■学会賞(1件) | ■功績賞(2件) | ■小澤儀明賞(1件) | ■柵山雅則賞(1件) |
■論文賞(4件) | ■Island Arc Award(1件) | ■研究奨励賞(4件) | ■フィールドワーク賞(2件) |
道林克禎 会員(名古屋大学大学院環境学研究科)
対象研究テーマ:地殻とマントルのレオロジーと構造地質学的研究
道林克禎会員は,岩⽯の変形組織の観察と分析により,岩⽯の強度や地震学的特性に関する研究を展開してこられた.特に,カンラン⽯に富むマントル岩⽯に関する研究で優れた成果をあげておられる.海洋リソスフェアを研究する上で,世界的に貴重な陸上岩体の⼀つであるオマーン・オフィオライトなど,道林会員は世界各地から数多くのマントル岩⽯試料を採取され,それらの分析により,海洋リソスフェアにおける断層を含む縦⽅向の剪断帯の発達する向きが,そのリソスフェアの形成後まもない⾼温の時期につくられた,⽔平⽅向の剪断帯のカンラン⽯の結晶軸選択配向に⽀配されていることを明らかにされた.この結果は,海洋リソスフェアの強度分布を理解する上で貴重な新知⾒である.また,道林会員は天然の岩⽯の結晶軸選択配向の測定・解析に基づいて,リソスフェアにおける地震学的異⽅性の成因に関する研究成果を挙げてこられた.例えば,オマーン・オフィオライトにおける研究では,⼀般的に⾒られるリソスフェアの主要な地震学的異⽅性が,そのリソスフェアの若い時に獲得されたものであることを⽰された.これにより,マントルの地震学的な異⽅性が測定地域の局所的なマントル流動を反映していない可能性があり,この異⽅性がプレート運動⽅向と斜⾏する可能性もあることが明らかになった.
また,道林会員は海洋リソスフェア・マントルの変形構造を体系的に研究するために,⽇本海洋研究開発機構と連携して,深海の海底などアクセス困難な場所からも岩⽯試料の採取にも成功しておられる.その研究成果によって,マントルの結晶軸選択配向パターンとそれらに付随する物理的特性の全球的な変化に対する理解が深まった.この研究の⼀環として,道林会員はカンラン岩の地震学的異⽅性の程度と特徴を図⽰できる⽅法を提案した.この図⽰法の導⼊により,岩⽯試料のP波速度の異⽅性を定量的に⽐較することが容易になり,異なるテクトニクス環境におけるリソスフェア・マントルの結晶軸選択配向の分布像を描き出す試みに⼤きく貢献された.
道林会員は⽇本地質学会の理事や⽇本地球惑星科学連合の副会⻑などを務めるなど,地球科学分野の学協会運営にも貢献しておられ,また,多くの若⼿研究者を育ててもおられる.このように道林会員の地球科学分野の発展及び⽇本地質学会への貢献は⼤きい.以上のことから,道林会員に⽇本地質学会賞受賞を授与する.
授賞者:小山内康人 会員(九州大学大学院比較社会文化研究院)
対象研究テーマ:高度変成岩類を用いた造山運動と大陸の成長・進化における研究の推進
⼩⼭内康⼈会員は,造⼭帯深部でおこる変成・⽕成作⽤の研究を通じて、⼤陸地殻の進化過程の解明に携わってこられた.そして,その鍵となるいくつかのプロジェクトを⽴案・推進するとともに,若⼿研究者の育成などで重要な貢献を果たされた.
⼩⼭内会員の研究対象地域は国内外にわたり,そのうち我が国の南極観測事業への参画は1987年以降5次を数え,特に第49次隊では副隊⻑を務め,また第58次隊でも事業の推進に⼤きな責務を果たされた.そして,これらの経験を活かして,現在は情報・システム研究機構国⽴極地研究所運営会議委員や⽂部科学省南極地域観測統合推進本部委員などとして,極地研究の重要な⽅針策定に携わっておられる.
南極共同研究の⼀連の研究により,セール・ロンダーネ⼭地における⼤陸衝突境界の存在が明らかになった.さらに,ゴンドワナ⼤陸の中で,かつて南極と繋がっていたスリランカ・インドの超⾼温変成岩類に関する研究成果とあわせることによって,超⾼温変成作⽤進⾏場のテクトニクスの理解や過去の⼤陸の復元にとって重要な発⾒をされている.また,⼩⼭内会員が中⼼となって⽴ち上げたベトナム・コンツム地塊の調査プロジェクトでは,エクロジャイトや超⾼温変成岩を報告し,島弧̶海溝系から⼤陸衝突帯への移⾏過程を理解する上で重要な発⾒をなされた.そして,モンゴル調査での成果とあわせて,東アジアの形成史を論じておられる.
⼩⼭内会員のこれらの研究成果の多くは,多⽅⾯の国際共同研究として⾏われ,本邦と世界各地の研究者ネットワーク形成に多⼤な貢献をするとともに,多くの研究者育成にも繋がった.さらに同会員が共同執筆しておられる『記載岩⽯学』と『解析岩⽯学』は,岩⽯学を学ぶ上で貴重な教科書であり,教育への貢献も⼤きい.加えて,地質学会評議員や理事を⻑く努め,学会運営にも⼤きく貢献してこられた.以上の理由により,⼩⼭内康⼈会員に⽇本地質学会功績賞受賞を授与する.
授賞者:佐藤比呂志 会員(東京大学地震研究所)
対象研究テーマ:反射法地震探査を軸とした日本のサイスモテクトニクス研究の推進
佐藤⽐呂志会員は,広範囲の地質調査にもとづく東北⽇本の新⽣代テクトニクスを研究した経験を基盤として,反射法地震探査を軸とした⽇本のサイスモテクトニクス研究を⻑年主導し,地表の活断層と深部の震源断層の関係を特定する研究を続けてこられた.この過程で,島弧−海溝系において地殻構造の形成に関与した断層が引き続き震源断層として挙動していることに注⽬し,サイスモテクトニクス全体像構築における地殻構造研究の重要性を鮮明にした.さらに,東北横断合同地殻構造調査を初めとした海陸統合深部構造探査等の⼤規模共同研究を遂⾏する中で,活断層−震源断層システムが⽇本列島の形成・成⻑過程の⼀部としての位置付けを持つものであることを,具体的データによって明らかされた.
佐藤会員らが明らかにしてきた活断層−震源断層システムは,⽇本のサイスモテクトニクス研究の基盤となる重要な成果であり,現在では地震学,地球物理学,測地学,地形学データとともに内陸地震発⽣の予測には不可⽋なものとなっている.
佐藤会員は,反射法地震探査を軸とした⽇本のサイスモテクトニクス研究活動の持続・発展のために,1995年兵庫県南部地震以降,⼤規模な共同研究の企画と実⾏に⻑年携わり,国内の学術活動を牽引してこられた.佐藤会員のリーダーシップにより得られた⽇本の島弧−海溝系構造探査は,先進的成果をまとめた多くの特集号に結実している.その編集にあたっては,研究者育成にも配慮された.
このように佐藤会員が⻑年主導してこられた⽇本のサイスモテクトニクス研究は,我が国の地質学界への⼤きな貢献である.佐藤会員はまた,政府の地震調査研究推進本部が進める活断層評価等にも参画して,研究成果に基づく提案を⾏うなど,地震防災⾏政を学術⾯から⽀えてこられた.以上の理由により,佐藤会員に⽇本地質学会功績賞を授与する
授賞者:沢田 輝 会員(海洋研究開発機構)
対象研究テーマ:太古代・原生代における地殻消長メカニズム変遷の地質記録断片からの解読
沢⽥ 輝会員は,ジルコンのU-Pb年代および微量元素組成の測定,そして蓄積された多量のデータの統計処理によって,太古代・原⽣代における地殻消⻑メカニズムの変遷などに関して,次のような注⽬すべき成果を公表してこられた.
およそ20億年より前にできた⼤陸地殻は⼤陸地殻全体の20%程度に過ぎず,⼤陸地殻の形成年代に不均質が認められる.沢⽥会員は,この要因を理解するために,共同研究者ともに堆積年代の異なる太古代堆積岩中の砕屑性ジルコン年代分布を系統的に⽐較してその変遷を論じ,約30億年前と20億年前を境に,⼤陸地殻の形成年代が多様化したことを⾒いだされた.そして,初期地球では現在の海洋性島弧のような構造場で活発な地殻形成と消失を繰り返していたのに対して,その後は太古代を通じて個々の⼤陸サイズは次第に増⼤し,結果として様々な時代に形成された地殻が⼤陸内部に安定地塊として保存されたとするモデルを提唱しておられる.およそ10億年前からは,⼤陸地殻の総⾯積が漸減する.沢⽥会員はそれを島弧—海溝系で活発に進⾏している地殻の侵⾷および地殻物質の沈み込み現象に起因するとの⾒解を公にしておられる.これらの成果は,⺟岩の堆積年代の違いを考慮せず,ジルコン年代を⼀括して扱うことによって提唱されてきた従来の,始原的マントルからの⼤陸地殻の分化という単純なモデルに基づく考察とは⼀線を画すものである.また,これらの研究の過程で,アフリカ南部ジンバブエ地塊において現地地質調査を精⼒的に⾏い,太古代〜原⽣代における当該地域の地帯構造発達史を詳しく論じておられる.沢⽥会員は,御荷鉾緑⾊岩類中の⽕成ジルコンの年代値や微量元素組成に基づき,その原岩についても論じておられ,それは枯渇したマントルに由来する苦鉄質マグマ活動によってジュラ紀後期に形成された海台に由来することを明らかにされた.これは,御荷鉾緑⾊岩類の形成史の議論のみならずジルコン鉱物学の新たな⽅向性にとっても重要な貢献である.
沢⽥会員は,このように独⾃の地質学的視点と微⼩鉱物の組成分析に基づいて卓越した研究成果を公表してこられた.また,現在では,研究対象を超苦鉄質岩中の希少なジルコンへと拡⼤し,⼤陸地殻だけでなく海洋地殻やマントルも含む包括的な固体地球進化の解読に挑んでおられる,今後も活躍が期待できる若⼿研究者である.以上のことから,沢⽥会員に⼩澤儀明賞を授与する.
授賞者:大柳良介 会員(国士舘大学理工学部)
対象研究テーマ:プレート境界領域における岩石-水相互作用と反応輸送過程の実態解明
⼤柳良介会員は,プレート境界の岩⽯-⽔相互作⽤における開放系での反応輸送過程の重要性に着⽬し,地学現象の時空間尺度を決定する新機軸の研究を展開しておられる.そのため,天然の組織観察と鉱物組成変化,⽔熱反応実験による組織再現,溶液化学と最新のデータ駆動型解析を取り⼊れた数値モデリングを融合させて研究を進めてこられた.
プレート境界における物理化学プロセスは,岩⽯・⽔反応を伴う⽔溶液の移動に⼤きく左右される.⽯英・カンラン⽯・⽔溶液系の物質移動を伴う反応速度を求めるバッチ系実験から,流通系での動的反応実験に成功し,中間⽣成物や反応溶液の組成から反応の進⾏メカニズムを⼤柳会員は明らかにされた.⽔溶液の移動を含む多相系反応は,詳細反応経路を⼀意に決める事が困難だが,データ駆動型解析を駆使することで,反応に関与した鉱物と反応速度を精緻に決定し,反応輸送モデルを推定することにも成功しておられる.また,⽔熱実験と地球化学モデリングを組み合わせた研究からは,蛇紋岩化反応の律速過程が中間⽣成物の変動で動的に変化し,流体圧が部分的に上昇することを明らかにされた.これらの研究により,岩⽯―流体反応の時空間発展に⽀配されるプレート境界の物質変化と⼒学的挙動の変動などを定量的に明らかにする,データ駆動地球科学ともいうべき研究領域の開拓が,⼤柳会員らによって始まったといえる.
同会員はまた,伊⾖・⼩笠原海溝の海⻲海⼭から,しんかい6500により採取された炭酸塩脈を含む蛇紋岩の岩⽯学および詳細な3次元岩⽯破砕組織を解析し,⽔溶液・破砕粒⼦流体の流動数理モデルを適⽤することで,炭素を含んだ⽔溶液の前弧域での,間⽋的な⽔溶液・破砕蛇紋岩の上昇が,秒速0.1〜0.01mという⾼速で⼗⽇から千⽇の時間尺度で,4万年以上にわたり繰り返し起こった事を明らかにされた.この研究は海溝斜⾯における⼒学過程に岩⽯学的な新たな視点から重要な束縛条件を与え,プレート境界での諸過程に新たな視点を提供したことになる.
上記のように,プレート境界領域の物質科学において先進的な成果を挙げ,新規分野を開拓してきた⼤柳会員は,今後も多様な分野での活躍が期待できる若⼿研究者である.以上のことから,⼤柳会員に⽇本地質学会柵⼭雅則賞を授与する.
対象論文:Yoshihiko Tamura, Osamu Ishizuka, Tomoki Sato, Alexander R. L. Nichols, 2019 , Nishino shima volcano in the Ogasawara Arc: New continent from the ocean? Island Arc 28, e12285
Nishinoshima, a small island located ~1,000 km south of Tokyo in the active Ogasawara arc,is the subaerial summit of a much larger submarine volcano. The existence of this island has been known since 1702, but its first recorded eruption was in 1973. Following a lull of four decades, it suddenly began erupting again in November 2013 and activity has continued on and off until the present day. Tamura et al. (2019) reported whole rock geochemistry of lavas and scoria dredged from the main submarine volcanic edifice in 2015 and subaerial lava blocks from the 2015 eruption sampled by unmanned helicopter. Both the submarine and subaerial samples are andesitic in composition (58–62 wt% SiO2), and similar to the andesitic composition of the 1973 eruption products and pre-1973 edifice. The crust underlying Nishinoshima volcano is 21 km thick, without any thinning due to ri[ing, and thus Nishinoshima is one of the closest arc volcanoes to the mantle on the Earth. Based on the study of these lavas and scorias from Nishinoshima volcano, Yoshi Tamura and others verified the ‘Advent of Continents hypothesis’ that was proposed by their previous paper. They discovered primitive basalt lavas on knolls surrounding Nishinoshima and olivine-bearing phenocryst-poor andesites from the submarine flanks of the volcano. Their petrological and geochemical studies revealed that andesites erupted in recent history are the result of olivine fractionation from primary andesitic magmas. These primary magmas originate from the partial melting of hydrous mantle rocks, specifically plagioclase peridotites, at relatively low pressures. The thin crust in the Ogasawara Arc region allows for this low-pressure melting. The study of Nishinoshima volcano enhances our understanding of the volcanic activity and magma evolution in the oceanic arc. Moreover, the authors provide valuable insights into the geological characteristics of Nishinoshima volcano. The implications are: (1) the rate of continental crust accumulation, which is andesitic in composition, would have been greatest soon after subduction initiated on Earth, when most crust was thin; and (2) most andesite magmas erupted on continental crust could be recycled from “primary” andesite originally produced in oceanic arcs. In summary, the significant contributions and valuable insights provided by this study make it highly deserving of the 2023 Island Arc Award.
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https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/iar.12285
対象論文:入月俊明・柳沢幸夫・木村萌人・加藤啓介・星 博幸・林 広樹・藤原祐希・赤井一行,2021,近畿地方の瀬戸内区に分布する下‒中部中新統の生層序と対比. 地質学雑誌, 127, 415‒429.
⻄南⽇本の中軸に点在する中新統は,かつて瀬⼾内中新統として⼀括されていたが,近年の年代層序の発展に伴って,時代の異なる地層が含まれることが指摘されるようになった.近畿地⽅にのみ残存する,いわゆる瀬⼾内中新統がどんなものか,⼊⽉会員らは岩相層序と⽣層序を⻑年詳細に調査し,産出した微化⽯(珪藻・浮遊性有孔⾍・⾙形⾍)に基づき⽣層序を明らかにした.この論⽂では,鮎河,綴喜,⼭辺および⼭粕の各層群を検討し,微化⽯層序と古地磁気層序などを組み合わせることによって層群間の年代層序学的関係を明確にした.さらに,他の層群との広域対⽐を試み,近畿地⽅から中部地⽅にかけての広い範囲に分布するいわゆる“瀬⼾内区”の中新統が19〜15 Ma の汎世界的な4 回の海⽔準上昇期に関連して形成された可能性が⾼いことを指摘した.本研究は,⽇本海拡⼤期の本州弧のテクトニクス・古環境・それらへの⽣物相の応答といった問題について,今後の研究を基礎づけるものである.以上のことから,本論⽂に⽇本地質学会論⽂賞を授与する.
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/127/7/127_2021.0002/_article/-char/ja/
対象論文:内野隆之・羽地俊樹,2021,北上山地中西部の中古生代付加体を貫く白亜紀岩脈群の岩相・年代と貫入応力解析から得られた引張場.地質学雑誌,127,651‒666.
前期⽩亜紀の⼤島造⼭運動のとき,北上⼭地の中古⽣代付加体には多様な⽕成岩脈が頻繁に貫⼊した.筆者らは北上⼭地の根⽥茂帯と北部北上帯において,そうした岩脈を,読者 が利⽤できるよう,詳しい位置情報を含めて約80枚記載した.また,放射年代測定により,約130〜120 Maに岩脈群が形成されたことを明らかにした.さらにそのうえで,岩脈の姿勢から応⼒解析を⾏い,北⻄-南東⽅向の引張応⼒場を検出した.従来,⼤島造⼭運動は東⻄圧縮場下で起こったと考えられていきたが,バレミアン〜アプチアン期の⼀時期には引張場に転換した可能性を初めて⽰した.これは後続の研究で,肯定的に検証されつつある. 筆者らはこの論⽂で,今世紀に⼊って⾰新された,岩脈の応⼒解析法を利⽤している.以前の⽅法では,最⼤⽔平応⼒の⽅位しかわからず,3本の主応⼒軸のうちどれが鉛直に近いかを決定できなかったが,今⽇ではそれが可能になっている.本論⽂は,この⽅法を⽇本の中⽣代の岩脈群に初めて適⽤したもので,国内に広く分布する中⽣界の研究がそれによって展開する可能性を実例によって⽰した.以上のことから,本論⽂に⽇本地質学会論⽂賞を授与する.
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対象論文:Noda, A., Sato, D., 2018. Submarine slope‒fan sedimentation in an ancient forearc related to contemporaneous magmatism: The Upper Cretaceous Izumi Group, southwestern Japan. Island Arc, 27, e12240.
⻄南⽇本に分布する和泉層群は,後期⽩亜紀の前弧海盆にかんする貴重な記録である.本論⽂は,松⼭平野で採取されたコア試料に含まれる総厚165 mの和泉層群最下部を対象に,堆積学的・岩⽯学的な観察,砂岩の組成解析,及び凝灰岩のU‒Pb年代から堆積環境の変遷を論じたものである.著者らは,本論⽂で和泉層群を6つのユニットに細分し,そこに⾒られる岩相の遷移より,堆積システムが⾮⽕⼭性の泥質斜⾯または盆地床から,⽕⼭砕屑性の砂質海底扇状地に変化したことを⽰した.また,ジルコン粒⼦の U‒Pb 年代から,凝灰岩ユニットが⼭陽帯の珪⻑質⽕⼭岩に相当することも⽰した.本論⽂は,連続性が担保されるコア試料の利点を⽣かし,研究例の少ない和泉層群の堆積学的検討を⾏った点において貴重である.また,本論⽂には,和泉層群,⼤野川層群,及び領家・⼭陽帯からの年代データがレビューされており,今後の研究に資するものと期待される.以上の理由から,本論⽂に⽇本地質学会論⽂賞を授与する.
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https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/iar.12240
対象論文:Yoshida, K., Tamura, Y., Sato, T., Hanyuy, T., Usui, Y., Chang, Q., Ono, S., 2022. Variety of the drift pumice clasts from the 2021 Fukutoku-Oka-no-Ba eruption, Japan. Island Arc, 31, e12441.
⼩笠原諸島南⽅の福徳岡ノ場における2021年8⽉の噴⽕は,琉球列島に多量の軽⽯をもたらし,運輸・漁業関係を中⼼に⼤きな影響を与え,マスメディアやSNS などで⼤きく取り上げられた.本論⽂はこのとき放出された軽⽯について,漂着地での実地調査および岩⽯学・地球化学的研究を実施し,⼀連の軽⽯が多様な⾊や組織を⽰すにもかかわらず,全岩組成としては⼀様な粗⾯岩質であることを⽰し,特に特徴的な⿊⾊の軽⽯が,⽕⼭ガラス中の磁鉄鉱ナノ粒⼦晶出により⿊⾊化していることを明らかにした.ナノ粒⼦の晶出はマグマの粘性を引き上げるため,噴⽕機構に⼤きな影響を与えることが近年注⽬を集めており,本⽕⼭の噴⽕にもその影響が指摘された意義は⼤きい.また,漂着現場は「安全な地学教材」としての側⾯も持つことから,軽⽯の多様性についての物質科学的な記載整理が速やかになされた点は,アウトリーチの側⾯からも意義深い.軽⽯関連現象を網羅的に記述した本論⽂は,⽣物学等の分野からの注⽬度も⾼い.以上の理由から,本論⽂に⽇本地質学会論⽂賞を授与する.
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https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/iar.12441
受賞者:原田浩伸 会員(東北大学大学院理学研究科地学専攻)
対象論文:Harada, H., Tsujimori, T., Kunugiza, K., Yamashita, K., Aoki, Sl., Aoki, K., Takayanagi, H., Iryu, Y., 2021. The δ13C‒δ18O variations in marble in the Hida Belt, Japan. Island Arc, 30, e12389.
本論⽂で著者らは,変成炭酸塩岩から造⼭運動に伴う流体‒岩⽯相互作⽤や元素移動の記録を解読する⼿法を⼀般化するために,⾶騨帯の⼤理⽯と⽯灰珪質岩のC‒O‒Sr 同位体⽐を系統的に解析した.掘削コア試料から選別した標本に対して詳細な岩⽯組織記載に基づくマイクロサンプリングを駆使し,200 あまりの点から⾼精度C‒O 同位体値を得た.酸素同位体⽐の幅は流体との同位体交換によること,⽯灰珪質岩で⾒られた低い炭素同位体⽐は広域変成作⽤に伴う脱炭酸反応によるものと結論づけた.国内の地質試料で脱炭酸反応を岩⽯学的観察と同位体地球化学の双⽅から解析し,地殻内における炭酸塩の挙動解明に向けた可能性を⽰したことは特筆に値する.これらのことから,原⽥浩伸らによるこの論⽂に⽇本地質学会研究奨励賞を授与する.
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https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/iar.12389
受賞者:佐久間杏樹 会員(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)
対象論文:Sakuma, A., Kano, A., Kakizaki, Y., Tada, R., and Zheng, H., 2021, Upper Eocene travertine-lacustrine carbonate in the Jianchuan basin, southeastern Tibetan Plateau: Reappraisal of its origin and implication for the monsoon climate. Island Arc, 30, e12416.
アジアモンスーンシステムの成⽴について,ヒマラヤ-チベットの隆起との関連性が古くから論じられてきたが,その開始時期はいまだ明確ではない.近年のチベット周辺地域の研究では,後期始新世に起こった明瞭な湿潤化がモンスーン気候の始まりを⽰すと⽰唆されている.その根拠の⼀つは,湖⽔成とされた中国雲南省剣⼭盆地のJiuziyan 層である.本研究で佐久間会員らは,Jiuziyan 層の炭酸塩堆積物の層序,堆積相,同位体組成を調査し,従来の⾒解を再検討した.その結果,炭酸塩は湖⽔成ではなくトラバーチンであり,その酸素・炭素同位体に年縞と考えられる明瞭な周期的変化があることが⽰された.本研究は,始新世後期においてこの地域に降⽔量の季節変化があったことを再確認したものである.本研究は佐久間会員が学位研究の⼀部として主体的に進めたものと認められ,グローバルな視点から主に炭酸塩岩の野外調査と地球化学的分析を⾏う能⼒がうかがえる.以上のことから,佐久間杏樹会員らによる本論⽂に,⽇本地質学会研究奨励賞を授与する.
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https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/iar.12416
受賞者:鈴木康太 会員(エネルギー・金属鉱物資源機構)
対象論文:Suzuki, K., Kawakami, T., Sueoka, S., Yamazaki, A., Kagami, S., Yokoyama, T., Tagami, T., 2022, Solidification pressures and ages recorded in mafic microgranular enclaves and their host granite: An example of the world's youngest Kurobegawa granite. Island Arc, 32, e12462.
本論⽂は,世界で最も若い⿊部川花崗岩に広く分布する⾓閃⽯を含む苦鉄質⽕成包有岩(MME)に注⽬し,それと⺟岩である花崗岩の固結圧⼒が⼀致することを⽰した.また,MME のジルコンU-Pb年代が⺟岩よりも若⼲古いことを明らかにした.⺟岩のジルコンは斜⻑⽯コアと基質に産するのに対し,MME では基質にのみ産する.その観察にもとづいて,著者らは⺟岩とMME のジルコンが,それぞれ初期晶出相と末期晶出相と解釈し,MME のジルコン年代のほうが岩体の固結年代として適切であると考察した.本論⽂は,⺟岩に⾓閃⽯を⽋く花崗岩体でもMME を⽤いた固結圧⼒・年代決定の有効性が⽰され,世界各地の若い花崗岩体に適⽤することで急速な隆起・削剥メカニズムの解明に寄与することが期待される.以上の重要な貢献により,鈴⽊康太会員らによるこの論⽂に,⽇本地質学会研究奨励賞を授与する.
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https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/iar.12462
受賞者:山岡 健 会員(産業技術総合研究所地質調査総合センター)
対象論文:Yamaoka, K., Wallis, S. R., 2022. Recognition of broad thermal anomaly around the median tectonic line in central Kii peninsula, southwest Japan: Possible heat sources. Island Arc, 31, e12440.
三波川帯の低変成度部が中央構造線と接する,紀伊半島⾼⾒⼭地域を対象として,著者らは詳細なマッピングと構造解析をおこなった.また,砕屑粒⼦を⽤いた歪み解析および炭質物ラマン温度計分析を稠密に⾏うことで,中央構造線へ向かう3 km規模の温度上昇構造を描出し,また,この温度上昇が塑性変形の変形度とは無関係であることを⽰した.さらに,熱モデル計算によるフィッティングから,温度上昇の主要因は断層活動に伴う剪断熱ではなく,⾼温流体の流⼊にあったことを論じた.この結論は,紀伊半島での既存研究と異なる新たなものである.また巨⼤断層帯周辺の地質現象を探る上で,広く適⽤可能な総合的アプローチを⽰した点も⾼く評価出来る.以上の理由から,⼭岡健会員らによる本論⽂に⽇本地質学会研究奨励賞を授与する.
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https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/iar.12440
受賞者:江島圭祐 会員(山口大学大学院創成科学研究科)
対象論文:Eshima, K., 2021. Anatomy of Shaku–dake high–Mg diorite, southwest Japan: Lithofacies variations and growth process of high–Mg diorite stock. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 116, 83–95.
本論⽂は北部九州の⽩亜紀尺岳閃緑岩体について,登攀技術を駆使した徹底的な野外調査および⾼密度サンプリングをもとに,マグマ上昇から定置までの詳細な三次元的履歴を明らかにした.幾つかのマグマ注⼊ポイントから岩脈状に上昇したマグマが,ある特定の深度で半固結状態の岩体中⼼部に向かってシル状に併⼊する過程が複数回繰り返され,岩体が成⻑したことを⽰した.このような詳細なマグマ上昇・定置履歴は,岩体周縁部の層状構造や⺟岩への貫⼊様式などの野外産状の綿密な記載と,⾼密度の全岩化学組成・モード組成および記載岩⽯学的データに基づいている.本論⽂で⽰された三次元的なマグマ定置モデルは,単純な境界条件を仮定した従来の数値計算からは描像し得ないものであり,地殻内部におけるマグマ定置プロセスの理解を向上させる研究として⾼く評価される.以上の理由により,本論⽂に⽇本地質学会フィールドワーク賞を授与する.
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/jmps/116/2/116_200917/_article/-char/ja
受賞者:羽地俊樹 会員(産業技術総合研究所地質調査総合センター)
対象論文:Haji, T. and Yamaji, A., 2020, Termination of intra-arc rifting at ca 16 Ma in the Southwest Japan arc: The tectonostratigraphy of the Hokutan Group. Island Arc, 29, e12366.
⽇本海が拡⼤した中新世の前半,いわゆるグリーンタフが⽇本海沿岸を厚く覆った.この論⽂が対象とした兵庫県北部の北但層群は,⼭陰地⽅のグリーンタフを代表する⽐較的厚い地層だが,層序の概要が20世紀半ばに報告されて以来,研究が停滞していた.⽻地俊樹⽒は丹念な地表踏査により,北但層群内の⼆層準で不整合を発⾒し,それにもとづいて同層群の堆積中に沈降したハーフ・グラーベンを⼆つ発⾒した.そして,それらのグラーベンを画する正断層が,東北⽇本弧のグラーベン境界断層より変位量で⼀桁⼩さいことに注⽬し,⻄南⽇本弧の伸⻑変形が相対的に⼩さかったことを⽰唆した.これは,⽇本海拡⼤時に⻄南⽇本がほぼ⼀体としてドリフトしたという説を⽀持する結果である.さらには,16 Ma 頃に伸⻑変形が終わったことも⽰した.これは,古地磁気から⽰唆されている⻄南⽇本弧の回転終了と同時であり,また,15 Ma まで伸⻑テクトニクスが続いたとする通説の⾒直しを迫る成果である.以上のような成果は,詳細なルートマップや地質図,断⾯図,写真によって裏付けられている.以上のことから,この論⽂に⽇本地質学会フィールドワーク賞を授与する.
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https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/iar.12366