Vol. 22  Issue 1 (March)

 

特集号

Frontier of micro-scale analysis of HP and UHP rocks
Guest editor: Kazuaki Okamoto, Masaru Terabayashi and Hiroshi Yamamoto

高圧、超高圧岩の微小解析の最前線
岡本和明・寺林 優・山本啓司
<序文>
沈み込み,衝突,上昇過程を解明するため,数多くの高圧,超高圧変成岩に関する研究が行われてきた.これらの高圧,超高圧変成岩の基礎的な岩石記載により,高圧,超高圧鉱物の多くは低圧条件の鉱物に部分的,もしくは完全に置き換えられていることが明らかになってきた.高圧,超高圧鉱物は,より固い鉱物中に包有物として保存されている場合や,離溶組織を示している場合がある.そのため,高圧,超高圧変成岩に対して,温度圧力条件の推定,局所領域の年代測定,岩石変形組織解析などが有効である.これらを中心とした新しい様々な側面からの解析は,高圧,超高圧変成岩の研究に新知見をもたらしている.
 

1. Metamorphic P–T evolution of high-pressure eclogites from garnet growth and reaction textures: Insights from the Kaghan Valley transect, northern Pakistan
Hafiz Ur Rehman, Hiroshi Yamamoto and Shin Keijiro

ざくろ石の成長と反応組織に基づく高圧変成岩の温度圧力履歴:パキスタン北部カーガーンバレーからの知見
Hafiz Ur Rehman・山本啓司・秦 圭治郎


パキスタン北部のカーガーンバレーにはヒマラヤ変成帯の岩石が分布している.この地域ではインドプレートがアジアプレート下に100 km以深まで沈み込んで超高圧に達したことがわかっている.カーガーンバレーのマフィック岩については昇温期,ピーク,降温期の少なくとも三つの変成イベントが識別できる.ざくろ石の組成累帯構造と包有物,および主要構成鉱物間の反応関係は,ざくろ石のコアが昇温期に,中間部は超高圧の条件(2.3 ± 0.4 Gpa,766 ± 107℃)で形成されたことを示す.ざくろ石の縁辺部が角閃石と接していることとシンプレクタイトの存在から,角閃石エクロジャイト相から角閃岩相に至るときの温度圧力条件は平均して1.5 ± 0.2 Gpa,710 ± 75℃であったと推定できる.ざくろ石の累帯構造は,Caに乏しく相対的に広い領域を占めるコアとCaに富む薄い中間部,および縁辺部から構成され,最外縁に沿って緑泥石と角閃石を生じている.これらの特徴はざくろ石が大きく成長した時期が概ねインド−アジアの衝突より前であり,縁辺部は衝突後の上昇期に形成されたことを示す.
 
Key Words : eclogites, garnet growth, Himalayan Metamorphic Belt, Kaghan Valley, P–T evolution.
 

2. Redox state at ultrahigh-pressure metamorphism: Constraint from the Chinese Continental Scientific Drilling eclogites
Kazuaki Okamoto, Borming Jahn, Tzeng Fu Yui and Masahide Akasaka

超高圧変成作用における酸化還元状態:CCSD(中国大陸科学掘削)エクロジャイトからの制約
岡本和明・Borming Jahn・Tzen-Fu Yui・赤坂正秀


流体組成を推定するため,CCSD(中国大陸科学掘削)エクロジャイトの炭素鉱物の同定を行った.グラファイトと黄鉄鉱がエクロジャイト中に含まれており,変成作用に伴う脱水流体がH2O に富む(CO2 に乏しい)ことを示す.本研究で用いたエクロジャイト試料には,CaEs 成分(Ca0.50.5AlSi2O6)に富む単斜輝石が含まれている.よって,単斜輝石中のFe3+ は電子線マイクロアナライザーの分析値から求めることはできない.メスバウワー分析により単斜輝石中のFe3+/Σfeを求め,フェンジャイト−ざくろ石−単斜輝石—コース石の鉱物組み合わせを用いた圧力温度計から本研究試料のエクロジャイトの変成圧力温度条件を求めた.その結果,,3-4 GPa, 650-780 ℃であることを見積もった.本研究で得られた圧力温度条件は,これまでCCSD エクロジャイトの研究で報告されているものより,低い変成条件であり,Fe3+の正確な見積もりが重要であることを示している.
 
Key Words : Fe3+ content in clinopyroxene, redox state, ultrahigh-pressure eclogite
 

3. Micro-X-ray absorption near edge structure determination of Fe3+/ΣFe in omphacite inclusion within garnet from Dabie eclogite, East-Central China
Masaru Terabayashi, Takashi Matsui, Kazuaki Okamoto, Hiroaki Ozawa, Yoshiyuki Kaneko and Shigenori Maruyama

中国中央東部大別山エクロジャイト中のザクロ石に包有されたオンファス輝石の三価鉄/総鉄比のマイクロX線吸収微細構造による決定
寺林 優・松井 隆・岡本和明・小澤大成・金子慶之・丸山茂徳


大別山超高圧変成帯エクロジャイトのザクロ石に包有されているオンファス輝石のFe3+/∑Feを放射光マイクロビームによるX線吸収端近傍構造解析によって求めた.大別山超高圧変成帯東部のShimaからWumiaoにいたる,南北約20kmのトラバースで採取されたエクロジャイト10試料のザクロ石中に包有されたオンファス輝石のFe3+/∑Feは0.18〜0.59で,電子線マイクロアナライザによる分析値から計算で見積もったFe3+/∑Fe(0.00〜0.31)よりも高い.大部分のエクロジャイトの地質温度計による形成条件は500〜700℃の範囲になる.地質温度圧力計で求めた温度圧力条件は花崗岩類のウェットソリダスより低温となる.
 
Key Words : Dabie, eclogite, micro-XANES, omphacite inclusion, ultrahigh-pressure
 

4. Northward extrusion of the ultrahigh-pressure units in the southern Dabie metamorphic belt, east-central China
Hiroshi Yamamoto, Masaru Terabayashi, Hyugo Okura, Takashi Matsui, Yoshiyuki Kaneko, Masahiro Ishikawa and Shigenori Maruyama

中国南大別変成帯の超高圧ユニットの北向き押し出し上昇
山本啓司・寺林 優・大倉飛雄虎・松井 隆・金子慶之・石川正弘・丸山茂徳


中国中央部の大別造山帯は三畳紀に中朝地塊と揚子地塊が衝突して生じたと考えられている.大別造山帯南部のShima–Wumiao 地域において変成岩類の構造解析を行い,変成複合岩体をほぼ水平に重なる4つのテクトニックユニットに区別した.それらを構造下位から順にユニットI, II,III, およびIV と呼ぶ.全てのユニットにおいて珪長質片麻岩が優占的である.ユニットI にはエクロジャイトと少量の泥質片麻岩,ユニットII にはコース石仮像を含むエクロジャイトが含まれる.同様にユニットIII は泥質片麻岩,石灰質変成岩,およびエクロジャイト(稀にコース石を含む)を,ユニットIVは角閃岩と少量の泥質片麻岩を含む.定方位試料の剪断変形構造によると,ユニットI とIIでは上盤側が北向きに変位するセンスが卓越し,ユニットIII とIV では上盤側が南向きの変位センスが卓越する.ユニットI–IIとIII–IVで剪断センスが逆になることは超高圧の ユニットII とIIIがユニットI とIVに対して相対的に北に押し出されるように上昇したことを示している. 変成帯形成時のプレート沈み込みと上昇の向きは逆傾向のはずなので,大別造山帯における超高圧変成作用は,中朝地塊が南向きに揚子地塊の下に沈み込んだことによるものと考えられる.
 
Key Words : Dabie, exhumation, shear sense, structure, ultrahigh-pressure.
 

5. Rheological contrast between glaucophane and lawsonite in naturally deformed blueschist from Diablo Range, California
Daeyeong Kim, Ikuo Katayama, Katsuyoshi Michibayashi and Tatsuki Tsujimori

カリフォルニア・ディアブロレンジに産する藍閃石片岩中の藍閃石とローソン石の強度比
Daeyeong Kim・片山郁夫・道林克禎・辻森 樹


本論文では,ローソン石を含む藍閃石片岩の変形微細組織から,藍閃石とローソン石の強度比を議論した.解析したカリフォルニア・ニューイドリア産の藍閃石片岩は主に藍閃石とローソン石から成るが,結晶選択配向の集中度ならびに結晶のアスペクト比は,藍閃石が卓越する領域の方が強い傾向を示す.このことは,ローソン石に比べ藍閃石の塑性強度が低く変形が集中したこと意味する.沈み込んだ低温高圧変成岩のレオロジーは主に藍閃石に支配されると考えられる.
 
Key Words : blueschist, crystal-preferred orientation, glaucophane, lawsonite, rheological contrast, strain localization.
 

6. SHRIMP U–Pb dating of zircons related to the partial melting in a deep subduction zone: Case study from the Sanbagawa quartz-bearing eclogite
Miyuki Arakawa, Kazuaki Okamoto, Keewook Yi, Masaru Terabayashi and Yukiyasu Tsutsumi

深部沈み込み帯での部分融解に関わるジルコン・シュリンプ U-Pb 年代; 三波川石英エクロジャイトの研究例
荒川 幸・岡本和明・Keewook Yi・寺林 優・堤 之恭


四国中央部の三波川変成岩から部分融解組織を持つエクロジャイトの露頭が発見された.部分融解年代を決定するために,部分融解部分とホストのエクロジャイトに関して,ジルコンU-Pb SHRIMP 年代測定を行った.部分融解領域のジルコンは,円形で,セクター構造を持っている.コアとマントルのU-Pb 年代は,130-113 Ma(平均年代 120 Ma)で,リムの年代は115-104 Ma である.エクロジャイト中のジルコンは均質なコアと薄いマントルト,リムから構成されている.U-Pb 年代は123-112 Ma に集中している.これらの証拠より,120 Ma にエクロジャイト相の変成作用が起こり,110 Ma に部分融解が起きたと結論される.
 
Key Words : eclogite, partial melting, Sanbagawa high P–T metamorphic rocks, zircon U–Pb age dating.
 

7. Recycled crustal zircons from podiform chromitites in the Luobusa ophiolite, southern Tibet
Shinji Yamamoto, Tsuyoshi Komiya, Hiroshi Yamamoto, Yoshiyuki Kaneko, Masaru Terabayashi, Ikuo Katayama, Tsuyoshi Iizuka, Shigenori Maruyama, Jingsui Yang, Yoshiaki Kon and Takafumi Hirata

南チベット・ルオブサオフィオライトに産するポディフォームクロミタイトから得られたマントル内を循環した地殻起源ジルコン
山本伸次・小宮 剛・山本啓司・金子慶之・寺林 優・片山郁夫・飯塚 毅・丸山茂徳・Jingsui Yang・昆 慶明・平田岳史


南チベット地域・ルオブサオフィオライトに産するポディフォームクロミタイトからジルコンを系統的に分離し,レーザーアブレーションICP質量分析法により,それらのU-Pb年代を求めた.得られた年代値は約100-2700Maと非常に幅広く,それらの多くはコンコーディア曲線上にプロットされ,本オフィオライトのクロミタイト形成から期待される年代より“異常”に古い.また,これらのジルコン中には,石英や長石といった地殻起源鉱物が包有物として存在し,マントル鉱物はみられない.従来から,インド洋およびそれに遡るテチス海マントルは,地殻物質による汚染を受けていることが指摘されているが,クロミタイトから得られた異常に古い年代値をもつ地殻起源ジルコンは,かつて上部マントルへもたらされた後,最終的にクロミタイトに捕獲されたリサイクル地殻物質であると結論づけられる.
 
Key Words : crustal contamination, Gondwana breakup, Neo-Tethys mantle, podiform chromitite, zircon U–Pb dating.
 

通常論文

[Research Articles]

1. The tectonic evolution of a Neo-Tethyan (Eocene–Oligocene) island-arc (Walash and Naopurdan groups) in the Kurdistan region of the Northeast Iraqi Zagros Suture Zone
Sarmad A. Ali, Solomon Buckman, Khalid J. Aswad, Brian G. jones, Sabah A. Ismail and Allen P. Nutman

イラクZagros縫合帯北東部クルディスタン地域におけるネオテーチス(始新世—漸新世)島弧(WalashおよびNaopurdan層群)のテクトニックな進化

WalashおよびNaopurdan層群は,イラクZagros縫合帯(IZSZ)における下位の異地性衝上地塊の一部を構成する.WalashおよびNaopurdan火山岩類から分離したマグマ性の長石から得られた40Ar/39Ar年代は始新世から漸新世を示す(43.1±0.15〜24.31±0.6Ma).WalashおよびNaopurdan層群は,現在Hasanbag火成複合岩体として知られる(以前はGemo–Qandil層群として知られた)白亜紀の島弧に関係した岩石(106〜92Ma)からなる上部異地性岩体の構造的下位を占める衝上シートを構成する.WalashおよびNaopurdan異地性岩体下部は前地盆地であるRed Beds系に衝上している.WalashおよびNaopurdan層群の火山性および亜火山性の地層は,Mawat, Galalah–Choman, LerenそしてQalander– Sheikhan地方において研究された.これらの岩石の殆どは,NaopurdanおよびWalash両岩系において,玄武岩質から安山岩質である.記載岩石学的研究によって,これらの岩石は緑色片岩相の変質を受けているが,火成起源の斜長石,輝石,普通角閃石が残存する初生的な斑状組織が保持されていることが分かった. LREE/HREEのエンリッチメントおよび高い Th/Nb,Nb/Zrから,WalashおよびNaopurdanの岩石が異なる沈み込み帯に関係した特徴を有することが分かる.具体的には,Naopurdanでは島弧ソレアイト,Walashではカルクアルカリからアルカリ岩である.よって,WalashおよびNaopurdanの地層は,43〜24Maに発達した,それぞれ背弧および島弧系に由来する.従って,IZSZはネオテーチスの衝突前に関係した二つの沈み込みセッティングにおける早期白亜紀(Hasanbag火成複合岩体)から始新世—漸新世(Walash–Naopurdan層群)の火山活動を全て記録している.おそらく中期中新世に,最後のネオテーチス海がイラン大陸の下に沈み込み,アラビアプレートとの衝突が起こった結果,最終的な大陸—大陸衝突が始まった.これがトルコからイラクおよびイランを経てオマーンにいたるアラビアプレートの縁辺全域に沿ったイベントの連続性を強調する.
 
Key Words : 40Ar–39Ar geochronology, arc, Iraq, Naopurdan, Walash, Zagros.
 

2. Determination of 2D strain from a fragmented single ammonoid
Atsushi Yamaji and Haruyoshi Maeda

アンモナイト断片からの二次元歪み推定に関するノート
山路 敦・前田晴良


従来,変形したアンモナイトから,変形前の巻き方が対数螺旋であったと仮定して,歪みが見積もられてきた.小論では肋の間隔に注目し,平面巻きアンモナイトで,Rf/φ歪み解析法の一種,hyperbolic vector mean methodにより歪み楕円とその95%信頼限界が決定できることを示す.この方法では,断片であっても半巻き以上が残っていればよい.北上山地から産した半巻きのアンモナイト断片を例にして,この方法を説明する.
 
Key Words : strain analysis, ImageJ, hyperboloid model, slaty cleavage
 

3. How the Mariana Volcanic Arc ends in the south
Robert J. Stern, Yoshihiko Tamura, Harue Masuda, Patty Fryer, Fernando Martinez, Osamu Ishizuka, and Sherman H. Bloomer

マリアナ火山弧はいかにして南端で終わるか
Robert J. Stern・田村芳彦・増田晴江・Patty Fryer・Fernando Martinez・石塚 治・Sherman H. Bloomer


南部マリアナ島弧—海溝系は急速に変形しており,その結果,島弧と背弧海盆のマグマ系の異常な相互作用をもたらしている.本論では,この地域の火山の新たな地球化学的情報を提示し,考察する.グアム北西30 kmにある活動を停止した海底火山であるTracey海山は,マリアナ弧最南端にある成層火山である.Tracey海山は深さ125 kmの沈み込んだスラブの上に位置し,最近では0.527±0.023 Ma (40Ar/39Ar 年代)に典型的な島弧性のマフィックおよびフェルシック溶岩のバイモーダルな噴火をしている.非公式にアルファベット海底火山群(ASVP)と呼ばれる,変わった一群の玄武岩質小海山群が,Tracey海山の南西で次の島弧火山があるべき場所に見つかっている.これらのうち6火山の試料について調べた.熱水活動に示されるように,ASVPのうち少なくとも2火山は最近活動している.単一の成層火山をつくるような噴火中心の集中が見られないことは,ASVPが背弧拡大の強い影響下にあることを反映したものである.これに対して,南部ASVPは南方の東西に走るマリアナ海溝チャレンジャー海淵に沿って沈み込んだ太平洋底の狭いスラブの急速なロールバックによる南北拡大の影響を受けている.ASVP溶岩組成はTracey海山や他のマリアナ弧の溶岩とは明らかに異なり,マリアナトラフの背弧海盆玄武岩に類似した特徴を示す:マフィックなソレアイト質で,低K2O,枯渇したLREE,低87Sr/86Srを有し,海溝に近いより島弧的な溶岩からさらに西方の背弧海盆玄武岩類似の組成へと変わる傾向を示す.通常とは異なるASVPのテクトニックな背景は,長期間活動を続ける島弧火山下で互いに混じり合い,上昇噴火して分散したASVP小火山群を形成した異なる島弧マグマバッチが,強い組成勾配をもったマントルの融解をどのように反映するかについて比類のない展望を提供するものである.
 
Key Words : back-arc basin, basalt, Mariana Arc, Mariana Trough