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┴┬┴┬ 【geo-Flash】 日本地質学会メールマガジン ┬┴┬┴┬┴┬┴
┬┴┬┴┬┴┬ No.173 2012/4/3  ┬┴┬┴  <*)++<<  ┴┬┴┬┴
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★★目次 ★★
【1】第4回日本地学オリンピック本選の結果が発表されました
【2】本の紹介:「クラカトアの大噴火 世界の歴史を動かした火山」
【3】地球惑星フォトコンテスト―入選作品展示会のお知らせ―
【4】支部・専門部会情報
【5】公募情報・各賞情報

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【1】第4回日本地学オリンピック本選の結果が発表されました
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第4回日本地学オリンピック本選が茨城県つくば市において3月25〜27日に
行われ、最優秀賞4名、優秀賞4名のほか、茨城県知事賞、つくば市長賞、
つくば科学万博記念財団理事長賞、産総研地質調査総合センター賞が授与さ
れました。

第4回日本地学オリンピック最優秀賞
井原 央翔(イハラ ヒロカ)高2 愛媛県立松山東高等学校
中里 徳彦(ナカサト ノリヒコ)高2 横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校
松尾 健司(マツオ ケンジ)高2 灘高等学校
丸山 純平(マルヤマ ジュンペイ)高2 聖光学院高等学校

第4回日本地学オリンピック優秀賞
真田 兼行(サナダ カズユキ)中3 灘中学校
島本 賢登(シマモト ケント)高2 広島学院高等学校
新宅 和憲(シンタク カズノリ)高1 広島学院高等学校
杉 昌樹(スギ マサキ)中3 灘中学校

茨城県知事賞(総合成績1位)
中里 徳彦(ナカサト ノリヒコ)高2 横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校

つくば市長賞(女子1位)
渡邊 ふみ(ワタナベ フミ)高2 AICJ高等学校

つくば科学万博記念財団理事長賞(中学生1位)
真田 兼行(サナダ カズユキ)中3 灘中学校

産総研地質調査総合センター賞(標本鑑定1位)
松尾 健司(マツオ ケンジ)高2 灘高等学校

なお、今年行われる第6回国際地学オリンピック アルゼンチン大会への派遣
選手は、4月中旬頃に発表される予定です。

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【2】本の紹介:クラカトアの大噴火 世界の歴史を動かした火山
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サイモン・ウィンチェスター著 柴田裕之訳
クラカトアの大噴火 世界の歴史を動かした火山
早川書房 2004年1月31日初版 ISBN4-15-208542-6 C0025
466 p. 157x217x37 mm, \2800+税

Simon Winchester
Krakatoa: The Day the World Exploded, August 27, 1883
Penguin, 2004 (Viking, 2003) ISBN-13: 978-0-141-00517-1
432 p. 128x197x30 mm, \2205税込(購入時の実費,変動あり)
 


 この本は,19世紀以後の現代世界で最大の噴火の1つであるインドネシアのクラカトア火山1883年噴火(噴出量25 km3,火山爆発指数VEI=6.5;本書による)について,この噴火の推移とそれによる津波災害(死者36,000以上)を中心に,プレートテクトニクスに基づく地球科学的背景やこの火山の噴火史,生物学・生物地理学・気象学・大気物理学分野の関連現象,そしてこの噴火の社会的な背景・影響,歴史的意義を含めて,「人に焦点を当てて壮大なスケールで描いた」(早川書房の宣伝文)文理融合的な労作である.これは地質図の創始者ウィリアム・スミスを扱った同じ著者の「世界を変えた地図」(原書2001年、和訳は早川書房から本書より遅れて2004年7月に出版)の次作であり、2003年の出版(和訳は2004年1月)から8年も経過しているので,既に新聞,雑誌,ネットなどに火山の専門家や一般人が多数の書評や感想文(多くは好意的)を発表している.今さらの感もあるが,東日本大震災を経たこの時期に,もう一度この本を読み直し,我々の学問を見直す必要があるのではないかと考え,ここに紹介する.

 本書の訳者は,あとがきの最後に,「日本に暮らす私たちにしてみれば,クラカトアの動きを待つまでもなく,地殻の活動の影響を体験する機会はいくらでもある.ただし,人的・物的被害はあくまで本書のような読み物の世界の中に収まっていてほしいものだ」という願いを述べている.しかし,本書の出版直後の2004年12月に,同じインドネシアを震源として,同国やインド洋周辺諸国で津波による死者計28万以上を出した海溝型のスマトラ大地震が発生し,2005年3月にもその南の隣接地域で死者1300以上の海溝型地震が,2006年5月にはジャワで死者5000以上の直下型地震が起きた.2008年5月には死者7万に近い中国の四川地震,2010年1月には,カリブ海のハイチで死者22万以上の直下型地震が発生した.そして,2011年3月に死者・行方不明者2万に達する東日本大震災が発生した.この間,イラン,パキスタン,チリ,トンガ,ニュージーランド,イタリア等の地震でも相当数の死者が出た.訳者の願いも空しく,本書が出てから現在までの8年間に,クラカトア大噴火による死者の15倍以上,60万人を超える人々が地殻の活動に起因する自然災害で死亡した.火山の噴火による死者は少なかったが,例えば2010年にアイスランドのエイヤフィヤトラ氷河火山が噴火し,その火山灰により欧州の航空網が1週間も麻痺する事態が発生した(鈴木雄治郎(2010),日本地質学会News, 13(5), 10-12).

 現時点でこの本を読む1つの意味は,巨大噴火の実像を全体的に把握できる優れたドキュメントという点である.インドネシアのタンボラ火山噴火(1815年,100 km2)など,クラカトアより大規模な歴史時代の巨大噴火は他にも知られているが,噴火や被害の様子が最も詳しく記録されているのは最新のクラカトアである.もし日本で巨大噴火が発生するとどうなるかについては,石黒耀の小説「死都日本」(講談社, 2002年,2005年本学会表彰)によく描かれているが,実際には約7300年前の鬼界カルデラの噴火(噴出量>170 km3)以後,日本で巨大噴火は起きていない.歴史時代に日本が経験した最大の火山噴火は朝鮮と中国の国境に位置する白頭山の噴火(平安時代,噴出量50 km3)であり,その火山灰は東北地方から北海道にかけて5 cm程度の厚さで堆積しているが,この噴火についての確実な歴史資料は日本,朝鮮,中国いずれの国にも残っていない(宮本ほか, 2002; 月刊地球号外39, 202-).渤海国がこの巨大噴火で滅んだという議論があったが(町田洋, 1992;火山噴火と渤海の衰亡,「謎の王国・渤海」,104-, 角川選書),最近の目潟火山湖底堆積物の年縞の研究によると噴火発生は929年であり(川手ほか, 2010; 地質雑, 116, 349-),同国滅亡(926年)の直接の原因ではないらしい.しかし,亡国の混乱期に噴火が追い打ちをかけたことは間違いないだろう.

 本書には時系列的に事項を並べた表がついていないので,噴火に伴うイベントがどのような順序で起こったのかを理解するには,ノートをとりながら読む必要がある.1883年の噴火は,まず5月10日の地震や空振で始まり,5月20日にクラカトア島の南峰(ラカタ)が噴火した.この噴火は翌日まで続いたが,被害はなく,22日には静かになった.6月24日に島の中部のダナンから噴火が再開し,7〜8月にかけて噴火が続いたが,特に被害はなかった.しかし,8月26日(日)の午後になって,ジャワ島西岸の町に熱い軽石が降るようになり,大きな大砲を打つような音が聞こえ,夜には空振でガラスが割れるなどの被害が出るようになった.そして27日(月)になって大きな爆発が4回発生した(クラカトア時間で5:30, 6:44, 8:20, 10:02).このうち3回は地球全体で気圧の変化が観測され,4回目の最大の爆発の衝撃波は地球を7周回ったことが各地の気圧計に記録されている.最初の爆発で大きな津波が起き,6:15にスマトラ島のケティンバンが壊滅,ジャワ島のアンイェルもこの頃津波で壊滅した.津波は9:00にジャワ島北西端のメラックに達し,11:30にはジャワ島北岸中部のバタビア(現ジャカルタ)に達した.同市では12:36に最大津波が襲来し,この日の午後まで暗い灰に覆われ,泥の雨が降ったが,28日(火)の夜明けには全て止んだ.つまり,これほどの規模の噴火でも26日の午後から27日の午後まで,激しい活動は24時間程度であったことがわかる.これは過去や将来の巨大噴火を考える上で参考になる.

 本書のもう一つの興味は,様々な学説や学者についての著者独自の見解である.この本では,大規模な地質区の意味や科学史的な時代背景を読者に理解させるために,まずアジアとオーストラリアの動物区の境界であるウォーレス線の話が出てくる.しかし,ウォーレスの進化論における大きな貢献を,同時代のダーウィンが正当に扱わなかった,という方向に話が進んでしまう.地質的な境界(プレート境界)とウォーレス線はどう見ても一致せず,ほぼ直交するのに,この不一致についての説明はなく,同じ沈み込み帯上のバリ島とロンボク島の間の幅25 kmの海峡をウォーレス線が通る理由も説明がないのは残念である.一方,大陸移動説のウェーゲナーが同時代の学界からいかに憎まれていたか,その理由は何か,なぜ彼の学説が長く欧米の地質学界で無視されたかについては,よく説明されている.プレートテクトニクスの創始者の一人であるT. ウィルソンが,いつもポケットにトランスフォーム断層の模型を入れていて,誰にでも嬉々として実演したというようなエピソードが随所に散りばめられている.中でもオックスフォード大学の地質学科出身の著者自身の体験談は面白い.著者は学生時代,プレートテクトニクス創始者の一人であるH.H.ヘスの講演会の代表世話役をしたが,いろいろ不運が重なって大失敗をした話は非常に生き生きしており,ヘスの酒好きで人なつこい性格をよく伝えている.学生時代にグリーンランドで古地磁気試料採集のための探検旅行に手伝いとして参加した話にも,青年期の実体験に裏付けられた輝きがある.

 本書の文系の話について私はあまり批評能力がないが,少しだけ指摘する.インドネシアにおけるイスラム教の原理主義化と独立運動がクラカトアの噴火を機に顕在化した,という本書第9章の話は,「イスラム教が根本的に帝国主義の宗教であることを忘れてはならない」,「インドネシアはアラビア人によって改宗させられ,今なお,アラビアやアラビア人に精神的な指標やよりどころを求めている」(訳書p. 367)という基本認識が基調となっていて,2001年の米国東部9.11テロ事件や2002年のバリ島爆弾テロ事件(p. 379)が続いていた本書執筆時の欧米の雰囲気を色濃く反映しているように思う.また,本書前半のオランダの東インド会社に関する記述を読むと,15世紀末の「教皇贈与」によって世界を半分ずつ与えられたスペインとポルトガルに遅れて,16世紀から植民地獲得競争に参入したオランダとイギリスの相互関係がよくわかる.1726年出版のスウィフトのガリバー旅行記にはオランダ人への悪口がずいぶん書かれているが,本書にも多少そういう気分がある.

 さて,クラカトア島は1883年の噴火で一度消滅したが,1928年にアナック(子供)・クラカトア島が現れ,それ以後噴火を繰り返しながら,著者の計算では毎週5インチ(これを12.7 cmと訳すのは数学的には正しいが地学的には誤り)のスピードで現在も成長を続け,既に標高500 mを超える火山になっている.大噴火前のクラカトア島南峰の標高は約800 mだったので,それに近づいている.本書最終章には著者のクラカトア島訪問記がある.
本書の巻末には,「この本を書くために有益で面白かった本」が100冊リストアップされている.私の高校時代の恩師は,「本を1冊書くには,100冊は読まなければダメだ」と仰っていた.この著者はそれを実践しており,見習わなくてはならないと思う.推薦図書や映画の説明も,「推薦できない1本の映画」の批評を含めて大変面白い.

 この本の日本語訳は非常によくできていて,専門用語の訳も正確である.しかし,原書の著者の勘違いによるいくつかの間違いがそのまま訳されている.訳書115頁の「ブリュンヌは更新世の終わり,今からおよそ1万年前に磁場の逆転があったことを示した」というのは,およそ70万年前の間違いである.これに関連して,原書では松山基範の名前がMotonariになっている.また,原書384頁(訳書425頁)の脚注に小笠原の海底火山「福徳岡の場」が出てくるが,Fukoto Kuokanabaになっている.訳書129頁の「海洋リソスフェアは薄く,厚さはおそらく6〜7 km」というのも原書の著者が海洋地殻と海洋リソスフェアを混同している.場所にもよるが,厚さ約100 kmが正しい.また,この頁の「その熱は今,引いている」という訳はわかりにくい.これは地球内部に蓄えられた集積熱と放射性同位体の崩壊熱が次第に減少していることを指す.
現時点で本書を読んで思うことは,10年後でも20年後でもよいから,日本人が世界に向けて,本書のように地球科学と人文学を縦横に編み上げた,しかし日本人独自の世界観に基づく,筋の通った一般向けの東日本大震災についてのドキュメントを書くとすれば,どのような内容になるだろうか,ということである.しかし,我々地質学研究者は文筆家ではないので,最近も世界で年平均数万人が犠牲になる地震,火山,津波などの「プレート災害」を少しでも減災するために真剣に研究を進め,世界と連携して行動していく必要がある.津波は現在の科学レベルでもその襲来の10分以上前(場合によっては数時間以上前)に予報できる災害であり,火山噴火も予報に成功して住民を避難させた例が日本にあり、地震も大きな揺れが到達する数秒前に予報するシステムが世界に先駆けて日本で機能している.希望を持って進もう.本文中の噴出量,死者数などは,特に断らない限り2012年版理科年表に基づく.

石渡 明(東北大学東北アジア研究センター)


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【3】惑星地球フォトコンテスト―入選作品展示会のお知らせ―
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惑星地球フォトコンテストの入選作品展示会が「地質の日」にあわせて
開催されます.皆さまお誘い合わせの上,ご来場ください.
 
■第2回惑星地球フォトコンテスト入選作品展示(昨年の入選作品)
主催:東海大学自然史博物館(共催:一般社団法人日本地質学会)
会場:東海大学社会教育センター東海大学自然史博物館
      〒424-8620 静岡県静岡市清水区三保2389
期間:2012年4月28日(土)〜5月13日(日)
http://www.sizen.muse-tokai.jp/
 
■第3回惑星地球フォトコンテスト入選作品展示(本年の入選作品)
主催:一般社団法人日本地質学会/千葉県立中央博物館
会場:千葉県立中央博物館
      〒260-8682 千葉県千葉市中央区青葉町955-2
期間:2012年4月21日(土)〜6月3日(日)
http://www2.chiba-muse.or.jp/
 
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【4】支部・専門部会情報
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■地質技術伝承講習会開催
日時:2012年4月8日(日)14:00〜16:00
場所:北とぴあ 第1研修室(7階)(東京都北区王子1-11-1)

講師:古谷 尊彦氏 (千葉大名誉教授・日さく顧問)
テーマ:地形情報から見た地質の理解 −斜面変動現象との関連で−
共催:(社)全国地質調査業協会連合会 関東地質調査業協会

参加費:無料,どなたでも参加できます.
申し込み方法:公開中のジオ・スクーリングネットによる登録または
学会へのFAX,下記担当幹事へのe-mailにて受け付けます.
1)ジオ・スクーリングネット; https://www.geo-schooling.jp/
2)関東支部担当幹事 緒方信一(中央開発株式会社 ogata@ckcnet.co.jp 兼,問い合わせ先)
3)日本地質学会事務局気付 関東支部 FAX:03-5823-1156

■関東支部 2012年度総会
日時:2012年4月8日(日)16:00〜17:00
報告および議題
1)支部功労賞授与式
2)支部幹事選挙結果報告
3)2011年度 活動報告・会計報告
4)2012年度 活動方針・予算報告
5)関東支部選挙関連の規定の改正

関東支部会員の方で総会に欠席される方は委任状をお願いします.
委任状送付方法:
○郵送またはFAXの場合は下記にお送りください.
〒101-0032 東京都千代田区岩本町2-8-15 井桁ビル6F
日本地質学会事務局気付 関東支部事務局
FAX:03-5823-1156
○E-mail送付の場合
関東支部のメールアドレス(kanto@geosociety.jp)へ委任状をご返信下さい
(このまま返信しても届きます.ただし,下記の委任状へのご記入をお忘れなく).
メールによる委任状の締切は4月7日(土)午後6時まで.

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【5】公募情報・各賞情報
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■名古屋大学博物館 特任助教(1名) (5/15)
■島根大学総合理工学部地球資源環境学科(応用地質学) 教授(1名) (5/18)

詳細およびその他の公募情報は、
http://www.geosociety.jp/outline/content0016.html

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報告記事やニュース誌表紙写真、マンガ原稿募集中です。 geo-Flashは、
月2回(第1・3火曜日)配信予定です。原稿は配信前週金曜日 までに
事務局(geo-flash@geosociety.jp)へお送りください。