第121年学術大会(2014年鹿児島大会)巡検案内書より
(注:鹿児島県やその近郊である南九州地域に限った情報が含まれています)
1.諸注意 2.傷害保険 3.緊急時連絡体制 巡検案内書を頼りに野外調査へ出かける方へ
野外調査に関する一般的注意事項については省略しますが,場所が変わると普段の調査とは勝手が違い,思わぬトラブルになることがあります.出発前に案内者から受けた諸注意や各種の指示を遵守してください.本案内書で取り上げた地域で特に注意を要する事項に重点を置いて,以下,安全に関する注意点を書き記すことにします.なお巡検参加に際しては,万が一に備え,保険証のコピーと個人カード(緊急連絡先,血液型,抗体の有無,持病の有無などを記載)を各自持参するようお願いします.
⑴ 9月の気候と健康管理
鹿児島市における9 月の平均気温は26.1°C で,平均最低気温は22.8°C,平均最高気温は30.1°C です(最近30 年間の統計).今回の巡検は,離島を含む南九州地方の広い範囲に分散しているため,事前に参加される各コース周辺の気温を確かめておいて下さい.南九州の9 月は,まだ日差しが強く,晴れると気温以上に暑く感じることがあります.帽子の着用や日焼け止めの使用,水分の適宜補充など,熱射病にならないように,ご自身で体調の管理をお願いします.一方,南九州とはいえ,山間部や海岸部では天候によって気温がかなり低くなることがあります.雨具や防寒具もお忘れにならないようにして下さい.
⑵ 自然災害
9 月は秋雨前線の停滞や台風の影響により雨が多くなることがあります.また集中豪雨や長雨により地盤がゆるんでいる場合,土砂災害の危険性が高まりますので,台風や長雨のあとは当日が晴れているからといって油断のないようご注意下さい.特に山間部では,短時間の雨や上流域の降雨による急な出水にも十分警戒してください.地震の際は露頭から速やかに離れ,案内者の指示に従って避難して下さい.海岸および海岸近くの低地にいる場合は,津波に備えて,速やかに高台に避難して下さい.
⑶ 危険な動植物
動物:山ではスズメバチ,山ヒル,毒蛇(マムシ・ヤマカガシ),イノシシなどに,海岸ではトゲ(有毒)のある潮だまりの生物や岩場のフジツボ(鋭利な殻)などに注意して下さい.9 月はスズメバチの巣も大きくなり,警戒心が強くなっています.マムシは夏から秋にかけて活動が活発になり,咬まれる可能性が高くなるので,注意が必要です.水辺の日だまりや,露頭下の小さな草むら,石の陰などでよく見かけます.またダニやツツガムシなどは気づきにくいので,茂みや草むらに入る際にはできるだけ素肌を出さない服装を心がけましょう.鹿児島県を含む南九州は,ツツガムシ病の患者が全国でも多い地域です.鹿児島においては,平成25 年に38人(全国344 人)の患者が発生しており全国1 位となっています.
植物:ウルシやハゼとトゲのある植物にご注意下さい.袖を覆うアームカバー(手甲)や軍手を適宜利用してください.キノコや山菜の素人同定は危険です.
⑷ 海岸での見学
海岸では足場が滑りやすく,波に足下をさらわれ転倒,死亡事故に至る危険性があります.普段使い慣れた靴も,海辺では役に立たないことが多々あります.露頭観察に夢中となり,たとえ潮が満ちるのに気づくのが遅れたとしても,落ち着いて無理のない行動をお願いします.悪天候時の高潮や,万が一地震が発生した場合には津波発生の可能性もありますので,案内者の指示に従い,安全な場所へ速やかに避難してください.海岸で調査する際には避難ルートを意識し,いざという時に慌てないよう備えてください.
⑸ 渓流・河床での見学
水量の多い渓流・河川があり,滑りやすい箇所も多いと思われます.また,険しい狭谷をなす部分も少なくありません.河床・河岸露頭に近づく場合には十分注意してください.グリップの効く靴など,各自で準備をお願いします.着替えなども用意しておくと安心です.装備が十分でない場合は,危険な箇所での観察をあきらめ,安全な場所で待っている方がいい場合もあるでしょう.不明点などは案内者に直接確認し,危険が予想される場合には個人で判断せず案内者の指示に従って行動してください.
⑹ 自然保護
巡検参加に際しては,自然保護関連法令(自然環境保全法,自然公園法,鳥獣保護法,種の保存法など)に抵触しないようご注意下さい.詳しくは,最新の環境六法または以下のURL(環境省自然環境局)を参照してください.http://www.env.go.jp/nature/
国立公園・国定公園での破壊行為禁止:自然公園法により,指定地域内における試料採取や改変が制限されています.巡検コースの一部では,標本採取やハンマーの使用に制限がありますので巡検案内者の指示に従ってください.
巡検参加者全員に国内旅行傷害総合保険に加入して頂きます.これにより,巡検中の怪我や器物破損に対する保証がなされます.ただし,この保険は一般的で,補償対象外となる例外が多々ありますし,金額的にも十分な保険ではありませんので,配布される資料で契約内容をご確認ください.また交通事故に閲しましては,移動中の怪我も旅行傷害保険でカバーされます.
巡検中に緊急なトラブルが発生した場合,まず案内リーダーに連絡して下さい.案内リーダーが対応できない緊急事態の場合の連絡先は,下記の地質学会鹿児島大会事務局(*******)です.巡検中のトラブルについては,トラブル内容や発生日時などの必要情報を,巡検案内者(案内者が対応できない場合は代わりの参加者)が責任をもって下記緊急時連絡先まで連絡を入れるようにしてください.
緊急時連絡先:
第**年学術大会実行委員会 事務局長 ****
電話(研究室):****
E-mail:****
第**年学術大会実行委員会 巡検担当 ****
電話(研究室):****
E-mail:****
(注:連絡先情報については,当日に配布する案内書資料を参照して下さい)
以 上
日本地質学会第121年学術大会巡検担当
本案内書は皆様の野外調査の一助になるはずですが,本案内書に記載されている露頭の多くは学術的に貴重であるため,調査や試料採取にあたっては節度のある行動に努めてください.ここでは『野外調査において心がけたいこと』(2008.10.7日本地質学会理事会)から一部抜粋し(一部加筆),注意すべきポイントを記述します.
日本地質学会行事委員会
国立・国定公園,並びに自治体の条例で保護が指定されている地域等で調査する場合は,事前の許可が必要です.まず,調査を行う地域がどのような保護地区を含んでいるか,事前に確認しておきましょう.特別保護区などの範囲は,自治体や環境省等のHPで確認できる場合が多いですし,必要な手続きもオンラインで申請できますので,必ず手続きをしてから現地に入るようにしましょう.特に,試料採取を伴う許可申請の場合は,許可が下りるまでに数か月かかることもあります.
史跡・名勝・天然記念物においては,文化庁や地元自治体などへの必要な手続きなしには露頭をハンマーでたたいて岩石試料を採取するなどの破壊を伴う調査はもちろん,転石の採取もできません.やむを得ず研究上必要な場合は許可申請の手続きを行い,必要最低限の採取に留めることが重要です.許可を得ておくことによって,その成果を公表することも可能になります(その際には謝辞に許可のことを触れておくとよいでしょう).
世界遺産については,世界遺産保護条約によって保護・保全が定められていますので,国の保護計画の不備が認められた場合は登録が抹消されることもあります.高い保全意識を持って慎重に行動する必要があります.
これらの地域の巡検の際にはハンマーを持ち歩かないなど「李下に冠を正さず」といった節度ある態度を心がけましょう.
法的な保護が為されていない貴重な露頭においても,同様に露頭の保護を心がけたいものです.不必要なサンプルの採取,削剥はもちろん慎み,あらかじめ地権者や地元自治体への連絡などを行っておくことにより,トラブルを未然に防げます.コア抜きは坑が大変目立ち,また半永久的に残りますので,場所をよく選ぶよう心がけることが大切です.また,露頭面にペイントやマーカーで記号等を派手に書き込む行為も,その後きれいに消していくようなマナーが必要です.
このほか些細なことのようですが,地元の方々と良好な関係を保つということは,思いのほか重要なことです.貴重な露頭が,将来はジオパークの中の有力なジオサイトになるかもしれません.
特に法人や個人の所有地(いわゆる私有地)では,調査・試料採取にあたっては必ず許可を得るようにしましょう.学会巡検では案内者が事前に所有者の許可を得ています.
地球を愛する者として,社会から地質調査の有用性や公益性が認められ,末永く地質調査を行える環境作りには,上記のような調査に当たっての心がけが必須ですので,地球科学分野の研究者の全員の協力でこれを進めましょう.