(写真1)Panoche Hillsの露頭の様子(撮影者:坂口有人氏) |
(写真2):チューブワームの化石群 *画像をクリックすると、大きな画像をご覧頂けます。 |
2008年12月20日,アメリカ・カルフォルニア州Panoche Hillsでカリフォルニア州立大学サンタクルズ校教授J. Casey Moore博士案内の巡検が行われました.この巡検は昨年房総・三浦半島で行われた付加体巡検のお返しにAGUミーティング後Casey氏が開いて下さったものです.房総三浦半島の巡検については静岡大学の原君が報告していますのでそちらを参照ください.今回の巡検は天気にも恵まれ,壮大でダイナミックなアメリカの地質を満喫することができました.
巡検地はCasey氏が長年研究されている場所で,前孤海盆の堆積層とそれを貫く巨大な砂岩岩脈群,流体移動の痕跡が見られます.つまり,現在海面下にある前孤域の表層で起こっている様々な現象を陸上でまるごと観察できる世界的にも貴重な場所です.
午前中は前弧海盆を覆う堆積層と,そこに貫入している砂岩の岩脈群を観察しました.堆積層は下位から厚さ数kmに及ぶ砂岩層,厚さ約700mの泥・シルト岩層,炭酸塩岩のコンクリーションやマウンドを含む厚さ数10mの砂岩層からなり,白亜紀後期〜暁新世初期にかけて形成された一連の層序として見ることができます.岩脈は水圧破砕により生じたクラックに最下位の砂がメタンなどの炭化水素を含む流体とともに上位の堆積層に注入したもので,厚さは平均数10cm,厚いものでは最大数mに達します.この辺りは丘陵地で見渡す限り新鮮な露頭が露出し,高台に立つと数キロ先まで見渡せる巨大岩脈群は息をのむほどの光景でした(写真1).
午後からは,炭酸塩岩のコンクリーションやマウンドを含む層を中心に観察しました.この層の下部では至る所に流体の通り道であった大小のチューブ状の構造が見られ,地下からの流体の供給量の多さを感じ驚きました.コンクリーションやマウンドは海洋底表層で,海水中のカルシウムや酸素と地下からの流体に含まれる炭化水素が反応して形成されたものです.マウンドの中には,チューブワームや白ウリ貝など現世の海底で確認される熱水噴出孔の生物と同様の化石が見られました.チューブワームの化石はアラゴナイトで置換されており10cmほどの輪切りのチューブワームが固まりになっていました.Casey氏に見せていただいた現在の海底下に生育するチューブワームの産状と露頭で見える化石群が大変よく似ており,まるで海底下の熱水活動をその場で観察しているようで圧巻でした(写真2).
私はこれらの構造を見るのは初めてでしたが,Casey氏はアメリカンサイズの大きなピックアップトラックから,アメリカンサイズの大きなパネルを取り出し,論文の図や地質図を大変分かりやすく説明して下さいました.Casey氏の丁寧な説明と綺麗な露頭で,前孤海盆における流体の移動について自分なりにイメージをつかめたことは大きな収穫でした.
巡検終了後はCasey氏お勧めのレストランにてみんなで夕食会をしました.次から次へと大量の料理が出てきてどれもおいしく,自然と会話もはずみました.Casey氏はとても温和な方で私のつたない英語の質問にも丁寧に答えて下さり,とても楽しい時間を過ごすことができました.
この巡検は山田泰広さん,辻健さん,宮川歩夢さん,山本由弦さん(京都大)植田勇人さん(弘前大)坂口有人さん(JAM)平内健一さん(広島大)原勝宏さん(静岡大)田阪美樹(東京大)およびJ. Casey Moore博士,合計10人で行われました(写真3).案内して下さったCasey氏,巡検に誘って下さった山本さん,素人の私に丁寧に専門用語の説明して下さった参加者の皆様,粗稿を丁寧に読んでくださった原勝宏さんに心よりお礼申し上げます.またこのような巡検があれば参加したいと思います.
(写真3)アメリカ・カルフォルニア州Panoche Hillsにて撮影した集合写真(撮影者:坂口有人氏)上段左から・・・山本由弦さん,坂口有人さん,辻健さん,植田勇人さん,平内健一さん,下段左・・・田阪美樹,原勝宏さん,J. Casey Moore博士,山田泰広さん,宮川歩夢さん