NanTroSEIZE Stage 1 のSecond Post-Expedition Meeting (以下PEM)が2009年4月15日〜4月17日に京都大学にて行われました。本稿では、PEMでの体験を紹介します。
NanTroSEIZEとは、Nankai Trough Seismogenic Zone Experiments(南海トラフ地震発生帯掘削計画)の略語で、統合国際深海掘削計画(IODP)のプログラムの一つとして現在も進行中です。NanTroSEIZEの目的は、南海トラフに沿って存在する地震発生帯を掘削することによって岩石の取得・計測・長期観測をおこない、地震発生帯で何がおきているのかを明らかにすることです。そのために地球深部探査船「ちきゅう」により水深2000メートル・海底下6000メートルの震源断層固着域まで掘削することになります。計画達成には数年、あるいは十年以上の時間が必要であるため、掘削計画を4つの段階(Stage)に分けており、各Stageがそれぞれ複数の航海で構成されています。最初のStage1では3回の航海が行われ、それぞれExpedition 314,315,316と呼ばれています(この番号はIODPの航海毎につけられる番号です)。
本PEMはNanTroSEIZE Stage1研究者が航海後に一堂に会する初めての会議で、日本はもちろんアメリカ・ヨーロッパ・アジアの各国から研究者が参加し、参加者は総勢78名に上りました(そのうち乗船研究者は61名参加し、それ以外にも航海で取得されたデータや岩石サンプルを使用して研究するShore-based scientistsも参加しました)。会議の目的は、Stage1における研究成果と進捗を関係研究者間で共有し、より大きな成果を生み出すことでした。会議は各航海のリーダーであるCo-chief、研究者のまとめ役であるExpedition Project Manager、そして研究計画を通して科学的手法毎に研究をとりまとめるSpecialty coordinatorを中心に進められました。内容は地球物理学・地質学・岩石学・地球化学・微生物学など多岐にわたり、各研究者の研究状況を簡単に報告するだけでも丸一日かかる様な大がかりなものになりました。また、PEMでは現状報告だけでなく、科学目標毎に分科会を設定し今後達成すべき目標の確認と、100人近い研究者が地震発生帯の理解という一つの目的に向うことによって生じる研究内容の重複を整理し、研究成果を多角的かつ最大にするためにそれぞれがどのような貢献をすべきかを話し合いました。同時に、研究内容に漏れが無いかを確認し、それを補うために何をするべきかが話し合われました。
私はNanTroSEIZE Stage1におけるExpedition 314に乗船研究者として参加し、その時取得された物理検層データを基に、熊野海盆におけるメタンハイドレートの産状を研究しています。この研究成果は、熊野海盆におけるメタンガスをともなう流体の流れがどのようなものかを明らかにし、付加体における流体移動の理解につながると考えています。今回のミーティングの中では、他の航海で取得された同じ地点の岩石コアから得られた情報がどのようなものであったかを確認し、それらは自分の研究にどう反映できそうかなどを、他の研究者と議論することができました。
本PEMにおける科学的な議論はとても真面目な内容でしたが、会議はジョークを交えた終始おだやかな雰囲気でした。多くの研究者は同じ船上で研究を行った他の研究者との再会を喜び、コーヒーブレークや懇親会では参加者が楽しそうに会話をしているのが印象的でした。私自身も2ヶ月間おなじ船上で研究をおこなったフランスの研究者と1年半ぶりに再会し、お互いの近況について報告ができたことがとても嬉しかったです。
本PEMの締めくくりでは、今後行われるStage2以降での掘削計画についての紹介が行われ、今後の進展についてとても楽しみであると同時に、それに関わっている自分の責任の重さを再確認しました。
NanTroSEIZEへの参加そして本PEMを通して、多くの研究者が一つの科学目標に向かって研究をすることの重要性とその難しさを感じました。地震発生帯では地質スケールの時間・空間の中で、数秒あるいはもっと短い時間に断層面で滑り現象がおきており、それらを引き起こす原因には岩石の物性や地中の流体あるいは鉱物の化学反応などいろいろな要素が関わっていると考えられます。そのため、様々な分野の研究者が集いその理解に向かうことが必要になります。しかし、それらの研究は個々に行われるのではなく、自分の研究分野とは異なる分野のことも頭に入れながら、それぞれの研究が地震発生帯を理解するためにどのような意味があるのかを理解し上で行われなければなりません。今までは自分の研究に一生懸命でしたが、今後は自分の研究がさらに大きな科学の中でどのような位置づけにあるのか、どのような貢献ができるのかを考えながら取り組まなければならないと思い至りました。
最後にこの場をお借りして本PEMの準備と進行に関わられたすべての方に感謝申し上げたいと思います。
宮川歩夢(京都大学大学院工学研究科 博士課程後期2年)
写真提供:J-DESC