アメリカ、アイダホ州Craters of the Moon National Monument and Preserve 完新世火山地帯紹介

小川 勇二郎(東電設計)、安間 了、小室 光世(以上筑波大学)
藤内 智士(産総研)、村岡 諭(東大大気海洋研)

はじめに

筆者らは、Maley (2005)のField geology illustratedという書物で、実に美しい火山岩の露頭がアイダホ州にあることを知り、かねがね訪問を策していたが、今回ここを訪ねることができた。日本ではあまり紹介されていない上に、一見の価値があると考え、以下に簡単に紹介する。

図1. 都城(1979)によるアメリカの第四紀火山岩の分布。今回の場所は本図のBの付近である。

アメリカ大陸を旅行していると、新生代の火山や火山岩が意外に多いことに気づく。特に、第四紀の火山は西海岸以外にも、グランドキャニオンの南のサンフランシスコピークスを初め、所々にある。図1はそれらの分布を示したものである(都城、1979)。これを見ると、島弧性のもの以外にもそれぞれに方向性やドメインがあり、それらは何らかのテクトニクスを反映しているようである。

一方、イエローストンホットスポットの軌跡には屈曲があって、それが示す時代が北アメリカプレートの進行方向の変化の19.5 Maに一致するかどうか、屈曲や洪水玄武岩の原因が果たしてインパクトによるのかが焦点である(Price, 2001)。もしそうだとすると、洪水玄武岩の起源、ホットスポットそのものやプレート運動方向の成因よりも、インパクトが上位に置かれることになり、従来の考えに大幅な変革をもたらす(詳細はPriceの書物を参照されたい)。

それはさておき、コロンビアリバーとその上流のスネークリバーには、洪水玄武岩の分布や中新世から第四紀にかけてのカルデラがある。安山岩から流紋岩質のカルデラはプルームと地殻の混合(再溶融を含む)によるものとのことであり、スネークリバープレーン(Snake River Plain)の東半分に集中している(図2)イエローストンはその最東縁部に相当する。このスネークリバープレーンはベイスンアンドレインジ(Basin and Range)の範疇にあって、ほぼ東西引っ張りの場である。このほぼ中央部に、南北ないし北西—南東方向のグレート・リフト(Great Rift)と呼ばれる裂け目があって、そこからごく最近の地質時代に玄武岩を主とする膨大な溶岩が噴出している(図3)。これが今回紹介するCraters of the Moon National Monument and Preserveである。アメリカ本土では随一の第四紀完新世の玄武岩の噴出であるそうだ。その第四紀火山岩の総量は1600 km2, 30 km3であるという。

 図2.スネークリバープレーンにおける巨大カルデラの分布と年代。今回の場所は、本図のPicabo Caldelaの北西部にある。Maley (2005)から引用。 図3. 東部スネークリバープレーン周辺の東西伸張を示す図。Alt and Hyndman (1989)による。

アクセス

このクレーターズオブザムーンを訪ねるには、イエローストンかコロンビアリバーバソールト(Columbia River Basalt)などの見学との組み合わせが便利である。イエローストンからは、南西方へおよそ300 kmほどある(図2)。Idaho Fallsから20号線を西方へ入り、Arcoを過ぎてしばらく行くと、スネークリバープレーンの中に、黒色の累々たる新鮮な玄武岩が現れる(43° 27'N, 113° 34'W)。

また、オレゴン州のポートランドからコロンビア川(河岸はほとんどコロンビアリバーバソールト(洪水玄武岩の一種)が分布していて、それらを見ながらのドライブも壮観である。これほどの量ではあるが、洪水玄武岩としては世界最小規模であるという。)に沿って84号線を東へ走り、Boise(ボイーズ)で1泊してから、その東のMountain Homeから20号線に入り(途中でIdaho Batholithの一端を見ることができる)、さらに200 kmほど走ると目的地に達する。また、84号線のGoodingから26号線に入り、Shoshone(ショウション)経由で93号線に入ってもよい。このショウションはショショナイトのタイプロカリティーではない。ショウション(ショショニー、ショショネとも発音するらしい)という地名はアメリカ中西部には多く、タイプロカリティーはワイオミング州のショウションリバーである。)、Caryを過ぎて50 km東進すると公園に入る。

なお途中の景色はすばらしいが、一般の路肩には車を駐車しないようにしたい。ビスタポイント、レストエリア(レストとあると、トイレがあるという意味である)に限って駐車するように。(有料のこともあるので、注意。)

図4.ほぼ中央部の黒い部分(86の西)がCraters of the Moon (Google Earthから) 図5.Craters of the MoonのNW-SEに伸びるリッジが明瞭である。図の東西幅は約30 km。 図6.図5に相当する個所の地質図(Kuntz et al., 1994)。東西幅約30 km。NW-SEに伸びるリッジは、最新の活動。赤矢印は流れの方向。どこから噴出したかが分かる。

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公園の見学

ビジターセンターには各種の展示や出版物が置かれているので、マップなどを購入して、公園内へ車で乗り入れる。もし人を見かけたら、極力ゆっくりと走ろう。彼らは制限速度を絶対に超えない。マイル表示ではあるが、日本での感覚とは異なるので注意。およそ1,2時間ですべてを見て回れる。所々にパーキングがあって、そこからは徒歩で各クレーターやコーンに登ることができる。なお、トレイル以外には絶対に足を踏み入れないように。阿蘇の米塚のようなものであるが、草はほとんど生えていない。そこここに溶岩(ラバ)や噴出物のさまざまな形態、表面構造、流れの方向などが学べるであろう。小丘(コーン)に登ると、全体の有様を理解することができる。小規模な火山体には様々な種類があり、ラバの粘性やガスの噴出程度などによって、各種のタイプのクレーターやコーンができるのであろう。火山灰中心ならばアッシュコーン、火山餅(ペイ)ならばスパッターコーン、そのほかシンダーコーン、スコリアコーンなどもある。岩石の種類は、図7のように、SiO2 が45%から 64%程度までに及び、またトータルアルカリが3% から9%までに及ぶので、ほぼピクライトから、バソールト、ハワイアイトをへてラタイトまである。

図7.ハーカーダイアグラム。Kuntz et al. (2007)による。 図8.観察地点。1から6までの直線距離は約4.5 km。公園で渡されるリーフレットから。
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露頭、景色の写真:(クリックすると大きな画像がご覧頂けます)
 
一般道路にあるパーキングからの観察。ラバが滝のように流れたためにできた縦の筋模様。縄のれんのようである。 図8の2付近。パホエホエ様ラバの末端。一方、粘性の低いものは水平に近い。  
ラバが縦方向に割れて正断層状にずれている。 ある種の縦割れ目からは、マグマが絞り出されている。このような説明はとても教育的で親切である。 図8の3から見た7付近。コーンがグレートリフトに沿って一直線状に並んでいるのが分かる。
図8の3から見た7付近。拡大。コーンにはスパッター状の部分もある。 図8の3から見た7付近。スパッターが溶結してagglutinateとなっている。 図8の5付近。ラバ・トンネル状となっている。

岩石はほとんどが急冷のガラス質であるため、それらの詳細は肉眼で見分けることはできない。しかし、ほとんどが玄武岩である。

これらの噴出は、1万1千年前から間欠的に、ごく最近の2000年前まで続いたという。AからFまでの6つのピリオドに区分されている。先住民族の種族も(おそらくショショニー族)、ラバカーテンが吹き上がる様子や、コーンのできる様子、粘性の低いラバがとろとろと流れる様子などを見届けたであろうことは想像に難くない。グレートリフトゾーンと呼ばれる北西—南東方向の亀裂に沿って大半が噴出したようで、クレーターやコーンの多くはその方向に並んでいる。多くのラバもそのリフトゾーンから流れ出たことが、地質図(図6)の矢印の追跡から分かる。なお、この周辺には第四紀の火山地形やビュートと呼ばれる山体や、さまざまな年代(480 Ma-4.2 Maに及ぶ)を示す岩石が知られている。これらの岩石のメイジャー化学組成やC-14年代などは、Kuntz et al. (2007)に網羅されている。また、グレートリフトの玄武岩から流紋岩のTh, Pb同位体にもとづく成因(イェローストンプルームと地殻との関係など)はReid (1995)に、さらにイエローストンホットスポットトラックの岩石のSr, Ndの同位体にもとづく総合的な検討は、McCurry and Rodgers (2009)に詳しい。これらによると、基本的にはプルーム起源であるが、地殻物質の汚染やそれとの交代作用で説明できるという。

このように、コロンビアリバーの上流、スネークリバープレーンの一地方に、驚くべきことに完新世の巨大な量を誇る玄武岩の噴出をみる。それは直線的なリフト(裂け目)からのアルカリ岩系のものである。なぜ、このホットスポット地帯に時代を経て完新世にアルカリ岩系の玄武岩類が噴出したのかは、ここがベイスンアンドレインジの東西伸張場にあり、プルームからのマグマはリソスフィア下底面付近に用意されており、それが下部地殻と反応しつつ、上昇の機会をうかがっていた。その裂け目に沿って比較的深部から部分溶融の小さな玄武岩類が割れ目噴火したとのおおよその類推が成り立とう(Reid, 1995)。つまり10 Ma前後にカルデラを作ったホットスポットが去った後にも、リソスフィアの底におかゆ状の玄武岩質マグマが残存し、それが最近になって亀裂を契機に、噴出したのであろう。

図9.Reid (1995)によるホットスポット以降のアルカリ岩の上昇モデル。

ホットスポット起源の海洋島でも、最初の活動からかなり後になって再活動する例(多くはアルカリ岩)はハワイ・オアフ島のダイアモンドヘッドの例を見るまでもないが、その他にもアルゼンチン沖のトリスタン島や、マリアナ沖のジュラ紀海底火山(Hirano et al., 2002)などの例が知られている。上記のReid (1995), McCurry and Rodgers (2009)の2論文には、それらの詳細がアイソトープにもとづいて検討されており、Reidの論文には図9のようなモデルも紹介されている。そのモデルは、近年日本の沖合で見出された「プチスポット」のセッティング(Hirano et al., 2006)と類似し、今後比較検討の材料となりうるだろう。

クレーターズオブザムーンでは火山岩の噴出のさまざまな様式を観察することができるだけでなく、アメリカの地質の一端を知るためにも、一見の価値があるものとして紹介した次第である。なお、公園内はサンプリングは絶対禁止である。ハンマーなどは、たとえスケールにしたくても持ち歩かないこと。また、トレイル以外には足を踏み入れないように。

【参考文献】

Alt, D. D. and Hyndman, D. W. (1989) Roadside geology of Idaho. Mountain Press Pub. Co., MO, 393pp.

Hirano, N. et al. (2002) Long-lived early Cretaceous seamount volcanism in the Mariana Trench, Western Pacific Ocean. Marine Geology, 189, 371-397.

Hirano, N. et al. (2006) Volcanism in response to plate flexure. Science, 313, 1426-1428.

Kuntz M.A. et al. (1994) Preliminary geologic map of the Craters of the Moon, 30' x 60' Quadrangle, Idaho. USGS Map I-2330.

Kuntz M.A. et al. (2007), Geologic Map of the Craters of the Moon, 30' x 60' Quadrangle, Idaho. USGS, Scientific Investigations Map 2969.

Maley, S. T. (2005), Field geology illustrated. Mineral Land Publications, Boise, ID, 704pp.

McCurry, M. and Rodgers, D.W. (2009) Mass transfer along the Yellowstone hotspot track I: Petrologic constraints on the volume of mantle-derived magma. Journal of Volcanology and Geothermal Research, 188, 86-98.

都城秋穂 (1979) 北アメリカの地質.世界の地質.岩波書店.

Price, N. (2001) Major impacts and plate tectonics, Routledge, London, 354pp.

Reid, M.R. (1995) Processes of mantle enrichment and magmatic differentiation in the eastern Snake River Plain: Th isotope evidence. EPSL, 131, 239-254.

(2010.8.7)