海底地すべり 2007年シンポジウムより


 
図1 アスファルト地すべり?
図2 白山山麓の「別当大崩れ」

地すべりは,大雨のとき裏山が崩れたり,大規模に田畑や山が崩れたり,とニュースで聞きますよね(図1と2).海底にも,そんな地すべりがあります.ただ,海底なので,大雨や田畑はないですが.
では,海底の地すべりはどうやって起きるのでしょう.浅い場所ならば,風浪が考えられますが,もっと深く水深数百mではどうでしょう.実際に多くの海底地すべりが見つかっています.深いところでは,水深4000mを超えます.
海底地すべりの誘因として,まず,地震動が上げられます.2004年の中越地震では,多くの山や斜面で地すべりが発生したことは記憶に新しいと思います.地震が発生すると,揺れによる加速度で斜面が安定性を失い,海底の斜面だったとしても崩壊します.
地震動の他に,メタンハイドレートの崩壊も海底地すべりの発生誘因として考えられています.例えば,氷河期などで大規模に海水準が低下する(氷河期では海水準が200mも下がったとされています)と,現在メタンハイドレートがある海底の水深が浅くなります.そうすると,水圧が減少するため,メタンハイドレートは安定性を失い融解します.メタンハイドレートが斜面にある場合,海底地すべりが発生するとされています.
このような誘因によって発生した海底地すべりは,私たちの生活にさまざまな影響を及ぼします(図3).まず,海底ケーブルや海底パイプラインが切断される.さらに,資源開発など海底掘削でのプラットフォームに障害が発生する.また,メタンハイドレートが大規模に融解する,津波が発生する(漫画では波高の高い津波が沖合に描いてありますが実際には沿岸で水深が浅くなり減速して波高が高くなります).です.
海底地すべりは,このように大変重要な調査,研究課題ですが,「海底」という目視が難しい環境のため,謎ばかりです.ですから,私たちは今年多くの分野の研究者とともにシンポジウムを行いました.みなさんも興味を感じるところがあったならば,一緒に調べていきましょう.

 
図3 海底地すべりとその影響

 

川村喜一郎・藤田勝代(深田研),目代邦康(産総研)



講演プログラム

シンポジウム「海底地すべり」は2007年9月に第114年学術大会(札幌大会)において以下の講演が行われました。

  • シンポジウム開催にあたって(川村喜一郎)
  • 潜水船調査から明らかにされた南海付加体の海底地すべりの特徴(川村喜一郎・横山俊治)
  •  地質モデルに見られる付加体形成に伴う斜面崩壊(山田泰広・大島祐介・宮川歩夢・松岡俊文)
  •  地すべり移動体の内部構造と微地形:北海道の陸上の例から(田近 淳)
  • 堆積岩山地斜面上に見られる大規模崩壊の前兆現象(目代邦康・手打啓一郎)
  •  なぜ同じ地点からすべり始めるのか?〜動態観測とすべり開始点のコア分析〜 (坂口有人・横山俊治・橋本善孝・氏家恒太郎・山田知成・吉村典宏)
  • (招待講演)サーボ型加速度計を用いた海底地層変位モニタリングシステムの開発(横山幸也・斉藤秀樹・亀谷裕志)
  • ハイパードルフィンによる深海底表層地盤におけるコーン貫入試験と地震時安定性評価(阪口 秀・渦岡良介・泉 典洋・木戸ゆかり)
  • 台湾海底ケーブル断線記録から読み取る地震直後の深海底混濁流イベントと斜面崩壊(徐 垣・町山栄章)
  • (招待講演)深海巡航AUVを用いた海底地すべり調査の可能性(笠谷貴史・月岡 哲・山本富士夫・木下正高・金松敏也)
  •  (招待講演)ハワイ諸島における巨大海底地すべり(横瀬久芳)
  •  ハワイ島海底山麓のAlikaデブリアバランシェによってもたらされたタービダイト層の特徴(藤本悠太・横瀬久芳・金松敏也・石井輝秋・村山雅史)
  •  地震が誘発する巨大海底地すべりとその内部構造(山本由弦・鈴木清史)
  •  アンダマンースマトラ沖における調査航海中に見られた海底地滑り:MD149およびSO189-2航海の概要(金松敏也・山口はるか)
  •  おわりに:これからの地すべり研究(大八木規夫)
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