国際地質科学連合(IUGS) 第67回理事会報告 および第35回、36回万国地質学会議(IGC)案内

 

小川 勇二郎(会員、国際地質科学連合理事)


  昨年のニュース誌(Vol. 16-4: 2013年4月号)で国際地質科学連合(International Union of Geological Sciences;以下IUGS)第66回理事会の報告をしたが、それと重複することもあるが、以下に第67回理事会(2014年2月7日から2月10日まで、インド、ゴア州のボグマロ・リゾートホテル)が開かれたので、以下に簡単に報告する。日本からは、北里洋学術会議IUGS分科会委員長と、小川が出席した。会長以下理事(欠席の幹事Ian Lambert (オーストラリア)を除く)計8名、および各関連プロジェクト委員、インド科学アカデミー会員、当地の南極・海洋研究所代表、北京の秘書部の係員など、総計45名が出席した。

  理事会は、2月7日の準備会、8,9日の全体会議、10日の理事のみの会議の、計4日間であった。インド科学アカデミーと南極・海洋研究所の周到な準備と歓迎により、会議はスムーズに行われた。最後の日の夕刻、南極・海洋研究所への見学旅行が行われた。関係所轄の方々に感謝する。

  以下、主要な議論と感想を述べる。

1.IUGSとその理事会の概要
  IUGSは、世界各国の地質学研究者・教育者らの集まるUNION(連合)と呼ばれる組織が集まるICSU(国際学術会議)のもとでのNGOで、その理事会はソフトな執行機関で事務局は北京の地質科学院に置いている。毎年の諸報告や提案に基づき、地質学にかかわる研究・教育等の行動・運動計画を審議・実行し、予算・決算の審議をはじめ、国際的に必要と思われる事項を探し出し、勧告や行動を起こしている。各国からの分担金で運営され、日本は、学術会議が管轄している。最近では、万国地質学会議(IGC)を主導し、国連やその中のユネスコ関連の事業に積極的に関与する方向である。理事会は会長、副会長、会計、幹事、理事(総計9名)が中心となって、各関連機関(グループ)の活動報告をもとにして将来計画を練り、国連の提唱する総合計画のために、研究者、研究機関および各関連機関(グループ)がどのような役割を果たすべきかを議論している。さらに、ユネスコの諸活動を援助するために、経済的援助をも行っている。役員(理事会メンバー)は、それぞれの担当分野を持ち、世界の活動状況を監視し、助言するよう求められている。

2.理事会での審議内容、感想を含む
1)冒頭、開催国のインド科学アカデミーの代表者から歓迎の挨拶、それに対して、当IUGSの会長から、感謝の言葉があった。
2)議事進行、昨年の議事録の承認、最近の役員会の報告があった。特に、関係が深いGSA(アメリカ地質学会)の125周年記念事業やEGU(ヨーロッパ地球科学連合)でのエキシビションの報告があった。どちらも盛況であったとのことである。
3)難しい関係になっているユネスコとの問題が指摘され、今理事会でのメインテーマとして取り上げる。特に、IGCP(国際地質科学プロジェクト)とGlobal Geoparks Network (ジオパーク運動)について。
4)会計報告(2013年度の決算と年会費の支払い状況)活動的、非活動的、ペンディングおよび脱退の国名の列挙。各地域で、対応するようにとの指摘があった。( 脱 退 :アルジェリア。なお、脱退を考慮中(ペンディングという)および活動中止(分担金未払い)の国が、それぞれ複数ある。)日本は、アジア諸国の状況を調べる。様々な問題はあるが、全体に収支は好調である。
5)隣接する分野のIUGG(国際測地学地球物理学連合)の会長Harsh Gupta 氏 (インド)から、協力すべきは協力するとのコメント。関連のテーマを確認。それは、資源、気候変動、災害、水問題、ダイナミクスなどである。
6)IGCPとGeoparksへの財政的および審査協力などについて、かなりの時間をかけて議論した。委員会を作ってさらに議論することを提案する(なお、財政的な支援を強化することで合意。)。問題は、ユネスコ(国連傘下)と、当IUGS(NGO)とがどのような関係で進むかに関しては、いまだに決定的な合意に至っていないことである。
7)諸活動の報告。IUGSとしての活動は、上記のユネスコ関連の事業へのかかわりのほかに、次の3段階がある。はじめ、イニシアチブと呼ばれる研究・教育活動の準備段階、次いで実質的な活動であるタスクグループ、さらに本格的な行動であるジョイントプログラムへと進む。今回は、それらのいくつかの活動の報告が以下のようにあった。列挙する。
地質的な倫理に関しての関心が強まっている。災害科学への貢献に力を入れる(2013年10月の、日本の主導でのG-EVER研究集会(仙台)へのIUGSと日本学術会議からの貢献の報告を含む)。ILP(国際リソスフィア計画)、地球化学マッピング(統一基準で世界の岩石の分布図を作る)、犯罪地質学、気候変動問題、世界遺産、ジオパーク、露頭保全(特に構造地質、http://outcropedia.org/)、石材地質、専門家育成、南北問題(アフリカを意識、フィールドスクールなどの推進)、GEM (http://www.globalquakemodel.org/)、大学でのカリキュラムの向上、若手地質グループの活動支援、次世代の資源問題(RFGという)などについて、報告と積極的な支援の発言が続いた。(その報告や評価に基づいて、次年度の予算が審議される。)
8)6年前の2010年のIGC(万国地質学会議、オスロ、毎回オリンピックの年に行われている)において、それまで開催国が主導していた同会議を、以後当IUGSが主導することに決まった。次回の2016年の35回IGCは、南アフリカ・ケープタウンで8月27日から9月4日まで(http://www.35igc.org/html/index.html;すでにセッションのプロポーザルの受付が始まっている。多くの方々のプロポーズをお願いしたい。また、講演、ポスターなどの要旨の受け付けは、2015年初頭には開始されるという。アフリカ諸国が一丸となって、多くの巡検が用意されるとのことである。この機会に、ぜひ、アフリカ訪問を計画されたい。)、またその次の2020年の36回IGCは、インド・デリーで3月2日から8日まで行われる。ただし、前回34回のオーストラリア・ブリスベーンが、非常に高額な登録料であったこともあり、将来の開催においては、多くの人にとって参加可能範囲を超えていないかが議論された。今後、検討する。なお、ケープタウンでのIGCの標語は、Geology in Society: Economy and Scienceとのことで、地質科学の社会貢献が求められてはいるものの、この資源国家での地質学の経済への依存度と貢献度の強さをうかがわせるものと感じた。
9)ICSU(国際学術
会議)の会長のSteve Wilson氏(パリ;地球物理学出身とのこと)と、Skypeを用いての討論を行った。国連主導の10年計画である、Future Earthへの取り組みについて説明があったのち、質疑応答を行った。ICSUでは、地質学の負の面(鉱毒、公害など)が強調されるきらいがあり、資源や環境、災害対策などの正の面があまり評価されていないことが浮き彫りになり、理事会メンバーからは危機感が発せられた。これは、ユネスコでの地質学の立場の低下にもいえるとのことで、世界の科学研究・教育のベースであるとの自負を持っている地質学の将来について、今後より一層議論すべきであることを強く感じた。
10)今後の取り組み。予算をとってIUGSで活動するためには、上に述べたように、まずイニシアチブという準備段階の組織を立ち上げ、2,3年後、タスクグループというより具体的な活動を起こし、その上で、プログラムへと進むことが求められる。IGCPやGeoparksなどは、別組織のもとであるが、その審査などは、当IUGSが積極的に関与する方向である。なお、IGCPは純粋科学の推進をする研究組織であり、汎世界的(特に途上国を含む)なものである必要がある。従来、日本は多くのIGCPのプログラムを積極的に推進してきたが、今後はより厳しい状況(全体のプログラム数の縮小)がある見込みである。心すべきであると感じた。
11)来年の理事会は、カナダ・バンクーバーのコンベンション・ホールで、2015年1月26-29日に行われる。
12)Annual Report of IUGS-EC (USB memory), Episodes (当科学連合の機関論文誌)が配布された。

南極・海洋研究所からのデカントラップ洪水玄武岩(白亜紀)と表層のラテライト。 段丘の成因たる隆起運動は、沖合の堆積盆の荷重をコンペンセイトするためのゆっくりとしたシーソー的なリバウンドによるもの、との説明があった。


3. 一般的な感想、今後の重要課題等
  地質科学は、自然科学の分野のうちの基礎をなす地球(および惑星、宇宙をも部分的に含む)の46億年の諸現象を四次元的に研究するが、それらは、惑星科学、地球物理学、地球化学、地球生物学とも密接な関連がある。ICSU(国際学術会議)の中でも、地球惑星連合を作る動きがあり、統合的な活動も模索されている。さらに、国連は、2012年までの、Earth Systemという大きな題目ののちに、2013年からは、Future Earth という、人類生き残りをかけた大きなタイトルのもとで、国際的な研究・教育活動を開始した。それらの中で、地質科学の果たすべき役割を見極めて、積極的な活動・提案をして行くことになっている。国家間の競争よりも、協力関係を築き、南北問題(主としてアフリカを想定する)、教育活動にも、力を入れている。また、各国および地域の地質科学の重要な教育手法である、ジオパークや世界自然遺産、世界地質遺産と言った運動へも積極的に参加する方向である。
  国際的な科学の研究・教育は、従来ユネスコを中心として行われてきたが、最近、財政的な窮地に陥っている。それを打開し、従来にも増して研究・教育を世界的に浸透させるためには、NGOである当IUGSを含む研究連合が、積極的な援助をすべきであるとの議論が高まっている。それを、財政的、参画の方法論などの基本的な事項から、具体的な方法までの多様な活動を模索する必要があり、重要な局面を迎えている。アジアおよびアフリカの指導的な働きをすべき日本へも、大いなる期待が寄せられている。一方で、分担金の支払いが滞るケースが増えており、そのような財政的な問題も生じている。
  2012年からの新理事会メンバーの活躍は目を見張るばかりであり、今後の進展が注目される。特に、国連、国際学術連合との協調関係は、大いに期待される。ただし、国際的な経営難は、ユネスコの関連事業に広く及んでおり、比較的潤沢な当IUGSの役割の増大が期待される。ただし、ユネスコ傘下で行われてきた諸プログラムは、ユネスコのロゴ(テンプルと呼ばれる建物の図案)の下での活動を希望しているようであり、それらとの調整が微妙である。なお、2年前に就任した当IUGSの会長である、オーベルヘンスリ氏は、会議のほとんどを主導し、不偏不党の立場から、会議を公平・積極的にリードした。その努力に深く敬服したい。
  なお、地質学の関連する国際研究・教育機関としての統括を目指すIUGSの最大の催しは、毎回オリンピックの年に開かれるIGCである。今まで多くのIGCに参加し、4年毎の学問の進展、その地域の地質や人間活動に親しみ、多くの刺激や感化を受け、さまざまな交流をする契機になった方も多いと思われる。老若男女を問わず、次回の2016年、2020年の南アフリカ、インドとも、地質には非常に重要な地域であり、日本からの地質研究者も多い。この際、ぜひ、これに参加することを目指していただきたいと思う。なお、理事会において、小川は、変動帯でのIGCがこのところ少ないことを指摘し、今後、それへの考慮もお願いしたい、と発言しておいた。これから研究者・教育者・行政や企業活動に携わる方々も、上記のいくつかのテーマ(環境、資源、災害、教育など)に、地質学が果たす役割が期待されていることを心して、ぜひ、今後もIUGS-IGCに関心を持っていただきたい(www.iugs.org/)。ご質問、ご要望は、fyogawa45@yahoo.co.jpまで。(※@を半角にしてください)
 

  

 (2014.2.27)