地質マンガ

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【解説】

 マンガのように地表が3mも隆起するようなら,海底の変動はもっと大きいかもしれません.しかも深海で起きた津波は,沿岸に近づくと一段と大きくなるので,隆起したからといって安心するのは間違っているでしょう...

 さて,マンガにあるような海底活断層による地震と津波と地盤の隆起の典型例を関東地震にみることができます.1923年(大正12年)9月1日正午に関東近辺を襲ったM7.9の関東地震の震源域は、神奈川県西部の小田原周辺直下と考えられています。そこから破壊を開始し、北側は現在の川崎市の地下35km、南は千葉県館山市の地下5km、東は房総半島先端の野島崎付近に延びる実に長さ130km、幅70kmにもおよぶ断層が動き、大きい所で5m、平均でも2.1mのずれを生じました。地震の数分後には、太平洋沿岸〜伊豆諸島にかけて津波が襲いました(熱海で12m、房総半島で9mを記録)。この地震で生じた海岸段丘崖が、千葉県館山近くの見物海岸で見ることできます。海面から1.5mと4.5mの高さに平らな面が残っています。低い方は、大正関東地震時に急激に隆起して陸上に顔を出し、波の浸食で洗われて平らな面となり、高い方はそれより220年前の1703年の元禄地震で生じた隆起痕です。

写真1. 宍倉ら2003より、千葉県館山市見物海岸の2つの関東地震の隆起痕。

 
写真2:関東大地震時の地震断層が地表に表れている千葉県館山市延命寺。赤矢印部は右横ずれ断層によりずれを生じている。
写真3:関東大地震時の地震断層が地表に表れている千葉県岩井駅前。赤矢印部では、2m程度の鉛直方向のずれを生じている。

 房総半島の館山湾から3-4km内陸に入った延命寺では、境内の小道が断層の影響でずれて、大きな断層面が地面に顔を出した所です(写真2)。よくアニメで地震時に地面の割れ目が出来て、人が落っこちて両手を挙げて助けを求める描写がありますが、ここでは、本当に割れ目に子供が落ちて亡くなったそうです。地震に伴う全ての自然現象、決して侮ってはいけません。この4コマ漫画のように揺れが治まれば無事、ということは決してありません。運が悪ければ、瞬時に亀裂にはまり、海岸周辺では大波に押し流され、飲み込まれてしまいますよ。

 

 関東周辺は3000万人という人口密集地であり、政治経済の中心地ですが、200-400年という間隔で巨大な地震に見舞われています。過去の記録を読み解くと同時に、地下の断層が動いた時の被害を想定し、地盤に合った都市開発計画に反映させることが急務ですが、地震波伝搬モデルの構築には、地下の速度や密度構造を知らねばなりません。しかし、関東平野の地下構造はたいへん複雑です。海側プレートが陸側プレートの下に沈み込む、といった単純なモデルでは、諸現象を説明できません。関東の下に相模湾から北西方向へ沈み込むフィリピン海プレートは、10km程の深さに存在し、くさび型を呈しています。そのフィリピン海プレートの下に東から沈み込む太平洋プレートは、さらに数km下をくの字型に屈曲した状態で沈み込んでおり、さらにもう一枚別のプレートも存在する、というように、にわかにはイメージしづらい入り組んだ立体構造になっていることを微小地震による解析結果が示しています。このように関東平野直下には大地震の巣が根付いていて、地震の発生層が厚いのです。大きな揺れが来た際にどのように揺れるのか、強震動予測や建築物の耐震性などを吟味するために、関東近辺に観測網を張り巡らし、モニターをしようという計画があります。国際統合深海掘削計画(IODP)に提案された実験計画の概要は、相模湾と房総沖の海底数カ所に、1000〜6000m長の孔を掘りながら物理計測を行い、得られる柱状試料は、地質学、生物学、土質実験等に用い、掘削孔には長期地震計、傾斜計等、地殻変動を探る機器を設置し、陸上の観測網(関東近辺の小学校300カ所に設置中)と併せて、関東周辺の強震動予測を行おうとする試みです。関東地震の際に大きく揺れた領域(アスペリティといいます)を掘抜こうという計画なので、「関東アスペリティ掘削計画(Kanto Asperity Project、略してKAP)」と呼んでいます。

 
写真4:千倉の海底乱泥流痕にて、画面右は山本由弦氏(IFREE,JAMSTEC)、山本ほか2007より

 実は、房総半島南部の千倉には、有史以前300万年もの昔に遡りますが、とんでもない大地震の痕が残っているのが発見されました(写真4、山本ら2007より)。ここでは、数m分の地層のブロックが破断され、横に斜めにひっくり返されて再堆積している様子が見えます。道路建設の際にここの地層が露になり、偶然にも巡検時の地質学者に発見され、その後、貴重な記録として一部が保存されることになりました。ここまでカタストロフィックな大地の変動があったら、掘削試料が得られても何が何だかパズル合わせもできないかもしれません。変動帯にある狭い国土の日本列島には途方もない大地の変動の記録が残されているものですね。

(木戸ゆかり(独)海洋研究開発機構/地球深部探査センター/IODP推進・科学支援室)