最近、太陽黒点が少ないことについての雑感

石渡 明(東北大学東北アジア研究センター)

 

太陽黒点については、ガリレオ以来すでに約400年の観測の歴史があり、黒点の数は太陽活動の活発さを表す指標として重視されている。黒点数は約11年を周期として増減を繰り返してきた(黒点周期)。黒点数は、多い時(極大期)には100〜200に達するが、少ない時(極小期)はゼロに近くなる。組織的な太陽観測が始まった1750年から数えて第23番目の黒点周期は、1996年頃の極小期に始まり、2000年頃に極大期(黒点数は120程度)となり、 2007〜2008年頃の極小期で終わった。2010年末の現在は、次の第24周期が始まってから既に2〜3年経過しており、通常であればそろそろ極大期にさしかかる頃だが、黒点数はまだ少ないままである。私は晴天の休日には小さな望遠鏡で黒点観測をしているが、近頃も黒点数ゼロの日が多い。また、「マウンダーの蝶形図」としてよく知られているように、新しい黒点周期の開始と同時に高緯度地域に黒点が出現し、極大期を経て次の極小期まで、黒点の出現緯度が次第に低緯度に移る傾向がどの周期でも顕著に見られるが、今回の周期では高緯度の黒点がやっと今年になってから出現し始めた。

NASAの今後の黒点数予想によると、第24周期の極大は2013年頃(平均的な周期より約2年遅れ)、黒点数のピークは60程度と見積もられている。この予想が正しいとすると、極大が1805年頃の第5周期(黒点数40程度)と1816年頃の第6周期(50程度)(この時期をダルトン極小期という)、そして1907年頃の第14周期(60程度)に匹敵する黒点数の少なさになり、約100年ぶり(または約200年ぶり)の低水準となる(図1)。黒点観測の記録がある最近 400年間では、1958年頃を極大とする第19周期の黒点数が最も多く(約190)、第21, 22周期もかなり多かったが(約150)、上述のように第23周期はやや少なく、現在の第24周期は非常に少ないことが予想される。黒点数の増減周期も長くなる傾向にあり、これは長期的な極小期の特徴であるという。このようなことから、1600年代に黒点が非常に少ない時期が70年近く続いた「マウンダー極小期」(1645年頃〜1715年頃、図1)が再来する可能性も取り沙汰されている。

黒点数と地球の平均気温との関係は、1年毎あるいは1周期毎のそれぞれの平均値をプロットするとほとんど相関がなく、1958年をピークとする第19周期以後は太陽黒点が減少傾向にあるのに地球の気温の上昇が続いていることから、両者の間には全く相関がないとする意見もある。しかし、もっと長期的に見ると、マウンダー極小期から1800年頃までは小氷期と呼ばれ、ロンドンのテムズ川が氷結し日本でも飢饉が頻発するなど地球全体の気温が低かったが、1780年頃を底として、太陽活動の活発化とともに気温の上昇が続いてきた(図1)。つまり、太陽活動の長期的な極小期(中心は1680年頃)から約100年後まで地球の気温は低下を続けたことになる。

 
図1.最近400年間の太陽黒点の各極大期の平均数(NASAの公表データに基づく。ただし1750年以前のデータは少ない)と地球の平均気温(理科年 表)及び北極海の島の氷床コアの酸素同位体比から推定される北極地方の気温の変化(Fritzsche, 2005)。黒点数は11年周期の各極大期の平均値。地球平均気温は1971〜2000年の平均値を250とし、平均値との温度差を100倍した値。酸素 同位体比はδ18O値(負の値)を20倍して700を加えた値。酸素同位体比の変化を100年前に移動したものを点線で示す。これは黒点数の変化とかなり よく対応する。つまり黒点数の変化に表れた太陽活動の強弱が100年後の気温の変化に反映していると考えられる。そこで、これまでの黒点数の変化を100 年後に移動したものを破線で示す。これは将来の気温の変化傾向を示す可能性がある。地球の気温の機器観測データが揃っているのは最近100年ほどにすぎな いことも注意すべきである。

 

さて、地球には海があり、海水は大気よりもはるかに多量の熱を蓄え、しかも温まりにくく冷めにくい。我々は巨大な湯たんぽ(海洋)を入れた布団(大気)の中で生活しているようなものである。地球の気温が海水温に支配され、海水の循環が地球全体の気候に大きく影響することは、数年毎に繰り返されるエルニーニョ現象とラニーニャ現象がよく示している。海洋全体の水平・鉛直方向の大循環は、大西洋の北部で海洋表層から深海に潜り込んだ冷たく塩分の高い海水が大西洋南部を経てインド洋南部を通り(一部はインド洋北部で表層に出る)、オーストラリア東方で北上して北太平洋で海洋表層に出るという流れになっており、表層には逆向きの流れがある(ブロッカーのコンベアベルト)。この循環の1サイクルには約2000年を要する。言い換えれば、海洋全体を温める(冷ます)のに 1000年以上を要し、海洋の比較的浅部のより小規模な循環にも相当の年数を要するので、太陽活動の変化(つまり受熱量の変化)に対する地球の海洋の温度変化の応答(レスポンス)に100年以上の遅れがあるとしても不思議ではない。因みに、私は一時期地震予知をめざして段丘崖の湧水の温度と水量の観測を3年間続けたことがある。段丘面の地下約10 mの層を流れる地下水の温度変化は、位相が気温の変化より約半年遅れており、冬に最高温度になる。このことからも、平均4500 mの深さがある海洋の、気候に直接影響を与える部分の水温変化の位相が100年以上遅れることは想像がつく。このように考えると、1960年頃の長期的な黒点極大期の後50年を経た現在でも、まだ気温が上昇傾向にあることの原因が、人為的なCO2の排出による温室効果の増大だけとは言い切れないように思えてくる。1960年頃をピークに太陽活動が長期的な低下傾向に転じたとすれば、この約100年のレスポンスの遅れを考えると、今世紀の中頃(2060年頃)を温暖化のピークとして、それ以後地球の気温は長期的な寒冷化に転じる可能性がある(図1の破線)。しかし、最近400年間の黒点数の変化を見ると、太陽活動は100年程度の周期で活発な時期と不活発な時期を繰り返してきたようにも見えるので、現在の太陽活動の低下は一時的なもので、底が深くならないうちにまた活発化する可能性もあり、今後の推移を見る必要がある。

拙稿を校閲してコメントをいただいた井龍康文博士に感謝する。

 

【参考文献】

Fritzsche, D., Schütt, R., Meyer, H., Miller, H., Wilhelms, F., Opel, T., Savatyugin, L.M. (2005) A 275 year ice-core record from Akademii Nauk ice cap, Severnaya Zemlya, Russian Arctic. Annals of Glaciology, 42, 361-366.

東山正宣 (2010) 太陽まもなく「冬眠」.朝日新聞,2010年3月19日科学面.

http://news.sciencemag.org/sciencenow/2010/09/say-goodbye-to-sunspots.html

http://sidc.oma.be/sunspot-index-graphics/sidc_graphics.php

http://solarscience.msfc.nasa.gov/SunspotCycle.shtml

http://www.skepticalscience.com/solar-activity-sunspots-global-warming.htm

http://www.dailytech.com/NASA+Study+Acknowledges+Solar+Cycle+Not+Man+Responsible+for+Past+Warming/article15310.htm

石渡 明 (2010) 羽鳥先生の「資源と環境」に学ぶ.地学教育と科学運動, 64, 35-40.

 

(原稿受付 2010年12月21日)