教師巡検(2013仙台)日本地質学会 第12回理科教員対象見学旅行 


「仙台の大地の成り立ちを知る」

 

案内者:宮本 毅・蟹澤聰史・根本 潤・石渡 明

参加者:浅野俊雄・飯島 力・大友幸子・河合貴之・川辺文久・菊地 真・齋藤洋輔・佐治奈通子・佐藤勇輝・佐野郁雄・菅原 捷・竹下欣宏・中山俊雄・初貝隆行・船引彩子・細谷正夫・松山雅則・松山裕子・矢島道子(以上 地学教育19名) ほかアウトリーチ枠(市民参加)21名(計40名)

 

【案内者報告】

C班は,会場である東北大学近郊の後期中新世以降の火山噴出物を対象として,大会初日に実施された.年会では初めてのアウトリーチ巡検であったが,正確には地学教育と同時開催された.当日は天候にも恵まれ,晴天の中,巡検を実施することができた.しかし,その反面,徒歩での移動距離も長かったこともあり,熱中症が危惧されるなど,通常以上に気を遣う面も多くあった.
STOP1では三滝玄武岩の溶岩流・火砕岩互層の露頭において,溶岩流の構造の観察をした.STOP2では亀岡層中の高温型石英,竜の口層中の貝化石の産状観察とそれらの採取を行った.親子で参加した小学生らが,篩いで鉱物を熱心にさらう姿が多くみられ,最近ではあまり目にしていなかった1cm大のそろばん型の石英も採取された.昼食後,STOP3,4では広瀬川河岸に露出する広瀬川凝灰岩部層の大露頭と,火砕流によって埋まった埋没林を観察したが,層厚10 mほどの火砕流堆積物を前にして,約350万年前に現在の仙台市街を襲った噴火の大きさについて感心していた方が多くおられた.最後にSTOP5でプリニアン降下軽石である安達愛島軽石を観察し,運搬様式の相違により火山噴出物は多様な特徴をもつことが説明された.各露頭では,参加者から質問が活発にでるなど,大変よい巡検であったと思われるが,STOP6の第四紀火山の遠望観察を時間の都合でスキップすることとなってしまい,時間配分については配慮が必要であった.また,参加者の数に対して案内者の数が十分でなかったなど,通常よりも緻密な計画が必要であったと感じさせられた.
今回の参加者をみると,小中学生から専門家まで非常に多岐にわたったが,結果的に一般の方に向けた内容で説明が行われた.加えて,案内者数の不足から露頭を前にしての議論も活発に行えなかったなど,従来の地学教育での巡検を期待して参加された方には物足りなさを感じさせたかもしれない.そのためこのような異なる2つの枠組みで実施することには困難を感じるところである.しかし,案内者不足に対し,かわって地学教育枠参加者が,一般の方々へ説明を個々に行う場面も多くあった.これはアウトリーチ巡検としては大変意義深いことであり,案内者数が限られることを考慮すると,このような形式も有用であるとも思われた.
今回は初めての試みということもあり,検討すべき点が多く浮き彫りとなった.これらの課題については今後への申し送りをかねて別稿にてご報告する.

[宮本 毅(東北大学)]

 

写真1 広瀬川河畔大露頭(STOP3)を前に参加者・案内者集合しての記念撮影 写真2 郷六(STOP2)での高温型石英の採取風景

 

【参加者感想】

今回,小学3年生の息子と一緒に地質学会アウトリーチ巡検に初めて参加させていただき大変感謝致しております.私共のような全くの未経験者でも内容についていけるのかどうか,初めは心配しておりましたが,実際に仙台近郊の地層見学場所を自分たちの足で訪れて,大学の先生方の豊富な知識と経験による丁寧なご説明を伺っているうちに地質学上の専門的な話に自然と引き込まれ,地層に見られる幾つかの特徴が私たちに遠い昔仙台で起きた驚くべき環境変動を教えてくれる目印になるのだという事に深く興味を覚えました.
バスツアーとはいっても,車では入れない場所が多く,思ったより沢山歩いたため日頃の運動不足を痛感しつつ皆さんの歩幅についていくのがやっとでしたが,普段何気なく暮らしている仙台の大地の成り立ちを知るうえで,人間も生まれていない太古の時代に,今は全く姿の見えない火山が仙台の近郊に2つ存在しただろうと思われる火山性生成物の色々な形跡が見られることや,仙山線沿いにかつて玄武岩の石切り場が存在し,仙台城の石垣に用いられたという歴史,また石を運ぶのにかつては牛が使われ,その由来で「牛越橋」という地名が残っているという事など,新しい発見がいっぱいありました.
小学3年生の息子たちは,いかにも子供らしく地層というよりも地層の中に存在する化石や鉱石と,その採掘に興味をもち,研究者の方々に率いられて向かった先々で「どういう化石が取れるのか」という事をしきりに尋ねていました.そして郷六・化石の森に足を踏み入れる際は,さっそうとヘルメットをかぶり手にはお借りしたハンマーを握りしめて,わくわくした様子で靴が泥まみれになるのも気にせず目的地を目指して一生懸命な様子でした.そして川や地層の中に高温型石英と呼ばれる鉱石を見つけると嬉々として収集しておりました.そのあと向かった山の斜面で多くの貝化石を見つけ,夢中になって他の子供たちと一緒にハンマーで掘り出していました.
その後,広瀬川べりの20数メートルにそびえ立つ崖に見られる分厚い凝灰岩層,霊屋の化石林,愛島軽石層を見学し帰途につきましたが,全体を通じて地質学会の皆さんの日頃のご研究の一面に触れ,地質学の学術面,フィールド面,両方の面白さを教えていただき,親子共々大変に貴重な体験となりました.皆様本当にありがとうございました.

[阿部恵美子(仙台市在住:アウトリーチ枠)]

 

新しい体験を:第120年学術大会(2013年仙台大会):C班アウトリーチ巡検に参加して
久しぶりの暑い夏が戻ってきた.地学教育19名,アウトリーチ21名,退職者から小学生まで計40名が参加した.案内者は蟹澤聰史先生,宮本 毅先生など計6名の案内で始まった.
9時,東北大学萩ホール横の駐車場に集まり,仙台市街を構成する大地をたどっていった.まずは,800万年前の溶岩流三滝層を見学した.国道48号線から入った旧三滝温泉跡で溶岩が塊状から薄い板状の板状節理へと変化している様子が観察できた.また,旧温泉の土台部は集塊岩で硬くなっており滝となっていた.
その後,郷六へ向かった.ここは「化石の森」といわれ,青葉山トンネルの出口付近で,東北自動車道の仙台宮城インターチェンジの付近である.先ほど観察した三滝玄武岩に由来する礫層が観察される.礫岩層直下の凝灰岩に石英が含まれており,そろばん玉状の高温型石英を採集した.さらに,藪をかき分けていくと,竜の口層を見ることができた.ここではアカガイやハマグリなどの化石が取れた.
昼食をはさんで,午後は仙台市評定河原の広瀬川河岸大露頭を見た.対岸からの観察で細かいことはわからなかったが,厚さ8〜9mの350万年前の火砕流堆積物である軽石凝灰岩や向山層上部を見ることができた.ここから20分ほど歩いて,広瀬川下流の河床の化石林に行った.直径が140cmほどもある化石になった樹木の根元の部分が見える.セコイアやメタセコイアで,樹齢800年ほどである.仙台市天然記念物だが保護柵があったが,大部分は河原の土砂や礫に覆われ一時期は見えなくなったが,川の増水で現在は再び見えるようになった.
その後,青葉台からやや東に入った八木山治山の森に行った.ここでは,カミルトン角閃石を含んだ安達−愛島軽石層を見た.この火山灰は,カリウムが少なく,なかなか年代の測定が難しいが,今から5〜8万年前頃に降ったと思われる.
このように,今回の巡検は仙台の足元を800万年前から6〜8万年前とたどった.仙台の中心部から数十分の距離でこのような露頭に恵まれている.子どもたちが多かった理由は,今の子供たちにとって,自分の町の足元を見る機会はほとんどなくなっている.今回,アウトリーチで参加した小学生にとって非常にいい機会が持てたのではないかと思われる.
今回は,学会の巡検で40名の参加者であったが,もう少し人数を減らせば,もっとよく説明が聞けたのではないだろうか.また,交通手段で大型バスを利用したが,駐車の関係で現地まで入ることができず,街中を結構歩いた.もうちょっと,小回りが利く巡検であってもよい.

[地学教育委員会 浅野俊雄]

 

 


 

「仙台の大地の成り立ちを知る」 地学教育・アウトリーチ巡検の総括

1.はじめに
『地学教育・アウトリーチ巡検』は,今年の地質学会で初め て企画・実行されました.この種の企画は,一般市民やこれか らの若い人たちに地質学への関心を高めて頂くうえで,大変有 意義なものと考えます.しかし,企画・内容などを十分練って おかないと,効果が出るかどうか難しい面もあり,また,一般 市民にも参加して頂くという立場に立った場合の責任などを十 分に考えておくべきです.単に行うことが意義のあることだと いうだけでは成功しません.初めての企画を担当・実施して, 今後,実行する上で考えておくべき点を挙げましたので,将来 の参考にして頂ければと思います.

2.巡検案内書に関して
当初,地質学会主催の巡検案内書の書式が地質学雑誌に準拠 するということを,案内者自身が不覚にも知りませんでした. 案内者の一人(SK)は,何回か学会巡検を担当したことがあ りましたが,諸般の事情から査読も必要となったことを後で知 りました.そのため,脱稿後,編集者と執筆者との間で校正の 段階になってから,基本的なことで何度かの往復がありました. このことは,案内書を完璧なものにする上では意義のあること ですが,案内者に十分周知させておく必要があります.
一方で,これがもっとも基本的なことですが,従来の形式の 案内書は,あまりにも専門家向きであって,小学生や一般市民 にはとうてい理解しがたい内容になっています.そのため,今 回は開催の直前に「ジュニア版」を作り,基本的な事項だけを 簡略化して印刷,配布しました.アウトリーチの案内書は,小 学生も含めた一般の人が理解出来るように平易に作る必要があ ります.

3.参加者名簿と広報活動
アウトリーチ参加者名簿を手に入れてまず当惑したのは,大 学の先生,コンサルタントの技術者など地質や古生物のプロか ら,一般の教師,さらに小学生(3〜5年生),中学生,高校 生,それに父兄など,参加者の顔ぶれが非常に多彩であること です.このことは,2で述べた案内書の作成にも関わることで す.また,案内者が,どこを基準にして説明するかが非常に難 しいところです.できるだけ早めに参加者名簿を手に入れたいも のです.
また,募集する際の広報活動をどのように実施するのか,よ く考えておくべきであろうと思います.その方法は地域の「市 民センター便り」や市の広報誌など,あるいは一般紙などに掲 載されることが考えられます.案内者が個人的に「このような 行事がありますので,ぜひご参加下さい」と周辺の一般の方々 に知らせる手もあります.

4.募集上の留意点
参加者を募集するときに,「かなり長い距離を歩きます」な どの注意書きをしておかないと,普段の散歩程度と考えて参加 し,これではハードすぎるという事態も起こりかねませんので, そのあたりを十分注意しておくべきと考えます.CDで会員向 けに配布された巡検案内書には,基本的な注意事項が記載され ていますが,一般市民向けにもこういった注意事項を書くべき で,そのためにも参加者名簿は早めに欲しいものです.幸い, 今回の参加者はそういった心配はなく,一般の方々も非常に熱 心,かつ団体行動に慣れておられるようでした.

5.安全対策
最も注意すべき点は,交通事故,あるいは露頭での事故など です.一般市民をお客さんとして迎え入れる以上は,念には念 を入れておくべきです.そのため,バスから降りて露頭までの 移動に関しては,必ず信号機のある場所で横断する必要があり ます.また,足場が悪い露頭では,一般市民には遠慮願うこと も必要です.
今回は,その点に関してかなり慎重に考え,歩く距離を長く とり,足場の悪い露頭ではヘルメット着用をお願いしました (大学側で用意しました.また,硬い岩石を割る場合も考えて ゴーグルも用意したのですが,これは実際には使用するような 事例はありませんでした).救急箱の用意も必要です.また, 大会本部の巡検担当者にバスの前後を小型車で付き添ってもら い,不測の事態に備えました.院生諸君にも,あらかじめの露 頭整備(草刈,土壌のはぎ取り),資料作成,子供に喜ばれる 鉱物などのお土産準備,当日の交通整理などに多大な協力を願 いました.こういったことも留意すべき点です.
また,悪天候の場合はどうするか,小雨程度ならば決行でき ますが,今年の学会最終日のように台風直撃などがあった場合 にはどうするか,小中学生を含めた一般の人が参加する場合は, あらかじめ考えておかなければならないことです.途中で雨に なった場合は,理学部の自然史標本館の利用を考えていました が,その必要はありませんでした.

6.今回実施した感想・良かった点
幸い,今回の巡検は天候にも恵まれました.また,プロの参 加者の中には,小学生に自ら説明を買って出て下さったことも あり,いろいろな階層の人たちの集まり故の利点もありました. また,参加された小学生などは非常に熱心,かつ付き添いの親 御さんも熱心でした.一般の方々も熱心で,地質学への興味を 持たれている方ばかりだったので,案内者としては,たいへん 満足であったと考えています.しかしながら,時間の関係から 一部の予定を割愛せざるを得なかったこと,安全確保のため,歩 く距離がかなり長くなったことは反省すべき点だろうと思います. 完全にアウトリーチだけにして,学会会員と一般市民とを分 けることも可能ですが,一方で,このようにプロと市民とが一 体になることで,相互の交流を図ることも地質学の何たるかを 理解して頂くためには大きな意味があると思います.別々に巡 検を行えば,説明は簡単でしょうが,プロの間での議論を市民 が聞いて,「なるほど,そういったいろいろな考え方もあるのだ」 といった経験も重要なアウトリーチになるだろうと思います. 時間の関係で,参加者全員に対してのアンケートは実施でき ませんでしたが,できうる限りの感想などを頂ければと考えて います.これはぜひ実施し,次の機会に生かせるようにしたい ものです.また,巡検担当者が,企画の段階から学会運営の会 議に参加する機会を持つべきと考えます.それによって,さら に充実したアウトリーチ巡検ができると思います.
最後に,今回の巡検に積極的に参加し,実施を円滑にして頂 いた東北大学大学院理学研究科の院生諸君に感謝したいと思い ます.

[蟹澤聰史(東北大学)]