地質調査にあたって保護法令などの遵守を


正会員 小滝篤夫・鈴木寿志
 

写真1.天然記念物の解説看板下の「注意」は破壊行為後に設置
写真2.地層境界部に記入された文字

 近年,研究者の国立公園など法的に保護された区域での試料採取が問題になっています.日本地質学会でも2008年に理事会名で『野外調査において心がけたいこと』を公表し,そのなかで「史跡・名勝・天然記念物においては,文化庁や地元自治体などへの必要な手続きなしには露頭をハンマーでたたいて岩石試料を採取するなどの破壊を伴う調査はもちろん,転石の採取もできません.やむを得ず研究上必要な場合は許可申請の手続きを行い,必要最低限の採取に留めることが重要です.許可を得ておくことによって,その成果を公表することも可能になります.」と述べています.

 しかし残念ながら,最近このような呼びかけを全く無視するような行為が,筆者らが関係した露頭であったことを報告し,地質学会会員に地質調査にあたって法令の遵守と常識ある行動を訴えたいと思います.

 京都府福知山市三和町菟原下の林道沿いに露出する珪質泥岩の露頭では,はじめに桑原ほか(1991)によりペルム紀最末期の放散虫化石が報告され,後にYamakita et al.(1999)により三畳紀最初期のコノドントが発見されたことで,ペルム紀-三畳紀境界をまたぐ極めて重要な露頭であることが証明されました.このことは京都府レッドデータブック(楠,2015)でも指摘され,人為的破壊が進まないよう保存が求められました.これらの指摘を受け,2016年8月24日に市の天然記念物に指定されて保護が図られ,露頭の科学的意義を解説する説明板が今年の2月27日に設置されました(写真1).それにもかかわらず説明板設置後,二回にわたって無断で露頭にペイントで数字等を書き込み,試料採取を行ったと疑われる行為がありました(写真2).非常に残念なことです.露頭の地主さんをはじめ地域住民からも研究者の常識を疑う声が上がっています.私たちはこの無許可の破壊行為に対し断固として抗議し,二度とこのような勝手な行為が行われないよう求めます.

 地質学が広く市民に理解され受け入れられていくためにも,私たち地質学に関わる者は,上記の『心がけたいこと』を一層意識して野外調査にあたっていく必要があることを痛感します.

文  献

  • 桑原希世子ほか, 1991, 地質雑,97, 1005-1008.
  • Yamakita et al., 1999, Jour. Geol. Soc. Japan, 105, 895-898.
  • 楠 利夫,2015,京都府レッドデータブック第3巻,地形地質自然生態系.224.
2017.11.7掲載