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受賞者:多田隆治 会員(東京大学大学院理学系研究科)
対象研究テーマ:精密な層序ならびに堆積物分析に基づく環境変動史解明
多田隆治会員は,これまで長年にわたり,詳細な野外調査ならびにコア観察に基づき緻密な岩相層序を確立し,それを基礎に,堆積物の物性・粒度・鉱物・元素組成の時代変遷を精密に分析・解析することにより,地球表層の環境変動史解明に関わる数々の発見と洞察に満ちた仮説を提示してきた.中でも,珪質堆積物の続成過程の理解を基に,日本海第三紀珪質岩の堆積リズムがミランコビッチサイクルを反映していることの発見や,日本海の第四紀明暗層の堆積がDansgaard-Oeschgerサイクルに対応していることを初めて見出し,日本海の海洋環境が東アジアモンスーンと共に大きく変動して来たことを明らかにした功績は大きい.また日本海への黄砂供給量が東アジアの乾湿を反映し,その供給源の変動は東アジアとグリーランドの気候テレコネクションによる可能性を指摘した.このように,多田会員による新生代の海洋および陸上地質についての詳細な堆積学的検討と,それに基づく汎世界的な気候変動との関連性に関する検討は,地球環境変動史の解明に大きく貢献すると共に,その研究手法は現在の地球環境変動史解析の基本となっている.さらに,白亜紀—古第三紀境界における隕石衝突に伴うキューバ津波イベントの規模について,精密な岩相層序と堆積物の物性解析に基づいて定量的評価を行うなど,この分野でも大きな功績を挙げた.
多田会員は,研究のみならず教育面においても,精密層序確立の重要性やその客観的な解析手法を多くの研究者や学生たちに惜しみなく伝え,環境変動に関わる地質学分野の裾野を拡げることに貢献してきた.さらにこれらの功績に加え,IODPやPAGES-SSCの国際委員,IGCP476・IGCP581の共同代表,PEPS誌やPaleoceanography誌の副編集長などを務め,環境変動史研究を通した国際的な地質学コミュニティに対し貢献すると共に,我が国の地質学の国際的発展に中心的な役割を担って来た.近年も,2013年のIODP日本海航海とその後の国際共同研究,2014年以降のAustralasian tektitesの隕石衝突サイトに関わるインドシナ調査など,国際的な研究協力や交流関係を発展させてきている.
以上のように,多田隆治会員が日本の地質学の発展に果たしてきた多岐にわたる業績はきわめて大きく,日本地質学会賞に推薦する.
受賞者:Robert J. Stern氏(テキサス大学ダラス校)
対象研究テーマ:島弧—海溝系およびプレートテクトニクスの研究
米国,テキサス大学ダラス校のRobert J. Stern教授は野外地質学,岩石学,地球化学をベースとした島弧—海溝系のテクトニクスの世界的権威として有名である.Scopus(2019年3月14日)によると論文数は270,被引用数は15534である.Stern氏は1979年カリフォルニア大学サンディエゴ校(スクリプス海洋研究所)にて学位取得後,カーネギー研究所の博士研究員を経て1982年テキサス大学ダラス校に所属し現在に至る.この間米国地質学会(1993年)および米国地球物理学連合(2017年)よりフェローの称号を授与されている.学術誌の編集への貢献も顕著で,多くの国際誌の編集委員を歴任後,現在はInternational Geology Review誌の編集長として手腕を発揮している.
北マリアナ弧のアグリハン(Agrigan)火山の火山地質学・岩石学(Stern, 1978)からスタートしたStern氏の研究はやがて伊豆-小笠原-マリアナ弧(IBM弧)全体に広がり,共同研究者とともに岩石学,地球化学,テクトニクスに関する数多くの研究成果を公表した(例えば,Bloomer et al., 1989; Lin et al., 1989; Stern & Bloomer, 1992). またそれらを通し,島弧-海溝系の形成に関する数多くのインパクトの高い総括的論文を発表した(例えば,Stern, 2002, 2004). その過程でIBM弧で活躍して来た日本人科学者と交流し,共同研究が2000年代に入って急速に増えている(例えば,Kimura et al., 2005; Tatsumi & Stern, 2006; Ishizuka et al., 2006, 2014; Stern et al., 2012, 2013, 2014, 2016).Stern氏はパンアフリカ帯の形成などの原生代のテクトニクスの研究でも極めて著名である(例えば,Stern, 1994).
Stern氏の一連の研究は,日本列島の理解を大きく高めたのみならず,共同研究を通じ日本人科学者の向上を推進してきたものとして高く評価できる.さらに,Island Arc誌のAssociate editorを長年勤め同誌の国際誌としての地位向上を推進し,ODP-IODPにおいても日本人研究者とともに掘削計画の策定や提案を行うなどの貢献があった.
こうしたRobert J. Stern教授の業績と日本地質学界への多大な貢献に鑑み,同氏を日本地質学会国際賞候補者として推薦する.
2019 International Award of the Geological Society of Japan
Dr. Robert J. Stern is Professor of Geosciences and Director of the Global and Magmatic Research Laboratory at the University of Texas at Dallas, USA. He is known for his extraordinary ability in the studies of modern and ancient convergent margin processes using the principles of field geology, petrology, geochemistry and geochronology. He is a recognized world leader in those research fields and has made outstanding contributions to the geoscience community in Japan through research exchange and academic cooperation.
Prof. Stern graduated from University of California at Davis in 1974. He undertook graduate studies at the Scripps Institution of Oceanography, and received a Ph.D. at the University of California at San Diego in 1979. He spent two years the Department of Terrestrial Magnetism, Carnegie Institution of Washington as a post-doctoral fellow, focused on the geochemistry of Egyptian and Mariana igneous rocks. After his postdoctorate in 1982, he joined the Geosciences faculty at the University of Texas at Dallas, rising from assistant professor to professor and serving as Dept. Head 1997–2005.
Throughout his more than 40 years of research experience, he has made numerous, cooperative academic exchanges with Japanese researchers. Prof. Stern has been an associate editor or editorial board member of seven Science Citation Index (SCI) journals including, "Geology", "Journal of Geophysical Research". "Precambrian Research", and "Island Arc", "International Journal of Geosciences", and is now editor-in-chief of "International. Geology Review". He was elected Fellow in two distinguished academic societies (Geological Society of America, American Geophysical Union).
Prof. Stern has published over 275 scientific papers which have been cited as more than 23,000 times according to GoogleScholar. He is one of the earliest researchers that applied modern geochemical and isotope techniques to the study of East African Orogen (EAO) along eastern Africa and western Arabia. His studies in the EAO helped establish and assess Neoproterozoic crustal growth in the world largest collisional belt. Moreover his studies of the Izu-Bonin-Mariana (IBM) arc-trench system helped establish this as the best-studied example of an oceanic arc system. These studies led to further advances in our understanding of how new subduction zones form and the evolution of plate tectonics through Earth history. He has also contributed to various ODP-IODP expeditions in the IBM system. His IBM work has involved many Japanese researchers.
Based on the great scientific achievements and important contribution to the Japanese geological community as noted above, we recommend Dr. Robert J. Stern for the 2019 International Award of the Geological Society of Japan.
受賞者:齋藤誠史 会員(スイス,ローザンヌ大学)
対象研究テーマ:古生代末の絶滅事件と特異な還元海洋環境の出現に関する研究
齋藤誠史会員は,野外地質調査と室内分析の両方を着実に行う高い能力を備え,それを実証する質の高い論文を公表すると共に,国際学会においても多数の口頭発表を行っている.齋藤会員の研究テーマは,古生代末に起きた最大規模の生物絶滅事件の原因探索に関わるものである.具体的かつ膨大な基礎データとして,世界で最も保存良好な絶滅境界が露出する中国四川省において,詳細な野外調査を基に,大量の採取岩石試料から500 枚以上に及ぶ研磨スラブ試料と1000枚以上の岩石薄片を作成し,詳細な地質記載を行った.さらに多様な微量化学分析,ならびに同位体(炭素・硫黄・窒素)比測定を行い,その結果から,絶滅直前の海洋深層において酸素極小層の異常拡大が起こり,それに伴って浅海での絶滅が起きたと結論した.特筆すべきは,境界直前の還元環境下で晶出した微小方解石プリズムの発見とその堆積期間前後の海水の炭素・硫黄・窒素同位体比変化を示したことであり,世界でも他に例のないきわめて独自性の高い成果である.また最新論文では,自生炭酸塩岩の堆積が全海水の同位体比変化に及ぼす影響についても初めて議論した.これら研究成果は,主著者として執筆した7編の国際学術誌論文にまとめられている.個々の論文のレベルはきわめて高く,その論文被引用回数は,近年になって特に増加している.昨今の欧米の研究手法を追従した論文が多い中で,オリジナリティに溢れる齋藤会員の論文は高く評価できる.
現在,齋藤会員は,フランス国Université Clermont Auvergne(Laboratoire Magmas et Volcans)でポスドクとして研究中であり,さらなる新しい地球化学的分析手法の開発を目指している.一方,顕生代のみならず,太古代および原生代の炭酸塩岩についても,オーストラリアや中央アフリカ・ガボン共和国での野外調査に基づく研究を精力的に進めている.このような新たな分野に積極的に挑戦する研究姿勢からも,将来を期待できる素養・資質を有していると判断される.
このように齋藤会員は,豊富な専門的知識および高度な分析技術をもち,その潜在的能力は同世代の若手研究者の中でも突出しており,日本の地球科学を牽引する新世代のリーダー候補として大きく期待される.以上の理由から,齋藤会員を日本地質学会小澤義明賞に推薦する.
対象論文:Catherine Chagué-Goff, Jordan Chi Hang Chan, James Goff, and Patricia Gadd, 2016, Late Holocene record of environmental changes, cyclones and tsunamis in a coastal lake, Mangaia, Cook Islands. Island Arc, 25, 333−349.
Mangaia in the Southern Cook Islands, like many other Pacific islands, is exposed to a range of natural hazards, including cyclones and tsunamis which can be generated not only by local submarine slope failures but also from earthquakes occurring at distant locations along the Pacific Ring of Fire. Chagué-Goff et al (2016) analyzed a 4.3 m-long peat sequence from the shore of Lake Tiriara, in one of the swampy areas inside an old raised coral reef (atoll) in the island interior, which records long- and short-term regional environmental changes over the past 3500 years and also the effect of human settlement. Seawater has been reported to intrude through an underground tunnel into Lake Tiriara in the island interior during cyclones. This is a unique geologic setting if tsunami deposits can be found on raised atolls, which are commonly surrounded by steep cliffs and lack coastal plains. Chagué-Goff et al aimed to identify tsunami deposits and distinguish them from cyclone deposits, based on sedimentological, geochemical and microfossil analyses. Based largely on the distinctive geochemical signature of the deposits, they eventually proposed that one probable paleocyclone deposit and three probable paleotsunami deposits were preserved in the sequence. If similar tsunami deposits are found in other raised atolls, it will help estimate the frequency of tsunami occurrence and maximum wave heights in tropical Pacific islands. This knowledge is expected to be useful for disaster risk reduction in this region.
>論文サイトへ(Wiley)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/iar.12153
対象論文:佐野弘好,2018,岐阜県西部,舟伏山岩体東部の美濃帯ペルム系〜三畳系チャート優勢層の層序と年代. 地質学雑誌,124,449-467.
本論文は,美濃帯西部,舟伏山岩体東部のチャート優勢層の分布,岩相層序,放散虫化石年代を検討し,その層序と年代を明らかにしたものである.美濃帯のペルム系チャートは,泥岩中の岩塊として産し混在岩相を形成していることから,これまで初生的な層序の全容解明にはいたっていなかった.本論文では,丹念な地質調査に基づいた岩相記載と微化石年代の決定により,チャート優勢層は,玄武岩質岩を基盤とするペルム紀シスウラリアンから後期三畳紀の遠洋性・深海成堆積物であることが明らかにされている.チャート優勢層には,堆積環境の時代変遷が,赤色チャート,砕屑性ドロマイト,黒色粘土岩,珪質ミクライト・チャート互層などの特徴的な岩相として記録されており,今後,古生代から中生代にかけての古海洋環境の時代変遷や,ペルム紀末大量絶滅事変の理解において重要な情報を与えると考えられる.また何より本論文は,地質図・断面図・柱状図に代表される各種地質データや,徹底した岩相記載および微化石年代決定など,地質学雑誌掲載論文の好例ともいえる内容から構成されている点が高く評価される.以上の理由より,本論文を日本地質学会論文賞に推薦する.
>論文サイトへ(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/124/6/124_2018.0010/_article/-char/ja
対象論文:Hitoshi Hasegawa, Hisao Ando, Noriko Hasebe, Niiden Ichinnorov, Tohru Ohta, Takashi Hasegawa, Masanobu Yamamoto, Gang Li, Bat‐Orshikh Erdenetsogt, Ulrich Heimhofer, Takayuki Murata, Hironori Shinya, G. Enerel, G. Oyunjargal, O. Munkhtsetseg, Noriyuki Suzuki, Tomohisa Irino, Koshi Yamamoto, 2018, Depositional ages and characteristics of Middle‒Upper Jurassic and Lower Cretaceous lacustrine deposits in southeastern Mongolia. Island Arc 27-3, DOI: 10.1111/iar.12243.
本研究は,モンゴルのオイルシェールの空間的および時間的分布を調べ,ジュラ紀および白亜紀の湖沼堆積物の詳細な特徴と古気候的背景を明らかにしたものである.まず,凝灰岩のジルコンU-Pb年代などから,Shinekhudag層はAptian初期に,Eedemt層はCallovian-Oxfordianに堆積したことを示し,堆積速度を評価した.Shinekhudag層のオイルシェール中には藻類起源の有機物と砕屑性粘土からなるマイクロメータースケールの葉理構造があり,降水の季節性を反映した年稿である可能性が高く,堆積速度とも整合的である.筆者らは両層堆積時の広範な湖沼発達に示される気候の湿潤化がOAEとほぼ同時期に起こっている可能性も示した.本研究は,緻密かつ詳細な現地調査とサンプルの分析に基づいて,湖沼堆積物のプロセスを明確に示すとともに,ジュラ紀−白亜紀における陸上−海洋の気候的関連性を示す重要な成果であると評価できる.以上の理由より,本論文を日本地質学会論文賞に推薦する.
>論文サイトへ(Wiley)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/iar.12243
受賞者:加瀬善洋 会員(北海道立総合研究機構地質研究所)
対象論文:加瀬善洋・仁科健二・川上源太郎・林 圭一・高清水康博・廣瀬 亘・嵯峨山 積・高橋 良・渡邊達也・輿水健一・田近 淳・大津 直・卜部厚志・岡崎紀俊・深見浩司・石丸 聡,2016,北海道南西部奥尻島で発見された津波堆積物.地質学雑誌,122, 587–602.
本論文では,北海道南西部に位置する奥尻島南部の青苗地区において,丹念な津波堆積物調査を実施し,未解明な点が多かった津波履歴を明らかにした.これらの結果に基づくと,(1)奥尻島では過去3,000–4,000年の間に少なくとも6回の津波があったこと,(2)過去に発生した津波の浸水範囲から,これらの津波は1993年北海道南西沖地震津波を超える規模であったことが判明した.日本海沿岸域における津波履歴の解明に向けた,貴重なデータと言える.また,津波堆積物を認定する上で重要となる「海水の寄与」を把握するために,有機質微生物遺骸(渦鞭毛藻シスト,有孔虫の内膜)に着目した新たな手法を提案し,その有用性も示した.さらに,本論の結果は,津波浸水想定の見直し等の資料として,国や道の防災計画の見直し等,既に行政施策への活用がなされている.以上のように,本論は学術的に高い意義をもつとともに,日本海沿岸の津波防災地域づくりに貢献する研究として高く評価できる.以上の理由により,本論文の筆頭著者である加瀬善洋会員を日本地質学会研究奨励賞に推薦する.
>論文サイトへ(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/122/11/122_2016.0042/_article/-char/ja
受賞者:葉田野 希 会員(信州大学大学院総合工学系研究科)
対象論文:葉田野 希・吉田孝紀,2018,瀬戸内区中新統瀬戸陶土層の古土壌構成が示す古風化および古気候条件.地質学雑誌,124,191–205.
本論文は中新統瀬戸陶土層とその上位層を対象に,丁寧な露頭記載,古土壌の岩石学的記載に基づいて,土壌形成に強い影響を与える堆積速度や母材の特性を考慮し,多角的に土壌形成過程と古気候を言及したものである.古土壌の形成を議論する際,古地形を正確に復元することは重要であるが,筆者らは500m以上に渡って連続する露頭観察からそれに成功し,土壌形成時の排水条件を復元したことは価値が高い.これにより信頼度の高い気候復元が可能となった.また,本論文の特筆すべき成果として,季節性の大きな気候下で形成されるヴァーティソルの特徴を持つ土壌を見いだしたことも挙げられる.これは,これまで古生物学的知見から復元されていた古気候に,季節性に関する具体的な情報をもたらした.本論文は,古気候記録媒体として古土壌を扱った数少ない国内での研究例であり,国際的に見てもレベルが高い.以上の理由により,本論文の筆頭著者である葉田野 希会員を日本地質学会研究奨励賞に推薦する.
>論文サイトへ(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/124/3/124_2017.0070/_article/-char/ja
受賞者:株式会社新興出版社啓林館
表彰業績:教科書出版を通じた地学教育への貢献
地学の教育と普及の推進は本学会が取り組むべき重要な活動の一つである.学校教育では教科「理科」において地学分野の内容が扱われる.小中学校の段階では,地学には物理や化学,生物とほぼ同等の時間数が当てられ,すべての児童・生徒が地質学の基礎を含む地学分野について学ぶ.しかし高等学校では,地学関係の授業を開講している学校はかなり限定されている現状がある.近年になって科目「地学基礎」を開講する高校は多少なりとも増えているが,科目「地学」についてはいまだ非常に少ない.本学会はこの厳しい現状を直視し,地学分野の教育と普及に一層努めなければならない.
こうした厳しい状況にもかかわらず,科目「地学」の教科書が株式会社新興出版社啓林館および数研出版株式会社の二社から出版されている.この二社は旧学習指導要領下でも科目「地学II」の教科書を出版しており,地学の教育・普及の面でも大きな貢献をはたしている.高校での需要の有無にかかわらず,地学を独学する高校生や一般市民,それに大学で教養レベルの地学の内容を学ぶ学生にとって,二社の教科書の存在はたいへん重要である.さらに地学分野の専門書や参考書が限られる現状も含めて,二社の教科書出版が地質学を含む地学の教育と普及に果たしている役割は非常に大きいと言える.
今後も継続して科目「地学」の教科書が出版されることへの期待も込めて,株式会社新興出版社啓林館を日本地質学会表彰に推薦する.
受賞者:数研出版株式会社
表彰業績:教科書出版を通じた地学教育への貢献
地学の教育と普及の推進は本学会が取り組むべき重要な活動の一つである.学校教育では教科「理科」において地学分野の内容が扱われる.小中学校の段階では,地学には物理や化学,生物とほぼ同等の時間数が当てられ,すべての児童・生徒が地質学の基礎を含む地学分野について学ぶ.しかし高等学校では,地学関係の授業を開講している学校はかなり限定されている現状がある.近年になって科目「地学基礎」を開講する高校は多少なりとも増えているが,科目「地学」についてはいまだ非常に少ない.本学会はこの厳しい現状を直視し,地学分野の教育と普及に一層努めなければならない.
こうした厳しい状況にもかかわらず,科目「地学」の教科書が株式会社新興出版社啓林館および数研出版株式会社の二社から出版されている.この二社は旧学習指導要領下でも科目「地学II」の教科書を出版しており,地学の教育・普及の面でも大きな貢献をはたしている.高校での需要の有無にかかわらず,地学を独学する高校生や一般市民,それに大学で教養レベルの地学の内容を学ぶ学生にとって,二社の教科書の存在はたいへん重要である.さらに地学分野の専門書や参考書が限られる現状も含めて,二社の教科書出版が地質学を含む地学の教育と普及に果たしている役割は非常に大きいと言える.
今後も継続して科目「地学」の教科書が出版されることへの期待も込めて,数研出版株式会社を日本地質学会表彰に推薦する.
受賞者:加納 隆 会員(山口大学名誉教授)
表彰業績:地球科学標本室・ゴンドワナ資料室の整備と普及活動
加納 隆会員は,岩石学・鉱床学・鉱物学の専門家であり,定年退職後も幅広い知識と経験をもとに,山口大学理学部において地球科学標本室・ゴンドワナ資料室の整備に努めてきた.またそれらの資料を用いて地質学の普及活動に尽力し,特に大学における研究試料の保存の必要性を自らの実践を通じて訴えてきた.
標本室・資料室とはいうものの,その質・量ともに国内有数の地質鉱物博物館であり,地球科学標本室には国内外の鉱物・岩石標本が,ゴンドワナ資料室には南極・オーストラリア・インド・ヒマラヤなどゴンドワナ大陸の形成に係る地球史40億年をカバーする岩石試料が収蔵されている.実物標本だけでなく,地質図・文献および標本の産状を示す記録写真は山口大学の学術資産として認められている.とくに南極標本の系統的な標本保存とデータ整備は,全国に先駆けたモデルケースとなるものである.
同氏が整理・収蔵した標本数は,12000点を超え,世界の地域地質に関する図書や地質図約1,000点,各標本の産状を示すデジタル化写真は18000点に及ぶ.同氏は標本室に多くの標本を寄贈しているが,その中でも世界各地を訪ねて自ら採取した美しい鉱物・岩石標本は,ひと際目を引く.実物の標本・詳細リスト・産状の記録の3点が揃うことにより標本の価値は一層高まる.これらのデータベースを整えることにより標本検索が容易となり,国内外の研究者への資料提供や学術的成果が見込まれる.また,実物標本とデータのデジタル化と公開によって学生教育と社会教育の観点からの活用が期待される.理学部に開設した標本室のホームページ(http://gondwana.sci.yamaguchi-u.ac.jp/)では標本写真と現場写真を使って地球史40億年,ゴンドワナの地質,日本の地質,山口の地質,資源と鉱石などを解説し,学内外へ地質学の普及に努めている.
このようにして整備された標本は,大学教育に活用されていることは言うに及ばず,国内外からの来訪者にも見学の場が提供され,社会教育へ貢献してきた.同氏は,県内外の博物館など社会教育機関への標本貸出や展示への助言・講演も行っており,それらの入場者数は10万人を超えている.
長年にわたる献身的な標本整備とそれを使った地質学の普及活動は大学における学術資産の保護と活用のあるべき姿を実践したものであり,加納 隆会員を日本地質学会表彰に推薦する.
山口大学地球科学標本室・ゴンドワナ資料室WEBサイト
http://gondwana.sci.yamaguchi-u.ac.jp/