河川と海岸で礫(れき)(小石,石ころ)の形に違いがあるかどうかという問題は,小学校や中学校の夏休みの自由研究のテーマのように聞こえるが,両所の礫形の違いについてはっきり述べた教科書はなく,公表された研究結果も少ない.しかし,きちんと計測すれば海岸礫は河川礫より円くて扁平であることが,文献調査と実測により明らかになったので報告する.
中山(1954)による礫の円磨度ρの定義は,角ごとの曲率半径ri,最大内接円半径R,角の数Nとすると,ρ=Σri/NRである.多角形は曲率半径がゼロだからρ=0,円は1角形とみなしてri=Rだからρ=1となる.中山・三浦(1964)は,原語roundnessには磨滅の意味はなく単に円さを意味するとして,訳語を円磨度から円形度に変更した.中山(1965)は浮島海岸(富士〜沼津),三保海岸(安倍川〜清水),高知海岸(仁淀川〜物部川東方)で礫の大きさや形を計測し,彼の河川礫の研究結果と比べて,円形度は海岸礫の方が高く(円に近く),平均円形度が0.60以上であれば海岸礫とみなせると述べ,扁平度(1-c/b)も海岸礫の方が高くて(扁平で),0.40以上のものが多ければ海岸礫とみなせると述べた.要するに,海岸礫は河川礫より円くて扁平であり,碁石やドラ焼きのような形をしていると言うのである.それに対して河川礫の形を一言で言えば「ゴロンとした形」(ジャガイモやカキフライのような形)と言えるだろう.日本の海岸には「碁石浜」が複数あり,これは白と黒の小石が敷きつめられた砂利浜という意味の他に,碁石のように円くて扁平な礫が多いことも意味し,一般人の観察眼の的確さを示している.
平塚市博物館地層観察会(1986)は酒匂(さかわ)川,金目(かなめ)川,相模(さがみ)川の河川礫と小田原〜平塚間の海岸礫を多数計測し,統計処理を行った.礫の長径,中径,短径をa, b, cとし,扁平率Fg=c/√abとすると(中山の扁平度と逆に,球は1,紙は0に近い),Fgは海岸が0.32〜0.49,河川が0.46〜0.61,c/aは海岸が0.28〜0.39,河川が0.39〜0.51,c/bは海岸が0.38〜0.61,河川が0.54〜0.77で,これらの値はどれも河川礫の方が海岸礫よりも統計的な有意差をもって高いという結果が得られた.これは中山(1965)の結果と同様に海岸礫の方が河川礫より扁平な形をしていることを意味している.ただし,b/aの値に顕著な差はなかった.
我々はこれらの文献の結果を確認するために,相模川戸沢橋下右岸と大磯海岸照ヶ崎北西200mにおいて,それぞれ長径5cm程度の礫100個について写真撮影を行い,フリーの画像計測ソフトImage-Jによる解析を行った.写真撮影には多数の円い突起がついたシリコン樹脂製の白いキッチンマットを使用し,1回20〜30個の礫を,まずa軸とc軸の長さがわかるように立て置きにして真上から撮影し,次にa軸とb軸の長さがわかるように寝かせて撮影した.これらの画像をImage-Jに取り込み,二値化処理してゴミやバリを除去し,穴埋めをして計測させた(図1).計測値で注目したのは真円度circularity(=4π✕面積/(周囲長)2)と楕円近似の短径長径比である.単純図形の真円度の実測値/理論値は,正方形が0.79/0.79,正三角形が0.55/0.60,星形が0.28/0.24だった.角張っていて入り組んだ形ほど真円度は低くなるが,円磨度(円形度)とは異なり,全部の角が尖(とが)っていても0にはならない.また,これらの単純図形は,短径長径比の理論値はどれも1だが,実測値はそれぞれ0.94,0.99,0.92だった.今回の測定における真円度と短径長径比の誤差は各々5%程度と判断される.
我々の計測結果によると,礫を寝かせた写真(ab面が見える)で計測して真円度0.78以上,短径長径比(b/a)0.71以上なら海岸礫,礫を立てた写真(ac面が見える)では短径長径比(c/a)0.48以下なら海岸礫という結果になった(立て置きでは真円度に差は出ない).海岸礫の方が河川礫よりも円くて扁平だということは,我々の計測でも明確に示され,これは二値画像を見比べても一目瞭然である(図1).実際に海岸で撮影中に気づいたのは,堆積岩に限らず,火山岩や深成岩の礫も扁平なことである.これは河川と海岸における侵食・運搬の営力の違い(一方向の水流による転動に対して波浪による前後反復滑動)が礫形の違いに反映していることを示唆する.
図1.相模川(A, B)と大磯海岸(C, D)の礫の二値画像.AとCは立て置き(画像から短径と長径がわかる状態),BとDはよこ置き(寝かせた状態).画面横幅はいずれも約55cm.左右の図は,礫は同じで,礫の姿勢を変えて撮影したもの. |
保柳ほか(2004)の教科書のp. 104ではKrumbein(1941)の円磨度印象図を掲げて「円磨度の厳密な測定には多大の労力がかかるので……円磨度印象図と比較して半定量的な測定を行う」と述べているが,実際に「多大な労力をかけて」円磨度(円形度)を測定した中山(1965)は,「最近の研究に用いられた円形度はKrumbeinの表から求めたものが多い.しかし,この方法によった値は一般にかなり高く,地点相互の比較は難かしい」,「円形度0.60より高い値は視察ではなかなか区別しにくい」と,この「半定量的な測定法」を半世紀前に批判している.阿部・白井(2013)はKrumbeinの図を用いながらも細かい円磨度の判定は避け,超角礫〜角礫(円磨度0.1〜0.2,全ての頂点が角ばる),亜角礫〜亜円礫(0.3〜0.4,一部の頂点が丸まる),円礫〜超円礫(0.5〜1.0,全ての頂点が丸まる)の3分類とし,河川砂と海浜砂の間でこれら3分類の割合に有意差を見出して内陸の津波堆積物を同定した.教科書に盲従せず,自分の頭で考えて有用な結果を出した例であるが,同じ試料をだれが判定しても同じ結果になるかどうか,疑問は残る.また,Krumbeinの論文には,この図は16〜32mmの小礫用と明記してあり,砂や大礫に用いるものではない.
以上の文献や我々の実測結果に基づけば,海岸沿いの地域で,過去の段丘礫層が河成か海成か判断する必要が生じた場合などに,礫形の計測は有効な判別手段になり得ると考えられる.ただし,この計測は50個(Krumbein)ないし150個(中山)の礫について統計的に行う必要がある(20〜30個計測すれば結果が予想できる).また,画像処理には撮影機器や撮影条件の違い,実施者の習熟度,注意深さ,好み,癖などの影響が強く出るので,まず典型的な河川礫と海岸礫を現場で実測して,礫形の違いがはっきり数字に表れることを確認し,この準備作業をしたのと同じ人が,実際の段丘礫層の試料の計測と評価を行うようにすべきだと思う.なお,100個程度の礫を計測するだけなら,あまり画像処理を使うメリットはなく,現場でノギスを使って3軸長を計測した方が早く確実な結果が得られるが,証拠を残し結果の再現性を確保して検証可能にする意味では,写真を計測した方がよい.
産総研地質調査総合センター(旧地質調査所)の1/5万地質図説明書には段丘礫層の写真を載せているものがある
(https://www.gsj.jp/Map/JP/geology4.html).「仙崎」と「伊野」の河成段丘礫層は主に角礫〜亜角礫からなり,「大樹」と「喜多方」の河成段丘礫もやや角張っているが,「静岡」,「清水」,「御前崎」の河成段丘礫は円礫で定向配列(imbrication)が発達している.一方,「忠類」,「鰺ヶ沢」,「石見大田」,「洲本」の海成段丘礫はよく円磨され,「須磨」のp. 33の大阪層群最上部明美層の礫は「海浜細礫(beach pebble)」と明記されていて,径5cm程度のよく円磨された扁平な礫からなる.このような日本各地の段丘礫層の写真の観察からも,礫の真円度や短径長径比の計測によって河成・海成を識別することは,ある程度可能であるように思う.
文献についてご教示いただいた平塚市博物館の野崎 篤氏に感謝する.
文 献
[2019.11.26 訂正](誤)阿部朋弥・白石正明 (2013) →(正)阿部朋弥・白井正明 (2013)