福島原発大事故に伴う福島県の放射性物質汚染
—汚染地域の住民から見た汚染の実態—

千葉茂樹(福島県立小野高校平田校)


1.はじめに
  著者は,事故当時「福島市渡利」に居住していた.本稿では,汚染地域「福島市渡利」に居住していた人間の視点から汚染の実態を報告する.著者は今までに汚染の状況を報告してきた(千葉ほか2013など)が,本稿ではそれも含め,新たに「8.森林における放射性物質の濃集—楯状高放射線量土—」も記載する.この内容は,著者が知る限りにおいては報告例がなく初めての報告と思われる.発見の経緯なども含め詳しく記載する.さらに,今回,2011年6〜7月の福島市渡利における地上1cmの実測値(cps)を Bq/cm2(Bq/m2)に換算した.驚嘆する値である.
  なお,原発事故直後は放射線計が入手しにくい状態が続き,著者もその入手に苦労した.その後,放射線計を買い足している.本論には多数の放射線計が登場し理解しにくい点がある.原発事故直後の混乱を考慮しご容赦いただきたい.なお,測定器毎の換算はそれぞれの項目で説明しているが,本項目「はじめに」の最後に,これらをまとめ「単位」「測定機器」「換算式」として掲示した.
  また,隣接県の仙台周辺の汚染状況については石渡明氏のHP(http://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/geo/ishiwata/RadiationSendai.htm)が詳しいので,本稿とあわせてご覧いただきたい.
  福島第一原子力発電所は,2011年3月11日の東北太平洋沖地震の直接間接の影響により,制御不能になった.1〜3号炉は炉心溶融を,4号炉は火災を,起こした.更に1・3・4号炉では,建屋が水素爆発で吹き飛んだ.これら一連の事故により,放射性物質が大量にかつ広範囲に飛散した.福島県の汚染は, 3月15日が特に著しい.この日,放射性物質を含んだプルームは,南東風に載り浪江町津島や飯舘村などを,更に北風に載り中通りの福島市・二本松市・本宮市・郡山市などを,濃厚に汚染した(第1図).

第1図 福島原発事故の放射物質の汚染状態 早川(2013)を使用した.※拡大は図をクリック
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  放射線が人体に及ぼす影響(福島原発事故も含めて)に関しては,いろいろな見解がある.また,福島原発事故による放射性物質の汚染に関しても,多種多様な報告がある.原発事故による放射性物質の汚染および発生した疾患で最も重要なのはチェルノブイリ原発事故の報告である.しかしこれもロシア政府報告・ウクライナ政府報告のように見解が大きく分かれている.更に,福島県などの汚染地域では,原発事故の放射性物質の汚染に対して拒絶姿勢をとる方も存在する.しかし,著者は「汚染の実態を詳細に記録することが極めて重要である」と考えている.これは,将来(利害関係者がいなくなった段階で),放射性物質による汚染及びこれに伴う疾患の再検証が必ず行われる.その際に,「汚染の実態を示す基礎データが極めて重要になる」と考えるからである.野外調査を行ってきたフィールドワーカーは,その特性を生かし詳細な汚染地図を作っていく必要があるとも考えている.
  なお、本稿の中で「ホットポイント」という言葉を使用している。一般に比較的広範囲の高放射線地域を「ホットスポット」と呼ぶが、著者はこれより狭い範囲(数平方メートル以下)の高放射線点を「ホットポイント」と呼んで区別している.

・単位  
cps: 測定器が計測した1秒間当りの放射線量
cpm: 測定器が計測した1分間当りの放射線量
Sv: 等価線量.人体組織に対してどれだけのダメージを与えるか.組織や臓器によって異なる.皮膚組織に対しては,Sv≒Gy(物体が吸収した放射線量).
Bq: 放射性物質が1秒間に放出する放射線の数.
・測定機器
地上1cm(物体表面)の測定--- GM1,LUDLUM3,CoMo170
空間放射線量(1m)の測定---TCS-172B,ИР-001,PM1703M,GammaRAEIIR
・地上1cmの実測値の換算(137Csのγ線に関して)
LUDLUM3+44-9の実測値(cpm)×0.0076⇒GM1の値(cps)
GM1の実測値(cps)×0.456 ⇒Bq/cm2
GM1の実測値(cps)×4560 ⇒Bq/m2
・製造企業公表の換算式(測定値⇒137Csのγ線量μSv/h)
GM1の実測値(cps)÷3 ⇒μSv/h
LUDLUM3+44-9の実測値(cpm)÷2÷330 ⇒μSv/h
(プローブをビニルで覆うとβ線も計測するので,2で割りβ線分を除く.実測でβ線量とγ線量はほぼ同じ)


2.福島市渡利の汚染を体験して
  著者は東北太平洋沖地震の発生した2011年3月11日には,福島市渡利字岩崎町に居住していた.翌12日から福島第一原子力発電所の原子炉が不安定になった.著者は,12日奥羽山脈を越して猪苗代町に避難し住宅を確保した.猪苗代町への避難理由は,「放射性物質の多くは空気より数倍重いため高い山を越す量は少ないであろう」という判断であった.避難後は,仕事のため福島市と猪苗代町を行き来していた.7月30日,猪苗代町に完全に転居した.
  この間の著者の体験を記載する.福島市の主たる汚染は3月15日の夕方であった.著者は,この時には猪苗代町に避難していた.3月20日,避難先の猪苗代町から福島市に戻った.このとき,目と手に違和感を覚えた.翌21日,左目が腫れ上がり30日まで続いた.この間,目の洗浄を繰り返した.同じ時期,手の指先が針で突くような痛みと痒みを感じた.こちらは,なかなか治らず,5月下旬まで続いた.これらの症状は,20日に福島市に戻り放置していた乗用車を触った後からであった.なお,放射線計入手後の2011年6月にこの乗用車を測定したところサイドウインドー下の植毛部で40cps(GM1,後述)の放射線量を感知した.
  更に,事故直後から7月下旬までの状況で,特に気がついたことを書く.①鳥類がいなくなった.②地面を這うように生育する「コモチマンネングサ」の葉の色の変化であった.5月中旬,福島市から南下し小野町まで行った際,葉の色が黄色から緑色に徐々に変化していった.福島市では黄色であったが,田村市船引町や小野町では緑色であった.放射線量は,福島市で高く,南下するに従い低下し田村市船引町に入ると急激に低下している.放射線計の入手前で,放射線量は公的機関発表のデータである.
  乗用車の汚染について付け加える.2011年8月,猪苗代町で,浪江町から避難してきた
乗用車を測定したところ40cps(GM1)の放射線量であった.このほか,郡山市の自家用車からも放射線が検出された.なお,検出位置は,フロントガラスの下,サイドガラスの下,フロントグリル,タイヤハウスなど車によって様々である.2011年8月,著者は磐越自動車道(猪苗代−小野)をほぼ毎日走行したが,車の後部に溜まったアスファルト粒から微量ながら放射線が検出できた.更に,2013年4月現在,福島県中通りを走行している車では,未だに微量の放射線が検出されることが多い.


3.放射線計
  放射線計は,原発事故直後には非常に入手しにくい状況で,しかも高価であった.著者が放射線計を入手できたのは2011年6月で,しかも空間放射線量を測定する器械ではなく,放射線源を測定する「RPI Instruments製Rad-Monitor GM1(137Csのγ線で校正)」であった(以下,GM1).これを使い,福島市を中心に地上1cmの放射線量を測定した.
  その後は,多種多様の放射線計を試用し、測定に適するものを選別した.主に使用した機種は,以下の通りである.空間線量計として「НЕЙВА製ИР-001」「日立アロカ製TCS-172B」「POLIMASTER製PM1703M」「RAE Systems製GammaRAEIIR」,地上1cmの測定用として「RPI Instruments製Rad-Monitor GM1」「LUDLUM製3型+44-9プローブ」である.
  さらに,2013年6月下旬,SEA製CoMo170を入手し,地表1cmの放射線量(Bq・Bq/cm2)の測定を始めた.


4.放射線量計の比較・換算
  空間放射線量の測定は,2011年8月からウクライナ製「НЕЙВА製ИР-001」を使用した.さらに,2012年4月からは「日立アロカ製TCS-172B」を使用した.更に常時携帯用として「POLIMASTER製PM1703M」「RAE Systems製GammaRAEIIR」も使用している.
  このうち,主力として使用した「TCS-172B」と「ИР-001」を実測・比較した.「ИР-001」は,1μSv/hでは「TCS-172B」とほぼ同じ値,0.1μSv/h付近では「TCS-172B」の1.25倍,4μSv/hでは「TCS-172B」の0.75倍程度の値を表示した.
  「TCS-172B」と「GammaRAEIIR」「PM1703M」の比較では,「GammaRAEIIR」は「TCS-172B」とほぼ同じ値を表示したが,「PM1703M」は「TCS-172B」の約20%低い値を表示した.
  なお,「TCS-172B」「GammaRAEIIR」「PM1703M」の各機種について,2〜3台で比較したが,それぞれ10%程度の個体差があった.
  地上1cmの放射線量の測定には,2機種を用いた.2011年6月から測定に使用したのは,「Rad-Monitor GM1」(以下GM1)で,2011年10月からは「LUDLUM製3型+44-9プローブ」(以下LUDLUM 3+44-9)も使用した.2012年6月30日,飯舘村「ニュートラックいいたて」において,上記2機種を使い「黒い高放射線土」(後述)を実測し比較した。実測値の代表的な値は、「LUDLUM3+44-9」50000cpm,「Rad-Monitor GM1」380cpsであった。実測値から換算値を求めると、「LUDLUM3+44-9の実測値(cpm)×0.0076⇒GM1の換算値(cps)」になる.


5.福島市渡利の放射線量(2011.6〜7)
  2011年6月中旬,「RPI Instruments製Rad-Monitor GM1(137Csのγ線で校正)」を入手した.器械の特性を知るべく試の測定を2日間実施した後,地上約1cmの放射線量の測定を開始した.調査目的を「短期間に,測定地点を多く」とし,プローブにビニルのみをかけて測定した.第1図は福島市渡利の2011年6月29日から7月24日の測定結果である(第2図).放射線量が125〜500cpsの地点が多く,500cps以上の地点が点在した.最高は渡利字八幡町の1300cpsであった.この近くには渡利小学校がある.また,これらの調査で,空間放射線量(地上1m,この時はGM1で測定)が高いところでは,地表に高放射線土が存在する場合が多かった(後述).さらに,著者の自宅の庭(土やコンクリート塀の表面)は約40cpsで,最大で130cpsのところもあった.

第2図 福島市渡利の地表の放射線量分布図 測定はRad-Monitor GM1.国土地理院の1/2.5万 地形図を使用した. ※拡大は図をクリック
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  著者はこれらの実測した放射線量分布地図を講演等で話してきた.その中で,測定値の単位(cps)では「どのくらいの放射線量なのかわからない」との意見が多かった.このため測定値(cps)をBq/cm2への換算することを試みた.2013年5月,飯舘村「ニュートラックいいたて」において「黒い高放射線土」を実測し比較した。すなわちプローブの覆いを(なし,ビニル,アルミ箔)の3種の状態でそれぞれ測定し,その値を比較した.その結果は3種ともほとんど同じ値であった.従って,測定に用いたGM1は「γ線のみを感知している」と見てよい.次に,トロント大学の換算式(ネット公開)で,測定値(cps)からBq/cm2への換算を行った.それによれば,「測定値(cps)×0.456⇒Bq/cm2〔測定値(cps)×4560⇒Bq/m2〕」となる.なお,この値はバックグラウンドがゼロに近い場合であり,渡利の場合はバックグラウンドがかなり高いので誤差が相当量含まれる.
  2013年6月末,SEA製CoMo170を購入した.高放射線土の表面をRad-Monitor GM1とCoMo170で実測し,測定値(GM1=cps,CoMo170=Bq/cm2)の比較を行った.7月7日,飯舘村の「ニュートラックいいたて」の駐車場における計測では,GM1(280cps),CoMo170(140Bq/cm2)であった.7月10日,平田村西山の旧西山小学校のテラスにおける計測では,GM1(15cps),CoMo170(7.34Bq/cm2)であった.計測数は少ないが,「GM1の測定値(cps)×0.5≒CoMo170の測定値(Bq/cm2)」となる.この値はトロント大学の換算式「GM1の測定値(cps)×0.456⇒Bq/cm2」とほぼ同じである.
  トロント大学の式を用い換算し考察する.福島市渡利における2011年6〜7月の地表1cmの放射線量はすさまじい値となる.まず,著者宅の庭は18 Bq/cm2(18万Bq/m2),最大で59 Bq/cm2(59万Bq/m2)となる.さらに,福島市渡利には57〜228 Bq/cm2(57万〜228万Bq/m2)の高い放射線を出す地面が至る処にあった.最高値の渡利字八幡町では593 Bq/cm2(593万Bq/m2)であった.放射線管理区域が4万Bq/m2以上であることを考えると,汚染が如何に深刻であるかがよくわかる.

第3図 平田村の地上1mの放射線量分布図 測定はHEЙBA ИP-001。国土地理院の1/2.5万 地形図を使用した。 ※拡大は図をクリック
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6.平田村の空間放射線量(2011.8)
  平田村は阿武隈山地中央部にあり,福島第一原子力発電所から、南西約40kmに位置する.2011年8月中旬、平田村の中心部の調査を行った(第3図).放射線計は「HEЙBA ИP-001」で地上1mの空間線量を測定した。測定結果は,平坦部(標高約500m)では0.15〜0.30μSv/hであった.また、蓬田岳(標高952m)では、標高が高くなるにつれて放射線量も増加し、山頂部では2.5μSv/hであった.全体の傾向として,平坦部では放射線量は低いが,山岳部では放射線量が高かった.
  1年後の2012年8月にも日立アロカ製TCS-172Bで地上1mの放射線量を測定した.その結果,平坦部の平田村上蓬田では約0.15μSv/hで,1年前より低下していた.ただし,局部的な上昇も見られ,最高値は0.55μSv/hであった.蓬田岳頂部(山頂より標高で約5m低い)では,3.16μSv/h(PM1703M)とやや上昇していた.


7.本宮市の空間放射線量(2012.8)
  著者はそれまでの実地調査から,空間線量が「狭い地域においても局地的に高低がある」ことに気がついた.このことから,高汚染地域において,高密度に測定し,局地的な放射線量の変化を明らかにする必要性を感じた.このため,2012年8月,高い汚染地域の本宮市の中心部において,高密度な調査を行った.調査密度は10m×10mに1地点程度である.測定は,放射線計「日立アロカ製TCS-172B」・高さ「地表1 m」・時定数「30秒」で行った.第4図はその結果である.空間放射線量は,傾向として南西方面で低く(0.3μSv/h〜0.7μSv/h)北東方向で高い(0.3μSv/h〜1.9μSv/h).地形的には,北西部が丘陵地で高く,北東部は阿武隈川沿いで低い.また,所々に1.7〜3.5μSv/hの高放射線量地点(ホットポイント)が点在した.

第4図 本宮市中心部の地上1mの放射線量分布図 ゼンリンのインターネット地図を使用した.国土地理院の承認 平13東使 第8号. ※拡大は図をクリック
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  この結果から,放射性物質は,全体として地形的に高い所から低い所に移動しているように読み取れる.また、局地的な移動・集積も読み取れる.これらの主要因は,放射性物質が雨水で移動したためと推定される.


8.高い放射線を発する土
  著者は2011年6月から福島県内の放射線量の測定を行ってきた。その中で、高い放射線を発する地表に共通の特徴があることに気が付いた。その特徴とは、高放射線土は「色が黒い」「表面に亀甲状の亀裂がある」ことであった.
  第5図は,2012年4月30日,飯舘村の「ニュートラックいいたて」にあった高放射線土である.アスファルト面上の真っ黒いものが高放射線土である.空間線量(1m)は3.24μSv/h(ИР-001),地上1cmの放射線量は80000cpm(LUDLUM3+44-9,β線+γ線,137Csのγ線に換算すると121μSv/h)であった.この高放射線土を京都大学原子炉実験所の小出裕章氏に測定していただいた.小出氏のご厚意により掲載させていただく.134Cs;430万Bq/kg,137Cs;1000万Bq/kgとすさまじい値である(2012.04.30千葉茂樹採集,2013.07.10小出裕章氏測定).2013年7月10日時点で,小出氏が計測した福島原発事故の高放射線土の中では最高値とのことである.また,同じ場所の高放射線土を,1年後の2013年4月29日に採集し,測定した.134Cs;200万Bq/kg,137Cs;500万Bq/kgである(2013.04.29千葉茂樹採集,2013.07.10小出裕章氏測定).測定日は同じであるが,約1年野外に存在した高放射線土は,室内保管の高放射線土の約半分の放射性物質濃度である.
  2013年7月7日, SEA製CoMo170で高放射線土表面の放射線量を測定すると216Bq/cm2(216Bq/m2)であった.なお,空間放射線量(1m)は4.46μSv/h,地上1cmの放射線量は30μSv/hオーバーであった(TCS-172B).
  このほか,高放射線土は,福島市・郡山市など空間放射線量(1m)の高いところでは至る所に存在した.更に,空間放射線量(1m)の比較的低い猪苗代町・平田村にも見られた.更に遠方の山形市や一関市にも存在した.

第5図 高放射線の土—飯舘村「ニュートラックいいたて」— ※拡大は図をクリック
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9.高放射線土の移動
  第6図は,福島市渡利字岩崎町における高放射線土の移動を示したものである.左端は2011年7月4日の状態である.高放射線土は黒色で表面に亀甲状の模様が確認できる.地上1cm の放射線量は500cps(GM1)であった.約1ヵ月半後の2011年8月18日には,放射線土はなくなり,代わりに粗粒の真砂があった.地上1cm の放射線量は40cps(GM1)であった.その後,2012年4月21日には,再度,黒色・亀甲模様の高放射線土が出現した.地上1cmの放射線量線量は1520cpm(LUDLUM3+44-9)であった.GM1の値に換算すると92cpsになる.
  最初の測定の2011年7月4日と次の測定の8月18日の間に,大雨洪水警報が発令された豪雨が数度あった.このことから,高放射線土は雨水および地表水により移動していると考えるのが妥当であろう.

第6図 高放射線土の移動—福島市渡利字岩崎町— ※拡大は図をクリック
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10.森林における放射性物質の濃集—楯状高放射線量土—
  著者は,原発事故汚染地域において,アスファルト上やコンクリート上などに集積した黒い土が,高い放射線を発することを報告した(千葉ほか2013).この黒い土に関しては,京都大学の小出裕章氏が放射線量をいち早く測定し,さらに神戸大学の山内知也氏が黒い土には放射性セシウムを体内に取り込んだ藍藻類の遺骸が大量に存在することを,ネット上に公開した.更に,斎藤(2012)では,各執筆者が放射性物質の挙動について多方面から解説している.たとえば,田崎和江氏はバクテリアが放射性物質を体内に吸着し鉱物化することを記載している.浅見(2013)も土壌中の放射性物質の挙動について,詳しく解説している.

第7図 森林に存在する高い放射線の土—福島県高柴山— ※拡大は図をクリック
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  「森林における放射線物質の挙動」に関しては,古くは川瀬ほか(1971),最近では斎藤(2012),浅見(2013)に記載されている.しかし,「著者が今回発見した森林内の高い放射線を発する土」に関しての記載はない.
  著者は,2013年5月16日,福島県の高柴山の森林において高い放射線を発する土を発見した(第7図).高柴山は阿武隈山地にあり,標高884mで花崗閃緑岩からなる.この一帯の空間放射線量(地上1m)は0.16〜0.36μSv/hである(2013.05.18 著者測定,日立アロカ製TCS-172B).以下,発見の経緯について記す.牧野口(北東側登山口)からの登山中,空間放射線量(地上1m)が所々で急に高くなった.このため,下山の際,登山時に気が付いた高い空間放射線量の地点付近を注意深く探索した.その結果,高い空間放射線量の地点付近では,広葉樹の根元に高い放射線を出す土があることを発見した.
  5月18日に再調査を行い,高い放射線を出す土(領域)を4箇所確認した.23日には更に1箇所を確認した.これらはすべて登山道の切割りの急斜面(60〜80度)にあり,更に広葉樹の根元から下方向へ,楕円状の広がりをもって分布していた(以下,楯状高放射線量土とする).代表的なひとつ(整理番号3)について記載する(第7図).楯状高放射線量土の位置的に最も高い部分は,登山道底面から高さ約100cmにある.分布は,位置的に最も高い部分を起点として,下方へ斜面なりに楕円状に広がる.面積は,水平方向約35cm×天地方向約60cmである.表面全体の形状は楯状(鏡餅状)で,周辺より最大で約10cm盛り上がっている.更に,表面の状態は,黒色で鈍い光沢があり,大きさが3〜10cm程度の亀甲状の模様がある.この鈍い光沢は数m離れても識別できる.表面は,光沢の存在から平滑のように思えるが,接近するとスレッドレーススコリアのような凹凸および空隙が見られる.更に園芸用の小スコップで表面に穴を開けると,表面約1〜2mmは硬く,内部は空隙の多いやわらかい土である.イメージは,固焼きシュークリームの皮のようである.周辺の土は畑の土程度の固さであり,楯状高放射線量土は周辺の土よりはるかに固い.ここでの空間放射線量(地上1m)は0.50μSv/h,楯状高放射線量の表面(約1cm上)の放射線量は最大で8.07μSv/hである(TCS-172B).小出裕章氏の測定では,134Cs;13万Bq/kg,137Cs;32万Bq/kgである(2013.05.18千葉茂樹採集,2013.07.10小出裕章氏測定).
  なお,高柴山に存在する楯状高放射線量土5箇所における表面(約1cm上)の放射線量の最大値は11.63μSv/h (TCS-172B)である(整理番号5〕.小出裕章氏の測定では,134Cs;40万Bq/kg,137Cs;100万Bq/kgである(2013.05.18千葉茂樹採集,2013.07.10小出裕章氏測定).
  上記の楯状高放射線量土が如何なる理由で高放射線を出すのか,著者は調べるすべを持たない.しかし,①放射線物質が雨滴により樹幹を通って流れ下りこの部分に集積した,②微生物によって放射性物質が濃集した,①と②の複合,のどれかと考えている.


11.まとめ
  福島県の中通り・浜通り地域は,2011年3月11日の震災に伴い発生した福島第一原発事故のため放射性物質で著しく汚染された.
  著者は,事故当時,福島市渡利に居住していた.2011年6月,放射線計を入手し,汚染地域の放射線量(地上1cm)を調査した.その結果,福島市渡利では125〜500cps(57万〜228万Bq/m2)の高放射線土が至る所にあり,最大は,八幡町の1300cps(593万Bq/m2)であった.また,阿武隈山系の平田村の汚染は,低地では少なく里山では著しかった.更に,2012年8月の本宮市では,放射線量の分布に濃淡が見られた.この原因は,放射性物質の雨水での移動が考えられる.
  また,空間放射線量の高い地域(飯舘村・福島市・郡山市など)では,地表には高い放射線を出す亀甲模様の黒い土(高放射線土)が多数存在していた.高放射線土は,比較的放射線量の低い地域の猪苗代町や平田村,山形市や一関市などにも存在した.また,福島市渡利では,高放射線土が雨水で移動していることを確認した.
  更に,福島県高柴山の森林において,高い放射線を発する土(楯状高放射線量土,表面の放射線量11.63μSv/h)を発見した.

  

【文献】

浅見輝男(2013):環境土壌学者が見る福島原発事故−データで読み解く土壌.食品の放射性核種汚染.アグネ技術センター.299p.

千葉茂樹(2011、2012、2013):福島原発事故の汚染.そくほう.670.677.678.679.681.683.685.地学団体研究会.

千葉茂樹・諏訪兼位・鈴木和博(2013):福島県の放射性汚染土壌−とくに黒い物質−の野外の産状について.名古屋大学加速度器質量分析計業績報告書.鶸.78−96.

早川由紀夫(2013)福島原発事故の放射能汚染地図.早川由紀夫の火山ブログ.http://kipuka.blog70.fc2.com/

川瀬金次郎・小林宇五郎・小山誠太郎・滝澤行雄(1971):環境と放射能 汚染の実態と問題点.東海大学出版.420p.

齋藤勝裕(2012):東日本大震災後の放射性物質汚染対策−放射線の基礎から環境影響評価,除染技術とその取り組み−.エヌ・ティ・エヌ.324p.

 

 

(2013.7.15)

 

▶▶ English Abstract(英文要旨)