ニュージーランドのウェリントン断層:巡検参加報告


川村喜一郎(財団法人深田地質研究所)
 

 統合国際掘削計画(IODP)の科学諮問機関(Science Advisory Structure)の一つ,事前調査委員会(Site Survey Panel)の会合で,ニュージーランド,ウェリントンに来ています.会合は,2010年1月27日〜29日までです.10日前には,IODPのジョイデス・レゾリューション号もウェリントンに停泊していました.現在は南極航海中のようです(詳しくは:http://www.j-desc.org/modules/tinyd0/rewrite/expeditions/wilkes_land.html).
 

 我々の会合の前日にGNSサイエンスのスチュアート・ヘンリーさんがウェリントン断層を案内してくれるということで,前日入りしました.それでは,さっそく,ウェリントン断層に....という,その前にニュージーランドとウェリントンの地質学的な位置関係について,ちょっとだけ説明します.

GNSサイエンスのウェブサイトに掲載されている巡検コース

 ニュージーランドは,北西側がインドーオーストラリア・プレート,南東側が太平洋プレートに属している,北島と南島に分かれた島国です.それらの島を縦断するように,中央構造線やアルパイン断層が北東—南西に走っています.ウェリントン市は,ニュージーランドの首都で,北島の南端に位置しており,アルパイン断層は市のすぐ北の海底を通っています.去年,2009年7月15日のニュージーランドのMw = 7.8の地震は,アルパイン断層の南西の南島の南端のFiordlandで発生しています.
 

 ウェリントン断層は,ウェリントン市内を北東—南西にアルパイン断層に平行に通っており,南島の北端付近でアルパイン断層と合流します.ウェリントン断層は,300〜400年前に動いたと考えられており,600〜1000年周期でマグニチュード7.5程度の地震を発生させるのではないか,と考えられているようです.運動センスは,左横ずれです.ごく最近の地震イベントは,ウェリントン断層の南にほぼ平行に走るパイララパ断層の1855年の地震で,このときもウェリントン市は大きな被害が出たようです.
 

 説明はここまでにして,今回の観察ポイントを順次示して行きます.我々一行は,まず[9]のワイヌイオマタの丘に行き,そこで断層崖を外観しました.まずは,おおつかみの地形を見る,というのは,木を見て森を見ず,にならないためにも重要です.そして,その次に,[8]のPetone浜を見ました.Petone浜は,地震の度に隆起し,先のパイララパ地震でも突然隆起しました.次に向かったのは,[6]のトーンドン陸橋でした.ここは,陸橋が断層の直上を通っており,阪神淡路大震災後,陸橋の橋脚を補強したようです.また,橋脚が壊れても下に落ちないように落下防止柵も取り付けたようです.橋脚の下には,列車が通っているためです.その後,[1]のTe Papaを自動車で回り,[13]のハーコート公園に行きました.[1]から[13]まで20〜30分のドライブでした.ここでは,地震断層の断層崖が公園内を通っており,また,その断面を川沿いの露頭で観察することもできます.ウェリントン断層は,南に急傾斜した断層であることが,露頭からもよくわかります.そして,最後に,[12]の川沿いに発達したテラスを横切るウェリントン断層を観察しました.このテラスの形成年代がある程度わかるので,どのテラスが切られたかによって,断層の活動年代をある程度推定することができるようです.
 

[9]のワイヌイオマタの丘で見られる断層崖
[8]のPetone浜.奥にウェリントン断層崖がある.
[6]のトーンドン陸橋.説明する中央のスチュアートさん.橋脚は補強されている.
ウェリントンは港町.倉庫群に見つけた日本の香り.日本食レストランも多い.
[13]のハーコート公園のウェリントン断層.まるでジオパークのよう.
[13]のハーコート公園の断層活動で持ち上がった河川堆積物.やはり,まるでジオパークのよう.
まずい.写真ばっかり撮っていると置いて行かれる.待ってくれー.
公園内のハット川.この川に沿って,ほぼウェリントン断層が見られる.
この草むらを抜けると...
これがウェリントン断層の露頭.どうやらウェリントン断層は,写真中央やや右の縦の亀裂様の地点.
道すがら.タンポポ発見.その他,ススキやハルジオン,アサガオのような花がたくさん見られる.日本っぽい.
このなだらかな斜面もウェリントン断層.毎年ここで地震探査やGPSなどの測量の実習が行われるらしい.
[12]の河岸段丘.写真ではちょっとわかりにくいけど,ここに河岸段丘があって,その段丘がずらされている.どこでもそうですが,説明書の写真だとわかりやすいんですけどね.


 ここまでで,午後1時にホテルを出発し,午後5時くらいにホテルで解散でした.こういった手軽な巡検コースが,わが町にもあれば良いのにな,と思い,ちょっと作ってみたくなりました.まるまる一日連れてってくれたGNSサイエンスのスチュアートさん,ありがとうございました.最後にちょっとだけ立ち寄ったGNSは,Geological and Nuclear Sciencesの略だそうです.

 

【参考文献】
東京大学地震研究所ウェブサイト ニュージーランド
GNSサイエンスウェブサイト