きいとの判断に至りました.地質学が活断層問題に本格的且つ明示的な貢献する機会と捉えるべきと考えています.
ここでの日本地質学会の基本的スタンスは,「地質学を初めとする地球科学は,原発防災立地に関わる本質的情報を事前にどれだけ事業者,規制当局,そして市民に提供していたかという深い内省の上に議論する」ことです.
その上に立って,現行の諸指針,諸基準が,地質学を初めとする地球科学の見地からみて十分か,不十分であればどのようなものが付加されなければならないか,という議論にも進みたいと考えるところです.

2. プログラム
題目:わが国の防災立地に対する地球科学からの提言—平成19年新潟県中越沖地震にあたってー
開催日:2007年9月10日
開催場所:日本地質学会第114年学術大会N2会場(北海道大学札幌キャンパス・高等教育機能開発総合センター内)
開催時間:18:00〜21:30
主催:日本地質学会理事会・構造地質専門部会

3. タイムテーブル (下線の付いた発表は別途発表資料あり)
【会場の全体司会:伊藤副会長】
1)挨拶と趣旨説明 木村 学 会長
2)地震・災害の状況と地震震源断層等に関する報告

  1. (独)防災科学技術研究所     青井 真  (4.9MB)
  2.  日本地質学会緊急調査団     小林健太  (4.0MB)
  3. 東京大学地震研究所     佐藤比呂志  (6.2MB)
  4. 国土地理院        飛田幹男   (11.0MB)
  5. (独)産業技術総合研究所     杉山雄一   (912KB)
3)国の安全審査の現状 佃 栄吉 副会長   (704KB)
4)今後の防災立地に向けて(パネルディスカッション)
  1. 京都大学防災研究所        飯尾能久   (1.9MB)
  2. (独)防災科学技術研究所    青井 真
  3. 東京大学地震研究所        佐藤比呂志(1.9MB)
  4. 国土地理院            飛田幹男
  5. (独)産業技術総合研究所      杉山雄一   (1.8MB)
  6. 日本地質学会地質災害委員会委員長        天野一男
  7. 日本地質学会構造地質専門部会会長  高木秀雄

※上記のタイムテーブルの下線の発表については,公開用の発表資料をパネラーにご用意いただきましたのでご参照下さい(氏名をクリックするとPDFファイルがダウンロードできます)。なお,この公開用資料は,基本的に日本地質学会ならびにパネラーご本人からの事前の了承無しに引用等を行うことはできませんので,ご注意下さい.


4. 会場での質疑応答要旨
(発言者の敬称略)
青井:地震ハザードの評価においては,事前に想定しにくいバックグランド地震の扱いは非常に重要.地震発生後に,詳細な調査・探査を行うことにより活断層を設定できても,事前に設定出来ていたとは言いがたい.原子力のような重要構造物においては,費用をかけて事前に詳細な調査・探査をすることもできるが,全国という意味ではどこまでが想定できる地震であるかの見極めは重要.地質・活断層の研究成果に期待.また,海の調査についても期待する.また,今回の地震のようなパルスはランダムフェイズでは説明できず,断層モデルを設定するシナリオ型の地震動予測が重要.事前に断層モデルを拘束するための活断層研究の成果は重要.

佐藤:潜在断層の評価をどうするか?どこでも起こるのか?地質構造の評価の必要性.地質構造形成に関与した主要断層を抽出する.小さめの地震を評価するには地質断層まで見ないといけない?

飛田:地震断層のモデル化する上で,地下地質構造の把握および表層地盤の軟弱さの分布の把握があると有益である.

杉山(代読:佃):情報の発信が必要.地質学の発言力がない.地質学者はアウトカムを意識していないのでは?社会的還元への意欲が低い.みずから他分野との協調・連携が必要.

天野:土木学会は新潟県中越沖地震の後に学会が調査団を送り込み,学会としての統一見解を発表した.地質学会では調査団を送り込んではいるが,サイエンス分野の場合には学会として統一見解を出すのは馴染まず,研究者各自に発言の責任を持たせている.学会として何をすべきだろうか?何も発言していないのではないか?案として,.轡鵐櫃鬚笋襦き地質学会が法人化する時に学会でプロジェクトを企画しては?

高木:なぜそこに活断層が発生したのだろうか?西南日本内帯の主要な活断層の断層ガウジの年代は60-50Ma程度までさかのぼれることを示している.特に花崗岩地殻の中のどのような地質の不均一性の中で断層が発生したかを,過去の弱線および地質境界の把握を行って,地物と連携して解いていく.

伊藤:地質断層の把握の重要性を認識するべき.この拘束には地質学の情報が必要だと思う.

飯尾:物理量と地質データをどう結びつけるか.内陸の活断層地震の発生の理解には,断層の深部と浅部の運動を統一的に解釈することが必要.現在断層深部の詳細情報は地質学的に得ることができる.一方,地物側はトモグラフィーなどで断層深部のデータを持っており,これらの情報をあわせれば,データとして生きてくる.また地質学側から「こういうデータが欲しい」などの発言が欲しい.

佐藤:アメリカのようなコミュニティーの作成が必要.上部地殻のレオロジーを知るには地質学的データが必要であり,もっと早く情報を出す.現在では変動地形分野と地物分野だけで物事が進んでいる.これでは地質調査無用論が出てしまう.地質学者はいいデータを持っているのに損をしている.地質学者には地震にも興味を持って欲しい.

木村:
海を研究するコミュニティーには地質・地物という垣根がない.陸域を研究する人たちも,分野の壁をはずさなければならない.互いの特性を持って協力して研究していく必要がある.

佃:地質の断層を使ってそれが動くか検討する.研究よって明らかになった地質構造からモデルを出して,地物との協力・連携によって提示する.未解決な点が多く,まだまだやるべきことが多い.

伊藤:
地質学として地震研究にきちんと意識して取り組むべき.これまでやってこなかったことを反省する.これからは積極的に発言・提言するべき.しかしこれのプランがないのが現状である.

コンサル会社(聴衆):コンサル側から見ると,今回のようなシンポを学会としてもっとすべきなのではないか?道路維持のための報告で地盤の情報出てきたりしたが,地質学として貢献できるポイントの一つではないか.

民間会社(聴衆):
原発立地におけるM6.5という基準の決め方とかを教えて欲しい.電力会社が作っているのか?コンサルは会社から依頼されてやっている.モデル化する時は,いきなり大学機関などにお願いできないから,まずはコンサル会社にお願いする.他分野と交えた積極的なシンポをきちんとやって欲しい.物理探査のデータはたくさんある.地質学者は地物学者と組んでデータを提示するべき.

佐藤:
(上記の質問を受けて)地質学が地震研究に関わるのは今回が最後のチャンスでは?他の学会は予算獲得に向けてよくやっている.しかし,地質学会はやっていない.地質学者として「これやって何になるの?」に答えられなければならない.地質学者が持っている情報と力量で地質断層の評価をするべき.若手はregionalな地質を知っている人が少ない.それに対して団塊世代はよく知っている.学会がプロモートしてやっていく必要がある.

飛田:地質学者はデータを膨大に持っているので期待している.

青井:地震動の推定のばらつきは,巨視的パラメータによるものの方が大きい.微視的パラメータ(アスペリティや加速度など)も非常に重要ではあるけれど,巨視的断層パラメーター(断層の走向・傾斜・面積など)がないと始まらない.地質学側からこれを設定する際に貢献する情報を提供いただけると良い.それを活かして地物研究者が断層を議論できる.

高木:
このような議論はこのシンポだけでは終わらせない.11月に再度新潟でシンポを開くので,これらをきっかけにもっと考えていきたい.