案内者:能美洋介,竹下浩征(万成石研究グループ)
参加者:阿部國廣,大友幸子,矢島道子,岡田浩二,松田義章,飯島 力,細谷正夫,三宅 誠,藤野光裕,行方綾香,野村香織,土屋裕太,大藤貞夫 (13名)
写真1 ジオトレイルの恐竜模型の前で |
岡山大会期間の中日9月5日(土)の午前中の時間を利用して本巡検が行われた.今回の巡検テーマは,「岡山県南部の花崗岩類(万成石)と文化地質学」として,案内者らが共同研究をすすめている万成花崗岩(万成石)を対象に,その教育利用施設と稼動中の採石場を廻った.
案内者は大部分の参加予定者の顔もわからないような頼りない状況であったが,申込者13名は全員予定時刻までに集合し,初顔合わせのあいさつそこそこにバスに乗り込んで,予定時刻の8時30分ちょうどに岡山駅西口を出発した.
第1目的地は岡山県立児童会館に併設されている「太陽の丘」公園である.ここは岡山市街地の西部にある丘陵地の一部を公園にしたもので,大きな恐竜のモニュメント兼すべり台がランドマークとなっていて,休日は多くの親子連れや子供たちで賑わう.巡検一行は開園直前に到着し,まだ子供たちがいない公園に一番に乗り込んだ.入口の恐竜モニュメント前でやっと今回の巡検の概要を説明し,次いでこの公園の概要を説明した.この公園は少し大きめのすべり台などの遊具がある遊園地だが,その土台を見ると岩石がごつごつと姿を見せているのがわかる.これらは今回の巡検の主役である万成石である.古くは採石場だったらしいこの地では,花崗岩とそれに伴ういくつかの地質学的現象を見ることができる.巡検案内者世話人らは公園内の露頭に看板を設置し,来園した子供たちが遊びの一環として地質学に接することができる地学公園「ジオトレイル」をつくった.ジオトレイルでは看板に設置された文字を順番に集めるとひとつの単語が浮かび上がるようになっていて,地図を見ながら宝探しのように露頭を探し廻ることができる.本巡検では,ジオトレイルの現状と効果,教育利用方法について,看板が設置された露頭を巡り議論した.巡検に参加した地質のプロたちは,最終的に浮かび上がるはずの単語を巡る前に言い当て,案内者としては不調な滑り出しであったが,各露頭の前では説明に使用されている用語の的確性を指摘されたり,小学生を対象としているにしては表現が難しいなどの厳しい意見も寄せられて案内者をたじたじにさせたりの場面もあった.しかし,都市近郊でこのような公園に着目して説明版を設置したことの意義を好意的に評価する意見もあって,案内者としては手に余るほどの成果を持って第1目的地をあとにすることができた.
写真2.万成石の石切り場にて |
写真3.伝統的な石切り方法で切れた跡 |
第2目的地は現在稼動中の(有)浮田石材店の万成石採石場である.この採石場は,岡山市西部の矢坂山山塊の中央部やや西寄りの位置にある.ちなみに,第1目的地のジオトレイルは同山塊の東端にある.採石場では,浮田石材店浮田社長のご好意により,丁場の最前面まで行かせていただき,白く輝く未風化岩盤の切削面に触れることができた.また,その付近に散在している手が切れるようなエッジの岩石片を採集させていただいた.巡検一行はさらに上方に登り,売り物になりにくい岩塊(ズリ)を集めている場所に行ったが,多くの参加者はこちらの石の方が特急品の万成石より目を輝かせて眺めており,ペグマタイトや晶洞を食い入るように観察していた.なお,浮田社長からはズリはいくら叩いても良いという言葉を事前にいただいていたが,個々のズリは巨大であり地質屋のハンマーを受け付けない威容であったため,実際にサンプリングできた人は少なかったように思われる.さらに周辺の細粒花崗岩の貫入露頭や産総研の試掘井などを見学した.その後山を降りて石材加工所の前に集合すると,巨大な石材を割る作業を見せていただけるという.この石割では新旧2通りのやり方を実演していただいたが,石が割れはじめる瞬間の微音に皆が耳をそばだて,瞬間的にクラックが広がる様子に歓声を上げ,割り出し直後の石肌の冷たい感触に触れることができるサプライズイベントとなった.
本巡検は最初から予定した時間が短かったことや,案内者の頼りない説明で参加者間での議論が逆に盛り上がってしまったことなど,主催者としての反省点は誠に多いものであったが,9月初旬の暑い日差しの中にもかかわらず,時間通り行動をしていただき無事に予定コースをまわれた事など,参加者の皆さんのご協力によるところが大きい.最後に案内者といたしまして,巡検を盛り上げていただいた参加者の皆さんと,本巡検の場所を提供していただいた県立児童会館,およびビッグサプライズまでも用意していただきました浮田社長と石割を行ってくれた社員の皆さんにこの場を借りて感謝の意を申し上げます.
(岡山理科大学・万成石研究グループ 能美洋介)
今回の教師巡検の参加者は13名(中学教師1、高校教師4、大学教員3、学生・院生3、元教員2)でした。この見学旅行のことは主に地質学会Newsで知った方が多く、その他には学会のホームページや口コミで知られたようです。
岡山理科大学・万成石研究グループの方々の長年の努力のあとを見せて頂きました。ジオトレイルは、コンパクトにまとまっていてよかったです。万成石の石切り場では、市街地に近くてよかった;サンプルも多くでき、石割りも見せていただいて大満足;万成石を以前から見たかったので大満足;石材店の社長さんの説明もよかった;現場での質問に丁寧に答えていただき、ありがたかった等の感想がありました。
全体としては、午前だけの巡検でしたので、半日で少々もの足りない;もう少し時間がとれればよかった、などの感想がありました。また、全体の内容については、全体の地形がみられるところがあるとよかった;花崗岩の成因論の最近の知見も知りたかったし、生活の場への活用についてももう少し説明してほしかったという意見もありました。
教師巡検全体については、案内者の側からは、案内者の一員として、参加者の質問から多くを学んだ;案内者としては、もっと多くの人に見てもらいたかったという感想がありました。参加者側では、生徒にわかりやすく、興味をもって取り組める地学をもっと勉強したいと思った;教員巡検を是非続けてほしい。土日ならば参加できるという感想もありました。次の地質学会でも教師巡検ができるようにしたいです。
(元高校教師 矢島道子)