第66回国際地質科学連合(IUGS)理事会出席報告

小川勇二郎(IUGS理事)

図1 2012年8月から4年間の役員;左から,会計幹事(トレジャラー)Dong Shuwen氏,従来の事務局の書記,会長(プレジデント)Roland Oberhaensli氏,幹事長(セクレタリージェネラル)Ian Lambert氏.


1.はじめに
 2013年2月19〜22日(火〜金),パリのユネスコ・アネックスで開かれた標記の国際地球科学連合 (International Union of Geological Sciences,以下,IUGSと略記; http://www.iugs.org/) の理事会 (Executive Committee) に,初めて出席した.以下はその感想を交えた報告である.
私は,2012年8月オーストラリアのブリスベーンで開かれた第34回万国地質学会議(IGC)でのIUGSの総会で,新規の理事(任期4年)に選出された.会長ほかを含めて理事等計9名で理事会(Executive Committee)を構成する.ほぼ各大陸区分ごとにある程度バランスを取って選出される模様であるが,出資金にもある程度比例しているようである.以下は理事会のメンバーである(カッコ内は出身国と地域区分,およその専門分野).

        会長:Roland Oberhaensli(スイス;ヨーロッパ;変成岩);副会長:Yildirim Dilek(アメリカ合衆国;北米;オフィオライト)(今回は欠席);副会長:Marko Komac(スロベニア;ヨーロッパ;情報地質学);会計幹事(トレジャラー):Dong Shuwen(中国;東アジア;岩石学);幹事長(セクレタリージェネラル):Ian Lambert(オーストラリア;オセアニア;資源地質学)(以上5名が,ビュローを構成する.図1)
理事:Wesley Hill(アメリカ合衆国;北米;地学教育)(女性);理事:Hassina Mouri(南アフリカ;アフリカ;地学教育)(女性);理事:Sampat K. Tandon(インド;南アジア;堆積岩岩石学)(任期あと2年);理事:Yujiro Ogawa(日本;東アジア;野外地質学,海洋地質学)


このほか引き継ぎ役員として,前回までの会長と幹事長(絶大な情報量と権限を持っているようだ)(それぞれAlberto Riccardi氏(アルゼンチン;古生物学)とPeter Bobrowski氏 (カナダ;災害科学))も1年間同席するとのことであった(が,Riccardi氏は体調不良のため引退するとのことである.代理(職務権限を伴う)はBobrowski氏).なお,今後のIGC開催国である南アフリカ(ケープタウン;2016年)とインド(デリー;2020年)から,あえて代表団として理事を選んだ模様である.なお,この役員の選出は国家を代表するものではない.


2.IUGSとその周辺の構造および関係
 IUGSは基本的にNGOであり,同じくNGOであるICSU (International Council for Science;国際科学会議; http://www.icsu.org/about-icsu/about-us)のメンバーである.後者はユニオンの連合である.ユニオンとは各学問の大くくりの国際的な団体を指し,たとえば,IUGGは測地・地球物理連合,IGUは地理学連合である.それらが国際学会を数年ごと(多くは,3または4年毎)に,たとえば,IUGSの場合は,万国地質学会(International Geological Congress; IGC)を開いている.(ただし,このIUGSとIGCとの関係の沿革は簡単ではない.2004年までは,IGCを開催する国がその予算を独自に編成していたが,それ以降はIUGSが全体を統括しつつIGCも開催することになった.).(なお,IUGSなどのユニオンは国連の組織であるユネスコ(UNESCO)の傘下にはない.一方,後に出てくる国際地質科学計画(International Geoscience Programme; IGCP, http://www.unesco.org/new/en/natural-sciences/environment/earth-sciences/international-geoscience-programme/) は,ユネスコ傘下である.)
IUGSの内部には上記の理事会のほかに,さまざまな事象特に資金の管理を取り扱う秘書部(セクレタリアートと呼ばれる)があり,今回を期して,合衆国の地質調査所(USGS;Reston)から中国の地質アカデミー(北京)に移動し,今後5年間はそこで多くの事務を取り扱う.秘書部の代表はLi Zhijian (李志堅)氏である.この秘書部では7名の職員が常勤か非常勤化で働いているとのことである.
IUGSとほかの関連する組織との関連はやや複雑である.私が理解する限り以下のようである.IUGSに代表を送るのは各国のIUGS委員会であり,日本では学術会議第三部会地球惑星科学委員会の中にある,IUGS分科会である(委員長は海洋研究開発機構の北里洋氏).各国はIUGSの総会において拠出金に応じての投票権の数が割り振られており,日本は7票である(これは,米国,中国などに次ぐものであり,イギリスなどよりも多い.なお,本年から中国は8票分の拠出金となった).IUGSは,UNESCO傘下の地質関連事業のIGCP (International Geoscience Project; 以前は,International Geological Correlation Projectと呼ばれていた)と内容的にかなり重複することがあり,競合関係にあるようにも見える場合がある.(なお,IGCPの日本からの代表は早稲田大学の平野弘道氏である.)
また,ユニオン連合という任意の連合もあり,たとえば地球科学連合(計9つの団体の連合)がボランティアで組織され,数年前から活動しているという(日本の連合大会に似ている).これをICSU内部の公式の連合とするかどうかは今回の理事会でも議論はされたが,まだ意見の統一は見られていないようである.

図2 2012年度のIUGS年次報告書の表紙


3.報告と審議
 4日間の理事会の議事の大半は,理事のほか各プロジェクトの委員などの出席(計約60名)による報告事項であった.以下にそれと審議事項を列挙する.また,最後に筆者の感想を述べる.

1)主たる報告事項.第63, 64, 65回理事会の議事録の承認.また,2012年度(各年度はカレンダーイヤーに一致)の年報(報告書,833ページ;表紙は図の通り)が配布された.それ以外の昨今のとりまく重要事項としては,以下に箇条書きする通りの報告と意義づけが行われた.IUGSの公式雑誌Episodesの編集が中国からインドへ移行した.GeoParks運動(以下,運動というのは本報告での名称での筆者が使う,活動,プロジェクトなどの意味である)が重要事項として認められた.OneGeology運動(イギリスとフランス主導)の意義づけも行われた.国連はFuture Earthと呼ばれる運動を,以前のSystem Earth運動に代って開始し,本IUGSへも積極的参加を要請している.IUGSは2013年10月のデンバーにおけるGSA125周年においてブースを出し,世界全体への地質科学(地球科学)の主導権の発揮(Geoscience Initiativeという)を訴える.(これは「我々のdirection」と呼ばれており,従来とかく遅れがちであった地質科学分野の国際貢献を活発化したい,ということである.)IUGSのレファランス・マニュアル(欽定;v. 24; 計136ページ)を承認し,今後運用する.Resource for Future Generations(今後の時代の各種資源;金属非金属,エネルギー,水などの調査研究重要性)をデンバーで提出する.地球観測衛星のペイロード(取り付け装置)への発案,仙台における沈み込み帯地学災害ワークショップの日本からの提案の支援などを通じて,地質的考察の重要性を政治家や役人(political decision makers)に周知させるべく努力する.(これらは,地質学のコミュニティーをピュアなサイエンスにとどまることはなく,社会,政治などへ広く影響を与えることを目指すものである.そのためには広義の教育問題でもある.)そのほか,IUGSの会費の滞納金問題(支払いが遅れている,または滞っている国への対応),IGCPとの競合問題(この問題はかなり深刻であるようだ,それは互いに類似の行動やプロジェクトがあるからと思われる.)など.世界的に見て,全体に,こうした学術への予算が削減方向にあるが,今後UNESCOやICSUにさらなる援助の働きかけを行いたいなど.

2) IUGSの会計報告.会計幹事のDong氏から,会計報告がなされた.昨年度(2012カレンダー年)は,IGCなどがあったため赤字であった(主要な要因は,会費の未納のほか,オーストラリアドルの高騰(ユーロに対して1.4倍になった)ことにあるようである)).メンバー国は会費支払区分によって,active, pending, inactiveそれぞれ,80,6,34ケ国となっている.2013年は,経費の削減を行わなければならないだろう.

3)IUGS内部および支援している各活動団体の報告は以下の通り.
・Publication Committee (Brian Marker氏):Episodesの編集と内容のレベルアップをはかること.インパクトファクターが落ちている(最近は,1〜2程度).投稿はあるが,もう少し編集に力を入れるべきだ.(なお,日本からのアソシエイト・エディターは,明治大学の松本良氏である).
・International Commission on Stratigraphy (ICS) (Stan Finney氏):サントニアンの問題.Geobiodiversity databaseの作成.なお,International Chornostratigraphic chartが作成された.ベントナイトが多くの定量的データを含む(ジルコンなど)ので,今後重要である.www.stratigraphy.org.なお,今後とも野外地質学は重要なので,フィールドミーティングや後進国の若手援助を充実したいとのこと.
・Education, Training and Technology Transfer (CODE) (Jesus Martines Frias氏):後進国への教育的支援に関して.(ヨーロッパの人々から見た後進国とは,主としてアフリカを指すらしい)それらの人々を,実質的な教育を通して支援したい.www.iugscoge.org
・Management and Application of Geoscience Information (CGI) Francois Robidia氏.History of Geological Sciences (INHIGEO) (Wesley Hill氏):これらも,教育の一環でもある.
・Tectonics and Structural Geology (TecTask, www.tectask.org)(Manuel Sintabin氏):さまざまな取り組み,特に,残すべき露頭の保全,写真集,GoogleEarthへの対応など.www.outcropedia.org このグループには,日本から北海道大学の竹下徹氏が入っている.日本地質学会構造地質学部会編の「日本の構造地質露頭100選」と同じ趣旨のようであり,今後,協力するべきだろう(なお,Sintabin氏の示したGoogleEarth mapには,日本でのプロットはなかった).また,John Ramsay medal, Henk Zwart medalというものを用意する.さらにglacier watch, geo-vandalism, geoheritageなど破壊されつつある自然をどのように守るか,に関する積極的発言をしていくとのこと.我が国でも,身につまされることが多かった.
・Geoscience for Environmental Management (GEM) (Brian Marker氏):これには地質学的な公害(沈下,地下水,ダスト気候変動,金水銀などの鉱山跡の処置,自然災害,人工的な地層の問題など,人間活動による地学災害)の防止の情宣活動を行っている.日本からも国際的な貢献が望まれる.
・新しいプロポーザルの方向性(Ian Lambert氏):今後Future Earthの一環としてのさまざまな問題提起を行っていきたい.持続的社会を造るためには,decision makerが誰なのか,それが分かれば働きかけがしやすい.しかし社会は複雑なので,簡単ではない.日本の津波災害では,古地震学・古津波学の成果を社会が生かしきれなかった苦い経験がある.GeoscienceのFuture predictionの方法論を確立して,それを社会に生かす工夫をすべきである.今後,Strategy Implementation Groupを作って,ロードマップを作成し,イニシアチブを構築したい.これは,short-lived task groupとなろう.重要なのは,nature-human-environment-tectonicsを一つながりのものとして,統合的に取り組むことである.ドイツのある大学では,Geogovernment, geopoliticsというコースを作った.このような運動には,広く交流や教育活動が重要である.すでにこうした社会での活動は,ほかにオーストラリアやスウェーデンでも始まっている.人口密集の問題,景観の喪失,外交・政治問題との抵触などがある.後進国では,水問題,水汚染が深刻である.基本となるのは,市民は,そのような身の回りの状況を知る権利を持っているということ,市民は,教育を受けるべきであることである.将来に禍根を残さないために,急ぐ必要がある.特に,社会科学方面の人々に,自然科学からのインプットをするべきである.ここにきて,大気汚染,鉱物・エネルギー資源の問題が重要になってきた.つまり,経済界・工業鉱業関係者,政府,およびアカデミア(学術関係者)の3つが,互いに密接に協議すべきである.われわれアカデミアは,上意下達でなく,ダウンツートップでやるべきだ.その時,自由なものは,責任を取ることである.(筆者の感想:全くその通り.各分野の人々が,国際感覚をもって,これらの問題を,広く深く議論すべきである.)

4)各タスクグループの報告.以下のようなものがあった.
・Global Geochemical Baseline (TGGGB) (Sampat Tandon氏):国際標準化が進み,ゴールドシュミット会議でも地球化学的マップを作成しつつある.
・Geoheritage (Patrick de Weber氏):IUGS-ProGeoが終了し,一覧表を作った.地質露頭の保護,ジオツーリズムなどの活動.geoheritage-iugs.mnhn.fr
・Heritage Stone (TGHS) (Dokores Pereira氏):建造物に残された岩石の意義.日本からの代表は,産総研の加藤碩一氏.www.globalheritagestone.org
・Global Geoscience Professionalism (Ruth Allington氏):これは,地質学上の専門知識を社会にどのように役立てたらよいか,に関する実質的運動.広く興味を持たれた.社会を安全,安心で暮らせるようにするためには,社会全体と個人が知識を共有する必要がある.そのためには,専門家がその知識を広く社会に役立てるべく努力するべきである.Expertiseという用語がよく使われる.

5)新しいイニシアチブの提案.
・Initiative on Forensic Geology (Laurence Donnelly氏):地質学を犯罪捜査に役立てる.犯罪地質学,捜査地質学とも呼ぶべきもの.今後,重要になるであろうと思われる.また,地質学的公害や汚染を削減することに努力すべきである.すなわち,研究者は,儲けるためにやっているのではない.儲からないことにお金を掛ける意味を,社会全体で考えるべきだ.

 
図3 世界地質図(拡大は画像をクリック)

 
6)関連する組織との対応
・Outreach問題(Wolfgang Eder氏):さまざまな活動が行われている.Geoheritage, Geoparks, Geotourismという運動がSpringerの支援で行われている.そのほか,Geoschools, Disaster Riskなどの運動が活動的だ.Ground Water, Soil Resource などグローバルな理解が必要なことが多い.
・Geoethics問題:世界的に地質関連の倫理問題が多く起きている.公害問題にとどまらず,人類が危機に立たされている.IUGSがやらなければどこがやるのか?多くの人々の力と協力をお願いしたい.
・IAGETH (Jesus Martinez-Frias氏):社会地質学的な倫理問題が多く起きている.国際学会が組織されている.
・GS Europe:ヨーロッパ各国の地質調査所連合を作っている.データの共有のための標準化が求められている.
・European Federation of Geologists:ヨーロッパの地質学連合.
・Commission for the Geological Map of the World (CCGM)(Philippe Rossi氏):OneGeologyの一環.アジアの地質図も出版された.日本からは,産総研の佃榮吉氏が参加.www.cgmw.net, ccgm.orgから注文可能.(図3)
・Young Earth Scientist Group (Wen Mang氏):世界の若手研究者の連合.活発に活動している.日本からは静岡大学のサツカワ・タカオ氏が参加.www.networkyes.org
(以下は,UNESCOのプログラムのIUGS関連のものによる報告)
・Geological World Heritage (Wesley Hill氏):UNESCOでしかできない最重要地質的世界遺産.GeoParksよりも大規模,重要なものに対して論じている.なお,最も力を入れているのは,現生で行われつつある重要な地質作用の保存や,失われたら取り戻せない重要な景観の保存である.その一例が,アンコールワットであるという.日本では,歴史,文化,危機,自然遺産などがよく知られているようだが,この地質遺産としても,今後検討を加えるような方向になるかもしれない.ただし,非常に重要な遺産だけを取り上げるべきだろうとのことであった.
・Task Group on Isotopic Geology (Igor Villa氏):これはStratigraphic Commissionの一部として活動している.重大な問題は,地域(ロシアとそれ以外)によって,壊変定数が異なることである.また物理と化学分野で言語が異なることもある.しかし,時代決定は,コンコーディア年代の決定と第四紀の気候変動にきわめて重要である.
・OneGeology (Marco Komac氏):各国ごとに基準が異なる場合が多く,データの共有化は簡単ではないなどの問題を抱えている.
・International Lithosphere Programme (ILP) (Magdalena Scheck-Wenderoth氏):さまざまな取り組みが行われ,広範囲な活動をしている.その多くが,地質学にもかかわるので,今後とも,IUGSとの協力関係を続けたい.日本からの代表は,神戸大学の巽好幸氏.なお,示された表には,日本は分担金を未払いのように示されていた.確認が必要.
・Global Geoscience Initiative (GGI) (Edmund Nickless氏):英仏で盛んになってきた運動で,OneGeologyや,IRDR(災害リスク統合研究計画;http://www.irdrinternational.org/ 日本からは,土木研究所の水災害・リスクマネジメント国際センター竹内邦良氏が理事として参加している.),その他の地質災害・公害研究組織などと関連している.そのお題目は,社会に根差した全地球的地球科学を目指すというもので,地質学の知識を社会に役立てることを考えている.さまざまに分断されているコミュニティーを統合し,情報や知識,理解を共有することを行っている.有名人との対話や問答を通じて,学問と市民を結びつける展開.日本でも,学術フォーラムや地質学会開催時における市民フォーラムなどが開かれているが,市民との対話をより重視し,「今何をすべきか」を考え行動する努力をすべきと思われる.(なお,Edmund Nickless氏からは,日本が主導しようとしている災害リスク行動(たとえばG-EVERなどと協調して行きたい,とのことであった.).
・34th IGC報告(Ian Lambert氏) 
・35thIGC計画(Daniel Barnardo氏):2016年8月,ケープタウンにおける準備は進んでいる.アフリカ全体が協力する学会と位置付けており,非常に多くの(80もの)巡検を計画している.
・36thIGC計画(Sampat Tandon氏):2020年2月,デリーにおける準備を開始した.

7)ユネスコの報告:
・ユネスコにおける地球科学の取り組み(Patrick McKeever氏):そもそもIUGSもその中の諸組織も,大きい目で見ると,UNESCOと協調して行かなければならない.同氏からは,昨今の状況と詳しい取組が報告され,それぞれに問題点が指摘された.日本に関連するものとしては,IGCP の活動と,それとIUGSの関連(IUGSは,IGCPを同列として考えているが,IGCPのロゴマークが,誤解を招きやすいとの指摘が,複数の理事から出された.今後の検討課題.),国連傘下のFutureEarth運動とICSU傘下のIRDR(自然災害リスク計画)などがある.最大の問題は,資金の低減化である.
・IGCP-ARC (Marco Komac氏):ARCというのは,Ad hoc evaluationのことで,公正に見たIGCPの各プロジェクトの評価であった.非常に厳しいものもあり,特に,同一のグループないし人物が,名称を変えながら,類似のプロジェクトを延々と続けていることが指摘されている.なお,IGCP側からも,予算が少ないうえに,膨大なレポートを要求されているなどのことが言われているようであり,今後,競合するプロジェクトも出てくると思われる.そのほか,以下のような活動の報告があった.
・Geological Application on Remote sensing (GARS) (Patrick McKeever氏),
・Group on Earth Observation (GEO) (Stuart Marsh氏,S. Chevrel氏):これはGEOSS (systems of system)というお題目でやっており,一段と進んだ地球観測を行いたいようである.従来のシステムの理解を超えて,サブシステムのシステムへの効果を立体的に理解しようとのことである.
・Earth Science Education on Africa (Patrick McKeever氏):UNESCOもIUGSも,アフリカへの教育の重要性をことあるごとに強調していた.

8)International Council for Science (ICSU)関連(いくつかは,上記のものと重複する)
・ICSUとIUGSとの関連.IUGSの各運動も,できればICSUからの資金援助を取付けたいが,簡単ではない.
・ICSU内部の各地球科学関連のユニオンの連合体の構想(Peter Bobrowski氏):前出.Planetary Earthの大題目のもとに,9つのユニオンが結集する.IUGS, IUGGなどのほかには,Soil Science, INQUA, IGU, IAOなどが含まれる.
・ユニオン集会:2013年4月にパリで行われる.

9)その他の議論.
・IUGS e-bulletinを,毎月発行するように努力する.

10)2013年度のIUGS予算案の審議と決定 IUGSの2013年度の事業への予算額の総額は,約524,000ドルであり,昨年度から2割減である.その中で,日本に重要なのは,10月に仙台で開かれる産総研・学術会議,IUGS共同主催(日本地質学会後援)のG-EVERシンポジウム(地震・津波・火山災害関連のリスク削減)に,IUGSとしても津波関連のワークショップを推奨する方向で,15,000ドルを上限として研究者の招へいに使用することが決定されたことである.


4.筆者の感想とまとめ
 以上,筆者の興味を持つ事項をやや詳しく,それ以外は羅列的に記した.昨今の状況としては,人間活動の活発化にともなって地球規模のさまざまな問題が発生しており,学問は進歩しているにもかかわらず,それ以上に重要な課題が山積してきた.環境,資源,災害など,人口の増加,密集,産業の高度化などにも関連する問題が多い.国連のFuture Earth 運動を積極的に支援するために,地質科学分野の果たす役割は大きい.そのために,最重要なのは,IUGSによるGeoscience Initiativeの明確化と実行であろう.そのためのstrategic planを具体化しようとの概念や試みは上記のように始まっているが,相手とする分野や現象が多岐にわたるために,見通しの良い活動を行うのは全体に簡単ではない.特に各国の足並み,分野やグループごとの作業を標準化,共有化することに,多くの労力が必要である.アフリカを中心とする後進国への教育的支援は重要ではあり,多くの努力がなされているものの,遅々としている.また先進国では後進国を巻き込む倫理問題が発生している.特にGeo-vandalismと称される,地球科学的野蛮行為(環境破壊,資源の枯渇,公害の発生など.明確化はされなかったが,原発事故も含まれる)が顕著になってきた.
こうした人類の抱える諸問題の解決のためには,地質科学が重要であることは論を待たないが,政策決定者や政治家,立法府の人々に,その重要性や学問の役割などが浸透していないというゆゆしい問題がある.また新しい世代の新しい人的資源の開発,確保も,重要である.多くの人が活発な活動を展開してはいるが,資金が低減化する傾向にあり,予断を許さない.
IUGS-IGCは4年で一回の開催でよいか,という問題もある.ほかのユニオンは,3〜4年に一度と類似である場合が多いが,その間により小規模な国際集会を行うユニオンも多い.地域や焦点を変えて,またほかのユニオンとの共同でやったらよいとの意見には,賛同したい.今回,カナダのバンクーバーで中間期のIUGS集会をほかのユニオンとも共同で2018年に開きたい,とのプロポーザルがあった.なお,2014年に中国において,Future resources summitが開かれるほか,いくつかの地域で,火山災害,地震・津波災害などの集会が開かるが,このようなテーマを絞ったショートコースやワークショップを積極的に開く必要があろう.上に述べたように,日本でも2013年10月の仙台における自然災害ハザードとリスクシンポジウムが,産総研内部のG-EVERという運動として行われるが,それはIUGS,日本学術会議,地質学会なども共同主催,後援などとして加わる予定である.
今後はそのような活動を通じて,地域,企業などの各人の社会などの中で,サイエンティスト集団(アカデミア)と一般社会やディシジョンメーカーなどとの交流を深め,人類と地球の将来のために,学問を役立てるべきであることの重要性を再認識した.
すでに述べたように,個別の話題に関して,筆者が強く興味を持ったのは以下のような事項である.最近,Geo-vandalism(地球科学的野蛮行為)と一括される地質関連の倫理問題が世界的に多く起きている.公害問題にとどまらず,人間活動がもとでの非倫理的蛮行によって,環境,資源,知的財産つまり人類を取り巻く多くの事項が危機に立たされている.IUGSがやらなければどこがやるのか?多くの人々の力と協力をお願いしたい,という意見には全く同感であった.人々はそれぞれの属する組織に縛られた立場もあるであろうが,日本の原発事故などを受けて,多くの参加者が地球全体のエネルギー資源と環境問題との調和に,ひそかに強い関心を持っているということがうかがえた.
また,IUGSには広い意味での教育問題に関心があるということである.これは,特に後進国(アフリカ諸国を特に意識)や若い世代の育成に焦点を当てたものと受け取れた.昨今,過去の時代に活躍した世代の多くの人がリタイアしつつあるが,その世代にも果たすべき役割があるに違いない.若手のいいところを伸ばすべく援助をして,老人の知識と経験とエネルギーを若い人すなわち将来のために役立てるべきだろう,ということである.
経済活動の行き詰まりなどから,どこも資金難である.具体的な妙案はないようである.世の中には地球科学的なさまざまな委員会,行動,プロジェクトなどがあるが,その間での重複がきわめて多い.ほとんど類似のプロジェクトが複数あるといってもよい.それらをどのように整理するかについても議論はされたが,これも妙案はない.
最後に,4日間の会議中に,同じ建物でIGCPの会議があり,日本から,産総研の斎藤文紀氏が出席していた.また,同時に,津波工学の集会が開かれており,気象庁の角田健二氏が国際委員として参加していた(面会やメールなどで状況を知ることができた).以上のように,類似の分野での相互の情報交換は重要である.また,ジェンダーバランスについても考えさせられた.時に応じて,内外からしばしば指摘されることであるが,国際的には女性の等価,等量の参加が求められていて,ジェンダーバランスを取る,と言われている.今回,9名の理事役員のうち,女性は2名であり,報告を行った各グループの代表のかなりの人々が女性であった.日本でも女性の進出は徐々にではあるが認められるようではあるが,十分とは言えないようである.
以上,部分的にやや詳しく述べたが,それぞれにさまざまな問題を含んでいる.今後ともその解決に向けて十分に注視していきたい.皆様からのご意見をお願いしたい.

 

 (2013.3.27)

 ※本原稿の縮小Verは,日本地質学会News, Vol.16 No.4(2013年4月号)に掲載