地学露頭紹介

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蛇紋岩メランジュの蛇紋岩露頭
辻森 樹(東北大学)

 
 
中国山地中央部大佐山蛇紋岩メランジュ(OSM)の蛇紋岩マトリクス中の蛇紋岩ブロックの産状の写真を紹介した。近年、スラブ及び含水ウェッジマントル内部の元素の挙動について、天然試料の岩石学・地球化学と実験岩石学双方のアプローチから素過程を理解する試みがなされている。例えば、ホウ素(10B・11B)は11Bが選択的に液相に移動し、脱水反応によってスラブのB同位体比は軽くなることが知られている。Yamada, Tsujimori et al. (2019a) Lithos は、Martin et al. (2016) Geologyの局所B同位体比(δ11B)分析による蛇紋岩の構造場識別の先駆的な試みを完全に支持する結果を北米フランシスカン帯の蛇紋岩の研究で得て、地球化学モデリングによってスラブ脱水による含水マントルウェッジのB同位体比の空間変化傾向を予測した。さらに、自ら提案した蛇紋岩のB同位体比傾向(高圧変成蛇紋岩のδ11B値は+10‰より小さい)を蓮華帯糸魚川地域の蛇紋岩で検証・確認した後(Yamada, Tsujimori et al. 2019b JMPS)、OSMの蛇紋岩メランジュ内のB同位体比マッピング(アイソスケープ)を試みた(Tsujimori, Yamada et al. 2021 地質学会演旨)。OSMは古生代前期の大江山オフィオライト構成岩及びひすい輝石岩と約3.5億年前の蓮華変成岩が構造的に混合した蛇紋岩メランジュである(Tsujimori 1997 Min.Mag.辻森 1999 地質雑Tsujimori and Itaya 1999 IARTsujimori and Liou 2005 IGRなど)。メランジュマトリクスには蛇紋岩化を免れた初生的なマントル鉱物を比較的保存した塊状の蛇紋岩も含まれるが、クロムスピネル残晶の化学組成傾向、含Na透閃石の分布、蛇紋石鉱物の組み合わせで明瞭に両者を識別することはできなかった。ところが、それらのB同位体比と微量元素のマッピングによって、高圧変成作用に関係したスラブ流体の影響を被った低(軽い)δ11B蛇紋岩とそうではない高(重い)δ11B蛇紋岩に識別が可能であることが分かった。この露頭写真の塊状の蛇紋岩は後者に相当し、高δ11B蛇紋岩の分布は地質図スケールでマッピングできる。
2021.10.25掲載
 
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