現在私は日本学術振興会海外特別研究員として、ウィスコンシン州立大学マディソン校に派遣されております。去年の春から2年の予定で、早いものですでに1 年と3ヶ月が過ぎました。ウィスコンシン州はミシガン湖の西部に位置しており、北海道とほぼ同緯度です。冬は札幌に比べると雪は少ないですが、気温はかな り低くなります。昨冬はマイナス24℃を経験しました。素手が外気に耐えられないことは初めてでした。長い冬は厳しいですが、そのおかげで春の訪れに対す る感動は倍増します。夏は札幌同様短く、夏の空が異常にきれいなところも似ています。今はその短い夏を満喫しているところです。マディソンはウィスコンシ ン州の州都で、人口は周辺の連続する町を含めて30万人程度です。州政府と大学しかない街と言われています。街は芝生と街路樹で覆われており、グーグル マップで見ると森の中に住宅街があるように見えます。州最大の街はミラービールやハーレーダビットソンで有名なミルウォーキーで、東へ車で1時間半程度で す。州をまたいでイリノイ州シカゴまで車で3時間程度の所に位置します。極稀にラーメンを食べに行きます。
私はこちらで 堆積物の弾性波速度の測定と堆積物の組織についての研究を行っております。タイミングよく昨年末に南海トラフ掘削プロジェクトに参加することができ、そこ で取られた堆積物を対象にしています。実際に測定を開始したのは今春からでした。というのも、タイミングの悪いことに私の受け入れ教員が本大学に異動した ばかりだったので、測定器のセットアップをほぼ一から行わなければならず、これが意外と大変でした。圧力容器をはめる穴をテーブルに空けるところから始ま り、機器をセットアップして、機器から送られてくる電気信号のデータ処理プログラムまで一通り経験することになりました。当初はなかなかデータを取る段階 までたどりつけず焦っていましたが、逆にいえばそういう機器のセットアップに関わるチャンスもなかなかないので、かえってよかったのではないかと今は思い ます。米国の名だたる大学は同様なのかもしれませんが、日本でいうところのテクニシャン(技師)が豊富に揃っており、機器のセットアップについては金属加 工技師や電気技師に大変お世話になりました。また、サンプル処理についても、いわゆる薄片技師と相談しながら私専用のルーチンを立ち上げてもらいました。 電子顕微鏡の使用についても専門技師のお世話になっております。実質的な現場作業はこのような技師なしでは回らないというほど重要な存在です。皆プロ フェッショナル意識が強く、彼らなしでは教授陣の研究が進まないことをお互いに自覚しています。このような技師のおかげで、教授陣は比較的多く研究につい て考えられるようになっています。私も彼らのおかげで順調にデータを取得しつつあり、幸せな日々を送っております。
私の 受け入れ教員の研究室には正規の学生は3名です。一人は非常に優秀で、機器のセットアップはほとんど彼がやって僕はほぼ横にくっついていただけという状態 でした。もう一人は逆に全く仕事が遅い問題児です。最後の一人は新入りで未知数ですができそうなオーラを感じます。現在は定期的なゼミなどはありません。 これまで不定期に勉強会や輪読会を研究室で行ってきました。時々構造地質グループのゼミや、極稀に開かれる不定期セミナーなどに参加します。学期中には毎 週金曜日にゲストスピーカーによる講演会があり、興味のあるものに出たりしていました。自由の国らしく日本よりもかなり縛りの弱い活動をしています。4月 に年に一度だけの学生による研究発表会がありますが、去年と今年と比べてみるとあまり変わっていない学生が多くいました。こちらでは学生に強制するものが あまりないようで、相当なレベルで自律しないとなかなか一人前にはなれないのではないかと感じます。一方でほとんどの学生は教授の研究費から授業料やとき に給料までも出してもらっており、自律を促すような仕組みになっているとも言えます。
こちらには妻と娘が一緒で、家事に ついては全くもって助かっています。マディソンに日本食材屋があり、家ではほぼ日本と変わらぬ食事をしています。とはいっても全く日本と同じというわけに はいかず、ご飯の味のちょっとした違いなどが最初は気になって仕方なかったのですが、今となってはどんな違いだったか思い出せないほどです。来た当初は まったく食べなかったまるまる一本のピクルスも、今はホットドックにものすごく合う食べ物だと思うようになりました。慣れというのはすごいですね。
言葉の問題で否が応でもマイノリティー意識を感じざるを得ないことがありますが、民主党の候補者選挙のときにバラク・オバマさんの講演を聞きに行き、個人 情報を提供したところ、選挙日の前日に後援会から電話がかかって来て、明日の選挙よろしくと言われたときは、何か米国国民の仲間入りをさせてもらったよう な気持ちになってありがたく感じたと同時に無用な仕事をさせてしまって申し訳ない気持ちになりました。
週末は、お祭りや パレードを見に行ったり、州立公園を回ったり、農場にピクニックピッキングに行ったり、いろいろ楽しんでいます。日本にいた頃とは比べるべくもないアク ティブさです。明日はエアーショウ、来週はウィスコンシンフェスタ、再来週はイリノイ州鉄道博物館にトーマス電車に乗りに行き、さらに次の週はメジャー リーグベースボールの観戦でミルウォーキーに行く予定です。今年度一杯で帰国する予定ですので今のうちにできるだけ楽しんでおかないともったいないと思う ばかりです。
家族を連れて来たことで余計なプレッシャーがありましたが、妻も娘も日本人の友達を早々に見つけて、順調に 馴染んでくれました。今夏から娘のプレスクールが始まり、妻は先生との連絡の必要性から教会主催の無料英会話クラスを以前より熱心に受けているようです。 ネタで周囲からはすぐに娘に英語を教えてもらえると言われます。確かに最近娘が英語をしゃべりだしましたが、幼児語なので大人は使ってはいけないという注 意もよく聞きます。
後半はまったく個人的な話で一体何のためにこれを書いているのかよくわからなくなってきましたが、将来海外で自分を試してみたいという若者がいて、そういう若者にこの文章が少しでも参考になれば幸いです。