アメリカ合衆国ユタ・コロラド州境界、ダイノソー・ナショナル・モニュメントとユインタ山系の地質概略(紹介):後編

小川勇二郎(ユタ州プロヴォ、ブリガム・ヤング大学)

 

3.コロラド州側の地形と地質

図12.ダイノソー・ナショナル・モニュメントの地図。ユタ州側のジェンセンから北へ入ると、恐竜ウォール、コロラド州側のダイノソーから北へ入ると、地形・地質の観察ルート。車は路肩ではなく、駐車場のみに停めるように。

さらに東進して、コロラド州側のダイノソーという集落の先のビジターセンターから北へ、このモニュメントの奥深く入って、かなり長いスカイラインを進むと(図12)、全体の地形や地質を概観することができる(ただし、すでに述べたように、恐竜化石が見えるルートではない)。ここでも、そここに、地質や環境に関する案内板がある。(なお、車は、View areaとある駐車場に停め、それ以外の、一般の路肩には停めないように、と指導されている。また、制限速度は一般に速く設定されているが、決してそれを越えないように。)先の二つの背斜に挟まれた向斜部に、モエンコピ層からなる不思議な赤い島のような地形(Vivas Cake Hill と呼ばれている)が位置する(図13)。それは先のスプリット・マウンテンの東方延長の背斜の翼部が、急激に水平層へ移化するので、その部分に上位の地層が位置するようになるのだ。面白い。この島のような地形は、キャニオン・オーバールックと呼ばれるビューエリアなどから見ることができる。その他、このコロラド州側のルートでは、河川の蛇行のありさまなどや、岩相別の侵食の違いなどを観察できる。(もし、4WDがあれば、所々からグリーンリバーやその支流へ降りるルートをとることもできるが、時間がかなりかかるので、要注意である。)

公園全体の見学を終わったら、来た道を戻ろう。さらに東へ進もうとすると、これから57マイル、ガスなしなどと書いてあり、ダイノソー・ダイアモンド一周をする目的以外では、行程がかかりすぎる。ただし、コロラド州や、ユタ州南部、アリゾナ州方面へ行くと、白亜紀層を中心とした壮大な地質的景観が楽しめる(安藤・平野, 1990参照)。また、そこここに、恐竜の産地があるので、それはまた別の機会に訪れるのでもよいだろう。なお、ダイアモンドを一周するのには、少なくとも3泊4日、できれば1週間くらいの余裕がほしい。時間が許せば、モアブ近郊のアーチーズやキャニオンランズなどの国立公園、デッドホースポイント州立公園などに立ち寄ると、教科書的な堆積構造や変形構造、河川の侵食、タフォニと呼ばれる乾燥地域独特の化学的風化などを観察できる(ここは、グランド・サークルにも入っているし、モアブの北には、恐竜化石を掘らせてくれる箇所もある)。また、ダイアモンドを時計回りに回った最後の地点プライスには、博物館があるほか、6(191)号線沿いでは、稼行が続く白亜紀石炭層とその周辺の堆積や変形構造の観察もできる(安藤・平野、1990)。

図13.コロラド州側の公園ルートのキャニオン・オーバールックからの向斜軸の眺め。背斜の南翼(画面左端)で、地層の傾斜が急に水平になるために、その軸部にトリアス紀モエンコピ層の赤い島(Vivas Cake Hill)が位置する。不思議な感覚にとらわれる。

191(40)号線を西へ戻り、ローズベルトを抜け、今度は、デュシェーンから北へ87号線、さらにすぐに西へ35号線の谷沿いルートを取って、ソルトレイクシティー方面へと入ると、あたりにはゆったりとした気持ちのいい牧場が広がる。別荘を作って一生を暮したいような所だ。そこからは、ユインタ山系のシニックロードが続く。ここには、中古生代の赤色層を始め、古生代後期の石灰岩層や先カンブリア時代の地層と岩石が、一大背斜構造を作って、分布している(図14)。デュシェーンからプロヴォまでは、3時間あまり。ソルトレイクシティーへは4時間余り。すれ違う車は少ない。冬期は不可。

なお、ソルトレイクシティーには、市街東部のユタ大学キャンパスの裏の丘陵に、2011年11月、新装なったユタ大学自然史博物館が開館した。恐竜はもちろん、さまざまな地質、古生物、先住民族などの展示は、見事である。ぜひ、観覧をお薦めする。

 

4.テクトニクス

さて、こうした地質はどのようにしてできたのだろうか?ユタ州のハイウェイ・ジオロジカルマップ(図14.これもヒンツィー教授(1980, 1997)になるもので、全米随一との評判が高い。)をよく見ると、東西に走るユインタ山系の周囲には、古生代から中生代におよぶ地層が褶曲構造を作ってへばりついていているのが分かる。この構造は、上方へより緩やかにはなるが、第三紀層まで続いている。ということは、第三紀が始まるまでは、ユインタ山系の上昇はあまり活発ではなく(暁新世の60 Maころに始まったとは言われている。)、その堆積中に、上昇が活発化したのであろう、と推察できる。コロラド・プラトー(広義;トーにアクセントがある)の西端に発達する、白亜紀に最盛期を迎えた付加体類似のセビア・(フォールド・アンド・)スラストベルトは、このユインタ山系によって、南北に分断され、北部は、ワイオミング・(オにアクセントあり)スラストベルトとして、半ば独立している。しかし、起源的には、南北は本来連続していたに違いない。そっくりな地質だからだ。ユインタは、その後ここに闖入してきたのではないか?とも思われる。現地の地質研究者の間でも、さまざまな議論が続けられているが、先述のHintze (2005)や、Hintze and Kowallis (2009), Harris(2011)によると、初めからその萌芽があったようである。(詳しくは、別稿で述べる予定である。)

図14.ヒンツィー教授(Hintze, 1980, 1997)の手になるユタ州ハイウェイ・ジオロジカルマップの最北東部。東西に延びるサンショウウオのような異様な「かまし」が、ユインタ山系。その紫色部分は先カンブリア紀の地層と岩石。ソルトレイクシティー(最西部の赤い部分付近)まで、さらに西方へ、ネバダ州まで続いている(図17)。ユインタ山系の周囲には、主として灰色から青の石炭紀層ペルム紀層と緑色(中生の代)地層が褶曲しているのがおわかりだろう。その最東部分が、今回述べた、ダイノソー・ナショナル・モニュメントがある部分。茶色から黄色が第三紀のユインタベイスンの地層。本図の西側部分、南北性の構造が、セビア・スラストベルトとその西方のベイスン・アンド・レインジにほぼ対応する。

この地質図(大抵の国立公園や記念物のインフォーメイションセンターで購入可能)で分かるように、ユインタ山系やその周辺のこの地帯一帯には、先カンブリア時代からの地層や岩石が分布している。つまり、この周辺は、大陸基盤(17億年前とも言われる)からなる。一昔前の論文や、教科書には(また、今でも、時々使われるが)、マイオ(ミオ)ジオシンクラインまたはマイオジオクラインとされていて、長い間いわゆる非活動的大陸縁であった。広義のコロラド・プラトーの範疇でもある。古生代後期(前期は場所により欠けている)から中生代、さらに一部では新生代の前期まで、ここは、浅海ないし陸成層が淡々とたまる場所だったのである。それだから、石灰岩も、恐竜化石も出るのである。その後、コロラド・プラトーの西部を中心として、その地層や岩石の一部は、白亜紀を中心とするセビア・スラストベルトに特徴的な東西側方短縮の付加体類似の変形を受け(セビア造山運動とも呼ばれる)、さらに、プラトー全体では、第三紀の主として始新世から漸新世にかけて、高角の断層による変形(ララマイド変動)を受けたのである(Hintze and Kowallis, 2009; Harris, 2011, Fillmore, 2011)。

図15.コロラド・プラトー(広義)最東部のロッキー山脈フロントレインジ(今回はふれてない)を東西に(上図)、ユインタ山系を南北に(下図)切る断面図。下図の左方、Split Mountainとあるところの青から緑色の褶曲部分が、今回のダイノソーの場所に相当する。断層が、高角(Thick-skinned)か(基盤の運動による)、低角(Thin-skinned)か(基盤を含むこともあるが、最下底でほぼ水平のいわゆるデタッチメント断層(デコルマンとほぼ同義))は、絶えず議論されている。地表の調査だけでは決着がつかない。モホまで見えるサイズミック・プロファイルが必要だ。結果的には、ここは、高角断層が支配する、いわゆるララマイド変動を受けて上昇したと解釈されている。

こうして、コロラド・プラトーでは、それ以前のほぼ水平な地質構造(若干北に緩く傾斜する。それゆえ、グランド・ステアケースと呼ばれる、巨大な階段状の地形を作っているのだが)に、ララマイド変動と呼ばれる、高角の断層運動が重なっている。(それが始まるのは、古くは60 Ma頃とされている。)その後、この運動は、始新世から漸新世にかけて(Fillmore, 2011; Harris, 2011)、いわゆる基盤の断層運動(全体的には北東―南西圧縮)として活発化した。でも、どうして、ユインタ山系は、それ以外の北米の構造方向がほぼ南北なのにもかかわらず、直交に東西に割って入ったのか?との疑問は残ろう。ヒンツィー教授も考えたのだろう。ここは、もともと東西に延びるオラーコジンだった?と思いついたに違いない。その解釈に至った図を最後に載せよう(図16, 17)。

オラーコジンは、国際的には有名な用語だ。フェイルド・リフトを聞いたことがある人も多かろうが、アフリカと南アメリカが白亜紀に開き始めたときに、三重点をつくって120度で開こうとしたが、アフリカ側は、あまりうまくいかず、途中で開くのをやめてしまった。それが、オラーコジンの好例である。超大陸ロディニアの拡大時(約9億年前)のオラーコジンに、先カンブリア時代末期の地層(氷河の堆積物、ティライトもある)と中古生代の地層がたまったのが、ユインタ山系に見られる層序だ(図16,17)。特に、ユインタ山系のある場所では、そのフェイルド・リフト内部の盆地に堆積物が厚くたまっていたが、その後の第三紀中の側方圧縮によって、インバージョン・テクトニクスが生じ、逆に隆起したのであるという。また、この変動によって、プラトー各地では表層部にさまざまな褶曲や岩塩ドームの構造を作るなどしたことが、この地域(広義のコロラド・プラトー)の特徴である。詳しくは別に報告する予定であるが、ユインタ山系とこのダイノソー・ナショナル・モニュメント周辺の構造形成も、こうした先カンブリア時代末期からの長い地質時代からの状況を受け継ぎつつ、最後は、第三紀を中心とするララマイド変動による結果の一部であるといえる。

図16.超大陸ロディニアの分裂時(約9億年前)、ユインタはここだった?(赤枠)(Hintze, 2005による)。 図17.ユタ州の北部を東西に走る先カンブリア時代末期の岩石の分布。(Hintze, 2005による)。フェイルド・リフトを実感させる。

5.あとがき

アメリカは広大で、かつ自然がすばらしい。さらに、それを国民全体で保護また見学しよう、との意識が強い。日本では、最近特に、世界遺産への関心が強いように見受けられるが、アメリカでは、国民から見た、国立公園運動がむしろ盛んである。国民の多くが、自然と自然に親しむようになっていて、さまざまなナチュラリストも多い(その草分けは、トルストイやガンジーなどへも絶大な影響を与えたと言われている、ヘンリー・デイビッド・ソウロウである)。各国立公園や国立記念物には、ビジターセンターがあって、内容が充実しており、レインジャーが常駐して、専門的な質問にも対応している。地質の書物や地質図なども売っている。多くのアメリカの家族が、こうした個所を頻繁に訪れて、家族ぐるみで自然に学び、親しんでいる。

図18.このような展示や構造物で、必要かつ十分ではないだろうか?説明のレベルも、高すぎず、低すぎず... ジェンセン東方の40号線に沿うView areaで。遠景は、ペルム紀のWeber砂岩層の背斜の翼部。

ホテルやレストランなどにも、地質図が掲げられていることも多い。また、さまざまな地点に、地質や地形の説明が、さりげなく置かれている。このようなことは、イギリス(ナショナル・トラスト運動が盛んである)や、ドイツ、スイスなどのヨーロッパ諸国でも、普通に見受けられる。これらは、特に、巨額の予算を必要とはしないと思われる。日本では、学会を上げての、ジオパーク運動も盛んである。さらに、高校生のための国際地学オリンピックへの関心も高く、好成績を残してもいる。環境問題や、資源・エネルギー問題、地震・火山・津波・洪水・地すべりなどの自然災害防止や軽減などについての国民の関心も高い。それらの現象の多くは、地質的なものである。しかし、地質への理解が国民のものになっているか、と考えると、まだ不十分と言わざるを得ない。まずは、アメリカやヨーロッパに見習って、簡単で、しかも効果のあがる方策を実行すべきではないだろうか?最後は、お説教になってしまったが、簡単な一例を以下の図18にあげて、終わりとする。(内容、構成に関して、ブリガム・ヤング大学のRon Harris教授にご教示いただいた。末筆ながら記して感謝したい。)

【文献】

安藤寿男・平野弘道 (1990) 第28回IGC野外巡検「ユタ・コロラド・ニューメキシコ州Western Interior Basinにおける白亜系陸棚砂岩層と陸棚堆積シークエンス」に参加して.堆積学研究会報, 33号, p. 79-86.

Fillmore, R. (2011) Geological evolution of the Colorado plateau of eastern Utah and western Colorado. University of Utah Press, 496pp.

Harris, R. (2011) Exploring the geology of Little Cottonwood Canyon, Utah. The greatest story ever told by nine miles of rock. Brigham Young University Press, Utah, USA. 80pp.

Hintze, L. F. (1997) Geologic highway map of Utah. Department of Geology, Brigham Young University, Provo, Utah.

Hintze, L. F. (2005) Utah’s spectacular geology. Brigham Young University Press. 203pp.

Hintze, L. F. and Kowallis, B.J. (2009) Geologic history of Utah. Brigham Young University Press, Utah, USA. 225pp.

(2011.11.11)

 

 

本稿投稿後、以下の様な地質断面図を入手した(USGS, 1966)。それによると、今回紹介した複背斜構造は、本文で述べた通り、より大規模なユインタ背斜(ユインタ山系を作る)の南側の従属的構造であり、高角の逆断層伴って発達する褶曲である。

付図1では、差し渡し40マイル以上に及ぶ緩やかな背斜構造(ユインタ背斜)が見えるが、その南半分には、ダイノソー国立記念物を占めるスプリット・マウンテン複背斜が顕著であることが分かる。その拡大が付図2であり、これで分かるように、断層近くでは、地層の傾斜の急変が著しく、場所によりモノクライン状になる。それゆえ、ほぼ直立する地層が、突然ほぼ水平に変わる場所もある。深部で高角、浅部で一部低角になる逆断層構造と解釈されており、それに伴う褶曲構造とともに、いわゆるララマイド変動の特徴として、コロラド・プラトーのあちこちに発達する。

付図1.USGS (1966)による、地質断面図。上の断面図は、コロラド州側、下はユタ州側(右側が南)。
付図2.1の南半分の拡大図。

【追加文献】

USGS (1966) Topographic map of Dinosaur National Monument (1: 62,500).

National Geographic (1989) Outdoor recreation map (1:75,000), Dinosaur.

 

(その他の諸注意)

すでに、本文でも若干注意事項を述べたが、「アメリカの国立公園」にもあるように、外国からの訪問者は現地の法律や規則、習慣を守るようにしたい。また、交通ルールや道路走行方法なども、日本とかなり異なる場合が多いので、絶対に事故のないように、十分に気をつけられたい。また、路肩や駐車禁止のところには、絶対に停めないように。なお、今回報告した場所を含めて、アメリカの多くの個所が、高所(1500〜2000 m前後)にあり、空気が希薄な上に、紫外線が強く、また乾燥している。日中と朝晩の気温差も大きい。さらに、到着後しばらくは時差の関係で、睡魔に陥りやすい。そのような条件での長距離の移動には、無理な行動は慎みたい。