2014年度秋季地質調査研修の実施報告


はじめに
 上記研修が、11月25日(火)〜11月29日(土)にかけて4泊5日で実施された。本研修は、地質関連会社から要請を受けてこれまで毎年実施し、今年で8年目になる。本研修は、定員6名に対して講師2名という小人数指導で、ひとつの地質系統(房総半島中部の清澄山系にゆるやかな褶曲構造を形成しながら分布する新第三系安房層群上部の安野層、清澄層、天津層)を主な対象に、地質調査の経験のない人でも、体(五感)を通して、地質調査法の基本を習得し、それが地質現象の理解・解明に有用であることを理解することを目的に実施している。
 今回の参加者は、石油・天然ガス開発関連会社(3社)の新人5名と鉱山開発会社の若手技術者1名の合計6名で、最近では珍しく男性ばかりであった。講師は、産総研の徳橋秀一(地圏資源環境研究部門客員研究員)と工藤 崇(地質情報研究部門主任研究員)が務めた。
 
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日々の実施内容
<1日目:11月25日(火) :雨のち曇り>
 午前11時にJR外房線君津駅に集合後、小糸川上流の清和県民の森に移動、清澄向斜南翼部に位置し、清澄層最下部の厚いタービダイト砂岩優勢互層と凝灰岩鍵層が分布する清和県民の森の渕ヶ沢林道沿いで、タービダイト砂岩層や主な凝灰岩鍵層の特徴を観察した。その後、クリノメーターを使っての走向・傾斜の測定法やルート図の作り方を練習した後、実際のルートマップづくりに挑戦、夜はルートマップの墨入れや色塗りなどの清書作業を行った(写真1〜4)。

<2日目:11月26日(水) :雨>
 当初の予定では、清澄背斜北翼に位置する小櫃川支流猪の川(黒滝沢)(東京大学千葉演習林内)で作業をする予定であったが、雨が止む気配がなかったので、同じく清澄背斜北翼に西側に位置する三石山林道沿いで、天津層と清澄層の境界部の特徴、清澄層中の代表的な凝灰岩鍵層であるHkタフ(Ky21)とニセモンロータフ(Ky26)、そして、清澄層タービダイト砂岩中に発達する割れ目構造などを観察した(写真5, 6)。その後、三石山頂上に近い三石寺において、三石山の由来になり、また三石寺のご神体でもある三つの石を構成する黒滝不整合直上の基底礫岩層(黒滝層)を観察した(写真7, 8)。午後は、清澄背斜の南翼に位置する田代林道沿いにおいて、天津層と清澄層境界部の特徴やその前後に挟在する凝灰岩鍵層を観察した。その後宿にもどり、テキスト等を使った講義を午後の後半および夜に実施した。

<3日目:11月27日(木) 晴れ>
 小櫃川支流猪の川 (黒滝沢) 沿いの清澄背斜北翼の清澄層、天津層分布域の岩相の特徴や主な凝灰岩鍵層、重要な断層について、上位の清澄層分布域から沢歩きになれるように歩きながら、天津層上部の有名な凝灰岩鍵層であるOkタフ(Am78)の位置まで確認した(写真9)。次に、歩いて確認したルートの沢を歩きながらのルートマップづくりに挑戦した(写真10)。そして同時に、初日に歩いた清澄向斜南翼の清和県民の森渕が沢林道沿いに分布する清澄層最下部のタービダイト砂岩優勢互層中に挟在した凝灰岩鍵層群の産状と猪の川沿いでのこれらの凝灰岩鍵層群の産状の違い、特に、これらの凝灰岩鍵層上下の地層の特徴の大きな変化を確認した(一部層準の地層の背斜軸への顕著な収れん現象)。


<4日目:11月28日(金) 曇り>
 前日に続き、小櫃川支流猪の川 (黒滝沢) 沿いにおいて、まず、黒滝不整合の発祥の地となった黒滝で、黒滝不整合とそれを覆う基底礫岩などの堆積物(黒滝層)を観察した(写真11)。そして次に、黒滝不整合の下位に横たわる安房層群最上部の安野層の分布域でルートマップを作成した。黒滝不整合の直下の黒滝の周りには、安野層最上部の硬質の砂質泥岩〜泥質砂岩と凝灰岩層の互層が分布するが(写真12)、猪の川林道と交叉する橋の下をくぐったすぐ東側には、幅4〜5mの破砕帯をともなう南北性の断層があり(写真13)、その断層より上流側には、安野層の上部より下位のシルト岩とタービダイト砂岩の細互層が広く分布する(写真14)。猪の川沿いの安野層分布域では、猪の川が走向方向(ほぼ東西方向)に大きく蛇行しながら伸びることから、安野層の多くの凝灰岩鍵層(写真15など)やスランプ堆積物(写真16)が、大小の南北性の断層によってずれながらも、走向方向に連続し、何度も繰り返し猪の川沿いで観察されることを確認し(写真17)、そのことをルートマップに表現した(写真18)。

<5日目:11月29日(土) 雨ときどき曇り>
 まず、安房層群堆積時に外縁隆起帯(バリヤー)をなしていたと考えられる嶺岡構造帯(嶺岡山地)を特徴づける蛇紋岩(写真19)、その蛇紋岩が上昇中に取り込んだ代表的なブロック (層状石灰質チャート、枕状溶岩のブロック)を観察(写真20)。その後、東海岸を北上し、勝浦海中公園東隣りの吉尾漁港の東方に伸びる海蝕崖で、猪の川沿いで観察した安野層の全体を浸食し、三石山林道でみた清澄層上部のニセモンロータフ(Ky26)直上を直接覆う黒滝不整合を防波堤から遠望した(潮位の関係で、黒滝不整合を直接観察できるボラの鼻までは行けなかった)。その後、清澄層上部のニセモンロータフやタービダイト砂岩の特徴を観察した(写真21)。次に、隣の勝浦海中公園において、清澄層第一級の凝灰岩鍵層のHkタフ(Ky21)下位の泥岩優勢互層を観察した。この後、海中公園の浜辺にて、地質調査研修修了証書を参加者に授与し記念写真を撮影した(写真22)。そして、午後2時過ぎにJR外房線の勝浦駅にて解散した。

今回の研修の特徴
 今回の研修は、3日目と4日目以外は、雨の降る日が多く、研修の中心地域である猪の川(黒滝沢)沿い(東大千葉演習林内)での作業日数を3日間から2日間に短縮し、その代り、林道沿いでの観察の充実やテキスト等を使った室内での講義に振り替えた。ただ、最も重要な基本作業であるルートマップ作成作業は、やり方を少し変更して実施した結果、当初予定したルート、区間を何とかほぼカバーすることができた。最終日の勝浦海中公園周辺での観察は、潮位の関係で一部の露頭を観察できなかったが、その他の作業は、雨の影響を受けながらも、当初の予定をほぼ実施することができるともに、事故や病気もなく無事終了することができたことは幸いであった。山ヒルについては、2日目の雨の中での林道沿いの草むらでの調査の際に何匹か遭遇したが、それ以外の日は遭遇することはなく、幸い実害はなかった。山ヒル対策として、今年も食塩を持参するとともに、長靴(沢の中での滑り防止のために全員スパイク長靴を使用)とズボンの間を布テープで巻いておいたが、この布テープは、沢の中を歩いている際の水の侵入防止にも大いに役立った(この時期、長靴に水が入ると冷たくまた乾きにくい)。紅葉はちょうど盛りの時期で、林道沿いや沢沿いを歩きながら、各所で見事な紅葉を楽しむことができた。

おわりに
 本研修では、参加者は研修中ルートマップの作成などの作業に追われ、あまり写真など撮っている暇がないので、代わって講師の方でその間の写真をできるだけ多く撮り、それを基に、研修の様子や観察した対象物等の写真をパワーポイント上に簡単な説明をつけながら日毎に時系列的に並べたものを、テキストに使った基本的な図面等のファイルの入った資料編ともに、実施記録として毎回作成し参加者に渡してきた。4泊5日にわたる詳細な実施記録の作成は、講師にとっては相当な負担であるが、こうした実施記録をみながら復習してもらうことによって、研修の中身がよりよく理解され身につくことが期待されることから、今回もがんばって作成し、次の週には写真の元データとともにこうした記録ファイルを参加者にお届けし、実施記録として、あるいは、社内での報告や報告書作成の際に役立ててもらっている。また参加者には、毎回研修の内容に関するアンケートに協力してもらっているが、今回も研修の意図を理解し役立った、貴重な経験となったという回答をみなさんから得ている。そのうえで、あともっとこういうこともやりたかったという要望も毎年いくつかいただくが、たとえば、今回身につけたルートマップづくりを、別のルート(支沢や近隣の沢など)で試行錯誤しながら自力で実施したり、特定層準の柱状図づくりを自らやって対比したり、重要な露頭のスケッチを行うなどの経験を一通り行うためには、本当はもう一週間必要である、というのがいつも感じる正直な気持ちである。ただ、実際やるとなると、参加者側にもそれなりの体力(脚力や露頭表面を自ら積極的に削る腕力など)と覚悟(やる気・根気・気力・知力)が必要となろうし、またこれを実施すると、さらに次なる関心や欲求が起きる可能性も高いであろう。

 最後に、本研修実施にあたりご協力ご尽力いただいた東京大学千葉演習林、地質学会担当理事の杉田律子氏と前担当理事の中澤 努氏、地質学会事務局など、関係機関、関係者の皆様に厚くお礼を申し上げます。
 

(徳橋秀一、工藤 崇)

 

 

写真でみる2014年度秋季地質調査研修(11月25日〜11月29日実施)の実施の様子

写真1:清和県民の森の林道沿いでの清澄層最下部(タービダイト砂岩優勢互層)の観察(初日)。 写真2:クリノメーターを使った層理面(走向と傾斜)の測定練習(初日)。
写真3:初日午後に作成したルートマップの清書作業(初日の夜)。 写真4:初日午後に作成したルートマップの比較。1マス(5mm)は10複歩。
写真5:清澄層第一級の凝灰岩鍵層であるHkタフ(Ky21:白色部)を三石山林道沿いで観察(2日目)。 写真6:清澄層上部の厚いタービダイト砂岩中の複雑な割れ目の観察(三石山林道:2日目)。
写真7:三石神社裏のご本体(三石のひとつ)を構成する黒滝不整合直上の基底礫岩(黒滝層)の観察(2日目)。 写真8:写真7の黒滝層(基底礫岩層)の一部拡大(2日目)。貝化石などもところどころで観察される。
写真9:天津層第一級の凝灰岩鍵層Okタフ(Am78)(猪の川:3日目)の前でポーズ。 写真10:清澄層のタービダイト砂岩優勢互層の中を歩きながらのルートマップ作成作業(猪の川:3日目)。タービダイト砂岩の河床は、平坦ですべりにくく歩きやすい(猪の川:3日目)。
写真11:黒滝不整合の名前の由来となった黒滝(猪の川:4日目)。不整合直上の基底礫岩は、滝の表面をかするように分布。 写真12:黒滝不整合直下の安野層最上部の硬質砂質シルト岩〜シルト質砂岩と凝灰岩の互層(猪の川:4日目)。
写真13:安野層の最上部と上部のタービダイト砂岩泥岩互層が接する比較的ずれの大きい破砕帯をともなった南北性の断層(猪の川:4日目)。 写真14:安野層のタービダイト砂岩泥岩細互層が猪の川の河床に鬼の洗濯岩状に律動的に分布(4日目)。
写真15:安野層に多数設定された凝灰岩鍵層のひとつであり、軽石質凝灰岩から成るモンロータフ(An16)。直下には付き人が待機(猪の川:4日目)。 写真16:安野層中のスランプ堆積物。スランプ堆積物も凝灰岩鍵層とともによく連続して分布(猪の川:4日目)。
写真17:走向方向に蛇行しながら流れる猪の川沿いに何度も出現する凝灰岩鍵層の確認とルートマップ上への記載(4日目)。 写真18:猪の川の安野層分布域で作成したルートマップの比較(4日目夜)。ルート上には、岩相、凝灰岩鍵層、断層、走向・傾斜が記載されている。1マス(5mm)は20複歩。
写真19:嶺岡山地(嶺岡構造帯)の中心部を東西に伸びる嶺岡中央林道沿いに露出する蛇紋岩露頭(5日目)。 写真20:嶺岡山地の東端部に位置する鴨川青年の家周辺にみられる枕状溶岩(千葉県天然記念物)(5日目)。
写真21:東海岸の勝浦市吉尾漁港東方に伸びる海蝕崖に分布する黒滝不整合直下の清澄層上部のタービダイト砂岩優勢互層(5日目)。 写真22:研修を終えて受け取った修了証書の受領記念写真(勝浦海中公園前:5日目)。研修参加者は、技術者継続教育CPD40単位も取得。