2024年度 名誉会員

 

加藤碵一(かとう ひろかず)会員
1947年9月14日生(76歳) 産業技術総合研究所名誉リサーチャー

 加藤碵一会員は東京教育大学理学部および同大学大学院で地質学を専攻し、1975年4月に通商産業省工業技術院地質調査所に入所した。地質部層序構造課長、国際協力室国際地質課長、首席研究官、企画室長、環境地質部長などを歴任し、1999年から地質調査所次長、2001年から産業技術総合研究所地球科学情報研究部門長、2003年から東北センター長、2006年から理事、2008年からフェロー・地質調査総合センター代表を務めた。2009年に退職後、産業技術総合研究所名誉リサーチャー、応用地質株式会社顧問、東・東南アジア地球科学計画調整委員会(CCOP)Honorary Advisorなどを務めている。この間、1977年に東京教育大学より理学博士の学位を取得、2022年秋に瑞宝中綬章を受章した。  加藤会員は本州中部の新第三系と第四系の地質学研究で多くの成果を挙げた。地質調査所の基幹業務である地質図類作成に大きく貢献し、特に主要フィールドである北部フォッサマグナの5万分の1地質図幅「坂城」、「粟島」、「長野」、「大町」、「信濃池田」を単独または筆頭で作成した。加藤会員が作成に関わった地質図類は28枚に及ぶ。それらと並行して1983年度から1985年度にかけてトルコ・アナトリア断層地域の地震・活断層・地殻変動の研究を主導した。また、CCOPに1998年から2012年まで参加し、プロジェクト推進や共同研究の調整など多国間の国際協力に貢献した。さらに、関係者の協力を受けて2003年に「Eastern Asia Geological Hazards Map」を出版した。その成果に対して2005年に日本自然災害学会から「ハザード2000国際賞」が授与された。  加藤会員は国や地方自治体の多くの専門委員などを務め、社会的に大きな功績を残した。海洋研究開発機構や防災科学技術研究所、資源・環境観測解析センターなどの運営にも外部委員として協力した。他にも、日本列島地質百選選定委員会委員、日本ジオパーク委員会委員などの委員を務め、委員活動を通じても地質学の発展に寄与した。また、大学では長年非常勤講師として人材育成に努めた。さらに、加藤会員が著した多くの書籍は地質学の教育と普及に貢献している。2000年以降はライフワークとして宮沢賢治に関する地質学的観点からの研究を続けており、それについての著作も多い。2007年には岩手県花巻市から「第17回宮沢賢治賞奨励賞」が授与されている。  加藤会員の本学会に対する功績もたいへん大きい。1994年から地質学雑誌の編集委員長を1年間務め、2002年9月から2006年5月までは副会長として学会運営に貢献した。また、本学会の日本地方地質誌(朝倉書店)刊行委員会委員長として全巻出版(2006年「中部」から2017年「東北」まで)を成し得た指導力と調整力も特筆に値する。  以上のように、加藤碵一会員は学術研究、教育、普及、社会貢献、そして学会運営に多大な功績を残しており、本学会の名誉会員として相応しい人物と判断し、ここに推薦する。


 

狩野謙一(かの けんいち)会員
1947年6月2日生(77歳) 静岡大学名誉教授・ 静岡大学防災総合センター客員教授

狩野謙一会員は東京大学理学部地学科および同大学大学院理学系研究科で地質学を専攻し、1974年10月に東京大学理学部に助手として着任した。1979年に東京大学より理学博士を授与され、同年4月に静岡大学教育学部講師に着任、1983年助教授、1988年に理学部へ転任、1993年より教授を務め、2013年に定年退職し静岡大学名誉教授の称号を授与された。この間、1992年10月から1年間Auckland大学名誉客員教授を務めた。現在、静岡大学防災総合センター客員教授を務めている。
 狩野会員は、専門である構造地質学の観点から、西南日本内帯美濃帯の構造解析、およびそれをもとにした日本海拡大と伊豆弧衝突による大小スケールの屈曲構造形成を含む地殻構造改変の理解に大きく寄与した。また、静岡県と隣接地域にまたがる赤石山地を中心とした詳細な地質調査を行い、付加体とそれを切る断層・構造帯の形成と運動過程を実証的に示した。これらの研究成果は日本列島の地質構造発達史の理解を大きく前進させた。このように狩野会員の研究成果は日本の地質学の発展に寄与しただけでなく、静岡県の20万分の1地質図をはじめとした多くの図幅や教科書に採用され、今なお確固とした学術的基盤を形成している。
 狩野会員は「歩いて調べる野外地質学」の研究者・教育者として、静岡大学在任中に多くの優秀な学生を育成した。卒業生・大学院修了生の多くは地質コンサルタントなど専門分野を生かした分野で活躍している。また、狩野会員は多くの専門書・普及書を著し、それらは地質学の教育と普及に役立っている。特に、豊富な実例を提示し構造地質学分野で日本初とも言える実践的教科書となった『構造地質学』(朝倉書店)は、プレート沈み込み帯の地質を理解する上で不可欠である付加体、メランジュ、断層と地震、褶曲等の項目に関する詳細かつ平易な解説によって高く評価され、韓国版に翻訳されるなど地球科学系の書籍としては広く普及した名著となった。この「教科書の発行と構造地質学の普及への貢献」に対して、2012年に本学会から学会表彰を受けた。また、狩野会員は国や地方自治体の数多くの委員も歴任した。
 狩野会員の本学会の運営と発展に対する功績も大きい。2002年から3期6年間にわたり現在の執行理事に相当する役職である執行委員および理事、2008年から2年間は法人化後の理事を務めた。構造地質部会部会長や各賞選考委員会委員長なども歴任した。また、2003年から2008年まで地質学雑誌編集委員長として雑誌の安定した出版と発展に尽力した。
 以上のように、狩野謙一会員は学術研究、教育、普及、社会貢献、そして学会運営に多大な功績を残しており、本学会の名誉会員として相応しい人物と判断し、ここに推薦する。


 

鳥海光弘(とりうみ みつひろ)会員
1946年12月22日生(77歳) 東京大学名誉教授

 鳥海光弘会員は東京大学理学部地学科および同大学大学院理学系研究科で地質学を専攻し、1973年に東京大学総合研究資料館助手に着任した。その後、1977年愛媛大学理学部助教授、1985年東京大学理学部助教授、1991年同教授を経て、1998年から同大学大学院新領域創成科学研究科教授を務め、2010年に定年退職し東京大学名誉教授の称号を授与された。この間、1995年東京大学総長補佐、2005年新領域創成科学研究科副研究科長などを歴任した。2008年からは海洋開発研究機構上席研究員、2011年同機構地球内部ダイナミクス領域長、2013年同海洋地球生命史研究分野長などを務めた。
 鳥海会員は既存の学問の枠にとらわれず数理科学および物理化学的なアプローチを駆使することで、地質学的諸問題に対して顕著な功績をあげてきた。その功績は変成岩岩石学からマントルレオロジー、造山運動、大陸のダイナミクス、地震活動の数理解析まで多岐に渡る。変成岩岩石学では、従来の化学平衡の枠を超えて流体力学や粉体力学を導入し、変成帯の構造や変形組織から歪みや応力を定量化する先駆的な研究を行った。放散虫の変形解析による歪み・応力の定量化、曹長石変晶やざくろ石変晶の幾何学解析による鉱物粒子の移動、包有物の形状解析による加熱時間や歪み速度の定量化などである。また、実験岩石学的手法により鉱物の再結晶特性を決定することでマントルレオロジーの定量化を行ったほか、応力計を考案した。さらに、非平衡・非線形系科学およびデータ駆動科学を導入することで、変成反応と流体流れの相互作用やクラック形成メカニズム、地震発生の空間相関性などを明らかにした。これらの功績により、1978年に日本地質学会奨励賞、2009年に日本地質学会賞を受賞した。2016年には日本地球惑星科学連合フェローに選出された。
 鳥海会員は長年にわたり変成岩岩石学を中心として多くの後進を育てるとともに、卓越した数理科学の知識を背景に非平衡・非線形系・データ駆動科学の導入を地質学においていち早く提唱し、常に地質学界に刺激を与え続けてきた。鳥海会員が研究者育成および地質学の活性化に果たした功績は大変大きいと認められる。また、地質学に関する専門書や一般書籍の執筆・監修は30冊近くにのぼり、放送大学でも講義を担当するなど、地質学の教育、普及、啓発に積極的に取り組んできた。  鳥海会員は地質学雑誌編集委員会委員を5年間務めた後、1998年からの2年間は同雑誌編集長として雑誌の安定した出版と発展に尽力した。また、2000年から2002年にかけては評議員として本学会の運営に大きく貢献した。
 以上のように、鳥海光弘会員は学術研究、教育、普及、社会貢献、そして学会運営に多大な功績を残しており、本学会の名誉会員として相応しい人物と判断し、ここに推薦する。