Vol. 21  Issue 1 (March)

 

招待論文

[Review Articles]

1. Review of the Pilbara Craton and Fortescue Basin, Western Australia: Crustal evolution providing environments for early life
Arthur Hugh Hickman

西オーストラリアのピルバラクラトンとフォーテスキュー堆積盆:初期生命の生息環境を整えた大陸の進化
Arthur Hugh Hickman


この総説では、約35〜26億年前にわたる西オーストラリア・ピルバラクラトンの発達史と、そこに残された初期生命の証拠を包括的に取り上げる。約35〜32億年前にかけて8回の周期的火成活動によりピルバラ超層群が形成され、大規模な花崗岩が貫入して、東ピルバラ地塊が形成された。島弧の付加や衝突で形成された西ピルバラ地塊は、約30億年前に東ピルバラ地塊と衝突した。約29-28億年前の後期花崗岩類の広域な貫入により、ピルバラクラトンは大陸として安定化した。約28−26億年前にはプルーム活動によるリフティングが起こり、フォーテスキュー堆積盆が発達した。このような大陸地殻の発達は、熱水環境や浅海環境等の初期生命の生息場を整え、ストロマトライト等の発達につながった。
 
Key Words : continental crust, early life, Fortescue Basin, Paleoarchean, Pilbara Craton.
 

通常論文

[Research Articles]

2. Denudation history of the Kiso Range, central Japan, and its tectonic implications: Constraints from low-temperature thermochronology
Shigeru Sueoka, Barry P. Kohn, Takahiro Tagami, Hiroyuki Tsutsumi, Noriko Hasebe, Akihiro Tamura and Shoji Arai

木曽山脈の削剥史とそのテクトニックな解釈:低温領域の熱年代学による制約
末岡 茂・Barry P. Kohn・田上高広・堤 浩之・長谷部徳子・田村明弘・荒井章司


約0.8 Ma以降に隆起した断層地塊山地である木曽山脈の削剥史や削剥速度分布を,フィッション・トラック法(FT法)および(U–Th–Sm)/He法(He法)によって求めた.9地点のジルコンFT年代(59.3–42.1 Ma),18地点のアパタイトFT年代(81.9–2.3 Ma),13地点のアパタイトHe年代(36.7–2.2 Ma)が得られた.アパタイトFT年代とアパタイトHe年代は,ジルコンFT年代に匹敵する古い年代のグループと,<18 Maの若い年代のグループに分けられた.若い年代は,木曽山脈の隆起に伴う削剥を反映していると考えられ,これらの値や分布を基に,0.8 Ma以降の削剥速度(1.3–4.0 mm/yr),基盤隆起速度の上限(3.4–6.1 mm/yr),および木曽山脈の隆起モデルを推定した.古い年代は,山脈隆起開始以前の長期にわたる準平原化(平均削剥速度:<0.1 mm/yr)を反映していると考えられる.
 
Key Words : apatite, denudation, fault-block mountain, fission-track thermochronology, (U–Th–Sm)/He thermochronometry, LA-ICP-MS, peneplanation, Kiso Range.
 

3. A large amount of fluid migration around shallow seismogenic depth preserved in tectonic mélange: Yokonami mélange, the Cretaceous Shimanto Belt, Kochi, Southwest Japan
Yoshitaka Hashimoto, Mio Eida, Takayuki Kirikawa, Ryoko Iida, Mie Takagi, Noriko Furuya, Akira Nikaizo, Taketo Kikuchi and Toshio Yoshimitsu

構造性メランジュに記録された沈み込みプレート境界地震発生帯浅部における大量の流体移動:高知県白亜系四万十帯横波メランジュ
橋本善孝・栄田美緒・桐川隆之・飯田亮子・高木美恵・古谷紀子・二階蔵晃・菊池岳人・吉満敏夫


本論文の目的は沈み込みプレート境界地震発生帯浅部における流体の移動様式と移流量を明らかにすることである。対象地域は高知県白亜系四万十帯横浪メランジュである。北縁は五色ノ浜断層で、微細組織から過去の地震断層だと考えられる。メランジュ面構造とほぼ平行な剪断脈はほぼ石英からなり、移流によって形成され、岩石1m中に合計1mmほどの平均厚さを持つ。流体包有物からの温度圧力はおよそ175-225˚C/143-215MPaであった。この温度条件から先の石英を溶解する流体量はおよそ岩石体積の100倍である。沈み込みよって持ち込まれる粘土鉱物の脱水する温度条件であり、その流体の通過する場であったと考えられる。
 
Key Words : fluid flow, seismogenic zone, subduction zone