Vol.24  Issue 4  (December)


[Research Articles]

1. Fission track and U–Pb zircon ages of psammitic rocks from the Harushinai unit, Kamuikotan metamorphic rocks, central Hokkaido, Japan: constraints on metamorphic histories
Ayumi S. Okamoto, Toru Takeshita, Hideki Iwano, Tohru Danhara, Takafumi Hirata, Hirotsugu Nishido and Shuhei Sakata


北海道中央部神居古潭変成岩中の春志内ユニット砂質岩のジルコンU-Pb年代とフィッション・トラック年代:変成史の制約
岡本あゆみ・竹下 徹・岩野英樹・檀原 徹・平田岳史・西戸裕嗣・坂田周平


北海道中央部に分布する神居古潭変成岩類の変成史を制約するため,春志内ユニットの変成砂質岩2試料中のジルコン結晶に対してフィッション・トラック(FT)およびU-Pb年代測定を行った.最も若いU-Pb年代集団の加重平均年代は100.8±1.1 Maおよび99.3±1.0 Ma(2σ)を示した.これらのジルコンは火成起源のoscillatory zoningを示しているため砕屑性ジルコンと推測され,上記の加重平均年代は堆積年代の上限を示す.一方で,FT pooled age は最も若いU-Pb年代集団の加重平均年代とほぼ同じ約90 Maを示した.この事実はFTのリセットが供給源地において起こり,神居古潭変成岩を形成する過程では起こらなかったことを意味する.これらの新しいデータと以前に報告された白雲母K-Ar年代より,春志内ユニットは約100 Ma以降に堆積し,最大深度を経験した後,上昇時(約58 Ma)に局所的な熱イベントの影響を受けたことが推測される.

Key words: deformation microstructures, fission track ages, Kamuikotan metamorphic rocks, U–Pb ages, zircon.
 

2. Permian back-arc extension in central Inner Mongolia, NE China: Elemental and Sr–Nd–Pb–Hf–O isotopic constraints from the Linxi high-MgO diabase dikes
Jingyan Li, Feng Guo, Chaowen Li, Liang Zhao, and Miwei Huang


中国北東部,中央内モンゴルのペルム紀背弧拡大:Linxi(臨沂)高MgOダイアベース岩脈の元素及びSr-Nd-Pb-Hf-O同位体からの制約

中国北東部,中央内モンゴル臨沂地区の前期ペルム紀(272±2 Ma)のダイアベース岩脈は高いMgO(10.4–12.3 wt%),Cr(301–448 ppm),Ni(167–233 ppm)含有量を有し,LIL元素及び軽希土類元素に富み,HFS元素(Nb, Taなど)に乏しく,枯渇したマントル様のSr [87Sr/86Sr(i) = 0.70315-0.70362],Nd [Nd(t) = +6.8–+7.4],Pb [206Pb/204Pb]同位体比とジルコンHf [Hf(t) = +14.7–+19.1]同位体比を有するが,通常のマントルよりもやや高いジルコン18O(5.2-6.0 ‰,平均5.7 ‰)を示す.これらの地球化学的データは臨沂ダイアベースがリサイクルした地殻成分によるメタソマティズムを受けた枯渇マントルに由来することを示す.元素及び同位体組成のモデリングの結果,初生マグマは沈み込んだ古アジア海スラブから放出されたおよそ1%の堆積物流体を含む枯渇マントルの5〜10%の融解で生じたことが示唆される.中央内モンゴル全域にE-MORBからN-MORB的なREEパターンを示す同時代のマフィック岩が広く分布することを考え,前期ペルム紀のマフィック火成活動は古アジア海の北方への沈み込みに対応する背弧拡大と岩石成因論的に関係していると提唱する.ペルム紀マフィック火成活動と本地域から新たに得られた変成・堆積年代は,古生代末までに古アジア海が閉塞したことを示す.

Key words: back-arc extension, central Inner Mongolia, Early Permian, highly depleted mantle, sediment-fluid metasomatism, Sr–Nd–Hf–Pb–O isotopes.
 

3. Recognition of shear heating on a long-lived major fault using Raman carbonaceous material thermometry: implications for strength and displacement history of the MTL, SW Japan
Hiroshi Mori, Simon Wallis, Koichiro Fujimoto and Norio Shigematsu


炭質物ラマン温度計を用いた長期間活動を続ける断層の剪断熱評価:西南日本・中央構造線の強度と変位履歴の推定
森 宏・ウォリス サイモン・藤本光一郎・重松紀生


断層運動により長期間にわたって発生する剪断熱の規模は,議論の分かれる問題であるとともに,地殻内部の断層強度を論じる上でも重要である.炭質物結晶化のカイネティクスに関する実験結果と熱モデリング結果との比較は,炭質物ラマン温度計が,深部から上昇してきた断層帯周辺に露出する岩石を用いた,地質学的時間スケールにおける剪断熱研究に良く適合することを示す.西南日本に分布する中央構造線(MTL)は,総延長800 km以上の日本陸上最大の断層である.炭質物ラマン温度計をMTLに近接する泥質岩に適用した結果は,MTLの断層面に対して垂直方向に約150 mの範囲において約60 ºCのピーク温度の上昇を示す.この熱異常と断層との空間的関係は,熱異常が剪断熱に起因することを示す.熱モデリング結果は,記録された熱異常と急激な温度勾配が,数千年の時間スケールでの非常に速い変位速度と整合的であることを示す.しかしながら,この変位速度は,一般的な観測値の範囲からは外れている.このことは一つの解釈として,横ずれ断層運動時に形成された初生的な幅の広い熱異常が,正断層運動の影響により短縮したことが考えられる.変位速度,初生的な熱異常の幅,熱の継続時間およびピーク温度に対する制約結果は,摩擦係数µが0.4以上であることを示す.

Key words:Keywords: carbonaceous-material, coefficient of friction, core analysis, Median Tectonic Line, Raman spectral analysis, Sanbagawa (Sambagawa) belt, shear heating, thermal anomaly, thermal modeling.