2017年度各賞受賞者 受賞理由

■学会賞(1件) ■国際賞(1件) ■柵山雅則賞(1件) ■Island Arc賞(1件) ■論文賞(1件)
■小藤文次郎賞(1件) ■研究奨励賞(1件) ■功労賞(1件) ■学会表彰(1件)  

日本地質学会賞


受賞者:ウォリス サイモン(名古屋大学大学院環境学研究科)
対象研究テーマ:構造岩石学と造山帯のテクトニクス


    ウォリスサイモン氏は,造山運動のメカニズム解明のため,プレート収束境界の塑性変形した岩石を対象とし,野外調査を基軸としながら,多彩な分野横断型研究を展開して来た.特に沈み込み型境界をなす三波川帯や領家変成帯において,石英,オリビン,蛇紋石の微細構造(格子定向配列)を用いた剪断センスや流動特性の決定,また野外での変形脈の産状等を用いた渦度(変形の回転成分)解析において重要な成果をおさめた.特に三波川帯での運動学的渦度解析は,国際的にも標準的手法の一つになっている.
また,運動論を時間軸や速度論も組み込んだダイナミクスへと昇華させるため,岩石学,年代測定,熱モデル計算など,複数手法の融合研究をも先駆的に行い,総合科学としての造山運動論を実践してきた.大陸衝突体における変成岩の上昇が,変成岩の流動性の増加が引き金となって起きたことを明らかにした.中国の蘇魯(スールー)超高圧変成帯では,流動性増大が変成岩の部分溶融によること,また,南チベットでは花崗岩質マグマの貫入に伴う温度上昇によることを明らかにした.三波川帯の超苦鉄質岩に記録されたオリビンの格子定向配列が,実験によって存在が示唆されていたB-typeであることに加え,それが実験の予言通りに含水条件の産物であることが岩石学的に示されたことで,現世沈み込み帯における地震波速度異方性の解釈にも重大な影響を与えた.近年,ウォリス氏らの研究は深さ約40kmでのスロー地震の発生機構を,天然の岩石が引き起こす地殻-マントル相互作用,特にブルーサイトの挙動に関係付けるに至っている.さらにウォリス氏の研究姿勢から生まれた手法開発型の研究としてラマン炭質物温度計の低温(付加体)領域への拡張がある.この業績の影響は大きく,既に複数の研究者がこの温度計の低温領域での利用を開始している.
ウォリス氏は研究のみならず教育にも意欲的に取り組んでおり,指導した学生・院生の多くが研究者やエンジニアとして活躍している.また,Island Arc誌の編集長,副会長,執行理事として日本地質学会にも多大な貢献を果たしてきた.
以上のように,ウォリスサイモン氏が日本の地質学の発展に果たしてきた多岐にわたる業績は極めて大きく,日本地質学会賞に推薦する.
 

日本地質学国際賞


受賞者:Richard S. Fiske(スミソニアン協会・国立自然史博物館)
対象研究テーマ:海底噴火における水中火砕流の運搬・堆積機構


  スミソニアン協会のRichard S. Fiske博士は水中火砕流を見いだし,その運搬堆積機構に関する理論的体系を築き上げた世界的権威である.氏はジョンズホプキンス大学で学位取得後,1960年に東京大学地質学教室における戦後初の外国人ポストドクトラル研究員として来日し(受入:久野久教授),大学院生の松田時彦氏(東大名誉教授)と共に南部フォッサマグナ常葉層の詳細な野外地質調査を行った.常葉層中の軽石層が二重の分級堆積構造を示すことを発見し,水中火砕流の存在を世界で初めて報告した(Fiske & Matsuda, 1964).その後,米国地質調査所で氏はハワイ火山の噴火活動に関する研究やシェラネバダ山脈の中生代海底噴火堆積物に関する研究などで成果を上げ,1976年にスミソニアン協会国立自然史博物館に転任され,1980年から5年間,同博物館館長を務められた.
ハワイやシェラネバダにおける旺盛な研究活動とともに,1960年以来幾度となく来日して日本の地質学研究者と深く交流し,日本人研究者のプライオリティを尊重しながら,その研究成果を広く国際的に紹介されたことは特筆に値する.さらに国際的な海洋地質学共同研究においても日米の橋渡し役を引き受けてこられた.具体的には,1990年代には,伊豆弧海底カルデラ群で実施された詳細な調査航海に自らも乗船し,日本の潜水艇に乗り込み,日本人共同研究者らとともに,海底火山発達史や海底噴出物の運搬堆積機構に関する数々の先駆的な研究(Fiske et al., 1998; Iizasa et al., 1999; Fiske et al., 2001; Tani et al., 2008など)を行い,海底火山研究において日本が世界的なプレゼンスを得ることに貢献された.一方,西伊豆の白浜層群においても水中噴火プロセスについて数々の新知見を得て水中火砕流の運搬および定置機構の体系化を完成させたのである(Cashman & Fiske, 1991; Tamura et al., 1991など).これらの研究を通して,氏は南部フォッサマグナ地域を含む伊豆小笠原弧が海底火山噴火現象とそれに伴うテフラの運搬・定置機構プロセス研究の絶好のフィールドであることを世界に発信し,日本の地質学研究者を大いに鼓舞している.
こうしたRichard S. Fiske博士の業績と日本地質学界への多大な貢献に鑑み,氏を日本地質学会国際賞候補者として推薦する.

日本地質学会柵山雅則賞


受賞者:平内 健一(静岡大学理学部地球科学科)
対象研究テーマ:沈み込み帯と蛇紋岩のレオロジー


 平内健一会員は,蛇紋岩のレオロジーが沈み込み帯でのダイナミクスへ与える影響に関して,フィールド調査と室内変形実験の2つのアプローチによって取り組み,多くの成果を挙げて来た.
平内氏は最初に黒瀬川帯やフランシスカン帯においてフィールド調査を行い,蛇紋岩の構造解析や微細組織観察によって,その変成・変形履歴の解明に取り組んだ.従来,蛇紋岩はかんらん岩の変質物として厄介者扱いされ,構造地質学分野においても研究対象からは避けられる傾向が強かった.そうしたなか平内会員は蛇紋岩がもつ特異な物性に着目し,複雑な蛇紋石組織を丹念に読み解く地道な研究を丁寧に進めた結果,蛇紋岩が地表付近ではなく上部マントル相当深度で形成され,その後地表付近に定置されるという運動像を明らかにした.
学位取得後は,蛇紋岩が沈み込み帯プレート境界の力学特性に与える影響を評価するため,固体圧・ガス圧三軸変形装置を用いて蛇紋岩の高温高圧実験を行った.その結果,(1)地震発生帯の下限が前弧マントルウェッジにおける蛇紋石の存在により限られること,(2)プレート境界における力学的カップリングの程度が蛇紋石種の違いによって大きく変化すること,(3)蛇紋石の摩擦特性がスロー地震に代表されるゆっくりとした破壊を起こすには十分であること,などを明らかにした.また,日本学術振興会特別研究員時代に留学したユトレヒト大学では,回転式剪断試験機を用いて蛇紋石の熱水摩擦実験を行い,シリカに富むスラブ起源流体の存在によって蛇紋石が滑石へと相変化し,スラブ・マントル境界強度が著しく低下する可能性を明らかにした.これらの実験結果は沈み込み帯プレート境界域におけるすべり・流動様式に対して新たな知見を与え,地震学などの分野においても高く評価されている.
静岡大学赴任後は学生とともにフィールド調査と室内実験を融合する研究スタイルを発展させ,沈み込み帯プレート境界で起きる様々な現象(スロー地震など)の解明に取り組んでいる.また最近では,かんらん岩試料の熱水変形実験に取り組み,海洋プレートの沈み込み発生機構として,トランスフォーム断層などの既存の断層面に沿った海水の浸透の重要性を指摘している.また,これまでに海洋研究開発機構による伊豆・小笠原弧における「しんかい6500」による深海底調査や新学術領域研究の「地殻流体」および「地殻ダイナミクス」に参加するなど活躍の場をさらに広げている.以上の高い実績と将来性により,平内健一会員を柵山雅則賞に推挙する.
 

日本地質学会 Island Arc賞


受賞論文:Yui Kouketsu, Tomoyuki Mizukami, Hiroshi Mori, Shunsuke Endo, Mutsuki Aoya, Hidetoshi Hara, Daisuke Nakamura, Simon Wallis, 2014, A new approach to develop the Raman carbonaceous material geothermometer for low-grade metamorphism using peak width, Island Arc, 23, 33-50.

 Kouketsu et al. (2014) present a new, simple methodology of geothermometers, which is applicable to low−medium grade metamorphic rocks, specifically to estimating metamorphic temperatures in the range of c. 150−400 ˚C. This fine work was done by the Raman spectrum analysis of carbonaceous material from 19 metasediment samples of Jurassic to Cretaceous ages collected from widely separated areas of Southwest Japan (the Shimanto, Chichibu, Kurosegawa, Sambagawa and Mino-Tamba belts), which were metamorphosed at temperatures from 165 to 655°C. A key finding from the analysis is that there exist clear correlations between the peak width (FWHM: full-width at half maximum) of Raman bands of carbonaceous materials and metamorphic temperatures. Estimating recrystallization temperature for low-grade metamorphic minerals including carbonaceous materials has been difficult, but now can be easily conducted with the suggested geothermometers. The obtained results are due to the accumulation of highly elaborate and deliberate research. This paper will contribute widely in the future works of metamorphic terranes.
This paper also won the 2015 Island Arc Most Downloaded Award, which was presented by Wiley to the most frequently downloaded article in 2015 amongst all papers published in Island Arc during 2010−2014. In addition, it received a high number of citations–based on the Thomson Science Index for the year 2015–amongst the candidate Island Arc papers published in 2013–2014 (Volumes 22 and 23), which has considerably contributed to raising the impact factor of Island Arc. The first author, Dr. Kouketsu, is one of the most active young Japanese geologists working on the structural transition of carbonaceous materials in metamorphic and sedimentary rocks, based largely on laboratory works with rock samples collected from different places of the world. She is also interested in the application of spectroscopy to petrology and geology. This paper adds to her many contributions and is a worthy recipient of the 2017 Island Arc Award.

>論文サイトへ(Wiley)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/iar.12057/full

日本地質学会論文賞



受賞論文:Atsushi Nozaki, Ryuichi Majima, Koji Kameo, Saburo Sakai, Atsuro Kouda, Shungo Kawagata, Hideki Wada and Hiroshi Kitazato, 2014, Geology and age model of the Lower Pleistocene Nojima, Ofuna, and Koshiba Formations of the middle Kazusa Group, a forearc basin-fill sequence on the Miura Peninsula, the Pacific side of central Japan, Island Arc, 23, 157-179.

  本論文は、詳細な野外調査と複数のボーリングコア観察に基づき、三浦半島北部に分布する上総層群中部野島層、大船層、小柴層の岩相層序を確立し、さらに石灰質ナンノ化石層序、浮遊性有孔虫の酸素安定同位体比測定によって、野島層上部から小柴層下部に酸素同位体比ステージ(MIS49-61)を認定し、精度の高い年代モデルを構築したものである。本邦だけでなく、北西太平洋海域においても,この時代の複合年代モデルを構築した例はほとんどなく、特筆すべき研究成果である。また、筆者らは本研究の年代モデルに基づいて、コアに挟在する24枚のテフラ層の堆積年代を決定することに成功した。特に飛騨山脈が給源とされ、多摩丘陵や房総半島に広く認められるとされる広域テフラKd24およびKd25両テフラの年代値を更新したことは、関東平野のみならず、日本各地に分布する前期更新統の年代観に新たな知見を与え、ひいては今後、高精度の年代に基づく地層形成過程の復元や堆積盆発達史を考察する上で重要な意味を持つと考えられる。本論文は、詳細な野外調査による岩相記載、微化石年代と酸素安定同位体比を駆使した複合年代層序といった、層序学のオーソドックスな手法を用い、地道なデータを丹念に積み重ねが結実した優れた論文であると評価できる。以上の理由より、本論文を地質学会論文賞に推薦する。

>論文サイトへ(Wiley)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/iar.12066/full

日本地質学会小藤文次郎賞


受賞者:佐藤活志(京都大学大学院理学研究科)
対象論文:Katsushi Sato, 2016, A computerized method to estimate friction coefficient from orientation distribution of meso-scale faults. Journal of Structural Geology, 89, 44–53.


  断層の摩擦強度は地震防災上重要であるため,地下の条件を模擬した摩擦実験が盛んに行われている.この論文は,断層が活動したときの摩擦強度を,フィールドデータから見積もった世界初の研究成果である.すなわち佐藤氏は,断層スリップ・データの方向の多様性が,断層を動かした応力の時空的変化のみならず,断層の摩擦係数にも依存することに着目し,断層群の平均的摩擦係数を推定する方法を開発した.そして,外房地域の下部更新統の露頭でみられ,単一の応力状態で活動したと考えられる小断層群に適用した.そこで得られたデータセットの場合,岩石の通常の摩擦係数と大差ないという結果となったが,開発された方法は種々の地質体に適用可能なものであり,今後はさまざまな地域への適用が期待される.社会的重要性を持つ課題に対応して,フィールド研究の新手法を提案したこの成果は,小藤文次郎賞にふさわしいものと評価できる.

>論文サイトへ(ELSEVIER)
http://www.sciencedirect.com/science/journal/01918141/89

日本地質学会研究奨励賞


受賞者:三田村圭祐((株)建設技術研究所)
対象論文:三田村圭祐・奥平敬元・三田村宗樹,2016,生駒断層帯周辺における露頭規模での脆性変形構造.地質学雑誌,122,61-74.


断層研究は,地質時代のテクトニクスばかりではなく,地震防災を考える上でも重要である.本論文は,生駒断層帯において,露頭規模の断層の構造解析,断層群の古応力解析,そして断層ガウジのK–Ar年代測定に基づき,断層群形成時の応力場と形成年代を議論したものである.解析の結果,生駒断層帯の断層群は現在とは異なる応力場において,~45–30 Maに形成されたことが明らかとなり,これらが始新世後期〜漸新世前期の伸長テクトニクスに関連したものであることが指摘された.本研究のような断層調査は先ず,断層露頭を発見することから始まるが,都市域においては断層露頭の発見は容易ではない.本論文は,このような困難な露頭状況にある都市域における詳細な野外調査に基づく断層調査のあり方の一つを示したものである.よって,本論文を研究奨励賞にふさわしい論文として推薦する.

>論文サイトへ(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/122/2/122_2015.0039/_article/-char/ja/

日本地質学会功労賞(1件)


受賞者:大和田 朗(産業技術総合研究所地質調査総合センター)
功労業績:地質試料の新薄片作製法の開発と人材育成


 
大和田朗氏は,1981年に通商産業省工業技術院地質調査所(現産業技術総合研究所地質調査総合センター)に入所し,現在に至るまで,35年に亘り薄片・研磨片の作製に従事してきた.その間,地質図幅作成に必要な薄片試料のみならず,従来にない新しい薄片作製法を開発することにより,地質学に関する新たな知見の拡大に大きく貢献してきた.
1996年には,セメント試料などにおける内部の割れ目を青色樹脂にて埋めることにより,流体輸送経路を可視化した薄片作製法を開発し,科学技術庁長官賞創意工夫功労者賞を受賞した.さらに,塩分及び水分を含む鉄マンガンクラストに対して,膨潤の影響を排除した高精度の薄片作製に成功し,海底の鉄マンガンクラストの形成年代と成長速度の推定に関する研究に大きな貢献をした.一方,この乾式法は,石英や硫化鉱物と粘土鉱物が共存するという,同一試料内において極端に硬さが異なる鉱物を含む試料においても,含まれている鉱物が欠けることなくすべて観察が可能な画期的な薄片作製法であった.50年以上前に日本で発見されたイモゴライトについても,世界初の薄片作製に成功し,2015年には日本粘土学会技術賞を受賞している.この乾式法に関しては特許を取得し,ライセンス契約も行っている.大学・企業・国研の若い薄片作製技術者の教育にも精力的に取り組んでおり,この教育効果は非常に大きいものである.さらに,「薄片でよくわかる岩石図鑑」(2014年誠文堂新光社刊)の執筆を行い,薄片技術の普及にも取り組んできた.
以上のように,大和田氏の新しい薄片作製法の開発と,全国の薄片作製技術者を長らく指導してきた人材育成は,地質学の研究・教育の発展に大きく貢献しており,ここに日本地質学会功労賞に推薦する.
 

日本地質学会表彰


受賞者:「ブラタモリ」制作チーム(日本放送協会)
表彰業績:地質学の社会への普及

「ブラタモリ」は2009年10月からシリーズ化され放送を開始したNHKの番組である.毎回タモリ氏(森田一義氏)と女性アナウンサーがある地域を訪問し,地域の自然と人間や産業との関わりについてその地域の専門家の解説を交えて紹介する.この番組の特徴は,地質や地理に関する専門的な内容を扱い,その科学的意義に加え社会や産業との関わりを明らかにする構成になっている点である.視聴率が10%以上をマークする人気番組で地質の用語や考え方,その様々な意義がほぼ毎回語られる.
地学教育と普及の現状を見ると,小学校,中学校の理科教育における地学分野の比重は決して低くないが,高校理科において地学を履修している生徒の割合は依然として高いとは言えない.したがって,自ら学ぶ意欲のある人を除き,大多数の国民は地学を小・中学校で学んだ後,地学をほとんど意識することなく日々の生活を営んでいると考えられる.このような状況の中で,地学の教育と普及に携わる教育者や学芸員,研究者等は私たちの生活基盤である地球を扱う学問である地質学の普及に日々腐心している. 現在,土曜日の夜という多くの人が聴取可能な時間帯にNHKで放送されている「ブラタモリ」ではゲストとして地学の普及に関わる学芸員・研究者などが出演して,地学的な概念や地形・地質発達過程をイラストやアニメーションを効果的に用いて説明し,視聴者の理解を助けている.タモリ氏の地理・地質好きというキャラクターに負う面も大きいが,それ以上に,訪問地や番組構成,解説する専門家などを決定する番組スタッフの地理・地質の重要性の理解がこの番組を成功に導いていると考えられる.そしてこの番組が地質学の普及に貢献しているのは明らかである.この番組が今後も長く続くことへの期待も込めて,NHK「ブラタモリ」制作チームを学会表彰に推薦する.