〜海洋研究開発機構,深海調査研究船「かいれい」KR08-10日本海溝航海

 

川村喜一郎(財団法人深田地質研究所),濱元栄起,山野誠(東京大学地震研究所),後藤忠徳(海洋研究開発機構),馬場聖至(東京大学地震研究所),原田誠(東海大学海洋研究所),川田佳史,桜井紀旭(海洋研究開発機構),羽入朋子(総合研究大学院大学),南澤智美(日本海洋事業株式会社),畠山映,富樫尚孝,宗輝(マリン・ワーク・ジャパン株式会社),KR08-10乗船研究者

 

 
 
 写真1(←)かいこう7000II.かいこうは,ランチャー(上半分)とビークル(下半分)からなっており,不幸にもビークルが2003年の亡失事故で失われた.その後,UROV 7Kをビークルとして復活し,改良を加えて,現在の形になった.

 
写真2 OBE:海底電位差測定装置.4本の腕につけた電極で海底の電位差を測定する装置.時代とともに,小型化した.1つ玉が最新型.

平成20年8月18日〜9月11日まで,海洋研究開発機構の深海調査研究船「かいれい」による日本海溝での調査航海(KR08-10)が行われた.この航海では,日本海溝周辺の海底で地殻熱流量を測定することが主な目的であった.さらに,「かいれい」に搭載されている無人探査機「かいこう7000II」を用いて,海底に人工電流を流し,それを海底電位差計で受信する,いわゆる人工電磁探査を海底で行うための実験も行った.
これまでの研究により,日本海溝海側の海域では,沈み込む海洋プレートの年齢から推定されるよりも高い地殻熱流量が観測されることがわかってきた.その原因として,近年発見されたプレート亀裂に伴う新しい火山活動,いわゆるプチスポットによる熱的な影響や,海溝海側に発達する正断層に沿った流体活動の影響を想定して,航海は実施された.海底電位差計での観測・探査は,その原因の深さを推定するための第一歩となる.
新しい火山活動の痕跡は,この「かいれい」に搭載されていた「かいこう」によって初めて発見された.1997年に第56回潜航が行われ,「かいこう」は,日本海溝の海溝軸部の海側斜面の水深7300 m付近から比較的新しい年代に噴出した玄武岩からなる崖を発見した.そして,それはこの海域での新しい地球科学の足がかりになった.「かいこう」は,2003年に不幸にも亡失事故によって行方不明になったが,この無人探査機の功績はすばらしかった.

それまでは有人探査船「しんかい6500」により,水深6500 mまでの海底の様子はわかっていたが,この「かいこう」は,それよりも深い場所を観察することを可能にし,そして,新しい地球科学の発見に導いた.私たちにはまだ知らない領域が多くあり,きっと,それらは,新しい技術によって知りうることができる,ということを,先の「かいこう」の例は指し示している.
今回の航海では,新旧問わず,さまざまな海洋観測装置が用いられた.研究者によるそれらの観測装置の新規開発に加え,観測技術員,探査船運航チーム,船長をはじめ船員の方々の船上での操船,操作技術によって,未知の領域に光が灯されるのだろう.


 
写真3 自己浮上式海底熱流量計:温度センサーが付いている槍を海底に突き刺して,海底下の温度分布を測定する.長期間測定を行った後,海面からコマンドを音波として送信し,重りを切り離して記録部分を浮上させ,回収する.

 
写真4 自己浮上式海底水温計:海底に温度計を付けた切り離し装置を設置し,長期間の海底の水温を測定する.水深が約二千メートルよりも浅い海域では,海底面における水温変動が大きく海底堆積物中の温度分布を乱す.このため熱流量を求めるには,長期的な海底水温の変動を測定して影響を補正する必要がある.この装置や自己浮上式海底熱流量計は,その長期測定のための装置である.

 
写真5 深海用地殻熱流量測定装置:海底堆積物に温度センサーを取り付けた槍を突き刺して,堆積物中の温度勾配を測定する装置.温度センサーに熱パルスを発生させて,その後の温度変化を測定することにより,堆積物の熱伝導率を求めることもできる.測定過程や槍の姿勢は音波で送信され,それを船上で受信することにより,海底での測定の状況をリアルタイムで知ることができる.

 
写真6 ヒートフローピストンコアラーと自己記録式小型温度計:ピストンコアラーという柱状採泥器のパイプの外側に,複数の自己記録式小型温度計を取り付けたもの.採泥を行うとともに,海底下の温度勾配を測定することができる.
写真7 ピストンコアラーによって採取された柱状採泥試料を半割し,熱伝導率の測定を船上で行っている様子.半割した試料面にアイロンのような形状のセンサーを置く.このセンサーに熱を発生させ,その熱による堆積物の温度上昇過程から熱伝導率を求める.熱伝導率と温度勾配から地殻熱流量を計算することができる.