韓国2013秋季地質科学連合学術大会(大韓地質学会第68次定期総会)公式訪問の報告

日本地質学会会長 石渡 明

 

図1.2013年10月23日に済州島で行われた大韓地質学会・日本地質学会の公式会談の 出席者。前列左からYu, Kang-Min(兪剛民)会長、石渡明、後列左からChoi, Weon Hack,(崔元学)総務理事、Simon Wallis副会長、Cho, Moonsup(趙文燮)副会長、Lee, Jin-Yong(李珍容)理事。

 標記の大会は2013年10月23日〜27日、韓国済州島のフェニックス・アイランドで開催された。昨年の日本地質学会大阪大会で延長締結された大韓地質学会との学術交流協定に基づき、日本地質学会会長 石渡 明(筆者)と副会長Simon Wallisが公式に招待された。ここでは、標記学会に参加しての見聞を簡単に報告する。

 この学会の主幹は大韓地質学会であり、共同主催は大韓資源環境地質学会、韓国古生物学会、韓国鉱物学会、韓国岩石学会である。また、後援は韓国科学技術団体総連合会、韓国地質資源研究院(KIGAM)、韓国ガス公社、現代(ヒュンデー)資源開発であり、プログラムに広告を出している企業・公団などとしては、三星(サムスン)、大宇(デーウー)、コーチャン石材事業団、Geo-Marine-Technology(釜山)、韓国石油公社(NOC)、韓国鉱物資源公社(KORES)、韓国海洋科学技術院(KIOST)、韓国原子力環境公団(KORAD)、大韓資源開発などがある。

 簡略化して日本語に訳したこの学会のプログラムを次に掲げる。

 

図2.懇親会会場にて大韓地質学会のYu, Kang-Min(兪剛民)会長と日本地質学会のWallis副会長。

 23日午前10時から両学会の公式協議が行われた。出席者を図1に示す。大韓地質学会からは、会員数が約1500人で、毎年100人程度ずつ増加していること、予算規模が拡大していること、会長選挙の結果が今回の総会で発表され、理事のほとんどが交代して2014年1月に新執行部が発足すること、2年後に70周年記念事業を計画していること、英語ホームページを作成中であることなどが説明された。日本地質学会からは来年の鹿児島大会でロンドン地質学会と共催の津波堆積物に関するシンポジウムが行われる予定であること、Geology of Japanの編集が進行中であること、5年後に125周年記念事業を計画していることなどを説明し、日本地球惑星科学連合大会やAOGS札幌大会などについての情報も伝えて、多くの大韓地質学会会員が2014年に日本へ来られるようにとの期待を表明し、贈り物を交換した。日本側からはフィールドジオロジー全巻セットと化石チョコレートなどを贈った。韓国側からはトルハンバン(済州島独特の石像)とタオル、済州島観光案内書などが贈られた。

図3.懇親会会場で行われたポスター賞の授賞式。中央は兪会長。

 セッションは10月23日の午後から10月25日の午前まで、5つの会場で行われた。ポスター発表は23・24日の2日間掲示でき、コアタイムは24日の17:50-19:00であった。大韓地質学会総会は24日の13:00-15:00に行われた(その間はセッションなし)。25日の午後は「一般踏査」(巡検)が行われ(後述)、26日と27日にも教師向けの地質踏査と火山踏査が行われた。本大会には大韓地質学会会員約1500人のうち約600人が参加したとのことである。プログラムを数えたところ、口頭184件、ポスター238件、計422件の発表があった。欠席率は非常に低いようだった(全部で数件?)。Wallis副会長は「南チベットの東西伸長の年代と構造的重要性」について23日午後の大陸衝突セッションで講演した。このセッションは大人気で100人程度の聴衆がいた。石渡は「東北アジアのオフィオライト帯とP型オフィオライトの重要性」について24日午前のGlobal Tectonicsのセッションで講演したが、このセッションの聴衆は30人程度だった。3日目の地球化学のセッションの聴衆は15人程度だった。ポスター発表は半分程度が韓国語のみで書かれており、英語のタイトルや説明がついているものが3割程度、全部英語で書かれているものが2割程度であった。いくつか質問したところ、学生の英語力はかなり高いようだった。

 総会では、大韓地質学会Yu, Kang-Min(兪剛民)会長、私、KIGAM(韓国地質資源研究院)Kim, Kyu Han(金奎漢)院長の挨拶に続いて、表彰式、会計報告、選挙結果の報告などがあったが、その間に私とWallis副会長は別室で金院長と会談した。金院長は名古屋大学出身だそうで、京都大学出身の兪会長と同様に日本語が達者である。彼らにはとても及ばないが、私の挨拶にも若干韓国語を交えた。この総会では、2009年にIsland Arc賞を受賞したOh, Chang Whan(呉昌桓)教授が今年度の最優秀科学者賞を受賞した。彼は韓国岩石学会の現会長である。選挙により、大韓地質学会の新会長にはCheong, Daekyo(鄭大教)教授(江原道春川市 江原国立大学地質学科)が選出された(2014年1月着任予定)。鄭教授は日本の研究者に知り合いが多く、韓国で博士号を取得した江川浩輔氏(産総研)の指導教官だったそうで、米国イリノイ大学などに留学経験がある。現副会長の趙文燮(Cho, Moonsup)教授は残念ながら当選を逃した。

 24日夕刻の懇親会は、立食ではなく、多数の円卓を囲んで530席が用意され(図2)、料理も非常に豪華だった。懇親会のはじめにポスター賞や写真コンテストの表彰式があり(図3)、兪会長、私、Wallis副会長らが挨拶した。そして88歳のソウル大学名誉教授Lee, Sang Man(李商萬)先生(岩石学、趙文燮副会長の元指導教官)の発声で乾杯した。その後もChang, Ki-Hong(章基弘)先生をはじめ老先生や来賓の挨拶などが沢山あったが、歌や踊りなどのイベントはなかった。

図4.済州島東部の火山巡検で訪れた竜臥岳山頂にて。後方に風車とスコリア丘が見える。左からWallis副会長、井上大榮博士、Choi, Weon Hack(崔元学)総務理事、石渡。

 25日の午後、私とWallis副会長は大韓地質学会総務理事のChoi, Weon Hack(崔元学)氏とともに済州島東部の火山巡検に参加することができた(図4)。この巡検の案内者は米国陸軍極東工兵団に所属するPak, Chun-Pom(朴埈範)博士で(図5)、参加者は大型バス1台分(40人程度)であった。博士は軍人らしい精悍な感じの人だが、いろいろ親切に教えてくれた。海岸沿いのマントル捕獲岩の産地とスコリア丘(竜臥岳、ヨンヌニオルム)を見たところで時間切れとなり、我々は帰国のため空港に向かったが、巡検隊はその後水中火山活動の産物を見たはずである。なお、巡検の途中で聞いた崔氏の話では、済州島は三多と三無の島だそうで、三多というのは風と石(玄武岩)と女(海女として男よりもよく働く)で、三無というのは水と門と盗(泥棒)だそうである。確かに竜臥岳山頂は強風で、眼下には多数の風力発電施設が見えた(図4)。点在するスコリア丘の間に牛や馬の放牧場が広がり、海岸にはハイアロクラスタイトの火山が城壁のようにそびえていて、非常に風光明媚な場所である。この島はユネスコの生物圏保全地域、世界自然遺産、そして世界ジオパーク(地質公園)に指定されている。

図5.済州島東部火山巡検の案内者、Pak, Chun-Pom(朴埈範)博士と石渡。

 この公式訪問では日本地質学会と大韓地質学会の友好関係を深めることができたと思う。個人的にも、ご無沙汰していた多くの旧友と再会することができ、また新しい友人ができ、 そしてこの会に参加していた日本人研究者(多田隆二氏、竹村惠二氏、田中 剛氏、井上大榮氏ら)とも交流することができた。兪剛民会長、趙文燮副会長をはじめとする大韓地質学会幹部の皆様には、非常にデラックスなホテルとおいしい食事、レンタカーによる送迎などをお世話いただき、厚く感謝する。22日の非公式の夕食も非常に楽しかった。特に、大会全般を取り仕切って超多忙の中、我々の世話をして下さった大韓地質学会総務理事の崔元学博士と全日程にわたって運転手を務めて下さった江原国立大学大学院生のJeon, Woo-Hyun(全佑賢)氏に厚くお礼申し上げる。これを機会に、両学会の学術・教育交流が一層発展することを期待する。

 (2013.10.31)