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関東山地北部秩父帯の褶曲と変成縞
清水以知子(京都大学)
写真1 褶曲軸部の露頭写真(吉田鎮男氏提供).左側の黒色の泥岩 を主とする互層には級化層理がみられる.右側の珪質層には縞状構 造が発達する. 写真2 珪質層にみられる変成縞のクローズアップ.
関東山地の北部秩父帯のジュラ紀付加コンプレックスは,三波川変成帯の弱変成部とみなされる前期白亜紀の変成作用と延性変形を受けている(Shimizu, 1988, 地質雑;Shimizu and Yoshida, 2004, Island Arc).写真1は群馬県神流町(旧・万場町)の神流川沿いに露出する柏木ユニットの褶曲露頭であり,砂岩・泥岩・酸性凝灰岩互層が大きく曲げられている.水平に近い褶曲軸面に平行に発達する劈開は,顕微鏡下ではイライトや緑泥石の定向 配列による片理面(S1)によって形づくられていることが確認できる.したがって,褶曲は変成ピーク時に片理と同時に形成されたもの(F1褶曲)ということができる.三波川帯や北部秩父帯には片理形成後の褶曲(F2褶曲)は数多く見られるが,F1褶曲は稀であり,この大きさのものはこの露頭でしか確認されていない.褶曲軸部では片理面S1と層理面(S0)が大きく斜交し(写真1),酸性凝灰岩ないし凝灰質砂岩よりなる珪質層には,5 mm程度の間隔でリズミックな縞状構造が発達する(写真2).このことから,縞状構造は初生の堆積構造とは関係なく,変成・変形作用によって形成されたことがわかる.鏡下の観察では縞状構造の暗色部に圧力溶解シームが密に発達しており(Shimizu, 1988, Plate I-4),圧力溶解-沈殿作用によるシリカの移動が変成縞形成の素過程であったと推察される.このように変成分離作用のみによって形成されたことがわかる肉眼的にも明瞭な縞状構造は珍しく,学術的にも大変貴重な露頭である.
2021.10.25掲載,10.28一部修正