第7回地球システム・地球進化ニューイヤースクール(参加体験談


名古屋大学大学院環境学研究科 博士課程後期1年 
宮川和也

 


写真1:活き活きと講義を聴く参加者

写真2:坂口先生の実験の様子

写真3:懇親会での1コマ

【はじめに】

皆さん,ニューイヤースクール(NYS)をご存知でしょうか?NYSは地球科学に関して幅広く見識を深める場として毎年1月に開催されています.学部生や大学院生,若手研究者の集いの場としては,夏の学校や若手会などが良く知られていると思います.NYSは歴史こそ浅いものの,それらとはまた違った,様々な分野の交流の場または広い学問的視野を養う場として大変有意義な機会になっています.本稿では,NYSの紹介を交えながら,私が参加したNYS-7 (2009年1月10日~11日,東京・代々木)の体験談をご紹介します.

 

  NYSでは毎年各分野の最先端で活躍されている講師の方々や地球科学を取り巻く業界の方々が招かれ,2日間で10コマほどの講演が行われます.1コマ1コマが大学院の集中講義の様であり,とても内容の濃い時間を過ごすことができます.私はこれまでにNYS-5, 6, 7と3年間,参加をしました.自身の研究生活(学生生活)では1年間の大半を所属する大学の研究科の中で過ごします.日常的に他の人の研究の話を聞いたり,論文を読んだりしていますが,研究スタイル等の環境の多くは名古屋大学の影響を強く受けていると思います.そんな中で,他大学の方や他の研究機関の方の話を直に聴けて,ディスカッションができるという機会はとても貴重であると感じています.私が毎年のNYSを楽しみにしている一番の理由は,この点にあります.

 


【NYS-7の様子】

 

NYSの参加者層は学部生から研究者まで様々です.NYS-7では学部生33名,修士32人,博士17人,非常勤講師・PD11人,常勤講師21人,その他2人の合計116人の方が参加していました.学部生が多いことが特徴的です.進学や就職が間近に控えている学部生や大学院生にとって,研究の面白さを発見する場であり,また地球科学に関連する職業の選択肢を発見する場にもなっている様です.私は修士1年生の時に,博士課程後期への進学に関する悩みを抱えながらNYS-5に参加しました.そのときに多くの方と話をし,相談をできたことが大変励みになり,頑張ってみようという思いのきっかけを得ることができました.

 

  参加者の専門分野も様々です.地質学,岩石学,古気候・古環境・古生物学,地球物理学,火山学,雪氷学,地球化学,地震学など,地球惑星科学連合の中でやや地球寄りの分野の方が多く集まります.会場では参加者の方は名札をつけているので,誰がどんな研究を専攻されているのかが分かり易くなっています.

 

  NYS-7の講義は通常のレクチャー(60分)とEXレクチャー(30分)から成ります.60分レクチャーは各講師の方が,研究に関して各々の専門分野を分かり易く説明する基礎レクチャーです.一方, EXレクチャーは少し視野を広げて,地球科学やサイエンス一般に広く共通する話題や職業に関するレクチャーです.今回は伊賀公一さん(カラーユニバーサルデザイン機構)の「バリアフリープレゼンテーションの仕方」,土屋健さん(株式会社ニュートンプレス,ニュートン編集室)の「地球科学を武器にメディアで働く」,中井紗織さん(国立科学博物館)の「みんなで広げるサイエンスコミュニケーションの輪!」という3つのEXレクチャーを聴きました.このEXレクチャーで聴ける講演は,普段なかなか聴く機会が無いがとても興味深い講演という点において,NYSの大きな魅力であると感じています.

 

  NYS-7では次の講師の方々の講義を聴きました.橘省吾さん(東大・理学研究科),竹内望さん(千葉大・理学研究科),坂本天さん(JAMSTEC),武岡英隆さん(愛媛大・沿岸環境科学研究センター),長久保定雄さん(JOGMEC),坂口有人さん(JAMSTEC),青矢睦月さん(AIST),磯崎行雄さん(東大・総合文化研究科)の8名です.太陽系形成から雪氷学,地球温暖化,沿岸環境,メタンハイドレート,断層力学,変成岩,大学人の理科離れについてなど,多種多様な話を聴きながら,また,同時に自身の研究との接点を探したり考えたりしていました.

 

  NYS-5, 6, 7を通して何度か実験の実演によるレクチャーがありました.NYS-7では坂口有人さんがバネとおもりをスライドさせて,沈み込み帯における地震の発生サイクルに関する実験を実演されました.文献等で何度か読んでいて知っていた実験なのですが,実際に目にすると少し感動があります.NYSで講演される実験は,十分に誰でも再現可能なものなので,ここで得た知識はいつか学部生に対するセミナー等で活用できます.面白いことを知ったという思いから,ここでもNYSに来て良かったと感じます.

 

  初日(1月10日)は午前10時半に開会し,午後4時半まで休憩を挟みながら講義が行われました.その後,その日の講師の方々と参加者が個々に集まり,議論を交わすという「サイエンスディスカッション」の時間が1時間程ありました.この時間は,各講師の方に対して質問したいことがあるが質疑応答の時間に聞くことができなかった,という様なことをじっくりと話し合える良い機会です.しかし,多数の参加者がいるために時間内ではディスカッションが終わらないことがあります.この場で終わらない話はそのままその後の夕食・懇親会・ポスターセッションの時間にすることができます.夕食・懇親会・ポスターセッションの時間では旧知の方とつもる話をすることもありますが,昼間の講演で得た新たな知見を共通の話題として,必ず新たに多くの方と知り合いになります.こういった場の大切さは改めて言うまでもないでしょうが,多様な研究仲間と知り合えることを一言で表現すると,「嬉しい」です.

 

  二日目(1月11日)は午前9時に始まり,午後3時40分まで休憩を挟みながら講義が行われました.その後に再び「サイエンスディスカッション」の時間があり,午後5時過ぎに閉会となりました.閉会後に今後のNYSの運営に関わりたい方が集まり,話し合いが行われました.NYSは有志の方が事務局を構成し,運営を行っています.NYS-7が終わり,私がこれまでに参加してきた3回のNYSの運営を行って来た事務局は,来年度から新たなメンバーに変わります.これに伴いNYSもまた新たに生まれ変わると思います.

 


【今後のNYS】

 

来年度に向けた新たな事務局によるNYSの動きは既に始まっています.地球科学コミュニティの移り変わりに伴い,今一度「何のための会なのか」を明確にすることから出発しています.これまでの様な分野の多様性を生かし,質の高いレクチャーという伝統を保ちつつ,新たな方向性を模索しています.参加者も聞き手に準じるだけではなく,主体的になれる会を考えています.また,これまでのNYSの様子は下記のURLから見ることができます.

http://quartz.ess.sci.osaka-u.ac.jp/~earth21/school/gakkou/gakkou.html

 


【おわりに】

 

最後になりましたが,この素敵な場を企画・運営して下さったNYS-5, 6, 7の事務局の方にこの場をお借りしてお礼を申し上げます.本当にありがとうございました.