花崗岩類からの放射線量

石原 舜三 (産業技術総合研究所)

 

東日本大震災以降、放射線量への関心が急速に高まっており、花崗岩の放射線量についての執筆依頼を編集部から受け、筆をとった。筆者と放射線との出会いはこれが2回目である。最初は広島の原爆である。小学校6年生の1945年8月6日朝、爆心地から6km東方の小学校の2階で、B29を目視追跡していた私は爆裂の閃光を真正面から浴びた。当時、それが原子爆弾によるものとは知る由もなく、5万トンくらいの爆弾であろうかと友達と話しあった。その2日後に行方不明者を探しに近所の老婆の手を引いて広島市内に入り、瓦礫を掘り起こした。広島市内は焼け野原であったから、放射性埃などを吸い込む内部被曝の可能性は少なかったであろうが、残留放射能下を歩き続けたことは明らかである。

このような事故的なことを除くと、我々が浴びる自然界の放射能は空から来る宇宙線に由来するものと、地殻の諸岩石の放射性元素(K, Th, U)に起因するものとに大別される (Wollenberg and Smith, 1990)。富士山頂のように高度が大きく岩石が玄武岩で放射性成分に乏しい特殊な個所を除けば後者により大きく左右され、地殻物質では広義の花崗岩類が特に重要な放射線源であると、一般に解釈されている(古川, 1993; 湊, 2006; 今井, 2011)、しかし花崗岩研究者からみると、それほど単純ではなく、花崗岩の種類によって大きく異なる。

花崗岩の名称は狭義と広義に用いられており、狭義には石英20%以上、斜長石/カリ長石=2/1〜1/9の粗粒な深成岩であり、広義にはこれに、より斜長石や苦鉄鉱物に富む花崗閃緑岩・トナル岩・石英閃緑岩などを含めた深成岩に対して、“花崗岩類”として用られる。またアルカリ量比によってアルカリ岩/カルクアルカリ岩、酸化度の違いによって磁鉄鉱系/チタン鉄鉱系、起源物資の違いによってS/Iタイプ、アダカイトなどにも分けられる。

第1図.西南日本の岩株型、強放射能花こう岩類 (早瀬、1961に加筆)。

ある種の花崗岩類がγ線を多く出すことは、1955年からの日本のウラン調査でジープに放射線測定装置を積んだカーボーン調査、地質家がガイガー・シンチレーション カウンターなどを持ち歩き測定する“マンボーン”調査などにより直ちに明らかにされた。早瀬(1961)は花崗岩中の微量ウランの研究過程において、山陽帯のストック状岩体が特に強放射性であることを発見し(第1図)、花崗岩の産状と放射線量との関係を指摘した。私達の現在の知識では、放射線量は産状よりも起源物質による規制が大きい。ここではその1例を紹介してみたい。

花崗岩質マグマは高熱流量変動帯である島弧に最も多く貫入し、その起源は沈み込む海洋底地殻から大陸地殻最下部、更には大陸地殻中部と様々である。したがって起源物質も初生の玄武岩・斑れい岩から古期花崗岩・変成岩類まで変化に富んでいる。北上山地の花崗岩類は海洋底地殻の溶融物と考えられるアダカイトを含み、低いSr初生値などから海洋底地殻と大陸地殻下部の苦鉄質岩が溶融したものと考えられる。北上山地で最大規模の遠野岩体(630 km2)は山地全体の花崗岩類の平均的な性質を持つものと思われるが、そのK2O, Th, U含有量は極めて低いものに属する(第2図)。これよりさらに低レベルの岩体に、神奈川県の丹沢、甲府岩体の芦川型などがある。

第2図.花崗岩マグマ起源の相違に基づく放射性元素量。遠野岩体は金谷(1974)、土岐-苗木岩体はIshihara and Murakami (2006)ほかによる。

一方、岐阜県土岐-苗木地方に露出する山陽帯の花崗岩類は土岐岩体の一部で花崗閃緑岩質であるのみであり、全体的に花崗岩質である。これら花崗岩類は磁鉄鉱を含まないチタン鉄鉱系に属し、そのSr初生値は高く、そのマグマ起源は大陸地殻内の堆積岩や古期花崗岩類と考えられる。このように対称的に異なる起源を持つ花崗岩類は平均値として下記の放射線元素量を持つ。

遠野岩体: K2O 2.17 %, Th 6.07 ppm, U 1.98 ppm (n=37)
土岐-苗木岩体: K2O 4.49 %, Th 27.8 ppm, U 7.3 ppm (n=14)

これらの値からMinato (2005)に従って、地上1mにおける線量率 (D) = 5.4CU + 2.7CTh + 13.0CK を求めると、両者には3.1倍の開きが生じ、同一種岩石から得られる放射線量としては大きな違いである。花崗岩類に見られるこの様な地域差はウラン鉱床の生成にも関係している。

日本のウラン鉱床探査では二つの大規模鉱床が発見された。最大の鉱床は東濃地方の中新世瑞浪層群基底部の土岐きょう炭累層に胚胎する堆積型の鉱床で、基盤の土岐花崗岩(第1図)の風化面の直上に産出する。ウランに富む土岐花崗岩の風化によって流出したウランが中新世母岩に固定されたものである。しかしその多くがゼオライトや粘土鉱物に吸着されているために、ウランを経済的に取り出すことが困難である難点がある。この性質は、現在、福島原発で放射性物質除去に使われている。第2位の人形峠鉱床(第1図)は、我が国で最初に発見された堆積型ウラン鉱床であり、かつU-REE-Caリン酸塩鉱物である人形石を産することで著名である。ここでもウランに富む風化花崗岩直上の鮮新世の旧河川沿いに鉱化作用が何箇所かで生じ、その起源は花崗岩中の微量のウランと推定されている。

このように私達が浴びる放射線量は地質、岩石の種類によって数倍以上は簡単に異なる。岩石名は主成分によって付けられるから、岩石名がわかっても詳しく調べなければ放射線量の多少はわからない。1950-60年代の岐阜県苗木地方では、花崗岩やペグマタイトに由来する放射性鉱物を集めて腕輪にはめ込み、健康バンドとして販売していた。近傍にはラジウム鉱泉も存在し、人々が愛用した。筆者は土岐-苗木花崗岩に近い性質を持つ広島花崗岩体の風化土壌の上で遊び育ち、かつ花崗岩やウラン鉱床の研究に従事したから同期生よりも多くの放射線を受け、未だに元気であると思っている。

【文献】

古川雅英(1993) 日本列島の自然放射線レベル. 地学雑誌、v. 102, 868-877. [Journal@rchive]

早瀬一一(1961) 花こう岩中のウランの存在状態. ウラン、その資源と鉱物. 朝倉書店.p. 190-199.

今井 登 (2011) 日本の自然放射線量. 日本地質学会 News, v. 14, 6-7.

Ishihara, S. and Murakami, H. (2006) Fractionated ilmenite-series granites in Southwest Japan: Source magma for REE-Sn-W mineralizations. Resource Geology, v. 56, no. 3, 245-256.

金谷 弘 (1974) 北上山地の白亜紀花崗岩類のカリウム・トリウム・ウラン及び帯磁率. 地質調査所報告, 251, 91-120.

Minato, S. (2005) Uranium, thorium and potassium concentrations in Japanese soils. Radioisotopes, 54, 509-515. [Journal@rchive]

Wollenberg, H.A. and Smith, A.R. (1990) A geochemical assessment of terrestrial γ–ray absorbed dose rates. Health Physics, v. 58, 183-189. [Abs.]

(原稿受付 2011年6月21日)